2018年3月20日
MBHCC E1 西村章 MotoGPはいらんかね
Vol.133 開幕戦 カタールGP Jewel inside a Dream
極上の開幕戦である。ドーハ郊外のロサイルインターナショナルサーキットで行われるカタールGPは毎年恒例のナイトレースとして開催されているが、今年のシーズン第1戦は土曜の予選から日曜の決勝レースに至るまで、何台ものバイクがそれぞれの持ち味を発揮して激しい争いを繰り広げる緊張感と昂奮に彩られた展開になった。まばゆい照明設備が砂漠に建設されたコースを闇の中にくっきりと浮かびあがらせる演出効果とも相俟って、まるで熱にうかされた夢の中で至高の戦いが繰り広げられているような、そんな趣さえ感じさせる一夜の出来事だった。
なかでも午後7時から22周に渡って争われたMotoGPクラスの決勝は、ヤマハ、ホンダ、ドゥカティ、スズキ各陣営のトップライダーが大集団となった序盤から、最終ラップ最終コーナーでまたしても激しい火花を散らせたアンドレア・ドヴィツィオーゾ(Ducati Team)とマルク・マルケス(Repsol Honda Team)のバトルに至るまで、見どころ語りどころが満載である。
優勝を飾ったドヴィツィオーゾは、昨年のオーストリアGPや日本GPと同様に、マルケスから仕掛けられた最終ラップ最終コーナーのバトルを、今回もきっちりと制した格好だ。
「ああいう展開にはしたくなかったけどね」と話すドヴィツィオーゾは、「ラスト4周ではリアタイヤが終わっていて、いいラップタイムで走れたものの、狙っていたほどではなかったし、思ったとおりのラインを取れなかった。だから、最後までギャップを開くことができなかった」と終盤の攻防を振り返った。最終コーナーでマルケスが仕掛けてくることも想定内で、今回もまた沈着冷静に対処しながら立ち上がりの加速勝負で持ち味を最大限に発揮して、ゴールラインを0.027秒先に通過した。
オープニングラップには7番手まで順位を下げたものの、そこから冷静に追い上げて最後に一対一のバトルを制する勝ち方は非常にドヴィツィオーゾらしい展開だ。スタート位置こそ2列目5番グリッドだったが、金曜のセッションや土曜のFP4では非常に安定感の高いレースペースを刻んでおり、優勝候補最右翼とも目されていた。ドヴィツィオーゾ自身も予選終了後には「フィーリングはいいしペースもいいので、レースに向けて充分に自信はある」と話していた。とはいえ、予選の内容は上位10名ほどが僅差で接近しており「ライバルたちのペースは見えないし、誰が有利かもまだわからない。カタールはいつもクレイジーなレースになるから、明日もうまくコントロールするようにがんばるよ」とも述べていた。結果はご覧のとおり。2015年、2016年、2017年とずっと2位どまりだったこのレースでついに優勝をもぎ取り、昨年来の良い流れを維持して開幕戦できっちりと波に乗ったドヴィツィオーゾは、今シーズンも優勝候補最右翼の一角である。
ドヴィツィオーゾとのバトルに敗れはしたものの、2位でゴールしたマルケスは、従来苦戦しがちだったコースで20ポイントを獲得できたことにひとまずは納得、といった様子。
「勝負したから、よく寝られるよ」とレース後に笑いながら話したのは、今回と同様の展開になった去年のオーストリアGPで「ここで勝負を仕掛けないと、夜に絶対寝付けないと思った」と最終ラップ最終コーナーの攻防についてコメントしたときのことを受けた言葉だ。
バトルに負けたのはもちろん悔しいだろうが、それを陽気な笑顔で振り返ることができるのがマルケスの特徴だ。ピットボックスの雰囲気にも、この陽性のキャラクターが反映されている。土曜には弟のアレックス・マルケスがMoto2クラスでポールポジションを獲得したことを受けて、チームがマルケスのダッシュボードに〈ゼッケン73番追走中〉といういたずらメッセージを表示させるひと幕もあった。ダッシュボードメッセージといえば、日曜のウォームアップでは、同じHonda陣営のトマス・ルティ(EG0,0 Marc VDS)のダッシュボードにチームが〈マッピング8〉というテキストを表示させるという、いかにもこのチームらしいジョークもあった。こういう遊び心は、じつはけっこう大切である。
3位のバレンティーノ・ロッシ(Movistar Yamaha MotoGP)は、このウィークに先だつ木曜に2019年から2年の契約更改を発表したばかり。つまり41歳まで現役フル参戦選手として走り続ける、ということである。今回のレースに話を戻すと、ヤマハファクトリーはレース後半での激しいタイヤ消耗にずっと悩まされてきた。土曜の予選を終えた段階でも、ロッシにはそこが不安要素のひとつになっていたようで「状況は良くなっているけど、22周はかなり限界に近い」と話していた。しかし、日曜の決勝レースは表彰台で終え、まずはひと安心、といったところか。それでも「コースが違うと状況が違うだろうから、次のアルゼンチンがどうなるかはまだわからない」と警戒を怠らないところは、さすがクラス最年長のベテランである。
とはいえ、ヤマハのこのタイヤ摩耗に関しては、ロッシ同様に昨年からずっと悩まされ、フラストレーションを溜めてきたマーヴェリック・ヴィニャーレス(Movistar Yamaha MotoGP)が、決勝レースでは終盤に驚異的なラップタイムを連発して猛烈な追い上げを見せているところを見れば、かなり良い方向で解決に向かっているといえるのかもしれない。ヴィニャーレスは6位でレースを終えたものの、レース後半の走りには非常に満足がいった様子で、
「もっと早い段階で(1分)55秒台を出せていれば、表彰台争いもできていただろう。その意味では残念だけど、チームが粘り強くがんばっていいセットアップをみつけてくれたので感謝している。レース終盤は自分の持ち味を発揮できたと思う」
と、納得の表情で開幕戦の走りを総括した。
このトップスリー以外では、昨年の終盤からこのプレシーズンテストにかけて好調さを発揮してきた最高峰クラス2年目のアレックス・リンス(Team SUZUKI ECSTAR)が、開幕戦のウィークを通じて高いレベルのパフォーマンスを披露した。土曜の予選でも、最終盤にライバル勢と最速タイムを塗り替えあう力強いアタックを見せ、自己ベストの2列目6番グリッドを獲得。
予選を終えた際には「今週はとてもいい手応えで推移している。決勝レースは厳しいと思うけど、速い選手たちと一緒に走ってたくさん学びたい」と話した。その言葉どおり決勝はスタート直後からトップグループを構成し、ファステストラップも記録するめざましい走りを見せたが、13周目の2コーナーで惜しくも転倒。今回は残念な結果になってしまったが、次戦以降もリンちゃんの走りには要注目である。
今回が最高峰クラスデビュー戦となったルーキー勢の中で最上位フィニッシュを果たしたのは、昨年のMoto2チャンピオン、フランコ・モルビデッリ(EG0,0 Marc VDS)。土曜の予選ではQP1で4番手となり14番グリッド。
「とてもいい予選だった。アドレナリンが出るようなセッションで愉しめたよ。テストのときのタイムを、予選で出せたことも良かった。立ち上がりなどでまだ少し苦労をしている部分はあるけれども、明日に向けて改善をしていけると思う。FP4の走りからみても、ポイント圏内は目指せると思う」
その言葉どおり、決勝では12位と上々のリザルト。「予想していたよりもいい結果になった。特にレース序盤にはマーヴェリックやホルヘと走ることができて、とても勉強になった」と22周の最高峰初レースを振り返った。
ルーキー勢の中では、2月に急遽参戦が決定したハフィス・シャーリン(Monster Yamaha Tech3)も予選15位から決勝14位、と好結果を残した。予選を終えた段階で、シャーリンは「明日はミスをしないように心がけて最後まで走りきり、ポイント獲得を目指してがんばりたい」と話していたが、その目標をきっちりと達成した。では、次戦以降の目標は? とレースを終えた彼に訊ねてみると
「今回と同じかな。FPの序盤からしっかりと自信を持って走り、タイヤや電子制御も、もっと上手く自信を持って使いこなせるようになりたい」とやや照れたような笑顔で話した。
「ボスのエルベ(・ポンシャラル)がとてもフレンドリーで、仕事になると真面目だけど、ふだんはけっしてカタブツではないので、いつも面白く接してくれて、僕がストレスを感じないように気を配ってくれるんだ。グリッドでは『今回は初戦だけど神経質にならず、とにかく愉しんでおいで。レースでいろんなことを勉強してくればいい』といって送り出してくれたんだ。リラックスさせてくれるし、モチベーションも与えてくれて、おかげでデビュー戦でポイントを獲得できた。最高のボスだと思う。彼とチームには、本当に感謝している」
日本人選手の中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)は最後尾ひとつ手前の23番グリッドと厳しい位置からのスタートになったが、最後は17位でゴール。ポイント獲得圏内にはわずかにふたつ届かなかったが、たくさんのことを学べたレースになった、と振り返った。
「17リッターの燃料が一気にゼロになると、バイクの挙動や姿勢ががらっと変わってくるなかで、燃料がなくなってタイヤが滑りはじめてからのほうが力強く走れたのはポジティブな要素だと思います。ペースアップするのが遅すぎたけれども、なぜレース終盤に速く走れたかということをまだ自分では50パーセント程度しか理解できていないので、次のレースまでの2週間もしっかり考えて有意義に使い、今回の反省を活かして成長した走りをできるように前進したいと思います。レースを終えて、今はとても悔しいけれども、それ以上に今後に向けてとても勉強になった22周でした」
中上以外の日本人選手の成績もざっと触れておこう。
Moto3クラスでは、鳥羽海渡(Honda Team Asia)が予選で自己ベストの2列目5番グリッドを獲得し、決勝レースでも自己ベストリザルトの7位フィニッシュ。レース序盤は集団に呑まれ12番手前後まで順位を下げたが、焦ることなく状況を見極めて最後に勝負を仕掛けたことが今回の好リザルトに結びついた。
「チェッカーを受けたときは、うれしいとは思わなくて、悔しい気持ちのほうが強かったですね。表彰台も見えていたし、序盤に自分のミスもあったから。最初にちょっと遅れたので、タイヤを温存しながらいつ抜けるか様子を見て、ラスト3周で思いきりプッシュしてタイヤを使い切り、そこで一気に追いついたのが今日の一番の要因でした。思っていたとおりに展開を組み立てられました。レースはすごく愉しかったです。今後に向けて自信にもなりました」
チーム監督の青山博一も、鳥羽の走りには納得の表情。
「今日のリザルトは海渡自身の力で得た結果なので、これを自信として積み上げていってほしいですね。今日は3位や4位を狙える可能性もありました。自分はそれくらいの位置でレースをできるんだという自信を持って、次戦でさらにまた一歩前進をしてもらいたいですね」
佐々木歩夢(Petronus Sprinta Racing)は、鳥羽と0.052秒差の8位。
「ラスト2周の最終コーナーをグループ2番手で立ち上がって、『これはちょっとヤバいな』と思ったら、(案の定、スリップストリームを利用されて)6台くらいに抜かれてしまい、最終ラップの1コーナーでは9番手でした。『ああ、やっちゃったなあ』と。そこから先は集中して抜かれないように心がけて、抜けるところで前を抜いて8位でゴールしました」
という反省もありながら、「リザルトは悔しいけど、走っているときは愉しくレースをできました。8位は望んでいた順位じゃないけど、最初の2~3周で速く走れればトップグループについていけるので、それを次の課題としてアルゼンチンに向けセットアップしていきます」と、3週間後の第2戦に向けた抱負を語った。
今回がMoto3クラスのフル参戦デビューとなった真崎一輝(RBA BOE Skull Rider)は、金曜の初日はほぼ最後尾あたりの順位で苦戦傾向だったものの、土曜には前進を見せて19番グリッドを獲得。決勝レースは13位で終えた。
「課題はセッティングの進め方と予選ですね。セットアップが遅れたので、それが最後まで影響してしまいました。完璧ではないけどなんとか走れる状態に持って行って、ポイント圏内でフィニッシュできたのは良かった点だと思います。後ろからの追い上げだとタイヤの消耗も激しいし、ポジション維持も難しいので、今後は予選でいいグリッドを獲得できるようにして、レースではラクにポジションを維持できる環境を作れるようにしていきたいです」
Moto2クラスの長島哲太(IDEMITSU Honda Team Asia)は予選までタイヤのグリップ不足に苦しみ、決勝は26番グリッドからスタートして21位でチェッカー。
「決勝中のペースは、今までのどのセッションよりもよかったのですが、予選までがダメだったことが今回の最大の敗因です。決勝前のウォームアップでようやく普通のフィーリングに戻ってきたのですが、あの位置からのスタートだと、周囲の皆が似たようなタイムで、バトルをしているうちにポイント圏内が離れてしまいました。アルゼンチンでは、新しいアイディアを試す予定です。いい方向に行くと思うので、次こそしっかりと結果を残したいです」
とうわけで、3週間後の第2戦アルゼンチンも、またもや見どころが多そうである。では、アストル・ピアソラによろしく。
■2018年3月18日 開幕戦 カタールGP ロイサル・インターナショナル・サーキット |
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順位 | No. | ライダー | チーム名 | 車両 | ||||
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1 | #4 | Andrea DOVIZIOSO | Ducati Team | DUCATI | ||||
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2 | #93 | Marc MARQUEZ | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
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3 | #46 | Valentino ROSSI | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
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4 | #35 | Cal CRUTCHLOW | LCR Honda CASTROL | HONDA | ||||
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5 | #9 | Danilo PETRUCCI | Alma Pramac Racing | DUCATI | ||||
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6 | #25 | Maverick VIÑALES | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
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7 | #26 | Dani PEDROSA | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
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8 | #5 | Johann ZARCO | Monster Yamaha Tech 3 | YAMAHA | ||||
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9 | #29 | Andrea IANNONE | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
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10 | #43 | Jack MILLER | Alma Pramac Racing | DUCATI | ||||
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11 | #53 | Tito RABAT | Reale Avintia Racing | DUCATI | ||||
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12 | #21 | Franco MORBIDELLI | EG 0,0 Marc VDS | HONDA | ||||
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13 | #19 | Alvaro BAUTISTA | Angel Nieto Team | DUCATI | ||||
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14 | #55 | Hafizh Syahrin | Monster Yamaha Tech 3 | YAMAHA | ||||
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15 | #17 | Karel ABRAHAM | Angel Nieto Team | DUCATI | ||||
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16 | #12 | Tom LUTHI | EG 0,0 Marc VDS | HONDA | ||||
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17 | #30 | Takaaki NAKAGAM | LCR Honda IDEMITSU | HONDA | ||||
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18 | #38 | Bradley SMITH | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
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19 | #41 | Aleix ESPARGARO | Aprilia Racing Team Gresini | APRILIA | ||||
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20 | #45 | Scott REDDING | Aprilia Racing Team Gresini | APRILIA | ||||
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21 | #10 | Xavier SIMEON | Reale Avintia Racing | DUCATI | ||||
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RT | #44 | Pol ESPARGARO | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
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RT | #42 | Alex RINS | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
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RT | #99 | Jorge LORENZO | Ducati Team | DUCATIA | ||||
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