2018年3月9日
SUZUKI SV650X ABS 試乗
『カフェカウルを付ければ“ネオレトロ”の出来上がり! ていうほど簡単な話じゃない。乗り味は元のモデル次第』
■試乗&文:濱矢文夫 ■撮影:依田 麗
■協力:スズキ http://www1.suzuki.co.jp/motor/
SV650X ABSは、御存知の通り、VツインネイキッドスポーツのSV650 ABSがベース。エンジンやスチールトラスフレームなど多くを共有している。丸いフロントカウルの顔つきは写真で見るよりは小顔だ。その丸いフロントカウルと燃料タンク下側に新設されたサイドカウルによるXだけに与えられたルックスは面白い。
前斜め45度くらいのアングルから眺めると、サイドカウルとの繋がりはあまり感じずに、小さなフロントビキニカウルが独立して見える。ところが、視点が真横、サイドビューに近くなると、ハンドルマウントのビキニカウルのラインと、サイドカウルのラインが繋がって、ハーフのロケットカウルっぽく見えてくる。
スズキ自身がこのオートバイの説明で、“ネオレトロ”という言葉を使っている。ネオレトロとはクラシックスタイルは違うもの。昔のモデル風でなくても、懐古的なエッセンスを持った新しいスタイルがネオレトロ。ビキニカウルにある、長円が縦に並んだスリットは、1980年の鈴鹿8耐で優勝したヨシムラスズキGS1000Rのスリットを彷彿とさせて、昔を知っている人にとってはニクイ演出。シート表皮がタックロールになっているのもレトロ感を醸し出す部分。それらや、ステップ周りやトップブリッジなどのブラック化によって、SV650 ABSとは別のオートバイだと思わせることに成功している。
外装以外で、もうひとつ大きく違うところがある。それはシートに跨ってハンドルグリップを掴むとすぐに分かる。アップされたパイプハンドルで背筋が立った楽ちんなポジションのSV650 ABSとは違い、掴む位置がこぶし1個半くらい下になる、セパレートハンドルだからだ。前傾姿勢はキツイという感想にはならないけれど、普通のSV650 ABSと比べると、大幅に低く身構える。最近はセパレートハンドルでも、グリップが高めに位置する車種が多い中、これは、正当派のセパレートハンドルといった感じ。ハンドルバーは適度に開いた状態で、身長170cmでやや腕が短めの自分でも肘に余裕があり遠くはない。何よりシート前側の形状から燃料タンクに続くラインが股ではさみやすく、ニーグリップの安定感がいいので、そこできゅっと車体をホールドすれば、腕に力を入れる必要はほとんどない。余談だがセパレートハンドルで腕が痛くなりやすい人は、ニーグリップを意識していない場合が多い。
シート高はスペックでネイキッドのSV650 ABSより5mm高い数値だけれどクッションの形状は変わらないと思えた。これは異なるシート表皮の差だろう。細い車体と角を落としたシート前側形状で、足が素直に地面へ伸びる。届く足裏の面積は両車で変わらない。両足だとべったり接地とはいかないけれど、力が入れられる拇指球はしっかり届く。ハンドルを掴んだ姿勢にすると、より前かがみになることで、身体の重心が前にきて、もっと足の指に力が入る踏ん張り。S650 ABSのどっしりとした感じとは違うけれど、実質、それによって足つきはマイナスにはなっていない。
つや消し黒で雰囲気が違うステップは、アップハンドル版SVと同じ位置。前傾姿勢になって、足を載せる位置が前すぎると感じるのではないかと思っていたが、意外なほど違和感がなく、しっかり踏み込めて窮屈ではない。セパレートハンドルで、このワイルドなスタイルからすると、もっとバック+アップのステップでもいいかも、と個人的に思いもするが、長距離移動での快適性や、幅広い体格のライダーにマッチすることを思うと、納得がいくものだ。開放的なアップハンドルと違い、視線が低く、より車体によりそうカタチ走るコンパクトな乗車姿勢はスポーティーで、またがってもSV650 ABSと異なる雰囲気。
水冷Vツインエンジンはスペックなども含めSV650 ABSと同じもの。しかし、なんというか、姿が変わると、はっきりと伝わってくるVツインのビートと歯切れの良い排気音がより勇ましく思えてくるから面白い。645ccで大排気量車より比較的トルクが大きくなりすぎていないってところもプラスになって、街中などで使うことが多い低回転域では、良い意味でレスポンスが鋭すぎず、でもダルでもない。これによって、出だしからスムーズに加速するけれど、スロットル開閉でギクシャクしない。このイージーさはベースモデルから受け継いでいる良いところだ。幅広いライダーに薦められる。回転を上げていくと、6千回転くらいから力強さを増して、8千回くらいから1段と気持ち良い加速。約1万回転でレブリミット。すーっと滑るように伸びやかな加速をするのとは違い、パタパタっと両足で地面を蹴飛ばして全力疾走するようなフィール。
アップハンドルよりフロントタイヤに荷重がかかるので、誰でもコーナー侵入でダイレクトな動きを体感できやすいハンドリング。よりフロントタイヤの旋回力とグリップが分かりやすい。それでも機敏すぎるなんことはまるでなく、深くリーンしていっても安定している。トルク変動によってグラッと倒れるようなこともない。太すぎない前後のタイヤを使ってヒラヒラっと軽快に走る動きはスリムなVツインエンジンと車体に合っている。ブレーキの効きも充分で不満はない。ビギナーでもコーナーリングを難しく感じさせず、実際に不安定な動きになりにくいだろう。フロントフォークが新たにプリロードアジャスターを装備したものになったので、もっとスパッっと倒れ込むようにするなど増えた前荷重に対する自分好みの設定に変更できるのもいいね。
SV650X ABSはSV650 ABSの見た目をただネオレトロにしただけのように思う人もいるだろう。基本はほぼ同じなのだから、それは、大きな意味で間違いではないが、乗ってみると見た目からくる印象よりはっきりとした違いがある。特別な装備を持たず、高性能な前後サスペンションでもないけれど、バランスが良く気持いい走りを持ったSV650 ABSが下敷になっているのがミソ。SV650X ABSは、そこから乗り味と見た目の個性を強めたメーカーカスタマイズモデルである。
(試乗・文:濱矢文夫)
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