2018年3月5日
MULTISTRADAシリーズ──950/1200S/1200 ENDUROを検証する。 『ムルティストラーダ、その選択の自由。』
■試乗・文:松井 勉
■写真:松川 忍
■協力:DUCATI JAPAN http://www.ducati.co.jp/
スペイン領グランカナリア島で走らせた新型ムルティストラーダ1260S。その印象が薄れぬ前に、もう一度、現行のラインナップをお復習いしたいと思い、ファミリーの代表格たる3台のムルティストラーダを走らせてみた。ドゥカティのマルチパーパスバイク造りがしっかり根付いている事が確認出来たことはもちろん、3台それぞれの個性が際立っていたことが短時間のなかでも伝わってくる。同時に、どれも楽しく走れてしまうことに「ムルティストラーダ、やっぱりオモシロイや!」となったのである。
その日、バイクを走らせるには絶好の天気だった。風はまだ冷たいが日差しは暖かく春の到来を予感させてくれる。僕はドゥカティのムルティストラーダを再確認するため、3台が待つガレージに向かった。そこで待っていたのは……。
ムルティストラーダ1200S(以下1200S)
ムルティストラーダ1200エンデューロ(以下1200エンデューロ)
ムルティストラーダ950 (以下950)
である。
鮮烈なレッドが眩しい950、パールホワイトの1200S、そしてマットカラーが逞しい1200エンデューロである。
このムルティストラーダ、2010年に2代目が登場した時にモデルコンセプトの軸に「4 Bikes in 1」を掲げた。これは、スポーツ、ツーリング、アーバン、エンデューロというライディングモードを与え、アクセルレスポンス、サスペンションの減衰圧特性、ABSとトラクションコントロールの介入度をモード毎に変更させるというもの。
優れたエンジン、優れたシャーシに付加されたその電子制御技術は、コロンブスの卵にも思える機構だった。街中ではコミューターのようにマイルドに、ツーリングではパワフルかつ快適に、スポーツしたくなる場面では、パワフルかつシャープに、そしてダートでも楽しめるシャーシ特性を1台の中に具現化させたのだ。
ムルティストラーダ。そのネーミングが表すマルチローダーとしての機能を「通れます」というレベルではなく、何処でも楽しめます、まで高めたことにドゥカティの拘りが滲む。
ムルティストラーダとしては3世代目である現行モデルは2015年に登場した。その中でも、よりダイレクトに「4 Bikes in 1」を体現するのが1200Sだと思っている。
トピックとしてはそのエンジンだ。スーパーバイク用エンジンをルーツにするテスタストレッタエンジンに、可変バルブタイミングを装備したのだ。吸排気カムそれぞれのオーバーラップを、エンジン回転、アクセル開度、選択されているギアポジション、速度などの情報をベースに最適な吸排気タイミングに可変させるというもの。油圧で作動するシステムで、吸排気双方を無段階可変という点でバイクでは初採用されたシステムだ。
つまり、場面を問わず扱いやすい特性のエンジンであり、よりパワフルさも、マイルドさも欲しいがまま。自在に引き出せるのだ。
そして、持ち前の優れたシャーシ性能で走る場所を選ばないムルティストラーダ。その可能性をさらにアップグレードさせているのが1200Sに装備される電子制御セミアクティブサスペンション、ドゥカティ・スカイフック・サスペンションEVOだ。
このサスペンションは、ストロークそのものや、ボディーの加速度などを瞬時に計算し、サスペンションの減衰圧特性を場面、場面で可変させる装備だ。前輪が通過した路面状況を後輪画通過するまでに計算、フィードバックもする。1200Sでは前後とも170mmのストロークながら、サーキットではハンドリング重視のタイトな足となり、林道ではアドベンチャーバイクとして機能ロングストロークなフィーリングの足になる。姿勢変化を抑えながら上質ないわば、ムルティストラーダの4変化をしっかりと下支えする装備でもある。フロント120/70ZR17,リア190/55ZR17というスーパーバイクと同じサイズのタイヤを履きながら、ダートすら軽快に駆けるムルティストラーダ1200Sを何度も体験している。とにかく何処でもライディングモード一つで相当に楽しめるのだ。
また、1200SではヘッドライトがフルLEDとなるほか、TFTカラーモニターの装備など、上級機種として、ドゥカティのツアラーモデルのフラッグシップとして文句ナシのパッケージを持つ。
もちろん、コンベンショナルなサスペンションを持つ1200でも同様に楽しめるのだが、ライディングモードで車体が変わる感はやっぱり1200Sが一枚上手。現行型のハイライトでもあるエンジンの風合いを楽しみながら走るには、ムルティストラーダ1200でも文句はない。
「4 Bikes in 1」コンセプト、クールな外観。シングルサイドのスイングアームなど、ムルティストラーダはエンジン、機能性を含めオンロードツアラーとのクロスオーバーバイクではなく、むしろ、スーパーバイク系から生まれたクロスオーバーだ。前後17インチを履いているのもその象徴だろう。しかし、ムルティストラーダの機動性が高いだけに、もっと遠くに、もっと悪路を、という潜在的な欲求が高まるのは自然なこと。林道レベルなら1200Sでもイケルが、渡河性能や砂丘をこえるような地球レベルの旅になると、タイヤの選択肢や最低地上高が気になる。それに、センターロックのリアホイールは出先でパンクやタイヤを交換が必用になった場面で、、手持ちの工具では着脱が難しいとい現実がある。ドゥカティに慣れたショップに持ち込む必用があるのだ。
そんな欲求をまとめてアップデイトしたのが1200エンデューロである。装備的には1200Sをベースとして、前後ホイールサイズを変更。フロントに120/70ZR19、リアに170/60ZR17をフィット。このサイズは、一般的なアドベンチャーバイク用のダート向けタイヤのチョイスも可能になる。そのホイールはチューブレスのスポークホイールを履きオフロードムードも格段に高い。リアスイングアームもシングルサイドではなく、両持ちタイプのコンベンショナルなタイプとして、手持ちの工具で必用とあれば、タイヤ交換も旅先でできる仕上げだ。
また、サスペンションストロークは170mmから200mmへと伸ばし、グランドヒットに備え、エンジンガードはそのサイズ、取りつけ方、カバー領域などもオフロードコンシャスになった。
なにより、20リッターから30リッターへと増量したガソリンタンクにより、航続距離をアップ。
オプションとなるパニアケースなども、1200S用がGIVI製のクールな樹脂製なのに対し、1200エンデューロ用はツアラテック社製のアルミケースとなる。いざとなったら、出先で叩いて直せる金属製なのだ。
1200S、1200エンデューロ。強力な兄貴達に囲まれ、950の存在を忘れてしまう、なんて人が居ると困る。950、エンジンは937㏄のLツインを搭載するが、走りの天性は「4 Bikes in 1」のムルティストラーダファミリーそのもの。
興味深いのはそのパッケージだ。前後にキャストホイールを履くが、そのタイヤサイズは1200エンデューロと同じ。フロント120/70ZR19、リア170/60ZR17を履く。サスペンションは、フロントにKYB製φ48 mmインナーチューブを持つ倒立フォーク、リアはザックス製で、共にフルアジャスタブルのサスペンションを持つ。
スイングアームは1200エンデューロ同様、両持ちのコンベンショナルなものを採用。燃料タンクは20リットルで1200S、1200と同様。つまり、コンパクトなエンジンを搭載し、タイヤサイズは1200エンデューロとのハイブリッド的な存在だ。
ドゥカティは「My first My last」というキャッチをこの950に付けた。ムルティストラーダの多様性をシンプルに味わうことで、アドベンチャーバイクの入口であり、煎じ詰めた魅力をパックした玄人向けの一台でもある、ということなのだ。
また、オプションも多様で、前後にスポークホイールキットをチョイスすれば、見た目はナローボディーのエンデューロとなる。デイリーユース向けや、スポーツイメージへ、もちろん、ツーリング用も多く用意されているから、お好みに仕立てるベースとしてもウデをふるいやすい。
走りはどうなのか。個別に紹介しよう。まずは1200Sだ。
1260Sに乗った時、その進化をしっかりと感じたハズだった。が、改めて1200Sに乗ると、国内のスピードレンジではまるで不満がない。適度な安定感、適度な手応えのあるハンドリングだった1260Sと比較すると、1200Sのそれはより軽快、一体感がある、と表現できる。それは意図して飛ばした時のことでなはく、走り出した最初の左折や、高速道路での車線変更の時に意識せずともスッと走れるようなイメージだ。
まるで改修工事後のアスファルトを走るような滑らかさを見せるスカイフックサスペンションEVOの乗り心地は上質だし、それでいてソフト過ぎてフワフワするコトがない。宙から釣られたことを意味するスカイフックの名のとおりの乗り味だ。それでいて、しっかりとしているのがいい。正直、このサスに乗ると、普通のサスに戻れないのでは?と思う。
それらシャーシの印象同様、エンジンのフィーリングがいい。これまで数多く乗った印象や1260Sに乗った印象との比較でもいい。マイルドなエンジン振動、開けはじめのジェントルさ、だけど、どこからでもスムーズについてくるパワーフィーリングなのだ。1200Sの排気量をもってすれば、ワイドオープンなどほぼ無用であり、3000回転~4000回転もあれば事足りる状況だ。その領域、あるいは2000回転台前半でもウットリするようなドライバビリティーを持つ可変バルブタイミングエンジンの実力を改めて感心した。逆に、1260に対するディスアドバンテージが見当たらない、というのが正直なところ。実際に乗り比べたら細かく解るだろうが、こうして乗ると、ウイークポイントが見つけられないほどの仕上がり感だ。
片手の操作で高さを替えられるウインドスクリーン、TFTモニターの見やすさ。輝度のあるLEDライト。ああ、この満たされる感じは正直嬉しい。ムルティストラーダ1200Sはトップモデルたるその世界観をバッチリ再確認させてくれた。
1200エンデューロである。メディアローンチが行われた時、開発者はプロのエンデューロライダーとともにこのバイクのオフロード性能を磨き込んだと語っていた。実際、その走りのバランスはダートを本気で走るコトを真剣に考え造られているのが解る。
まずコントロール系。ハンドルバーのベンドやライザーを高くしたアップライトなポジション。日本仕様のローシートとのコンビでは、グリップ位置が相対的に高く感じるかもしれない。しかしこれは、本国仕様の標準シートでも同様だった。ステップの上にライダーが立ち、スタンディングでコントロールすることを前提としているポジションのようだ。
また、ワールドトラベラーとして必須となるタンク容量30リットルを満たすと、車体は20キロ近く1200Sより重たくなるが、サイドスタンドの引き起こし時にその重みを感じるものの、動き出すとさほど重く感じさせないバランスの良さも持つ。
あらためて日本の道で走らせても、手に余る大きさではない。1200Sや950からパッと乗り換えると、おお! と思う体躯ではあるが、動き出すとハンドリングはナチュラルだし、200mmに増えたストロークだが、高い所に乗っている感がない。なによりしっかりした印象のシャーシに不安がないのだ。
その走りは1200S同様、ゆとりがある。そして一般道60キロ、高速道路100キロがマックスとなる国内の道でも、可変バルブエンジンが生み出す滑らかかつパワフルな出力特性に、急かされることがない。加速で20キロ近い重量差を感じさせないのは、2.466→2.714へとショートになった1速と、ファイナルも2.666→2.866と1200エンデューロ専用にショート化されたことが効いて、全く不足感がない。むしろ、国内の速度だと1200Sよりも美味しいトルク領域を各ギアの守備範囲で使える印象だ。
サスペンションは電子制御だが、1200Sよりは前後への姿勢変化を感じさせるもの。表現としてはピッチングが大きい、のではなく、自然な荷重移動ができる印象だ。
ブレーキのセットも、1200Sが採用するブレンボのモノブロックM50キャリパーとφ330mmのブレーキシステムというスーパーバイク級のハードに対し、エンデューロでは320mm径のディスクと、もう一段マイルドなキャリパーを装備する。しかしながら、ラジアルマウントであり、そのタッチや制動力は、さすが、ドゥカティと唸る。19インチのフロントタイヤも、軽快かつしっかりとした接地感で1200Sよりフロント周りの重厚感が少ない。それも、大きさを減じる要因となるのだろう。
高速道路でのクルージングは余裕たっぷり。1200に装備されるクルーズコントロールを活かし、遠出もラク。それにタンクやフェアリングサイズも大きく、プロテクション効果も高い。快適だ。シートも専用デザインとなり、肉厚である。
少しだけダートに踏み入れた。エンデューロモードに切り換え、スタンディングポジションを取る。すると、ステップに掛かった荷重がサスペンションを通じて路面に伝わるのが解る。左右への細かいカーブを巨体は見事に切り抜ける。コントロール性がいい。高めのグリップエンドを上から荷重するように体重を乗せることも出来るし、各部の造りはなるほど、プロライダーと協働して煮詰めただけのことはある。
国際試乗会で走らせたペースの早いダートでも、このバイクが本気で攻められることはすぐに解った。ライダーがオフ遣いであれば、この巨体を弱アンダーからパワーオーバーへと簡単に導けるし、その荷重移動をしっかりと受け付けるソフトなサスペンションもグリップ感を失わせず安心感があった。
とにかく、ロードでのアジリティーは1200Sにゆずるものの、世界の野道を駆け回る才覚を考えれば、それは取るに足らない部分だろう。これはムルティストラーダのエンデューロだ。
現行のムルティストラーダのなかでもっとも排気量がコンパクトなこと、価格がリーズナブルであること、この2点から950はちょっと軽く見られているようにも思う。しかし、実際に乗って見て思うのは「950が実はちょうど良いサイズなのではないか」ということだ。サイズ、といっても大きさや重さではない。実際に、1200と体躯や重さが劇的に変わることもない。
それでもなお、跨がった状態からバイクを起こすような時、オヤ?っとニヤけるほど軽さ感がある。それが950のマジックなのだ。
1200より前輪が大きく、1200エンデューロよりもサスペンションストロークが短い。前後170mmという950のそれが織りなす車体造がそう感じさせるのだと思う。
1200と比べればエンジン排気量の分、トルクは細く感じる。しかし、1速から4速のレシオが1200よりも低く、またファイナルもショートな設定のため、アクセルに対する加速レスポンスはよく、シフト操作の回数も1200よりも多くなるので、市街地速度からバイクを走らせている実感をたっぷり味わえる。これは小排気量の強みだ。ワイヤー式のクラッチレバーは1200よりも操作力が軽い印象。操作系の軽快さや速度を載せてゆくのに軽快に回るエンジンのキャラクターも含め950の身近さがにじみ出る。
サスペンションに電子制御を持たないものの、前後のピッチングは気にならず、フロントタイヤの接地感を巧くのこしながらも、大径ホイールらしい直進性と市街地速度から旋回力がしっかりと手に入る車体ディメンションになっている。
ブレーキタッチはラジアルポンプ式のマスターシリンダーを採用する1200と比較すると、ややダルな感じもあるが、これは2台同時に比べてのこと。950だけに乗っていれば充分に制動力もタッチも納得できる。
メーターパネルはSモデルではない1200とほぼ同等で、LCDモニターの視認性もよい。エンデューロと同様のシートを使うこと、しかしハンドル形状が1200Sなどと同様に高さを抑えたバーを使うことで、馴染みやすいグッドポジションとなる。
高速道路を走っても、1200のようにトルクでグワっと追い越し加速をする力技はないが、シフトダウンすれば気持ちよく回るLツインからパワーを引きだし、気持ちよい増速を楽しめる。国際試乗会で駆けたワインディングでも、逆にアクセル開度がワイドな分、ライディングの充実感があった。また、フルアジャスタブルのサスペンションのイニシャルプリロードを少し与えることで、峠でも一気にしゃきっとしたハンドリングになる事も体験済み。
ライディングモードとサスペンションセットで好みの走りを探すコトも950の楽しみと言えるだろう。まずとにかくドゥカティ、ムルティストラーダの世界に、という人へのエントリーモデルとしてオススメだ。マルチパーパスモデルの実力は、一般的な流れに合わせて何処までもいけそうな気分になれるかに掛かっていると思う。その点で4 Bikes in 1をしっかり味わえる。なるほど、My first My lastという意味なのだ、と今回も改めて思った次第だ。
ムルティストラーダの3台と駆け足で過ごす1日はあっという間だった。個人的にも2013年モデルのムルティストラーダ1200Sのユーザーとして、なるほど気になるモデルばかり。そして従来モデルよりもムルティストラーダ度のような部分が深化していることも改めて実感した。
自分としてはやはり前後17インチタイヤを履く1200Sが基準となる。4 Bikes in 1というコンセプトからさらに各ジャンルに潜行するようなカタチでスピンオフさせたのが、ファミリーに加わった1200エンデューロ、そしてツーリングからアーバンというもっと日常にウエイトを置いた950、という位置づけが明快に出来たことも収穫だった。
こムルティストラーダの世界はどこから入ってもしっかりとした技術とデザインでマルチローダーとしての世界をクロスオーバーしているので、となりの芝が青く見えて困る事はないだろう。これって、ちょっと珍しいと思う。あなた自身のマイベストを是非探してみて欲しい。
また、買いやすいファイナンスプランがあるの強みだろう。ドゥカティらしさ、ドゥカティのハイテクを余すことなく入れ込んだツアラー。アナタのバイクライフで素通りするのはもったいない。そんな気がするムルティストラーダなのだ。
(松井 勉)
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