2018年1月30日

DUCATI Multistrada1260S 試乗 『進化した? 進化した! ムルティストラーダ1260S、 その魅力をカナリア諸島に追う。』

■試乗・文:松井 勉
■写真:DUCATI http://www.ducati.co.jp/

 
 まあ正直に言えば「そんなに変わったの?」が偽らざる心境だった。排気量を僅かに増やしホイールベースが50mm伸びた。少しトルクフルになって少しハンドリングが安定方向になった、ということじゃないの? と。
 しかし、メディア向けの試乗会が行われたカナリア諸島の一つ、グラン・カナリア島で体験したムルティストラーダ1260Sは、濃密になった操る歓びと、ロングツアラーとして、そしてスポーツバイクとして乗りやすいエンジン特性へと、文字通りマルチプレイヤーぶりがいちだんと高いレベルになっていたのである。
 

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 一言で言えばそれが僕の疑問だった。2015年にモデルチェンジを受けたムルティストラーダ1200の完成度はパーフェクトだった。心臓部に採用された吸排気のバルブタイミングを無段階に可変させる、テスタストレッタDVT(デスモドロミック・バリアブル・タイミング)エンジンの扱いやすさは一級品だし、全域で厚くフラットなトルク特性もいい。それにどこでも乗りやすくスポーティなシャーシの組み合わせは、ドゥカティ流クールなアウトドアアイテムとも呼べるアドベンチャーバイクだ。他にないスタイルと、そこからは想像もできない乗る場所を問わない体幹の強さが持ち味だ。
 
 その歴史を紐解けば、ムルティストラーダは、2010年に2代目にフルモデルチェンジをした時から継続して現在に続くモデルコンセプト、“4 Bikes in 1”を旗印としている( http://www.mr-bike.jp/feature/multistrada/index.html )。これは、“街乗り、ツーリング、峠やサーキット、オフロード”という4つの異なる世界を、1台のバイクで、エンジン、操安性の特性をトランスフォームさせることで行き来できるようにした、というもの。要となるのは電子制御だ。それはエンジン特性、サスペンションの減衰圧、ABSやトラクションコントロールの介入設定などを、4つの場面に合わせて一括変換させる“ライディングモード”がミソなのだ。ここで忘れてはならないのは、車体の基礎造りがしっかりしているからこそ、この協調が効果を生むことだ。
 
 基礎性能の高いシャーシにドゥカティ秘伝とも言えるスーパーバイク譲りの水冷1200テスタストレッタエンジンを専用チューンして積み込み、ハンドルバーのボタン一つでバイクのキャラを変えてゆく……。
 街中では軽快に振る舞い、ツーリングでは最高の相棒となり、峠では血管が泡立つような走りを見せ、林道を涼しい顔で駆け抜ける。
 これがムルティストラーダの正体なのだ。2010年の登場以来、2013年に進化し、さらに2015年にフルチェンジ(http://www.mr-bike.jp/?p=86481 http://www.mr-bike.jp/?p=102103 )。その完成度はそこに極まれり、と思っていた。
 
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 さらにムルティストラーダはドゥカティの中でも先端装備を真っ先に投入するモデルでもある。スーパーバイク風なLCDモニターや、ハンズフリーキー、セミアクティブサス、LEDヘッドライトなど、走り以外にも刺激が多く、物欲を直撃するシズル感は相当なもの。 
 2015年に登場したシリーズ4代目はその点でも正に真打ち。スポーティでパワフルなDVTエンジンはシームレスに扱いやすいし、進化した電子制御セミアクティブサスを搭載した1200Sのそれは、よりナチュラルセッティングとなった。荷重移動の動きは感知させるが、余計な動きはしっかりチェックする。特にタンデムしたパッセンジャーからは「疲れない」「乗り心地が最高!」と好評だった。
 また、電子制御分野でも、ライドバイワイヤー式のスロットルの採用と、慣性測定ユニットであるボッシュ製のIMUを搭載して、コーナリングABSやウイリーコントロールも搭載された。
 これらパーソナライズ可能な電子制御を好みに合わせて設定変更すれば、より身近なバイクにすることも可能だ。デフォルトのままでも電子制御はしっかりライダーの味方をしてくれる。
 
 また、1200Sはコーナリングランプを含めデュアルライトに備わる全てのヘッドライトがLEDとなる。メーターパネルもLCDからカラーTFTモニター、5インチへと進化している。クルーズコントロールも標準装備だ。あと足りないとしたら……、を考える方が大変なぐらいな先端装備の充実振りなのだ。
 
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 新しいムルティストラーダ1260Sのビューポイントは大きく分けて4つ。1つめはエンジン、2つめはシャーシに加えられた変更、3つめはエレクトロニクス周りのアップデイト、4つめは外観デザインだ。
 
 まずエンジン。テスタストレッタDVTエンジンは排気量を拡大した。1200から引き継いだφ106mmのボアはそのままに、ストロークを3.6mm伸ばし、排気量を1198.4㏄から1262㏄へと拡大した。1シリンダーあたり31.8㏄、合計63.6㏄が上乗せされている。また圧縮比も12.5:1から13:1へと高めている。
 主要パーツとして従来型とはシリンダー、コンロッド、そしてクランクシャフトが異なるほか、吸排気バルブを可変バルブタイミングさせるDVTシステムのプログラムにも変更を受けている。スペックは116.2kW・158hp/9500rpm(112kW、152hp /9500rpm)の最大出力と、129.5Nm/7500rpm(128Nm/7500rpm ※カッコ内は1200)の最大トルクとなっている。
 
 数値的に大きな進捗ではないが、1260エンジンはさらに扱いやすさを磨くことに力点が置かれた。例えば、3500rpmを下回る低回転でも最大トルクの85%(つまり100Nm以上)が発揮され、1200との比較では同じ5500rpm時点で18%もトルクが上乗せされた。路上で多用する4000rpm付近でのトルクはクラス最大級ともいう。DVTシステムのその吸排気可変をさらに最適化する見直しがされている。
 また吸排気系も、吸入口形状やエキパイ、サブサイレンサー内部のレイアウトなどに変更を受けている。エキパイの長さ、曲げ方など、ミリ単位で特性が変わるとはよく聞く話しだから、相当細かく詰めて来たのだろう。
 また、エンジンブレーキコントロールがギア毎に異なるレスポンスを返すという。1260Sに標準装備されたドカティ・クイック・シフト(DQS=クイックシフターだ)はもちろんアップ、ダウン双方に作動する。
 
 車体はどうだろう。大きなトピックは、新フレームの採用だ。ステアリングヘッドアングルを1度寝かし、スイングアームを48mm伸ばしている。この二つによりホイールベースは、従来モデルと比べると全体で55mm伸びている。その狙いとしてよりシャープなハンドリング、タンデムやパニアケースを装着した状態でより安定性ある車体にしたという。
 また、新意匠となった前後ホイールは合わせて340gの軽量化がなされた。
 
 次にエレクトロニクス関係。主にメーターパネル、スイッチ類のインターフェイスに、より使い勝手を深める改良が施された。スイッチを押したときのメーター表示や、ライディング中に使う機能と、停止時に使う機能設定の呼び出し画面など、セットアップをより直感的に使いこなせるようモディファイされている。
 
 そしてデザイン。外観のイメージは前回のフルモデルチェンジで造られたものをベースとしているが、外装パネルの意匠を細かく変更して一見スリムな印象になった。テスト車がマット系のグレーだったこともその印象を強めた。ホイールも新デザイン。グレーの車体とマッチされるゴールド系の色も、バランスのさじ加減がシブイ。なるほど、フルチェンジではないものの、しっかりと変化を伝えてくるものとなっている。
 
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 今回、ドゥカティがアレンジしてくれた試乗会はカナリア諸島の一つ、グラン・カナリア島だった。スペイン領にしてその場所は大西洋上、アフリカ大陸の西サハラとモロッコ国境線の沖合にある。歴代ムルティストラーダの試乗会は多くがカナリア諸島で行われていて、今回もその慣例にならって、ということもあるのだろう。

 春の需要期を控え、冬のメディアテストには、走りやすいこの常春の島が絶好の場所にもなる。実際、半袖では寒いがジャケットを着込む程でもない気温は、バイクに乗るにもありがたい。

 グラン・カナリア空港から大西洋沿いに40キロほどの場所にあるゴルフリゾートのホテルがテストの発着場所になる。そこで改良のポイントなどの解説を受け、イタリア流のゆったりとしたディナータイムを過ごした翌朝、いよいよテストへと出かける。

 午前8時過ぎ、僕達はバイクに跨がった。ライディングモードや機能のプライベートレッスンを受け、ムルティストラーダ1260Sと親睦を図る。試乗車には二つのオプションパーツが装備されていた。一つはツーリングパッケージ。その内容は、センタースタンド、左右のパニアケース、そしてグリップヒーターのセットオプションだ。それぞれを個別でも装備可能だそうだが、パッケージだと割安になるという。また、ラジエターガードが装着されている。走行写真などで見えるラジエター前のシルバーのプレートがそれ。これは、グラン・カナリアの舗装路の特徴である、アスファルトの粒の間に入り込んでいる細かな砂利が、前輪や前走車が跳ね上げ、ラジエターコアから水漏れ、なんてことがないようにする予防策だと説明された。

 余計なお世話だが、正直、センタースタンドとグリップヒーターはこのクラス、このカテゴリーなら標準で欲しいところ。日本での強靱なライバル、BMWのR1200GS系はそれらをもちろん標準装備している。と、いうか、BMWのモデルはほぼフルオプション仕様が国内標準仕様となっている。後付け個別対応するなら工場での装着で高品質に、ということもあるのだろう。とにかく、BMW被験者は、デフォルトは装備レベルが高い。もし前BMWユーザーや、現BMWが気になってショールームに来ても、逆に「え! 付いてないの」と熱が冷めるポイントになるようにも思う。
 それに、グリップヒーターは一度使うと、付いてないバイクには戻れないアイテムだ。クルーズコントロールやETCやナビと同様、昨日までどうして付いてないバイクに乗っていたんだろう、オレ(私)……、と思う筆頭装備だからだ。

 スタイリッシュなパニアケースは全体のスタイルに溶け込み、カッコもよいし使い勝手も悪くない。小ぶりに見えるが積載性は悪くない。この日に必要な荷物を入れ、ロックをする。ハンズフリーキーをポケットに入れ、出発する。
 
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 大きな敷地を持つリゾートからまずは海岸線に向かう。走り初めてすぐに感じたのはエンジンの扱いやすさ。可変バルブタイミングのDVTエンジンの開け始めの部分がすごくマイルドになった。トルクはあるのに、ドカンと出ない。気合い満々の朝よりも、お昼過ぎ、帰り道になったころに効果を見せる優しさだ。
 そして、40km/h程度でもクイックシフトが意外に決まる。2速、3速でのゆっくりとした走り出し、エンジン回転も3000rpm以下。その段階から意外にスパっと決まるのだ。軽いとは言えないクラッチレバーの操作力を考えたら、これも武器になる。
 
 さらに、敷地内に点在するスピードバンプを乗り越えた時、セミアクティブサスペンションの作動により、乗り心地が極めてマイルド。無駄なピッチングを見せない走りをする事もすぐに確認できた。僕が知る限りシリーズで一番いい。フロントがまずそのギャップを拾い、リアもバンプにのり、リアが持ち上がる。その時、体が一瞬フワッと持ち上げられる、と構えるが……それが来ない。ドゥカティ・スカイフック・サスペンション(DSS)の恩恵だ。
 2013年モデルからDSSを装備してきたムルティストラーダ。この初代モデルは、こんな場面でフロントはガツっと動いて、リアがシュワっと通り抜ける印象だった。そして2015年のモデルチェンジ後は、前後サスの作動感の差を減少させ、ギャップを通過したときのフィーリングがよりコンベンショナルなサスペンションに近づいた設定だったと記憶している。今回の1260Sはその双方いいとこ取り。その上で快適性にシフトした設定だといえるだろう。好みだ。
 
 敷地内の道を走る時も、小高い丘のから海岸線に向けワインディングを下る時も1260Sのハンドリングは一体感があり、曲がる方向に寝かすと安心感をもって前輪に舵角が入る。もっと積極的にフロントが曲がろうとする印象だった2015年モデルより、手応えを与えつつも旋回への一体感は途切れない。これは良い旅バイクにちがいない。
 
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 その後、テストは短い区間高速道路で本格化した。15台ほどのグループで移動するので、クルマの流れに合わせた速度だ。リアからの突き上げは極めてマイルドで、フロント接地感も高い。巡航速度が120km/hぐらいに上がっても、高速道路のカーブで重くなる印象はない。ロール方向への動きが先代よりも軽い感じだ。
 これは、先代が重たい、ということではなく、ハンドリングのキャラクターが、1200Sはフロントが即応して曲がりはじめ、リアがそれに追従する、というキャラクターだったのに対し、1260Sはそこにも適度な手応えを感じさせながら同時に曲がり始める印象だからだ。どちらも一体感はあるのだが、僕にとってラクなのは1260Sだ。
 
 今までにも増してエンジンは滑らかに回り、6速で100km/hのクルーズもストレスがない。楽だ。クイックシフターはアップ、ダウンともつま先のクリック感はあるものの、ツーリングペースの微少スロットル開度でもシフト時に引っかかり感がない。それでいて意図せずチェンジペダルにつま先が触れただけで点火がカットされ、車体がギクシャクするような過敏さもない。クラッチレバーを使わない運転はやはり余裕を生む。肉体的な疲労よりも、握る、繋ぐにいままで結構な神経を使っていたことを改めて実感する。だから体より気分と頭にゆとりがでる。それにシフト時の駆動の切れ感が少ない。むしろツアラーにこそクイックシフターなのではないか、とすら思う。
 
 高速道路を降り、いくつかのランナバウトを抜け、海岸線からニエベス山に向かう道へと入って行く。島の中央に位置するこの山は標高2000m弱。そこに登る道は裾野では直線とカーブが良いバランスで連なっていたが、標高を上げるとブラインドカーブが続く峠道になった。ここまで30分と走っていないが、1260Sとはすっかり心が打ち解けた。エンジンの開け始めの優しさとハンドリングバランスがリセッティングされたせいか、左側通行の国から右側通行の国へと来た時差ぼけのオトコでも苦もなく走っていける。
 
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 ニエベス山への上りが続くと雲ゆきが怪しくなってきた。そもそも山の姿が見えなかったのは、山がまだ向こうなのではなく、すでに雲の中だったのだ。
 道は雲の中に吸い込まれた。風に流れる雲からは雨が落ち始め、登るほどに風も強くなる。周囲の木々から葉、枝が落ち濡れた路面に張り付く。斜面からは赤土が流れ出す場面もあり、前向きな気持ちで1260㏄のビッグバイクを操れる状況とは言えなかった。
 
 そのやっかいな路面にムルティストラーダ1260Sは動じなかった。まずこの状況でタイヤのグリップがいい。同時に、サスペンション、エンジン特性が生む、メカニカルグリップも良い。恐くない。その証拠に、トラクションコントロールが頻繁に効きそうなコーナーからの脱出加速の場面でも、メーター内のワーニングランプは一向に光らない。ライディングモードはツーリング。試しにアーバンモードにすると、サスの減衰がソフトになりさらに安心感が増した。
 
 それでもABSもトラコンも無用な介入をしない。というより滑らない車体なのだ、と思う。さらに進むと雲の中に入り、視界もさらに悪くなった。路面は相変わらず。標高が上がり気温も下がる。グリップヒーターが頼りになった。
 このコンディションでこの安心感。ハンドリングやエンジン特性のエッジを丸めた印象の1260Sの走りは信頼感に溢れるものだった。比較すると、峠でよりシャープなのが印象的だった1200Sは、コーナーへのアプローチから旋回へと移行するとき、スポーツバイクを操っている、という実感があり、フロントタイヤにしっかりと荷重が載る。その分、悪路や雨では少し切れ味が鋭いかな、とも感じていた。
 
 対する1260Sはハンドリングの持ち味はスポーティ。その動きは実際には一体感があるのに、心の中ではスローモーションを見るような余裕がある。不思議な時間経過の中、バイクをコントロールする歓びは薄れない。こんな道でもだ。ホイールベースが伸びた分、フロント荷重が増えたのでは、と想像していたが、軽快さと接地感がとても良いバランスなのだ。
 
 感心したのは、この滑りやすい状況でクイックシフターが、実はすごく味方になっていた、ということ。何度かクラッチを使ってシフトダウンしたが、その繋ぎ方によって、リアが一瞬スライドしたりする。もっとゆっくりクラッチを繋ごうとすると、バックトルクの大きなエンジンは、さすがにスリッパー機構が入っていても、リアのスライドを抑えるのは難しい。駆動が途切れないクイックシフターはこんな場面でもライダーを援護するのだった。
 
 その後、雲の中と雨からは解放されたが、路面は引き続き濡れていた。それでも試乗するジャーナリスト達のペースが落ちないのは、誰もが同様に乗り易さを感じ、信頼しているからだろう。晴れ間こそでないものの、ドライになった路面。ワインディングは1時間近く続いた。開けた時の安心感、ブレーキング時のサスペンションのしっとりとした受け止め方。ハイペースな先導を追いかけながらも全ての動きが把握しやすく安心感がある。 
 立ち上がりで加速し、減速、そして回り込むカーブに切り込む。パニアを付けたアドベンチャーバイクとしてはかなりのペースだし、走る充実感に没頭している。
 
 途中、ライディングモードをツーリングからスポーツへと変更した。アクセルレスポンスと足周りにシャープさが増し、それでいて、ツーリングモードに比べて演出が過ぎることがない。良い塩梅だ。僕達は雲の中から解放された頃、島の反対側の海岸線の街、アガエテへと降りてきた。
 
 青と白に塗り分けられたシーフードレストラン、ラ・ガランハのバルコニーでランチタイムを過ごした。2時間は大袈裟だが、軽く1時間半はそこで過ごし、再び走りだす。250kmあるテストルートのまだ半分。後半もマップを見る限りワインディングがてんこ盛りだ。図らずも悪天候が見せた乗り易さとドライでの乗り心地、ワインディングでの一体感など、自分の予想を殆どの部分で覆した新型の特性は掴めただけに後半も楽しみだ。
 
 午後になると時差ぼけの体は感覚が少しずつ遅れがちになるのがいつものことだが、今日は全くズレがない。疲れが出ないのだ。走るのが楽しい。これは大きな発見だ。ロングツーリングに強みを発揮するにちがいない。
 
 出発したホテルからグラン・カナリア島の中央を北上し、11時ぐらいの位置にある街でランチ、そして反時計回りにホテルに戻るルートを走ったのだが、ランチ後の天候は良好、太陽が暖かい。ドライのアスファルトながら、前のバイクが飛ばす小石が多いのはスペイン系の道には多い展開だ。
 それでもサスペンション、シャーシ、タイヤは充実したグリップで乗り手の走りに応える。この後半セッションの殆どをよりシャープなハンドリングとエンジン特性のスポーツモードで走って来た。普段、ムルティストラーダを走らせるとき、たいていツーリングモードで満足してきた。2015年モデルではたしかにスポーツモードの裾野を広げ、扱いやすくなったぶん、峠でもチョイスすることはあったが、タイトコーナーの立ち上がりなど、場面によってはマイルドなアクセルレスポンスが欲しい時もあった。いずれにしろ、不足があってスポーツにした、というより、より楽しみたくてスポーツにした、というポジティブな理由だったのだ。
 
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 この新しいムルティストラーダ1260Sは、日本には春に届くそうだ。4月だろうか。ツーリング性能が上がったこと、ドゥカティらしい走りを楽しめること、天候を問わず楽しめたこと。これらはムルティストラーダらしさを追求した証拠だろう。新型は進化した、と自信をもって言える。
 反面、“4 Bikes in 1”の中でもスポーツを楽しむのが好き、ドゥカティといえばアドレナリン、という人にとって、フィットするムルティストラーダは1200Sかもしれない。気になる人は今のうちだ。
 
 そう考えると、1200Sは、2016年に登場したムルティストラーダ1200エンデューロや、2017年に登場したムルティストラーダ950など、ファミリーが増えるコトを想定し、オフロードよりはエンデューロに、市街地での走りは950に任せ、峠でのシャープさに拘った味付けだったのかもしれない。
 
 このあたり、それぞれのキャラクターを今一度確認すべく、近々、ムルティストラーダファミリーを再チェックする予定だ。
 
(松井 勉)
 
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ボルケーノグレイと呼ばれるマットカラー。タンクサイドで重要なポイントとなるパネル。ブーメラン状のカタチを継承してきたがその部分が、タンクサイドとのオーバーラップを増やしつつ、上部の張り出しを抑えた形状に。全体的に張り出し感が減りスリムさを印象付ける。


 
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デザインモチーフのY字スポークは変わらないが、折り重なるような新しいスタイルになったホイール。


 
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エンジンのベルトカバー部分にはまるプレートが樹脂製から金属プレートに変更になった。見るからに、アップグレードである。


 
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フロントフォークはφ48mmのインナーチューブを持ち、そのストロークは170mm。セミアクティブによる適宜減衰圧が変わるため、その実際のストローク量はもっと長いようにも感じる場面がある。1260SのフロントブレーキはブレンボM50 キャリパーを装着。小ぶりなモノブロックキャリパーはスーパーバイク系と同じもの。1260より大径となるφ330mmのディスクプレートを装備。結果的に軽い操作力で制動力と操作性の良さ双方を持つ。


 
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エンジンは排気量アップを行ったテスタストレッタDVTエンジン。90度LツインはドゥカティのDNA。ケースカバーもマーキュリーグレイと呼ばれる新色でペイントされている。


 
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ムルティストラーダ1260SのヘッドライトはLO/HIに加え、いわゆるポジション、そしてコーナリングライトも全てLED光源となる。その輝度に負けないよう、輝度の高さと位置の関係で被視認性の高いウインカーをナックルガードにビルトイン。ノーズの奥に見えるのはオイルクーラー。


 
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テールライトの光らせかたもムルティストラーダらしいもの。エッジを効かせたスタイルだ。また、このモデルからリアウインカーもLEDとなる。


 
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リアサスはセンターではなく、スイングアーム左側にオフセットされてマウントされる。1260Sではイニシャルプリロード調整も電動で行える。ライダー1人、1人+ラゲッジ、2人乗りなど、プリセットされた設定に合わせるだけの利便性を持つ。ストロークは170mm。


 
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パニアケースはGIVIがOEM。その造り、リッドの剛性感やストッパーの完成度などさすが純正品。内部形状を追い込み、マフラー側も容量を稼いだ形状となる。


 
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クイックシフトを備える1260Sのシフトペダル。その操作感、レスポンスは他のドゥカティモデル同様、優れたタッチを持つ。ステップ上部のラバーは簡単に取り外せる。


 
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スクリーンは片手でロックを解除、スライドさせられるピンチ&スライド式を採用する。細身だがその整流効果は高く、快適に長時間ライディングをこなせる。


 
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左スイッチでライディングモード、クルーズコントロールなどを操作する。上下方向と、エンターキーを組み合わせているグリップ側のグレーのキーが様々な機能を呼び出し、決定するキーとなる。方向キーを下向きに長押しするとサスペンションのプリロード設定にはいる。方向キーにある白と黒のドットマークは、モード、エンターのそれぞれの機能として、長押し、チョイ押しを意味する。


 
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右側のスイッチは、イグニッション起動スイッチ、スターター、そしてスライド式のキルスイッチ、グリップヒーターのスイッチとなる。


 
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スポーツモードではパワー、トルクともフルパワーとなり、スロットルレスポンスはもっともダイレイクトに。トラクションコントロール、ウイリーコントロールの介入レベルは低く、ABSの介入度も下がる。リアホイールリフト検知はオフとなる。ライダーがアグレッシブにライディングできるモード。ドゥカティ・スカイフック・サスペンションEVOを装備する1260Sではサスペンションセットアップも減衰を高めた高荷重設定になる。


 
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ツーリングモードではパワー、トルクともにフルパワーが発揮されるが、そのアクセルレスポンスは開けはじめの部分などがマイルドに。トラクションコントロールやウイリーコントロールの介入度はスタビリティーを優先したものに。ABSもツーリングで走る場面や、天候変化や路面変化に追従するような設定になる。1260Sではサスペンションセットもスポーツツーリングにふさわしいセットアップに。


 
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アーバンモードでは最高出力が100psに制御され、アクセルレスポンスもよりマイルドに。トラクションコントロール、ABSの介入度は市街地の路面ペイント、マンホール、石畳にも対応するものに。1260Sでは市街地で最適なサスペンションセットに変化する。またエンデューロモードでは、最高出力が100psに制御され、オフロード向けのドラクションコントロールとなり、リアブレーキのABSがキャンセルされるようセットアップされる。


 
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各モードにサスペンションなどはデフォルト設定されているが、好みに合わせてパーソナライズすることが可能だ。


 
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コーナリングABSの設定画面。スタビリティー重視、コントロール性重視と選択が可能。


 
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リアサスペンションのイニシャルプリロード設定画面。荷重の大きさをこのようにヘルメットとラゲッジパニアのイラストで選択できるので解りやすい。


 
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ムルティストラーダ1260Sのハンドル周り。TFTカラーモニターは明るい太陽の下でも視認性がよい。パネル横にワーニングランプ類、上部はシフトタイミングライト、ワーニングランプが並ぶ。トリップメーターなどはもちろんハンドルスイッチからリセット、選択が可能。


 
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