2018年1月31日
第57回 海外編第4章 Manchester Airport
第57回 海外編第4章 Manchester Airport
第4章 Manchester Airport
手続きを終え、再び飛行機に乗り込んだ。機はやはりエミレーツ航空の機体だ。
ドバイ空港発なので当然と言えば当然の事である。外から見た機体はやはりクソがつくほどにデカい。しかし……オレの座るエコノミーの座席は狭い。
注意事項などのアナウンスが終わると機体はゆっくりと動き出した。成田の時と違い今回は外の様子がよく見える。長い徐行のあと離陸へ向けて機体は一気に加速を始めた。景色の流れが見えるせいで成田の時よりずいぶんと速く感じる。機首が上がり機体が上昇していくのがモロにわかる。おおっ…おっ、おっ……おおっ!
自分の口から変な声が漏れているのを自覚した。世の中には見える恐怖と見えない恐怖がある。オレにとって飛行機の離陸というのは見えてない方がいいのかもしれない。
さてここからマンチェスターまで7時間。今回は昼間のフライトである。寝ている間に着くという感じではない。そもそも昨夜、寝れなかった原因が座席の狭さに起因しているのだからまったく同じ環境で眠れるはずもない。だが理由はそれだけではない。
この機がマンチェスターに到着した時、もうマン島は目と鼻の先という事だ。
そこに考えが至った時、体が軽く震え鳥肌が立った。んっ!?……いや、普通に寒い。
どうやらオレの考えが至ったのもそうかもしれないがジャンボ機も高度15000mに至ったようだ。
シートベルト着用のサインが消えてから少しすると機内食が配られ始めた。
タイミング的には実に当たり前の朝食の時間である。毎度の事ながらCAさんが笑顔で語りかけてくる。
「An omelette or stew?」
んっ!? これにはちょっと意表をつかれた。
オレが理解していないと思ったのかCAさんは再度同じ言葉をゆっくりと語った。
いや、わかってはいるのだ。さすがにオムレツとシチューくらいはわかる。
オレは一言「Wait!」とだけ言い真剣に考えた。困った。
どっちも食べたい。
だが考える時間はそれほど与えらなかった。隣の席の黒人が早くしやがれと言いたげな目でオレを見ている。しかもガタイが大きいもんだからちょっと怖い。
オレは「omelette please.」と。マンチェスター行き最初の機内食は少々、納得のいかない形でオムレツに決定した。
ええ、美味しかったですよ。しかし……オレを威圧的に睨み倒した隣の黒人はちゃっかりシチューをオーダーしていやがる。しかも、とっても美味しそう。
よし、次の機内食でどちらにします? と聞かれたら両方と答えてやろう(きっと却下されるとは思うが)。
オレは持ってきていた本を取り出して読み始めた。巨大な空港のセキュリティーをテーマにした小説である。こんな本を持ち込むあたり当初、オレは空の旅に相当、ビビッていたのだろうな。だが……一度くらいで言うのもおこがましいが飛んだ後の機内の環境には慣れた。この新しい環境へ順応する速さはオレの武器である。そうでなければロングな旅などできはしない。本を読み、映画を見ながら時間が過ぎていく。
満を持して待ち構えていた昼の機内食は問答無用でピラフだった。
オレを乗せた機は地球の自転に逆らう方向へ旅を続ける。
そして機体の高度が下がり始めた。イギリス、マンチェスター空港はもう目の前までに迫っていた。
着陸に備えてジャンボ機の高度はどんどん下がっていく。機体の真下に取り付けられているカメラに切り替えモニターを見たが分厚い雲に阻まれて地上の景色は拝めない。
正面のカメラに切り替えてみる。すると機体は今まさにその分厚い雲の中に突っ込んでいくところだった。その直後、機体がガクンと揺れた。
突然、足元の床が崩れ落ちたような、もしくは最高到達地点から一気に落下した直後の絶叫マシンのようなあの感覚である。なまじ機体がデカいぶん抵抗による挙動の変化も大きいのだろう。どこかで子供の泣き声が聞こえる。
隣を見ると例の黒人が目を剥いて固まっている。ふっ、見かけによらず案外、気が小せぇんだな。コイツ。オレはどうだったかって? 舐めてもらっては困る。
「落ちるぅ~!! 死ぬぅ~!!」
などと取り乱すことなどオレにかぎってありはしない。しかし……ちょっとチビったかも。
その点、CAさん達は慣れたものでなんの動揺も示さず普通にしている。
彼女たちにしてみればこんな事は日常茶飯事なのだろう。
雲を抜けるとマンチェスターの街並みが見えてきた。
ジャンボ機はさらに降下していく。道を走る車がはっきりと見える。
しばらくすると目の前にはマンチェスター空港の滑走路が。そして、着陸。
ついにオレはイギリス本土の地に降り立った。
さて飛行機を降り、毎度毎度の手荷物検査である。いや、ここでは入国審査と言った方がいいか。だが同じことだ。もうすっかり要領は心得ている。
腕時計からベルトまで身に着けているものは全部外し、ポケットの中身も全部、出して……いざ、金属探知ゲートへ向かおうとしたところで係員に止められた。係員はなにやら早口な英語でオレに語りかける。とりあえずジャケットとシューズという単語は聞き取れた。
上着と靴も脱げという事だろう。オレは上着と靴を脱いでゲートを潜った。
ドバイで反応したジーパンの金具は反応しなかった。やれやれ……とホッとしたのもつかの間、オレは再び係員にとめられた。今度はハンドスキャナーで全身隈なく検査され最後は係員の手によってボディチェックされた後、やっと解放された。
断わっておくが決してオレが必要以上に怪しいやつだったからではない。
ほかの乗客も細かく調べられていた……と思う。うん、きっとそのはずだ……たぶん。
検査も国によってずいぶんと厳しかったりするものだ。
考えてもみればイギリスではつい先日、テロがあったばかりなのだから当然かもしれない。
あれは人気女性シンガーのライブ会場での事件で場所はこのマンチェスターだった。
ここはそんな物騒な場所で今まさにオレはそこに立っている。これもまた実に不思議な感覚である。
少々、手間取ったが晴れてイギリスへの入国は果たした。
この後は国内便に乗る。その行き着く先はついに……そう、ついに最終目的地であるマン島だ。しかし、国内便の搭乗まで5時間もある。焦らされるのは好きではないが心の準備をするには丁度いい。時刻は現地時間で昼の12時半。ひとまず空港の外に出てみる事にした。
初めて足を踏み入れる異国の街。当然、日本語の表記などどこにもありはしない。
テレビでしか見た事のないような景色が現実にオレの目の前にある。
まわりは外人ばかりだ。いや、ここではオレが外人か。
しかし、そんなオレの感慨に水を差すように目の前を通り過ぎるトヨタのプリウス。
あっちにも、こっちにも。視界に入るだけで4、5台はいただろうか。
もはや日本の車、特にプリウスなどはグローバルスタンダードと言ってもいいのだろうな。
車だけではない。バイクでも世界のトップを走っているのは日本の4メーカーだ。
誇らしい気持ちもないではない。しかしハード面では優秀でもソフト、つまりそれを扱う人間の資質については日本のそれはお粗末と言わざるを得ない。この後、たどり着くマン島でオレはそれを嫌というほど思い知らされることになる。
一服して空港内へ戻った。飲み物を買おうと自販機の前に立つ。いよいよ「そんなに必要ない」と言われるほどに換金したポンドを使う時が来た。商品のラインナップはコーラなど馴染み深いものもあるが半分以上は見た事のないものだ。
それにしても……高い。
コーラのペットボトルが2ポンド。つまり日本円で300円を超えている。
なんかここから一気に所持金が減っていきそうな気がしますな。
オレはコーラを買い、待合所の席に座ってマン島行きの便の確認をした。
フライビー航空BE819便マン島行き。
出発時刻は17:20。
搭乗口付近まで行き、窓越しに自分の乗る機を確かめたのだが……。
これからオレが乗り込む機体はこのオレを途轍もなく不安にさせた。機体がとても小さい。
しかもプロペラ機。このあたりが飛行機初心者の愚かな考えである。
そもそも国内便の機体をエミレーツの国際便と比較すること自体が間違っている。
きっと初めて乗る飛行機がこれだったらこれでも十分に大きく感じたに違いない。そしてちゃんとオレをマン島まで無事に送り届けてくれるはずだ。プロペラだけど。
刻一刻と時間は過ぎ、17:00ジャスト。搭乗案内のアナウンスが流れた。
成田を出てここまで25時間。距離にして約1万キロ。長い道のりだった。
これが行きの道中の最終章だ。さぁ行こう!!
いざ、モーターサイクルの聖地へ。
HERO‘S 大神 龍
年齢不詳・職業フリーライター
見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ750?。
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