2017年12月26日
MBHCC B5 ドナルド・シャーファー バイクの英語
第55回「Under the Weather(アンダー ザ ウエザー)」
寒くなってまいりました。昼間の抜けるような青空を見るとバイクに乗るにはいい季節にも思えますが、実際に乗り出すと寒いこと! Weatherを直接体感するバイクだからこそ、気持ち的にUnder the Weatherにならないよう準備をして乗りたいですね。
煽り運転が取りざたされています。とんでもない事故、いや事件がありましたもんね。ロードレイジというのはヨーロッパではしばらく前から社会問題になっていましたが、日本ではこれまで取り上げられることはあまりありませんでした。ロードレイジ自体は前から存在していたはずですけど。これに対する罰則、しかもかなり厳しい罰則はあってしかるべきでしょう。ただのスピード超過だとか追い越し違反などはあくまで自分が早く目的地に着きたいからとっている行動であり、結果的に事故を巻き起こす可能性が高まるため違反とされているものの、第一義は時間の短縮や自分のペースでの移動欲求であるわけで他人を傷つける目的でもありませんし、事故やトラブルを引き起こす目的でこのような違反をするわけではありません。
一方で煽り運転をはじめとするロードレイジは直接的に他のドライバーを巻き込んでトラブルを起こし危険な目に遭わせるわけです。スタートからして間違っているわけで、違反云々の前に現代の文明社会においてあってはいけないことでしょう。車を運転していたらヤカラに絡まれて停められ結果事故に遭うなんてとんでもない惨事であり、こんなことが起きること自体が情けない。
この問題が報道されるほどにドライブレコーダーの映像がニュースで流れたりもしています。絡まれる映像が度々見受けられますが、違和感を覚えるものも無きにしも非ず。一つ取り上げてみましょうか。
2車線もしくは3車線の道の右側を走っている車からの映像で、左車線を走る車と同じか、もしかしたら遅いようなペース。するとそれを抜きたい車が左から抜きにかかるのですが、左車線を走っている車との間合いなどがありなかなか抜けません。やっと抜いた時その車は相当腹に据えかねたのでしょう、降りてきて「なにチンタラ走ってんだよ」と絡んでくるという映像でした。もちろん、2車線以上ある幹線道路で車を止めて降りてくるというのは危険であり全く味方する要素はありませんが、一方で映像提供主の運転も一考する余地はあると思えたのです。後ろから急いでいそうな車が抜きたがってるんだから、左に寄ってあげれば良いじゃないか。そもそも左車線と同じ速度で走っていて、かつ右折の予定もないのだったら左車線を走れば良いじゃないか。前後の映像を見るに、意図的に意地悪して右車線を塞いでいるようにさえ見えなくもないわけです。
似たような(?)経験があります。高速道路をいいペースで走っていた時のこと。僕は助手席でしたが、乗っていた車はとても流れの良い第二東名高速道路の中央車線を走り、追い越しでは右車線に出る、というのを繰り返していました。すると一番右車線にファミリーカー。98キロぐらいで走っています。左から抜きたくないから後ろにつきますが、その車は延々右車線を走っていて、譲る気はありません。98キロの車を抜きたいんなら速度超過じゃないか、というご指摘もある事でしょうけれど、第二東名が流れるスピードは慢性的に速度超過気味なので最近速度制限の引き上げ実験があったわけですね。そもそも140キロ用に作られた道路なのですから、速度制限とは別のところで交通の流れる独自のペースが存在するのです。
後ろから追いついてくる車はこのスローペースに耐え兼ねどんどん左から抜いていきますが、ファミリーカーは意に介さず右車線を走り続けます。左から抜いちゃおうか、という気も起きてくるのですが、そもそも左側追い越しは違反ですし覆面パトカーも多い第二東名、左から行こうと思った瞬間にその車が心変わりして左に車線変更してこないとも限りません。しかも相手のルームミラーで目が合っているのです! 相手は後ろにつかれていると知っているのに譲らないわけですよ。たまらず「頼むよ、左に譲ってくれよ」とパッシングすると、なんと助手席の女性、後部座席に移動してこちらをスマホで撮影しだすじゃないですか! 一体どういう神経!? 理解できなさ過ぎてもはやパニックです。
他のケースでは合流車線や渋滞時の割り込み及び割り込ませの関係でも似たようなことが起きているように思います。車列に新たに入って来ようとする車に対して、わざと車間を詰めて「入れてなるものか!」と意地悪をするドライバーがいるじゃないですか。それでもスペース上選択肢がなくて無理矢理入るとパッシングやらホーンやら煽りやらを浴びせてくるという……。最初から「あ、入りたがってるんだな、はいドウゾ~」と入れてくれれば「ありがとさーん」と気持ちがいい合流となるのに、なぜそんなことをするのか意味が分かりません。最初から明らかに詰まっている所に無理グリねじ込んで来たり、車列の車に急ブレーキを踏ませるなどというのはもちろん論外ですが、なんとなく入れそうな空間が存在しているのに、わざとその空間を閉じてしまう車のなんと多いことか。自分からトラブルを引き起こそうとしているとしか思えません。かといって、じゃあ降りていって「だって合流のタイミングだし、入りたい意志を示すウインカーも出しているのに、わざと意地悪して閉めたじゃん?」とでも言おうものなら、ドラレコにそれが映って動画サイトにアップ、こちらはヤカラ認定ですものね、ドラレコに映る映像を鵜呑みにはできないと思うわけです。
ドラレコの普及と共に、この「動画サイトにあげる」という行為のリテラシーが問われるとも感じているこの頃です。以前からドラレコの類をつけて、交通違反をする車・バイクを撮影して動画サイトにアップするという事をする人はいました。その際、場所やナンバーも公開しちゃっているわけですから、載せられてしまった人は完全に証拠をばらまかれているわけです。これって近年の個人情報保護とか、さらには人権の尊重などの観点からしても、許されていいことなのでしょうか? 載せた方は正義を振りかざし、違反者を晒すことで「こんなけしからんヤツがいた」と言い、ネット上で「そうだそうだ、けしからん」と賛同を集める。それが騒がれ過ぎたら警察が動いて本当に捕まってしまう、なんていう事だって実際にあるんですよね。筆者も多かれ少なかれ交通違反はしちゃいますが、少なくとも他人に迷惑をかけるような違反はしていないつもりですし、むしろ交通ルールよりも円滑な交通環境や良きマナーを重視しているドライバーでいるつもりです。しかしこんな面白半分に動画を撮っている人が筆者の小さな違反をいたずらにアップして、それがもとに切符を切られたら……。その人に直接迷惑をかけているのならともかく、そうじゃなくてただの正義心、もしくは偽善でそんなことをしているのならそれは私刑でしょう??
最近バイク雑誌でも「ドラレコつけよう」「他の車もみんなドラレコつけてるから違反したらすぐ動画サイト行きで社会的地位を失うぞ」「おとなしく走っておけ」なんていう記事(いや、そこまで直接的ではありませんけれどね)を見かけます。なんとギスギスした世の中でしょうか。ビッグブラザーに監視されなくても、お互い監視し合っているのだから世話がありません。ドラレコの普及はいざ事故に遭った時にはとても良いことに思いますが、その画像を個人が個人の判断でいたずらにネット環境に公開するというのは、それこそ何か法整備が必要に思います。あぁ情けない。
Under the Weatherですが、これは気が滅入っているような状況を指します。気持ちが落ち込んでいる、もしくは併せて身体的にもあまり具合が良くない、などという状態ですね。日本の未熟な交通環境及びリテラシーの足りないと感じるネット環境に失望している筆者は、まさにUnder the Weatherな状態と言えそうです。このギスギスした状況に辟易として、バイクに乗ることももはやめんどくさいと感じることさえあります。筆者の運転が、もしくは違反が、ちょっとよくない角度から誰かのドラレコに映り、しかもそれが偽善者により悪意のある編集をされて動画サイトにアップされ、さらにほかの偽善者たちから「けしからん!」と注目を浴び拡散されたら、それこそ社会的地位を失いかねません。引きこもって猫動画でも見てた方がよっぽど安全です。
Under the Weather、直訳すれば「天気の、下」でありその意味は明確ではありません。語源には諸説ありますが、一つ紹介しましょう。
イギリス。雨が降っているか霧が出ているかのどちらかの天気しかないといわれるほど、悪天候で有名な国である。たまに薄日がさすこともあるが、それも長くは続かなく一日のうちに曇ったり雨が降ったりを繰り返し、出掛ければ十中八九濡れることになる。ロンドンの紳士は皆傘を持っているといわれるのはこのためであり、イギリスは本当に毎日のように雨が降るのである。おかげで芝生はいつも緑なのだが、こう毎日濡れているとそれこそ気が滅入る。
これが夏であるならばさして問題はない。むしろ暑さを落ち着かせてくれる通り雨は歓迎であり、その間はクリケットの試合を中断するなどイギリスののんびりした風土にも合っている。そもそも夏ならば濡れることに対してイギリス人たちはとても寛容であり、芝生でピクニックをしていて雨が降ってきても、なんとやめないことすらあるのだ。どうせすぐやむだろう、そもそも芝生が最初から濡れているし。ピクニックシートも日本のように水を通さなないものではなく、濡れた芝生に直接毛布のようなものをひいたりするのだから、夏場は服や体が湿ることに対して抵抗が薄いのだろう。
対するイギリスの冬は気持ちが落ち込みやすい要素が多い。まず緯度が高く、加えていつも曇っているため冬は極端に日が短いのだ。明るくなるのは8時ごろだろうか、朝、子供たちが登校する時にはまだ暗いのである。夕方も3時はもう夕方で4時にはもう真っ暗というイメージ。そして夏以上に日がさすタイミングは少なく、常にどんよりと暗い。寒さは日本ほどではなく雪もめったに降らないが、それでも決して暖かくはなくジメジメと暗い冬が続くのである。
このためイギリスでは家を大切にする伝統がある。Home, Sweet Home(あぁ愛しの我が家)などという家を愛するフレーズがあるほか、Safe as Houses(家の中のように安全)と安全で快適な場所を指す意味で家を引き合いに出す言葉もある。Home and dry(無事に家に帰って、乾いた環境にいる)という言い回しもよく使う。「帰宅し安全な環境に戻った」という意味である。このようにイギリスでは「家」がとても大切なものであり、寒い外から遮断してくれる安全で快適な、ぬくぬくとした環境であるという事だ。
かつてはそのジメジメした風土や寒さ、暗さから伝染病などが大流行したこともあるのだから、いかに家の中で暖かくしていることが大切か、というのを強く感じているのだろう。レンガ造りの家は大抵ラジエターと呼ばれる暖房器具があり、全ての部屋でそのラジエターの中をお湯が流れ続け部屋を暖めてくれるシステムとなっているほか、暖炉が家の真ん中に位置していることがあり、この暖炉は家のレンガそのものを暖めてくれるため家そのものがとても暖かく快適な空間となっているのだ。
対する屋外だが、特に冬の間は暗く寒く湿っているため、とても良くない環境として形容される対象だ。緯度が高くて冬の間の日照時間が少ない地域は自殺率も高まるなどとも言われているが、確かにイギリスの冬は本当にみじめな気にさせてくれるものであり、そういう環境から今回のUnder the Weatherという言い回しが登場したといわれている。快適で安全な室内に対して、ジメジメして暗い屋外にいなければいけない状況。みじめで情けなく、さらには健康状態も悪くなりそうなシチュエーションである。
いかがですか? 夏は暑く、冬も寒いながら昼間は気持ちよく晴れることの多い日本からすると想像しにくいかもしれませんが、冬のイギリスを体験することがあればこのみじめさを実感することでしょう。特にバイクに乗る人からすれば季節の変化に敏感ですし、寒い雨のなか雨具の防水性が限界に達して股の辺りから染みてきたときの悔しさ、悲しさ、情けなさ、落ち込み加減は良く知っていることかと思います。
この言葉の使い方はあまり限定されておらず、体調を聞かれた時に単純にUnder the Weatherと「あまり調子よくないんだ」という意味で使うこともありますし、日本の未熟で幼稚な交通社会や世界的なネットリテラシーの欠如を嘆いている状況を指して「そのことを考えるとUnder the Weatherになるよ……」という、気持ちの落ち込みを指すこともあります。
特に寒いこの季節はバイクで出かけるにも入念な準備が必要になってきました。出先でUnder the Weatherにならないよう、グリップヒーターを装着し、みぞおちと腰にはホッカイロを貼ってツーリングを楽しみましょう!
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