2017年12月22日
2017年・大躍進のアンドレア・ドヴィツィオーゾが本音を語る
「レース、ライバル、チームメイト、そして自分」
■取材・文:パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)
■写真:DUCATI http://www.ducati.com.mx/
例年とはやや違う、今年の冬である。マルク・マルケスと激しいタイトル争いを繰り広げて6勝を挙げ、年間ランキング2位でシーズンを終えたアンドレア・ドヴィツィオーゾは、今やその一挙手一投足が彼のファンはもちろんのこと、ライバル陣営の選手や関係者たちからも大きな注目を集める存在になった。今年からチームメイトになった最高峰クラス世界王者、ホルヘ・ロレンソを上回る成績を収めたドヴィツィオーゾが、いまやMotoGP最高のライダーのひとりであることに異論を挟む人はいないだろう。以下のインタビューでドヴィツィオーゾは、今シーズンの好調さは、じつは2016年にその端緒があった、と明らかにした。
―パドックやファンのあなたに対する見方が変わったな、と実感したのはいつ頃ですか?
2016年のアラゴンあたりまでは、皆が僕のことを「速くて強いライダーだけど何かが足りない」と見なしていたように思う。最後のひと押しで根性がないとか、最高の結果を得られるほどのライダーじゃない、とかいったふうにね。たしかに多少はそういう面もあったかもしれない。でも、それは皆が思っていたほどじゃなく、ほんのわずかな程度のものだったんだ。勝っていないライダーは、あまり分析の対象にならないし、しっかり研究されることもない、ってわけさ。
どんな競技でもそうだけど、選手は一度ニックネームがついたりイメージができあがると、だいたいはそれがずっとついて回る。何年もレースをしてきて、ある程度の成績を収めると、以後はどんな結果になってもその印象に基づいた評価をくだされるものなんだ。成績が上がると、バイクが良くなったからだ、と言われることがその好例だね。でも、ライダーのなかには、知恵を絞り、周囲の人々から良い影響を吸収し、努力を続けてじっくりと成長していくタイプもいるんだ。現役生活の四分の三に差し掛かった頃にさらに成長するのは、珍しいケースかもしれないよね。たいていの場合は、それまでのレベルを維持しながら少しずつ衰えていくから。
れだっただろう。
僕はずっと努力を続けてきたけど、今までそれをうまく形にできなかったのかもしれない。「ドヴィツィオーゾはすごいことをやってのけた」と認めたがらない人は、現在でも一定数いるからね。彼らに言わせれば、「今年のドゥカティが怪物だった」ってことなんだ。でも、今年はドゥカティ勢が8台いたなかで、レースで勝ったのは僕だけだよね。今年は、自分の思いのたけをぶつけて結果を出せた一年だったと思っている。一度や二度じゃなく、何度も違いを見せつけることができた。バイクが良かったことは間違いない。それは紛れもない事実だ。でも、本当に決め手になったのは僕自身が成長し、チームと一丸となって素晴らしい仕事をできたからなんだ」
―ドゥカティの中で何かが大きく変わったのですか?
2017年の初頭から言ってきたとおり、ロレンソがドゥカティに来たのはとてもいいことだと思っている。彼が来たことで、僕がずっと指摘してきたことの正しさも裏づけられた。ドゥカティの中には、僕の言葉を信じてくれている人々もいれば、そうじゃない人たちもいたからね。
ドゥカティは、2016年のライダーラインナップよりも今シーズンのほうがいい結果を得られるだろう、と考えていたようだ。あまりカネのかからないライダーをキープしておいて、さらにチャンピオンライダーを獲得すれば好結果を見込めるはず、ということだね。でも、その作戦がうまく行くにはバイクが良くなきゃダメなんだけど、ドゥカティの社内では、僕とイアンノーネが走らせていたときよりも今年は良いバイクに仕上がっている、という手応えがあったみたいだ。そこにチャンピオン経験者が加わるんだから、結果はきっとついてくるはず、というわけさ。フタを開けてみると彼らの思惑どおりにはならなくて、ここ数年僕たちがずっとがんばってきたことをさらに推し進めて、今シーズンの結果を出すに至った。今では、ほとんどの人たちが僕の味方になってくれているよ。
―チームメイトとの関係はどうでしたか?
ライダーというのはとてもめんどくさい生き物で、僕もまたその例外じゃないんだ。いいリザルトを獲得するためには、ライダーは特別な存在でなければならない。でも、ライダーにもいろんな性格がある。謙虚な選手もいればそうではないのもいるし、鼻持ちならない性格やまるで好感を持てないライダーだっている。イアンノーネの性格は皆が知っていると思うけど、彼とまた同じチームで走ろうとは、まあ、あまり思わないよ。その点で、ロレンソはまったくキャラクターが異なる。一年を通じて関係は良好だったし、彼が何かジャマをしたり問題を起こしたりしたことは一度もなかった。自分のバイク、自分の仕事に集中して取り組んでいた。総じて、すごくいいチームメイトだよ。ただし、シーズン最後の2戦のあれは、最高とはちょっと言いにくいかもね。もうちょっとやりようがあったんじゃないかとも思う。でも、彼を指弾するつもりはないよ。ホルヘはああいう人物だからね。誰しも性格にはひと癖あるものだし、その報いは結局、自分に巡ってくるんだよ。
―ロッシ選手との関係は変化しましたか?
僕は、自分から波風を立てたり誰かと揉め事を起こしたりしようとは思わない。相手からケンカを吹っかけてこないかぎり、いつもいい関係を維持していたい。自分はべつに特別な存在じゃないし、人とのつきあいにもオープンなほうだと思う。だから、バレンティーノとも良好な関係でいたいと思っている。今の関係が悪いというわけじゃないよ。問題を起こす要素がないんだ。バレンティーノは超がつくくらいの有名人で、セレブの例に漏れずプライバシーが脅かされがちだ。だから、自分の周囲に高い垣根を作る必要がある。彼の身内やアカデミーの生徒や仕事仲間でもない限り、ほとんど接点がない。要するに、彼と僕たちは別の世界の住人なんだよ。でも、彼も僕もバイクに対する情熱は変わらないし、もしも彼があんなに有名人じゃなければきっと気安く交流する関係になっていただろうね。僕はロッシやマルケスと友達じゃないけど、わだかまりがあるわけでもない。ふたりとも素晴らしいチャンピオンだし、彼らから多くのことを学ばせてもらった。これからも、彼らからは学ぶところがあると思う。
―バイクに対する自分のアプローチは変わったと思いますか?
今までよりもさらに落ち着いて、前向きになったと思う。バイクもタイヤも、レースウィークの中で対応できることは結構たくさんあって、金曜日の走り出しがイマイチでも挽回の余地はいくらでもある。僕は几帳面な性格なので、細かな部分にも注意を払うんだ。物事がどんなふうに機能しているのか、できる限り自分で咀嚼して、それを技術者たちに伝達する。ドゥカティで5年間やってきて、今では電子制御もかなり理解できているので、何かあったときにはその症状についてかなり細かく見極められるし、技術者たちにも適切な伝達をできていると思う。で、そこから先は、クルーチーフのアルベルト・ジリブオラの手に委ねる。技術の専門家のように振る舞ったって物事をこじらせるだけだから、僕の仕事は適切なフィードバックをするところまでだよ。
―では、レースの向き合い方は変化しましたか。
乗りかたや戦いかたは今までどおりだよ。最初に言ったとおり、レースに勝たなければ研究されることもない。でも、僕は今までもバトルではずっと強かったと自負している。接触されたりあまりに無茶な仕掛けられかたでもしないかぎり、一騎打ちになるとまず負けることがないね。今年はマルケスとの勝負になったためにかなり大きく注目されたけど、僕のアプローチは今までと何ひとつ変わっていない。違いがあるとすれば、自分の判断にさらに自信を持てるようになったことかな。気持ちが落ち着いているときは、素早く的確な判断をできる。逆に、思ったとおりにものごとが進まないときは、その判断も軽率なものになりがちだ。おじいさんの処世訓みたいに聞こえるかもしれないけど、じっさいにギリギリのレベルで戦っていると、些細なことが状況を大きく左右するものなんだ。
もうひとつ重要な要素は、自分を取り巻く人々。特定の誰かということではなくて、自分の周囲にいてくれるたくさんの人たちは、かけがえのない存在なんだ。僕は今までたくさんの人たちと一緒に仕事をしてきて、彼らのおかげで成長できたと思っている。今までのレース活動を振り返ると、自分よりも年長で成熟した人々に囲まれてきたからこそ、ものごとを多角的に捉えられるようになった。いろんな人と会い、話し、考えることで広い視野を持てるんだ。とても多くのことを学ばせてもらったよ。
―自分の知名度は上がったと思いますか?
目立つのは苦手なんだ。友だち同士の間で多少目立つのならまだしも、衆人環視の注目を浴びるのは苦手だね。皆の視線を集めるためにわざわざクラブに行ったりするようなことも、好きじゃない。だから、今みたいにいきなり注目を浴びるのは、ちょっと対処に困ってしまうよね。写真を撮ろうと集まってくる人たちよりも、できれば気心の知れた人と一緒にいたほうが落ち着くし。とはいえ、多くの人々が自分に注目してくれることには、もちろん感謝をしているし、うれしくも思っている。世間が自分を応援してくれていることに、とても充実感もおぼえるよ。でも、名声を追いかけるようなことはしたくない。僕はこの先もずっと、今までどおりアンドレアのままだよ。
―将来の見通しは?
ドゥカティに来た当初は、なかなか厳しかった。互いに一目惚れの相思相愛で最初からバツグンの関係だった、というわけではけっしてなくて、5年の歳月をかけて少しずついい方向に進んできたんだ。でも予想していた以上に良好で、今では最高の関係を構築できていると思う。ドゥカティこそが自分のいる場所で、今後もここにいたいと思っている。会社側にもそう思っていてほしいけどね。
今シーズンもいままでと同様に安易な妥協を自分たちに許さず取り組んできて、目標としていたところには到達したし、ドゥカティに対して自分の能力を示すこともできたと思う。こちら側から会社に対して提示するものはしているので、あとは向こうの判断待ちだね。お互いの目指す道が同じであれば最高だし、僕としてはそうであってほしいと思っている。そしてなにより、ともに良い道を進んでいきたいね。
(翻訳/西村 章)
【パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)】
国際アイスホッケー連盟(IIHF)やイタリア公共放送局RAI勤務を経て、2000年から同国の日刊スポーツ新聞La Gazzetta dello Sportのモータースポーツ担当記者。MotoGPをはじめ、ダカールラリーやF1にも造詣が深い。
[第1弾ヤマハモーターレーシングのマネージング・ディレクター、リン・ジャーヴィス|第2弾 アンドレア・ドヴィツィオーゾ|第3弾バレンティーノ・ロッシ]