2017年12月20日

18年目のモロッコラリー──前編 『サハラに挑む、世界に挑む7日間。』

■文・写真:松井 勉
■取材協力:モロッコラリー日本事務局 https://rpm-films.wixsite.com/rallyemaroc/news

 
巨大なアフリカ大陸の北西部。大西洋と地中海に面した海岸線。そこに拡がる緑豊かな土地を越え、内陸に行けば広大なサハラ砂漠が横たわる国、モロッコ。この土地で2000年に始まり今回で18回目の開催となるクロスカントリーラリーがある。それが0ILIBYA RALLY MOROCCO(以下・モロッコラリー)である。サハラを走る冒険ラリーはどうだったのか。一週間のラリーを追った。

遠い国──。

 モロッコ取材に出たのは10月2日。ラリーのスタート地となる町、フェズへの移動をするのだ。昼前に成田から飛び乗った飛行機はベルギーのブリュッセルへ。そこでスペインのマドリード行きに乗り継ぎ空港近くのホテルに一泊する。翌日、午後の便でモロッコのフェズへと飛ぶ。日本からモロッコへ。どうしても一泊を挟んで飛ぶか、長い時間トランジットをするか、悩みどころ。だけどよく考えたらたった一泊でアフリカ大陸、しかもオフロードライダーなら一度は憧れるサハラ砂漠の玄関にたどり着いた、と思えばなんとも速い。だって、もし日本からロシアに渡り数々の国境を跨いでユーラシアを西へ、さらにヨーロッパの突端、マラッカ海峡を越えてモロッコに走って来ようと思ったら、軽く一月はかかる。しかも休みなしで走り詰めでだ。
 
 フェズの空港からホテルへと向かうためタクシーに乗る。30年もののベンツは、天井の内張はだらしなく垂れ下がりしかも室内は軽油臭い。シートベルトもドアノブも窓のレギュレーターハンドルも外れ、動いているのが奇跡のような風体だ。乗り心地という表現がとっくに消え失せたそれで30分。モロッコラリーの主催者、NPO IVENTSがヘッドクオーターを構えるホテルにたどり着いた。陽はまだ高く気温も、湿度も想像以上。汗が噴き出す。とにかく現地到着。
 
 いずれにしてもドアtoドアで40時間。地球儀規模の移動をした。アラビア語圏、イスラム文化圏。距離もそうだが、その世界観の違いも新鮮。おそらくモロッコと聞くだけで辺境をイメージするだろうが、この町にはそんなイメージは全く無い。クルマは多いし、人も家もビルも多い。フェズは立派な都会だった。
 
 このモロッコラリーは、クロスカントリーラリーのFIM世界選手権の最終戦でもある。また、ファクトリーチームやプライベーターにとって、クロスカントリーラリーの頂点でもあるダカールラリーを2ヶ月後に控え、それに向けた最終準備として位置づけるチーム、腕試しに出るプライベーターも少なくない。もちろん、そうした華やかなムードのラリーであり、一週間、3000キロ以下というサイズを好み、身の丈にあったコストで出られる面も忘れられない。
 そう、モロッコラリーは魅力的なのだ。

レジストレーションや車検はダカールラリーと同様な様相。

 10月4日。フェズにあるサッカースタジアム、スポーツコンプレックスで早朝からモロッコラリー参加者の受付、車検が始まった。参加する車両はモト(いわゆるバイク)、クアッド(ATV)、SSV(ATVより大きく、サイド・バイ・サイド・ビークルの略)、オート(四輪)、そしてカミオン(トラック)クラスが参加する。
 
 モト部門は、FIMラリーのルールに則って行われるFIMカテゴリーと、エンデューロカップと呼ばれるクラスもある。これはエンデューロバイクをベースに容量アップさせた大型のタンク、ラリーのロードブックを入れるナビゲーションアイテムを搭載した車両でエントリーができ、ラリー中給油間隔も短く設定されているのも特徴だ。
 さらにガイド付きでラリーのルートをフォローでき、リエゾンの時間制限、スペシャルステージでのタイム計測などをせず、ラリーを一つのスポーツツーリングとして楽しむRAIDクラスがあるのもモロッコラリーの特徴だ。
 
 ヘッドクオーターのあるホテルを出発して車検会場に向かう。フェズの混雑した中心部を通り、到着したスポーツコンプレックスは味スタとか国立競技場的なサイズの広大な場所だった。各チームはすでにこの中にサービスを設け、車検の準備を進めている。
 
 スタジアム内の施設に設けられた参加者の受付では、車両の登録情報、エントラント自身の確認事項、車両に装備されるナビゲーションアイテムの確認から、エマージェンシーアイテムの確認などを行う。室内にパート毎にテーブルが並ぶ。壁沿いにコの字型に並んだテーブルを順番に巡るシステムになっているのだ。そこに座っている各担当者に合格印のような検印を貰いながら進むのだ。テーブルがコの字に並んでいるのだが、空いているテーブルから回ることはできず、左から時計回りに順番に回るのが鉄則のようで、開場入口には順番待ちの列を作って並ぶエントラントは待ちぼうけが続く。
 しかし、これがラリー。参加するための準備が整っているかのチェックは忍耐が必要になる。
 
 僕はプレス登録なので、回るテーブルが少なく、IDの確認や期間中ホテルで採る夕食のバウチャー(コレが実は大切)などを受け取り、選手より少ないスタンプハイクで終了。最後に手首にビザバンドを巻いてもらい完了。

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事務的な受付、車検前に行われるコトから“人検”なんて呼ぶ人も。スタート前の風物詩。


 
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「エントリーは何番ですって? ああ、急がない。ゆっくりやるのよ」そんなペースに飲み込まれながら進む受付。こんなテーブルをいくつも回る。ここではGPSの受け渡し。エントリー番号を確認し引き渡す機材をテーブルの後ろから取り出し、エントラントから受け取りのサインを貰う。それだけなのだが、リストとにらめっこ、ちゃんと使用料を支払っているかなどの確認をしているので、速くても五分ぐらい掛かる。途中、電話が掛かってきたり、コーヒーを採りにいったり。オフィシャル(白いシャツを着たマダムだ)のペースで進むのだ。


 
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GPSは動くかしら。電源の入れ方はこうだったわよね。というチェックもしながら……。


 
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選手に渡すGPSにはラリールートがプリインストールされている。ラリー中は毎晩おこなわれる翌日のブリーフィング時に翌日のルートを開示する暗証番号が開示され、それを入力しないとルートが表示されない仕組み。


 
 世界一過酷な、でお馴染みのダカールラリーとほぼ同等。受付時間は指定されているが、時間通りに守備よく進むことは希。何かと確認に時間が掛かる。その全てを終えると選手達は車検へと向かう。
 
 屋内で行われた受付が終わると、今度は車検だ。車両の安全装備の確認や、ラリーで使うGPSの取りつけ、そしてマフラーの音量測定などが行われた。FIMからラリーに帯同する車検官がレギュレーションブックに則ってしっかり検査。緊張感のなか行われていた。
 
 パスした車両には車検担当者自らがタッチアップペイントを塗り、それが半乾きになったところでボールペンの先でサインをする。車検を終えた参加車両は、そのままスポーツコンプレックス内に設けられた車両保管場所(パルクフェルメ)に入れて終了だ。
 
 受付の終了時にタイムカードに押された時間通りに車検に入り、パルクフェルメ入口でオフィシャルにタイムカードを渡すというシステムだ。車検に不合格の場合でも持ち時間内であれば再車検が受けられる。もちろん、時間を超過すればペナルティーが加算される。すでにラリーは始まっているのだ。
 
 ここで思わぬ事態が起こる。まるでMotoGPマシンのプレシーズンテストマシンのような黒の車体にRed Bullのデカールを貼った新型のファクトリーマシンを投入したKTMファクトリーが音量検査で引っかかったのだ。
 計測方法は規定の位置に車両を停め、レギュレーションブックにあるように0.3秒以内にアイドリングからアクセル全開に。レブリミッターに当たってから最低でも1秒間は最高回転を維持。アフターファイヤーの音も含め、ラリースタート前には117db/Aとある。現場で聞いたら117.9db/Aまではパス、とのことなので、野外で行う計測ながら、外部の音を加味はされている。

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パーキングロットのペイントを使ってバイクの置き位置を決め、音量チェック。マイクから飛んでくる数値を車検官は注視。「ダメだね」。何度やっても音量オーバーしていた。しかし、左奥にいるブッシュハットのオフィサーがアクセルの開け方、そしてバイクを置く角度を少し変えて(それまで白線に前輪、後輪を乗せて計っていた。路面に着いたサイドスタンドの痕がちょっとちがっている)くしくもパスさせていた。


 
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Team HRCの車両もキッチリ全車パス。


 
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こちらは白線に沿ってバイクがきっちり置かれています。


 
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合格の証しがこれ。タッチアップペイントを一塗り。その後、車検官がサインを入れるというもの。


 
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こちらはナビゲーションアイテムのチェックを行う検査。エンデューロカップにエントリーの車両。450EXC-Fをチョイス。ナビタワーとフロントのフェアリングを装着。


 
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ナビアイテムとして、トリップメーター(上左)、デジタルコンパス(上右)、ロードブックホルダー(中)、そして下が受付で受け取るGPS。


 
 結局のところ、数回のリトライでなんとかパスしていたが、チームマネージャーは嫌な汗をかいたにちがいない。不安そうにあちこちと連絡を取る姿が印象的だった。彼らのマシン、同型のハスクバーナのラリーマシンにはパスするものもあったりと、誤差の範囲が上側一杯だったのだろう。
 見た感じ、だいぶアクセルの開け方やバイクの置き方に車検官が他の車両とは異なる手心を加えたようにも見えたが……。
 
 いずれにしてもラリー界のチャンピオンチームだ。この新型は今まで以上のパワフルな走りを見せるにちがいない。
 
 こうして2018年、モロッコラリーの総走行距離、2612.22キロを走るモトクラス、2570.5キロを走るオートクラスそれぞれの準備が整いつつあった。

ナビゲーションアカデミーも見学。

 受付会場のある建物ではNPOアカデミーと題してナビゲーショントレーニングも開催された。主催者から渡されるGPS、センチネル(GPSを使った相互情報通信機器。競技中など他車と接近した際も、危険回避のためにブザーが鳴る仕組みでもある)その取り扱いについて。そして、ロードブックに記載された記号やその意味、カップ(方位)と、自身の車両に搭載されたGPSが示すカップとの差が有る場合の方向修正方法など、ベイシックだが実戦的なもの。これはビギナーにはお勧めの授業だ。全部で2時間を越えるそのアカデミーを受ければ、機材の使い方、ラリーナビゲーションの基礎を学ぶ事が出来る。説明はフランス語が主体で、英語でも解説がなされる。

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ラリーの概要、ナビゲーションなどの講座でもある主催者NPOによるアカデミーの様子。


 
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受付時間と被っているので参加人数は開始直後こそ多くなかったが、次第に増えていった。特にラリーのビギナーは興味津々。フランス語、英語で解説していたが、その内容は濃いものだった。


 
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講義の内容は安全とナビゲーションについて。


 
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受付で渡されたGPSの使い方講座。機材が二輪、四輪で異なるため、しっかりとレクチャーされる。


 
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画面の切り換え、その日のコード番号を打ち込むための操作方法なども解説される。言わば取説だが、説明を聞き不明な点はその場で質問ができるのは有益。なんだかよくわからないままラリーに突入すると、解らないまま終わる可能性も高いからだ。


 
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走行時、表示される機能の説明も。


 
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通過チェックポイントの前後はこのようなエリアで制限速度エリアがありますよ、というラリーのルールも解説。もちろん、ここでもGPSにより走行速度をモニターされ、スピード違反はペナルティーの対象になる。


 
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こちらはセンチネル機能の説明。写真は後続車が自車に接近して、スイッチ操作をしたとき、前走車の機材から警告音がなりこのように画面に表示されますよ、の解説だ。


 
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コチラは後方から速いトラックあり、の意味。自車の埃で後方が見えない場合が多いラリー。こうした機能が安全性を高める。また、二輪のライダーは四輪の死角の多さも認識しておきたい。街中を行く3点式のシートベルトとは異なり、競技用4点、5点、6点式シートベルトをすると、シートから背中を浮かすことは難しく、ロールバーやサイドウインドウネットなどで横方向の視界が実は非常に悪い。また、ヘルメットを被っていることもその一因。ミラーも埃で見えないし、レース用の小さいものが多く、見てないものと判断するべき。ライダーからの視界は砂丘でもガレ場でも日常のライディングに近いが、四輪のドライバー、ナビゲーターはフロントウインドウから上りでは空、下りでは地面、という極めて狭いエリアしか見ることが出来ない。写真のようにリア、サイドウインドウもドライバー周り以外パネルで埋めることも多いし、ドライバールームと後部をバルクヘッドで仕切ることもあるので、ウインドウが有ったとしても、後方視界はあてにできないのがラリー車だからだ。


 
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アクシデント発生の際の操作方法も伝授される。後続のクルマにその状態が伝達される仕組みを解説。救援要請のケースだ。


 
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ロードブックの読み方。方位編。ロードブックには方位を360度の角度で表記、北が0度、360度として、北に向かっているとしたら、アナタから見た45度や90度、あるいは315度はこの方角に進め、ということ、と解説。


 
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ウエイポイントとは。参加者がルートを正しく通っていること、あるいは意図された場所を通過したか、をモニターするGPS上のチェックポイント。ウエイポイントはその場所を中心に半径90メートルのエリア内を通過する事が求められる。


 
 その日の夕方、オープニングセレモニーがヘッドクオーターを置いたホテルで行われた。モロッコラリーの各カテゴリーで勝利を収めた歴代有名な選手達がステージ上で紹介された。中にはダカールウイナーとなったライダーやドライバー、WRCで活躍したスーパースターやレジェンドも含まれる。
 クロスカントリーラリーの魅力は、こうしたビッグネームとアマチュアが同じ釜のメシを食いながら時間を共有できることにもあると思う。世界の頂点を極めた人達と同じレースを走る。同じ道、同じビバーグ。同じ時間。彼らとともに参加するなんて、素敵ではないか。

KTMにハスクが加わり、
ラリーでの存在感はピカイチ。

 今回、モロッコラリーには、KTM+ハスクバーナのファクトリーチーム、 HRC、ヤマハ、シェルコ、ヒーロー(インド)などの有力チームに加え、フランスを中心に多くのプライベーターも参加している。二輪、ATV(QUADと呼ばれ、低圧タイヤを履き、バイクのように跨がるスタイルでドライビングするオール・テレーン・ビークル)合わせて71台が参加した。その多くがプライベーターである。 
 
 エントリーリストに参加車両のメーカーが記載されているものをカウントすると、二輪ではKTMが32台と多数を占める。ヤマハが13台でそれに続き、ホンダは6台、ハスクバーナが5台、シェルコが4台等となっている。ファクトリーチームを含めた数なので、連綿と市販車を販売し続け、ラリースポーツに貢献しているKTMはプライベーターからの信頼も厚い。優秀な市販ラリーバイクとして高く評価されている。
 
 フランスを中心にキットパーツやコンプリートが多いヤマハ系が多いのはさすが。ヤマハのラリーでのプレゼンスは今も強いのだ。ホンダが市販予定とするラリー用CRF450RALLYも早期に実現して欲しいところ。メーカー同士の思惑が絡むワークスチームの勝負も大事だが、ラリーカルチャーを担うプライベーターにとって、KTM以外のチョイスが加わるのは好ましいコトだし、ラリーの勝負は、ラリーカルチャーにどれだけメーカーが寄与するか、という部分に本当の勝負が掛かっているように思う。つまり、アマチュアへのサポートだ。そこに市販ラリーマシンという部分は大きいし、メジャーなラリーにサポートを出すことも同じように有益だろう。
 
 今年のモロッコラリーで、CRF450Xをモディファイして参加する熱心なホンダファンが2台いた。が、HRCのワークスマシンをのぞけば、プライベーターがホンダを選んだのはたった2台のみ。残念ながらこのシェアの低さが今のホンダが持っているラリー界における実力だと僕は思う。ガンバレ、ホンダ!

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スポーツコンプレックスにある巨大なパーキングロットがラリーのサービスパークに。こちらは新型を投入したKTMファクトリー。フレームだけオレンジ。ボディーは黒。スポンサーロゴもモノクロで統一されていた。MotoGPのプレシーズンテスト感をグッと引き出していた。フレーム、スイングアームのデザインが変更され、ボディーのスリムさもさらにシェイプされた。


 
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こちらはトヨタオートボデー、ティーム・ランド・クルーザーの一台。2台体制でエントリー。ダカールの常連チームも最終テストをモロッコで行う予定。1台は数年先を見据えてAT車でのエントリーだった。


 
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南アフリカに本拠を置くオーバードライブ社が制作するハイラックス。ハイラックスといっても、市販車と同じなのはライトとラジエターグリルぐらいか。スペースフレームにロングストロークのサスペンション、ボディーパネルもファスナー留め、という完璧なラリースペシャル。ラリー中のパンクやスタックに備え、内蔵ジャッキシャフトも備え、スイッチ一つで車体が持ち上がる。


 
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四輪のオープンクラスにエントリーしたチーム・マンテのクルマ。改造範囲のあえて広いクラスにエントリー。ラリー中、ドライブシャフトのトラブルに泣かされる。アジアンクロスカントリーラリーからモロッコラリーにスイッチ。サポートカーと2台を日本からモロッコに送る。プライベーターながら、そうしたノウハウの蓄積があるチームだ。


 
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こちらはTeam HRCのサービスチーム。手前はリッキー・ブラベックの車両。アメリカ人の彼はデザートレースで速さを見せる。2013年にはファクトリーライダーとしてチームに携わったジョニー・キャンベルが主宰するチームで走っている。様子をみにジョニー・キャンベルもモロッコにやってきていた。


 
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Team HRCのチームフォト。今回、体調不良によりミカ・メッジはDNSだった。


 
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新型を投入したKTMに対し、HRCのマシン、CRF450RALLYは熟成を進め完成度を高めたもの。今年のクロスカントリーラリー選手権ではパウロ・ゴンサルベスがショーワの電子制御サスペンションを使用。その完成度にも満足している様子だった。


 
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エクゾースト系の形状も変更し、エンジンのパワーデリバリーをより理想的なものにしたという。450㏄という最大排気量が決まっているので、細かな諸元の煮つめがライダー達をリラックスさせながらハイペースを維持させる秘訣になるようだ。


 
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ステファン・ペテランセルが二輪時代に稼ぎ出した勝利数を持ち出すまでもなく、ラリーにおけるヤマハの存在感は大きい。ファクトリーチームとしてのポジションとしてはKTM、ホンダにつぐ位置だが、クレバーなレース運びがチームの持ち味。


 
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ヤマハのフロント回り。アマチュアの参考になるレイアウトともいえる造り。


 
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左からサム・サンダーランド、マティアス・ウォルクナー、アントン・メオ、ライア・サンツ、そしてルチアーノ・ベナビデスらをサポートするKTMファクトリーチームのテント。


 
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そしてKTMと兄弟車とも言えるハスクバーナではパブロ・クインタニラがサポートを走らせる。とにかく、ハスクバーナを含めたKTM軍団の強さは益々ラリー界を席巻しそうだ。


 
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ヘンク・ヘレガースが率いるHT ラリーレイド。2013年、ホンダがダカールに復帰した当時、そのチームマネージメントをしていた彼のチームは、現在ハスクバーナに軸足を置き、プライベーターを中心にラリーサポートをする言わばサテライトチーム。本拠のオランダをベースに活動。アフリカ諸国で行われるラリーの主催者の多くがヨーロッパであることから、こうしたラリーサポートをビジネスとするプロ集団を見つけることは難しく無い。


 
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ラリーな旅を味わうスポーツツーリング。それがモロッコラリーのレイドクラス。450ラリーレプリカからAfrica Twinまでエントラントは「コレで走る」と決めた車両でエントリー。先導付きのガイドツーリングながら、ラリーに近いルートをトレース。


 
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赤いFJクルーザーは日本から参加している濱口敬子のクルマ。イタリア人ナビとともに参加。ラリー歴10年になる経験豊富なアマチュアだ。隣のいすゞはラリーのメンテナンスを頼んでいるチームの一台。双子の兄弟がドライバー、ナビを務める。


 
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ロシアから来たプレス。ミニで参加しているチームを追う。ミニといってもサイズはこんなにデカイのだ。


 
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そのラリー用のミニがミニに見えるほどデカイのがプジョー。後輪駆動のバギーは二輪駆動ならではのおおらかなルールの中で車作りがされている。広いトレッド、大径のタイヤと走行中にも空気圧を調整できる装置、コクピットはラリー専用の2シーター仕様。とにかく凄いのだ。プロの仕事場に座るのはセバスチャン・ローブ、カルロス・サインツらこれまたビッグネーム。ダカールではステファン・ペテランセル、シリル・デプレら元二輪王者コンビも加わる……。


 
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フランス、シェルコのラリーファクトリーも常連。23番の横に立つのはエースのホワン・ペデレロ。元KTMファクトリーのライダーだ。


 
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シェルコのナビタワーはプレートを組み合わせたプリミティブなもの。


 
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KTMイタリーからエントリーのニコラ・デュット。下肢障害を持つ車いすライダーだった。450EXCを自分用に改造してエントリー。転倒に備えライダーの足を保護するケージ、シフトもアクチュエーターで変速できるようにシンプルに改造されていた。ライダーをサポートするバックレストを装備。見事完走していた。サポートライダーと一緒だったとは言え、凄い偉業に思えた。


 

ステージ0 スーパーSS。
ドラマは始まった。

 10月5日、ラリー初日はフェズ周辺を回るセレモニアルステージが敢行される。6日にはエルフードに移動し、それから最終日まで5つのステージをエルフードベースに行うのだ。

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ショートステージが行われた5日。フィニッシュから1キロほどコースに入った場所の風景。


 
 5日のスーパーSSの距離は12キロほど。丘陵地帯を縫うように設定されたルートはグラベルの固い道だ。時折、地割れのような危険な箇所もあるが、ダートロードを使ったハイスピードSSの様相である。翌日のスタート順位を決めるステージであり、今年、雨の影響が懸念されるとの情報もあり、特にファクトリーライダー達はアタックの手を緩めない
 
 この日、トップリザルトだったのは、KTMファクトリーのアントン・メオ。タイムは8分19秒。テールエンダーのライダーでも17分8秒。僅かな距離の中だけにタイム差は少ないが、この日の戦略はその後どう出るのだろうか。
 ラリーでは、その日のスペシャルステージのタイムが翌日のスタート順を決めることになる。例えば、初日は短くても、5つあるステージのどこが長く、どんな路面状況か。それらは経験豊富なチームならそれらを予測し、コマ図をスタート地点から辿り、Google Earthなどで前日のうちに路面状況、勝負どころを見極めるストラテジーを造るスタッフが居るとも聞く。
 砂丘の多いステージでは最初に通るライダーはナビゲーションを確実にしないとならないが、2番手、3番手のライダーとなるほど、前走車の轍が残るので、ナビゲーションは確認程度で、ハイペースに集中しやすい……、とういこともある。

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初日はゼッケン順にスタート。飛ばし屋の彼らしいアグレッシブな走りを見せた。ニューマシンの完成度とスピードも高そうだ。

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サム・サンダーランドと彼のニューマシン。


 
 前日のスペシャルステージの着順どおりにスタートをする。例えば、ライダーとバイクの強みを最大限発揮したとあるステージで2位に15分のタイム差を稼いだとする。残りのステージをライバルとの時間差をマネージメントしながらステージ2位以降で終えれば、ナビゲーションリスクをおさえながら総合では首位を維持できることになる……。
 
 現実には一つのステージで15分もの差を稼ぎ出すのは簡単ではないし、時間のマネージメントも、トップ15のライダーはスタート時間が3分毎と決まっているので、ステージ中、どれぐらい差がついているのかは計算しにくい。
 
 アマチュアにはあまり関係がないが、トップグループはいろいろ戦略が大変なのだ。
 
 ラリー一行はステージ0を終え、フェズの町に戻ったライダー達は、明日に控えた800キロ超のステージに備え準備に余念がない。ラリーが本格的に始まるのだ。

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パウロ・ゴンサルベスはこの日、14位。とはいえ、トップとの差は1分1秒。


 

エルフードへ。

 今年のモロッコラリーは2日目以降エルフードをベースに行われる。選手達は基本的に同じサービスパークにもどってくるため、サポート隊は移動がない。
 
 367キロのスペシャルステージの前後に214キロ+246キロのリエゾンで繋ぐステージ1。それは827キロと、今年のモロッコラリーでの「ロンゲスト・デイ」となる。
 
 長いステージを終えた選手は翌日に向けた準備に入る。ファクトリーライダーはビバークに戻ると、チームと簡単なミーティングを済ませその後はホテルでしっかりと休む。プライベーターでもラリーサービスを使い、メカニックがメンテナンスをする場合もあれば、自身で全部をこなすエントラントもいる。
 ラリーの真髄は一人で全てをこなすこと。「憧れた昔のダカールラリーがそうだったから。」と笑顔で語る強者もいる。
 ラリーの深みはこの辺にもあって、メンテナンスを自身でこなす場合、時間を整備に回せば休む時間が少なくなる。クレバーでダメージの少ない走りに徹することが大切だ。でも、アベレージをあまり落とし過ぎると走行時間が伸び、その分疲労が蓄積する。良いペースをマネージする。プライベーターのラリーはその辺のさじ加減が面白いのだ。
 

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水の流れで出来たと思われるクラックを巧くさけながら攻めるプジョー。ディーゼルエンジン搭載ながら、音は静かだし、速いし不思議なマシンだった。


 
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車検の時はあれほど爆音に聞こえた排気音も、風景と青空に吸い込まれるように消えていくのが印象的だった。


 

安全には厳格なラリー。
まるで、インスペクターが同乗?!

 現在のラリーは、スペシャルステージの中でも、チェックポイントの前後や、人家や集落に近い場所を通過する場合、制限速度が設けられ守ることがルール化されている。こっそり時短を試みようにも、きっちりと監視されているのだ。選手達の移動はマシンに装備されたGPSにより管理される。フィニッシュをした後、毎日走行ログをチェックされ、制限速度の該当区間でのスピード違反が見つかれば走行時間にペナルティータイムが加算される。
 
 これは特に移動区間であるリエゾンでも制限速度厳守が決められている。
 守るからには、ちゃんと余裕をもってライダー/ドライバーに制限速度近し、を知らせるシステムとなっているのだ。搭載されたGPSは移動速度を速度計として知らせるのはもちろん、制限速度に到達する5キロ手前からワーニング音を出す。ライダーはハンドル周辺に取りつけられた電子式のホーンによりそれを知る。
 30年前、リエゾンをかっ飛ばしてビバークに戻るのに、大排気量のバイクは向いている、という考え方だったが今はそうはいかない。一般道でラリーの参加者達が一般車に追い抜かれるのは珍しくないのはそのためだ。
 

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グループで移動するレイドクラス。ステージ1のルートを走行開始した直後。


 
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まるで水しぶきのように埃を舞上げて走り去るラリー車。このちょっと古いX5を走らせるのはハンディキャップドライバーだった。


 
 ステージ1の日、二輪、四輪のスペシャルステージが異なり、僕の乗ったプレスカーは四輪のルートに入っていた。
 
 そこは、スタートから5キロほどコースに入った場所で枯れ川(ワジ)を越え、いくつもの分岐を辿って行ったポイントだった。スペシャルステージのスタート前なので走行痕がなくプレスカーに装備されたトリップメーターとルートブックを頼りに道を探すのが難しい。短い距離で頻繁な分岐、曲がり角の連続でややこしい。コチラは写真ポイントを探しながらゆったり走っていてそれだ。これはレーシングスピードで走ったら簡単にミスコースしそうだ。コースディレクターは、道、というより、大地についた薄い轍を選んでルートを設定したようだ。
 
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カミオンクラスが通ると、その迫力と埃の量はハンパない。気が付けば、青かった空が舞い上がった埃ですっかりアンバーフィルターをかけたように見える。


 
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SSVクラスに参加する車両は排気量1000㏄、CVTミッションなどを積んだものが主流で、ドライバー、ナビの2名乗車ながらなかなかのスピードを持つ。


 
 撮影ポイントを探し、SSをスタートしたクルマを待つ。自分達が辿った道は正しいルートだが、待っていると競技車の2割は全く目の前を通らず、遠くの場所を高らかに排気音を響かせ走り去って行く。しかし、ミスコースしても、正しいルートを走っている先行車を見つけて追いつける道がいくつもある。これでGPSを使ったウエイポイントなどが打たれていたら、ミスコースにすら気付かずペナルティーを受ける。選手達を翻弄する罠が多そうなのだ。
 
 撮影を終え僕達も移動開始。ビバークまでは400キロ近くある。(続く)