2017年12月21日

MBHCC C5 オオカミ男のひとりごと

第53回 放狼記 序章

 
 皆さん、お久しぶりです。
 まずは丸一年近くもこのコーナーをほったらかしにしていた事をお詫びしたいと思う。
 でだ・・・・この一年、オレが何をしていたかをこれから順を追って話していく事にしよう。

 3年ほどの間、島根、横浜、広島、岩国、長崎、姫路とジプシーな生活を送っていたオレだがどこへ行っても勝手知った道があり見慣れた景色があり友人もいた。つまりどこへ行っても居心地がいいのだ。その反面、何かが欠けているような違和感も感じていた。
 そして今年の正月はいつものように高知県の桂浜で仲間と共にのんびりと年越しをして初日の出を眺めながら今年は何を目標にしようか漠然と考えてみた。
 実はこの時点でオレはこの一年は少し長めの旅に出てみようかと思っていた。問題はどんな感じで放浪するかだ。これまでに自ら“全国ツアー”などと言いながら日本一周のような事を3回ほどやった事がある。それを踏まえたうえで各都道府県の行きたい所をリストアップしてもう一回やってみようかと。そして具体的にそれを考え始めた途端にある問題に気付いた。

 特に行ってみたいと思えるような所が・・・・今のオレにはない。
 もちろん細かいところまで言ってしまえばまだ行った事がない所だってある。それに今まで行った事のある場所であっても以前とは違っていたりもするだろう。しかし・・・ドキドキしないのだ。ワクワクしないのですよ。オレが欠けていると感じていた何か。そう、このドキドキ、ワクワクする感じが無いのだ。初めてバイクに乗った時のような、お粗末な装備で初めてキャンプをした時のようなあの感じが決定的に欠けている。
 若い頃というのは当然、知らない事、未経験な事ばかりでそのどれもが初。どんな事に対しても良い悪いは別にしてドキドキしたものである。その経験値がある一定水準に達したあたりで自分にとって居心地の良い場所、悪い場所というものを選別する。そして当然のように居心地の良い場所を選び、そこに留まり、動かなくなる。
 ある年齢を超えると一般的な数値を基準にした先入観で己の限界を決めてしまうのもそれに一役買ってしまったりする。
 やはりあの感じを得るには本当の意味で初というものを選択するしかないのかもしれない。となると・・・オレにとってあのドキドキする緊張感やワクワクする期待感が得られる場所はもう日本にはないように思える。この時、海外という選択肢がオレの頭にリアルに浮かんできた。もちろんこれまでにも考えた事はある。人に聞かれた事もある。「海外へは行かないんですか?」と。その度に何らかしらの言い訳をしながら避けてきたように思う。理由はやはりこの日本の居心地が良いからだ。だが・・・もう言い訳はできまい。するつもりもない。今さらながらに何もかも初めてのあの感覚を味わいたい。
 仕方ない。ここらで一度、日本を飛び出してみるとしよう。そう決意した直後、なんだかドキドキ、ワクワクしてきた。
 さてそうなると問題はどこへ行くかだ。海外なのでどこを選んだとしてもオレにとっては初となる。だからと言ってどこでも適当にというわけにはいかない。なんせお金も時間もかかるのだ。せっかく行くのならとびっきりの所へ行きたい。もちろんバイクで走るという事も考えてはいるがそれにはなるべく拘らないようにするつもりだ。とは言っても何もかもが初めてで何から手を付けていいやらまったくわからない。こんな時はツアー会社に申し込んで任せるのが一番である。オレはバイク関連のツアーを専門に扱っている道祖神のホームページへアクセスした。道祖神は海外ツーリングの企画などをメインに手掛けていてそのラインナップも豊富である。その一つ一つをじっくりと見ていったのだがまぁどれもこれも魅力的なものばかりだ。アメリカ大陸横断からモンゴルの大平原ツーリングなどなど。その中でひと際オレの好奇心をそそるものが目にとまった。

“2017年マン島TTレース観戦ツアー”

 マン島TT。
 世界最古にして世界一危険と言われる公道レース。100年を超える歴史の中で毎年のように死者を出しこれまでに300人近いライダーがこの島でその命を散らしてきた。にも拘らずその事が問題視されることもなく 今なお続く超イカれたバイクイベント。
 クニさん(高橋国光氏)を招いて生月島で行われているアイル・オブ・生月はこのマン島をモデルにしたイベントであるし、現在のオレの愛機であるRCBが唯一勝てなかったレースがこのマン島TTである。なんだか奇妙な因縁のようなものを感じてしまう。そして何よりも一度はこの狂った公道レースを生で観てみたい。
 行き先は決まった。初の海外、オレはマン島へ行く。
(つづく)


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳・職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ750?。


[第52回へ][第53回][](※PC版に移動します)
[オオカミ男の一人ごとバックナンバー目次へ](※PC版に移動します)
[バックナンバー目次へ](※PC版に移動します)