2017年12月13日
YAMAHA XSR700 ABS
『これぞ2018年の旬 スゴすぎない“スポーツヘリテージ”』
■試乗&文:中村浩史 ■撮影:赤松 孝
■協力:ヤマハ https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/
XSR700/900のことを
ヤマハは「スポーツヘリテージ」と呼ぶ。
ヘリテージ=伝統、継承、そのスポーツバイク。
果たして私は、このXSRに
ヤマハスポーツ650XS1や、SRX6の姿を見た。
ここ数年のスポーツバイクといえば、YZF-R1のスーパースポーツ、MT-10なスーパーネイキッド、XJR1300的ネイキッド、BOLTみたいなクルーザー、大きく分けて、そんなところ。あとはオフロードモデルとかスクーターとかね。
だから、2014年のMT-09発売は衝撃的だった。最高出力200psのスーパースポーツにも、最高速度300km/hにも、6軸IMU搭載のフル電子制御にも驚かなくなってしまったすれっからしに、久しぶりに驚きの声をあげさせてくれた、ヤマハの新世代スポーツバイクだ。
MT-09は、まずもって完全新設計の車体とエンジンを引っさげて登場してきた。しかも、水冷3気筒、それにエンジンハンガー部の大きいアルミダイキャストフレームという、「今まであまり見たことがない」パッケージだった。先代モデルやライバルが思い当たらない、どのカテゴリーに入れたらいいか迷う、という意味で新しい存在だったのだ。
まず「新しいスポーツバイクを」というテーマで開発がスタートする時、どうしたってそこには、ライバルモデルである××を超えるようなとか、先代モデルの〇〇をゼロから見直して、なんて基準が存在する。マーケットinとかプロダクトoutとか言うけれど、つまりはそういうこと。これをヤマハは、徹底的に「プロダクトout」でモノづくりを進めた。
「市場を見て、このゾーンにはウチの商品がないから作ろう、じゃダメなんです。僕らはヤマハとして、どういうものを作りたいのか、そういう原点の話から始まった」とは、MT-09デビューのときにお話を伺った、ヤマハ・モーターサイクル事業本部、執行役員の三輪邦彦さん。三輪さんは初代YZF-R1の開発責任者としても知られている方ですね。
だからMT-09は、これまで前例のないエンジンで、車体で、その結果の走りのテイストだった。
MT-07もそうだ。MT-09でびっくりしていたら、そのわずか数か月後に、今度は新設計の並列2気筒エンジンをパイプフレームに搭載してデビューしたMT-07。09が出て数か月、営業的には09が行き渡って数年後に07、なんて方がイイに決まってるんだけれど、そこはヤマハのバカマジメさというか(笑)、直球の情熱で、「近似モデルの食い合い」ってタブーを自ら犯してしまった。
そういえばこの頃は、長くヒット作のなかったヤマハのビッグバイククラスに、久々にBOLTが登場して、おぉこれはイイぞ、って頃。BOLTがセールスを伸ばしている頃、MTを2台も登場させちゃうのがヤマハの直球なのだ。新しいヤマハの空冷Vツイン(BOLTのことです)いいよな、って言っていたら、すごいなヤマハの3気筒(MT-09)、って言っているうちに2気筒(MT-07)もすごいよね、ってことになったってわけ。
MT-07もMT-09と同じ、新しいスポーツバイクだった。もちろん、09と07は発売時期や、MTというネーミングも同じだから兄弟モデルって風に取られがちなんだけれど、そこはまったく違う。エンジンも車体も違えば、狙っている方向もポジショニングも違う。ものすごくざっくり言えば、3気筒の09はモタード系のヤンチャなスポーツバイクで、2気筒の07はもっとオーソドックスな「スゴすぎない好ましい」スポーツバイク。
そしてXSRシリーズは、そのMT、2モデルを「ヘリテージスポーツ」に仕立て上げた。ここでも09と07は明確に差がつけられていて、MT-09をベースとしたXSR900は、エンジン、足回りとも専用のセッティングが施されていて、MT-09の別バージョン的な存在に仕上がっている。対してXSR700は、MT-07のエンジン、車体まわりをベースとして、主にスタイリングチューンを施されたモデル。変更点といえば、シートがやや高くなり、ハンドルも高く手前に引かれている程度。だから、MT-09→XSR900の変更と乗り味の違いよりも、MT-07→XSR700の変更と乗り味の違いは少なめだ。
乗り始めると、XSRはとにかく軽い。これはMT-07でも感じることだけれど、車体がスリムで軽いから、ちょっと600ccというか400ccクラスっぽい。ちなみに車両重量はCB400Super Fourより軽く、SR400より重いくらい。またがってみると、シート高が上がっているのがわかるけれど、シート幅もスリムだから、シート高の数字よりは足つき性は悪くない。身長178cmの僕で、かかとベッタリだ。
エンジンがかかっていても静かすぎる状態からクラッチをつなぐと、XSR700は滑るようにスーッと走り出す。MT-09/XSR900の「ドン!」と出る力強さはなく、本当にするすると走り出す。
パワーフィーリングもエンジンのピックアップもスロットルレスポンスも軽い。XSR700とMT-07に搭載されている水冷並列2気筒(=パラツイン)は270度クランクを採用していて、それらしいフィーリングがある。つまり、不等間隔爆発でパルスが粒だっていて、ピックアップが軽い。これがYZF-R1でヤマハがモノにしたクロスプレーンクランクだ。
パラツインというイメージなドコドコ感もなく、アクセルに直結したような回転上昇。これは、クランク、つまりフライホイールマスが軽いんだろうなぁ、と思う。もう少しイナーシャにウェイトをつけると、もっとドロドロ感というか、粘り感というか、テイスティなパワーフィーリングになるはずだからね。
けれどヤマハは、XSR700にテイスティさを求めなかった。だからXSR700はアイドリングのすぐ上の回転域からスーッと走る。感覚的に言うと、XSR900はこの回転域でギュイーン、とくる。この差なのだ。
ストリートで使う回転域は3000rpmも回っていれば十分。ミッションレシオもうまく切ってあるのか、街中ではミッションを5速くらいに放り込んで、あとはスロットルの開け閉めで静かにスイスイと走れる。幅の広いエンジンだなぁ、と思う。トルクがあって、ありすぎなくて、高回転に上手くつながっていく感じなのだ。エンジン形式も排気量も違うけれど、僕はドゥカティ・スクランブラーのエンジンフィーリングを思い出したりもしたのだ。一緒に試乗した先輩は「ン? そうかぁ?」って言っていたけれど(笑)。
組み合わされる車体もまた軽いのひとことで、意のままに振り回せるというか、こういうところも本当に400ccクラス並みなのだ。ポジションやエンジン特性、そしてハンドリングの軽さの感じ、どこかで知ってるな、と思ったら、それが30年も前のSRX6! しっかり手応えがあって、重さを感じない、意外とヤマハのエンジニアも、SRXみたいなハンドリングを意識してたりして。そりゃないか。でも、こういうハンドリングのバイクって今は少なく、初心者からベテランまで怖くなく、物足りなくもならないもので、700ccの2気筒という設定は、こういうところで生きるのだなぁ。
高速道路に乗り入れると、この軽さからどっしりとした安定感も味わえて、直進安定性はピシッとして、レーンチェンジは軽い。トップギア6速で100km/hで走ると4000rpmほど。この時、XSRはエンジンの振動も感じさせず、サスペンションがキレイに路面をトレースして、快適この上ない。これはMT-07でも感じたことだ。
ワインディングに踏み入れると、さらに軽量の恩恵を感じることになる。軽い車体の鋭い加速があって、軽い車体の鋭いブレーキングが最大の武器だ。サスペンションは、ストロークが軽く、よく動くタイプで、車体のピッチング(前後の荷重移動です)を利用して、フロントタイヤがグリグリッと路面を掘り込むようなコーナリングが可能だ。そこで立ち上がりのスロットルオンでは、リアタイヤがきちんと路面を蹴っ飛ばすのを感じられて、次のストレートへつながっていく。
ハンドリングの印象はXSR900ともよく似ているが、決定的に違うのはそのパワー感で、XSR700は900ではなかなか難しいコーナー出口での思い切ったスロットルオンが可能なこと。900でこれをやると、シーンによってはリアタイヤがズルッと来るから、それに対するトラクションコントロールが装着されている。900はスゴい、700はスゴくない、けれど両者とも気持ちがいい――それがXSRだってことなのだろう。
XSR700は、今までのスポーツバイクとは作り方も意識も一変させているのだろう。大馬力で、タイヤのエッジまで使って、こわごわとパワーを掛けていくスーパースポーツを、小さなバンク角でしゅーんとかわしていくような、新しいスポーツ。持て余さない、スゴ過ぎない、だから楽しい、気持ちいい。
僕はこのXSR700をかなり気に入ってしまった。いや、さかのぼってMT-07の良さも再確認したというか、いいなぁ、これ。スポーツバイクの楽しさを一変させる、そんな力を持ったオートバイだと思うのだ。
(試乗・文:中村浩史)
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