2017年12月1日
BMW R nine T URBAN G/S 試乗 『シンプルなロードスポーツは 古きよきOHVボクサーを思い出させる』
■試乗&文:中村浩史 ■撮影:島村栄二
■協力:BMW Motorrad Japan http://www.bmw-motorrad.jp/
やっぱりBMWはこうでなくちゃな、って思う。
それがR nine T URBAN G/S。
新しいものを否定するつもりはまったくないけれど
古いものがなくなっていくのは寂しい。
特にBMWはそうであってほしい、と思うのは
私だけではないだろう、と思うのです。
Rナインティシリーズは2013年のEICMA(ミラノショー)でデビューした、BMWのネオ・クラシックシリーズ。BMWはヘリテイジ、ってカテゴリーで呼んでいるけれど、ちょっと昔っぽいボクサー、そしてカスタムベースにもどうですか、というシリーズだ。
その前に、いまのBMWの事情を。BMWといえば、私くらいの年齢のバイク乗りは、高嶺の花というかオトナのオートバイというか、そういう畏怖にも近い、リスペクトに似た印象を持つブランドだろうと思う。国産のオートバイがどんどん4気筒化、高性能化に走っても、頑なに独自の空冷水平対向2気筒のOHVエンジン(=ピストンが向かい合わせに上下運動をするので、ボクシングのパンチを打ち合っているよう、ってボクサーエンジンと呼ばれている)を捨てず、1983年にようやく水冷化を果たして4気筒エンジン生産をスタート。なのにそれは縦置き並列4気筒レイアウトで、ここでもまた独自性を打ち出して見せた、そんなブランドなのだ。
国産モデルとは明確に違う個性――それが変わってきたな、と思ったのが2009年だった。それ以前、1996年には、一般的な、つまりは国産モデルと同じ構成の横置き並列4気筒エンジンを搭載するK1200を発表したけれど、’09年に発表したモデルは、もっと国産モデルに寄ったスーパースポーツ、S1000RR。それは、アルミツインスパーフレームに1000ccの並列4気筒エンジンを搭載した、世界スーパーバイク選手権のホモロゲーションモデルだったのだ。
S1000RR自体は、国産スーパースポーツと肩を並べるような、さらに一歩も二歩も先を行くようなモデルではあったけれど、BMWの独自性が失われていたのは事実だ。いわゆる“昔からのBMWファン”は、少なからず失望しただろう。あんなのベンベじゃねぇよ(=BMWのこと、ベンベって呼ぶオールドファンは多いよね)、そんなネガティブな意見を聞いたのは一度や二度じゃなかったもの。
けれどS1000RRは、新しいBMWファンを増やしてみせた。今ではスーパースポーツモデルを選ぶときに、国産モデル、ドゥカティ・スーパーバイクと完全に同じ土俵に乗ってくるもので、このS1000RRは新しいBMWに向かって舵をきった、そんなBMWのターニングポイントだったのだろう。
2017年。BMWのラインアップは、大きくスポーツ/ツアー/ロードスター/アドベンチャー/アーバンモビリティ、そしてヘリテイジに分かれている。スクーターカテゴリーのアーバンモビリティをのぞけば、エンジン系統で分けると、S1000系の並列4気筒、R1200系の水冷ボクサー、K1600系の6気筒、Fシリーズの水冷並列ツイン、G310系の水冷シングル、そしてヘリテイジ系の空冷ボクサーだ。昔のことばっかりで申し訳ない、あのBMWが今や、単気筒、2気筒、4気筒、6気筒エンジンをラインアップするメーカーになっているのだ。少なくとも80年代には、空冷ボクサーとK100/75の水冷4気筒/3気筒しかラインアップしていなかったはず。それがいいとか悪いではなく、そういう時代なのだ。
古き良きBMWにもっとも近いイメージのR1200R/RSだって、最新のそれはものすごく俊敏で、軽快なエンジンがひゅんひゅん回る、ライディングモードもトラクションコントロールもついた、ちょっとびっくりするくらい速いモデルだ。ドドドドド、というよりは、トトトトトト、とかルルルルル、ってエンジンフィーリング。わかる人はわかってくれるかな。
そこでRナインティシリーズだ。このヘリテイジシリーズに搭載されるのは空冷ボクサーエンジンで、ごくごくシンプルな構成でパッケージングされている。Rナインティ誕生の背景に「カスタムバイクへのベースモデル」という側面があるから、それも当然。けれど、それがスゴくいい。Rナインティシリーズ初のモデル、Rナインティに触れた時、乗った時に「あ、すごくBMWっぽいな」と勝手に思ってしまった。この気持ち、きっと共有できると思う。
Rナインティ-アーバンGSは、Rナインティシリーズの最新作。ロードスターのRナインティ、そのベーシックグレードのRナインティ・ピュア、カフェレーサースタイルのRナインティ・レーサー、スクランブラースタイルのRナインティ・スクランブラーに続くラインアップで、BMWのGSシリーズをRナインティシリーズで担うラインアップ。それも、現代のGSではなく、旧OHVボクサー系の初期GS――R100GSやR80GSを彷彿とさせるモデルに仕上がっている。
初期のGSといえば、1980年誕生のR80GSに端を発した、「アドベンチャー」カテゴリーを創出した記念碑的モデル。ビッグバイク、しかもBMWなのに、オフロード走行までも想定したモデルで、オフロードはもちろん、ロングツーリングバイク、さらに軽量に仕上げられていたことで、ストリートバイクとしても人気があったのを覚えている。OHVボクサー最後期に発売されたR80GS-Basicは、店頭在庫が取り合いになるほどの人気だったっけ。
そのR80GSから現在まで、R100、R1100、R1150、そして現行のR1200へと変化しつつ、GSシリーズはBMWの人気モデルとして販売が続けられている。今や単一機種では、世界ナンバー1の人気モデル。けれど、R80の頃に出力50PS/車重186kgだったボディは現行R1200になって出力125PS/車重252kgへ。いまやGSとは、乗る人を選ぶ、憧れの重戦車なのだ。
だから、アーバンGSが際立っていた。もちろん、GSの本来の用途であるはずの、オフロードをずっと走る、って用途で試乗はしていないけれど、そんな用途、どこでできるの(笑)。ツーリングして、ちょっとわき道のダートも走ってみる――そんな「普通の」ツーリングで、アーバンGSが好ましかったのだ。
エンジンはRナインティシリーズ共通のもので、空冷ボクサーとはいえ、十分にパワフルで、低回転から力強い。アクセルレスポンスが鋭く、アーバンGSの、ちょっとクラシックなスタイリングとはマッチしない強さだ。
そして、その回転フィーリングが気持ちよくて、現行R1200シリーズの水冷ボクサーよりももっとドコドコ感があって、それでいて重ったるくない。高回転まで引っ張ってみると、水冷ボクサーとそん色ない力強さを発揮してくれて、決してのんびりドコドコだけのバイクではないのがよくわかる。
さらに低速で走っている時には、1速と2速の排気音がハッキリ耳に入って来て、これも心地いいのだ。発進から3000rpmあたりまでの排気音、パルスを力強く感じるのは、水冷ボクサーよりも、むしろRナインティの方。もちろん水冷ボクサー系は、振動をライダーに伝えない工夫が上手くいっているのだけれど、Rナインティをうるさいとまで感じることは皆無だった。
車体は、決して軽量ではないけれど、水冷ボクサーよりもコンパクトで、これもかつてのOHVボクサーを感じさせるポイント。初期のR80GSはかなりスリムだったけれど、このRナインティはスリムではないが、ボリュームがありながら、コンパクトに仕上がっている。この重量も、きちんと高速巡航の安定感につながっているところがBMWらしい。コンパクトなサイズ、ボクサーならではの低重心が、まさに「あの頃」のOHVボクサーを思わせてくれるのだ。
(試乗・文:中村浩史)
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