2017年11月8日
第45回東京モーターショーで四輪メーカーの出展内容を切って捨てた井元康一郎さん、しかし二輪エリアには“輝き”を見出していた
願望こそが世の中を面白くする。
■文:井元康一郎 ■写真:松川 忍
『手抜きだらけの東京モーターショー、楽しませる気概はどこへ』と題する手記をダイヤモンド・オンラインで発表し(http://diamond.jp/articles/-/147210 )、第45回東京モーターショーに対する厳しい見解が話題を呼んだジャーナリストの井元康一郎氏。
そちらでは触れていなかったが、一方で彼は「二輪エリアは面白かった!」とも言っていたと小耳にはさんだ。こうなると、どこが面白かったのか? 四輪メーカーとの違いを感じたのはどのようなところなのか? を聞いてみたくなる。そこで依頼したところ、快く特別寄稿に応じてくれた。井元氏の目に映った二輪エリアの面白さとは?
2017年11月5日に閉幕した第45回東京モーターショー。今回のショーは“難しい”と当初から言われてきた。海外勢の相次ぐ撤退や国産メーカーの予算縮小に加え、電気自動車(EV)、自動運転、コネクテッド(クルマのネットワーク端末化)などのトレンドを追うことも求められる。
果たして会場である東京ビッグサイトを巡ってみると、各社ともさまざまな工夫を凝らしてはいたものの、往年のように来場者を大いにエキサイトさせるような展示はすっかり影をひそめてしまっていた。
そんな何とも地味なモーターショー会場のなかで、俄然輝きを放っていたのが二輪車メーカーの集まる東7・8ホールだった。とくに二輪のみを展示しているヤマハ発動機と川崎重工業はブースデザイン、出品モデル、演出やステージパフォーマンスともヴィヴィッド。来場者の笑顔という点では二輪、四輪を通じたショー全体のツートップと言っていいほどであった。
東京モーターショーは従来から、四輪が主役で二輪の展示規模は大きくはない。そのこと自体は今回も変わらない。今回も国産バイクメーカーはショー会場である東京ビッグサイトの入り口から一番遠い東7・8ホールに集められていた。にもかかわらず、二輪のほうがずっと楽しく、生き生きとしていたことは、四輪記者である筆者にとってもきわめて印象深いものがあった。
なぜクルマの展示はつまらなく、バイクの展示は面白かったのか。その大きな理由は、二輪メーカーが何よりもまず“楽しさ”を前面に押し出した出展をしていたということにあろう。
いちばんにぎやかだったのはヤマハブースだ(https://youtu.be/0r-Uv_laDVw )。コンセプトモデルや市販車までバイクを多数並べたのはもちろんだが、それだけでなく四輪車、自転車、また同源企業であるヤマハ楽器のエレキギターまで、実にバラエティに富んだ展示であった。
ブースのなかでとくに目立っていた展示は、青いピックアップトラックのコンセプトカー「クロスハブ コンセプト」。もともとクルマを作るだけのポテンシャルを持つ同社は前々回、前回も四輪車のコンセプトカーを出していたが、今回は前回のようなスポーツカーではなく、ピックアップトラックで攻めてきた。荷台に載せられていたのはオフロードバイクである。休日にバイクで走りに出かけるウェスタンスタイルだ。「こんなトラックにバイクを積んで走りに行く。素敵でしょう」という主張がダイレクトに伝わってくる。
二輪ロボットバイク「モトロイド」はライダーが乗っていないのにまるで高速で風を切るような颯爽としたスタイリング。市販を視野に入れていると思われる前2輪モデルの「ナイケン」は力強いフロントの2本並行フォークが格好良く、またがってみる人がひっきりなしだった。
カワサキは毎回展示を商品に絞り、爽快なツーリングをイメージさせるブースを構えることで知られているが、今回はメインコンテンツたるバイクがことさら受けていた(https://youtu.be/NBh14XaABPg )。「Z900RS」は燃料タンクを同社の古典デザインである2トーンカラーにしたのをはじめ、クロームめっきやステンレスの輝きなど、レトロモダンで攻めた商品。結局、格好いいものが欲しいのでしょうと言わんばかりだが、その直球勝負が来場者の心をつかんだようだった。
四輪車との同時展示であったスズキ、ホンダはそこまでの華やかさはないが、それぞれクルマに劣らず来場者で賑わっていた。スズキのMotoGP体験コーナーでは家族連れの来場者が多数見られ、子供たちが大喜びする様子が印象的だった(https://youtu.be/gC11JaVQ520 )。ホンダブースでファンが注目していたのはデカモンキーこと「モンキー125」(https://youtu.be/68UkZIgm0tU )。50ccモンキーは消えてもグローバルでみれば二輪需要は拡大中。そのコアである125ccに生まれ変わることで継続性は保てるということを示した格好だ。
これら、東京モーターショーにおけるバイクブースの盛り上がりは、決して市場が活気を帯びていることの証ではない。日本自動車工業会の統計によれば、2016年の販売台数はわずか33万8000台と、全盛期の10分の1にまで落ち込んだ。もはや市場としての体をなしていないと言ってもいいくらいだ。実はこのような二輪市場の衰退は日本に限ったことではなく、先進国市場はどこも似たようなものだ。
バイクメーカーはこれまで、二輪でも安全性は高い、環境にいいといった社会性を主張してきた。が、これは半分以上当たっていない。ライダーの身体がむき出しで安定性もクルマに比べると低いバイクが安全性の高い乗り物であるはずがないし、排出ガスにしてもクルマに比べれば決してクリーンではない。
加えて、今回の東京モーターショーでも大きなテーマとなった自動運転、コネクテッドなど、未来型の交通システムへの親和性となると、二輪車には分がない。とくに自動運転については、バイクをいくら自律走行可能にしたとしても、ライダーがハンドルを握らず、わき見をしてもいいようにはならない。それ以前に、自動で走るバイクに乗るなど、恐怖心が先に立って、到底できるものではないだろう。
先進国で社会の要請に応えるという大義名分を失いつつあるバイクメーカー。しかし、それが思わぬ好作用を生んだように思う。今の時代になぜ先進国向けにバイクを作るのか、なぜ先進国でバイクに乗るのか。残された答えはズバリ、「好きだから」だ。
二輪車メーカーとしてはもはや、先進国においてバイクは交通のマジョリティではなく趣味の乗り物と開き直るしかない状況なのだが、東京モーターショーの出展ではその開き直りがとても良い形で出た。社会正義より楽しさやスタイルといったユーザーの率直な願望を第一に考えた展示に徹し、つまらなくなったと言われる東京モーターショーの盛り立て役となったのだ。
この二輪ブースの華々しさは、衰退する東京モーターショーの今後のあり方に一石を投じるだけのパワーにもなり得る。もともと東京モーターショーは世界でも独自性の高いショーだった。業界人の交流がメインの純粋なビジネスショーでもなければ、商品の即売を行うユーザーショーでもない。クルマをコンテンツとして来場者を楽しませるエンタテインメントショーだった。
このところ、自動車業界はそのことをすっかり忘れていたようだ。展示ひとつ取ってもコネクテッド、カーシェア、自動運転、電動化など、社会から与えられた“宿題”に応えられる技術を持っているというアピールばかりを考えたものになっている。結果、いつの間にかユーザーの楽しさは二の次になっていた。
販売台数がクルマの10分の1にも満たないバイクのブースが楽しさで来場者を大いに惹きつけているのを目の当たりにして、「東京モーターショーが衰退しているのは何もクルマ離れなどの環境要因だけではない、四輪メーカーがショーマンシップを失って純粋に面白くなくなったからだろう。一から出直せ」と、四輪記者として四輪車メーカーに激を入れたくなった。願望こそが世の中を面白くする――二輪の展示からその当たり前のことをあらためて教えられた気がした。バイクはペーパー、普段は乗るのも取材するのももっぱら四輪という筆者にとって、今回の二輪車ブースはそれほどまでに印象深いものだったのだ。
井元康一郎(いもと こういちろう)
ジャーナリスト。1967年鹿児島生まれ。高校教員、娯楽誌、経済誌記者などを経て独立。自動車、資源・エネルギー、宇宙航空、自然科学、楽器、映画などの分野で取材活動を行っている。著書に「レクサス」(プレジデント社)などがある。
[第45回東京モーターショー2017レポートへ]