2017年10月24日
MBHCC E-3レースカメラマン楠堂の全日本ちょこちょこっと知っとこ
第40回 雨のもてぎ。日本人ライダーはかく闘えり
中上貴晶選手のMotoGPクラス昇格のニュース以降、日本GPは、いままでにないテンションに沸いていました。2014年の青山博一選手以降、日本人ライダーのフル参戦が途絶えており、日本人の優勝は2004年の玉田誠選手が最後になります。やはり最高峰で日本人に走っていてもらいたい! 応援したい! 今季はイギリスで優勝を含め4度の表彰台に立った中上選手の走りを見ようと、沢山のファンがもてぎに詰めかけました。マルケス選手やロッシ選手のファンの熱気! ウェットなのにそれを感じさせないGPライダーの走りは素晴らしく、また雨のなか沢山の旗を振っての応援は選手みんなの力になったのでは? と思います。ここでは日本人ライダーそれぞれの戦について記憶をたどってみたいと思います。
レースウィークに入ってからの木曜日お昼前、野左根選手は出場意思確認の電話を受けたとのこと。彼は2013年に全日本J-GP2クラスでチャンピオンを獲った後、Moto2参戦が予定されていたのですが、レースをサポートし続けてくれた父親が年末に急死してしまい、参戦を諦めたという、私たちも忘れられない出来事がありましたので、この度の参戦は、周りの人達にとっても感慨深いものでした。
もてぎではFP1から15位。FP2は13位、その後FP4でMotoGPマシンの手痛い洗礼を受けてしまいましたが、痛みをこらえてのQ1と、痛み止めをして走った朝のウォームアップでは9番手タイムでアピール。決勝は4ラップ目に転倒という結果に。「いつもだったら抑えきれていたかもしれません」と悔しそうに話していました。
世界耐久にレギュラー参戦し表彰台を獲得。全日本のエースとしても成長した今、ここまでのレース人生として「決して遠回りはしていないと思う」という野左根選手。「予選は1周するのがやっとでしたが、なんとか決勝への権利は得ました。決勝日が心配でしたが、チーム、ヤマハ、ドクターとも話し合って、局所麻酔をしてもらいました。手のしびれはあったのですが痛みはなくなり、これで決勝を走れると。決勝は痛みよりも雨量のほうが厳しかったですが、いつもならあの場面で立て直す挙動が取れたと思うのですが、自分の手を守るためにスリップダウンに持ち込んだところがあり、自分としては、『逃げのスリップダウン』をしてしまったことが悔しい。自分としては夢のような3日間でしたし、呼んでもらえたことは凄く嬉しかったです。要所要所ではいいところも見せられたのではないかと思います。チーム、ヤマハ、ポンシャラル監督にはほんとに感謝しているし、次の機会があればリベンジしたいと思っています。それまでにもっともっと修行して、自分の実力を試してみたい」
中須賀選手は、テストライダーとしての仕事をこなしながらの参戦。全て自分の思うようにはいかない中でのアタック。
「野左根は走るだけでいいけどオレはやることがある。傍から見たら同じヤマハだけどやってることは違う」と少し憤慨していましたが、野左根選手には頑張りをしっかり応援するお兄さん的目線です。
決勝をまとめたのは流石。スタートから「転倒に巻き込まれないように」とテストライダーの意識をもってひとりウォータースクリーンを逃れ大外を慎重に走り、ラップごとに前のライダーをパスして12位。
「テストしながら、その中でもベストを尽くさなきゃいけない。ましてや野左根が、調子よく走ってるのをみるのはそれは悔しいです。『決勝はみとけよ!』と」(一同笑)
その中須賀さん決勝後の第一声、『中須賀ここにあり!でしょ!』
「スタートはいい感じに出られたのですが、1コーナーでの転倒は嫌だったから引いて、そのあとは自分のリズムを刻みながら自分の走りをしてきました。苦しいウィークを過ごしていろんなテストをやりました。雨の中3日間しっかり走って、課題も見えた。そんな中でも結果もついてきた。決勝中もバイクの挙動を確かめながら、バトルもしっかり出来てきちんと結果を出せたことが一番の収穫です。苦しかったけどね。土曜日まで苦しんでいたので、この結果は上出来だと思います。MotoGPは、1人のライダーとしてもアピールしたい場所ですが、任務もあるので与えられた仕事をやりながら結果を出すことが大切。これを6年続けてきました。今後も続けるためにも、自分のレベルを下げないためにも、もちろん日本のファンも楽しみにしているレースだから、ひとつでもいい走りを見せるためにこれからも頑張りたい」
Moto2クラスは、来シーズンMotoGPクラスにステップアップする中上貴晶選手、長島哲太選手に加え、全日本からは2名のワイルドカードライダーが参戦。最終戦を待たずしてJ-GP2チャンピオンを決めた水野涼選手と、昨年のST600クラスチャンピオン榎戸育宏選手(現在J-GPクラスのランキング4位。最終戦は11月5日鈴鹿)の日本人4名が参戦。8耐参戦ライダーのドミニク・エガーター選手やマーセル・シュロッター選手、ハフィス・シャリーン選手など、チェックする選手が多いクラスだったように思う。
レースは、予選で劇的なポールを獲得した中上貴晶選手。スタートからトップに!
「ポールポジションを獲得できたので、できればドライでレースしたかったのですが、3日間通して決勝のコンディションが一番厳しかった。フリープラクティスで問題を抱えていたのはフロントだったのですが、決勝はリアタイヤのグリップに苦戦していました。自分にスピードがないのが分かっていたので、とにかく逃げるしかないなと思っていました。抜かれない事を重点において、ブレーキを頑張って走ったのですけど、かなりのプレッシャーでした。12周目までトップを維持できたのですが、そこからはタイヤのグリップがなくなってしまいました。自分の中ではベストは尽くしましたが、最終的に6位ということで、最後の最後で順位を落としてしまったということが、悔しい。ただ今回の結果をポジティブに捉えるとしたら、ウェットのレースだけど12周まで抑えて、あきらめずに走ることが出来た。母国で毎年ファンが増えているのも分かり、自分の旗も多く見ることができました。その分多くのプレッシャーもありますが、他のサーキットにはない力を感じました」
普段からカレックスに乗る榎戸選手は、調子を上げていた。
「みんな速いです! タイム差がない!」全日本との違いをこう語った榎戸選手。「でも、周りのライダーの走りを見る余裕もあったり、自分の目標圏内の走りは出来ています。決勝では実際みんながどういう走りをするか分からないですが、やるしかないって感じですね!」榎戸選手のパドックは彼の所属するモトバムと、テルルレーシングのスタッフがサポートに入り、全日本の精鋭が集まった感じで、エンジニアも含めいい雰囲気を作り出していました。決勝、スタートからジャンプアップして14位フィニッシュ!初出場にしてポイント獲得!
「決勝は雨量が凄く多くてめっちゃ滑りましたね、トップのタイムを見ていてもそうでした。あと、3周目くらいまで水しぶきが凄くてw完全にホワイトアウト! 全日本だともっと前を走っているから、これほどひどいとは(笑) 。予選で失敗してしまい9列目(25位)だったんですけど、スタートはみんなインに行くので、アウトから行ったら5列目くらい前までいきなり開けたんです!「行ける」と思って超突っ込んだおつりでゼブラに乗ったんですけど、それで向きも変えて帰ってきたら15位! ヤバいぞ! と。 それから2台くらいに抜かれたんですけどバトルして、最終的には14位。ラストラップのタイムの上げ方が凄くて、自分も上げたんだけど向こうはまだ手数を残していたんだなと。昨日の予選の落ち込み方からしたら、今日の結果はすごく良かったです。自分もアグレッシブな方なのですが、みんなすごい隙間をぬって入っててくる。劣ってるところはもちろんありますが全然勝負できないところはないし、世界を感じられてよかったです」
水野選手は「全日本に比べると、速い人しかいないんです、厳しい戦いだと思いますけど、ここで刺激を貰いたいと思っています。とにかく、揉まれてきたい」金曜日の走行の2セッションとも転倒し、走れたのはわずか11ラップ。「終わってみれば、初日の転倒がいけなかったかな……。決勝で使ってもこのレインタイヤが掴めなくて、セットも合わせられずアタックもできずに終わってしまったのが心残りで、やりきれていないから心から悔しいとも思えないのが正直なところです。悔しいんだけど、出し切っていない感です。ダンロップを上手く使えなかったのは経験不足、スキル不足なので、最終戦に向けての課題になると思いました。レースは、そこまで決勝タイムが速かったわけではないんですが、世界のライダーの抜き方は全日本と違って、意地でも抜いてくるというか前に出ようという勢いが違いました。そういうところで、自分は全然まだレベルが足らないなと痛感しましたが、いずれはやっつけてやりたいと思っています!」全日本チャンプは決勝でも、開けられないマシンに苦戦し「揉まれる」こともなく我慢のレースで22位に……。
転倒して再スタート。長島哲太選手は20位でフィニッシュ。
「天気予報では雨っぽいからFP1からそんなに攻めてなくて、FP2は決勝に向けて攻めていきました。フィーリングは凄くいいし、ここまで調子のいい初日は初めてですね!」「もてぎはたくさんの人が声をかけてくれて、何よりそれが嬉しい」。テンション上がると転びそうなるので、それを抑えるのが必至で、雨のおかげで冷静になれました」と金曜日に言っていたのですが、決勝の雨量も長島選手のそれを抑えきれなかったのか?!
「予選があの順位だったので、もう行ってやれ! と。5コーナーが自分は速かったんで、転倒した時も、いつも通り抜いてやれっていう気持ちだったんですけど、コルテセがすこし被せ気味で、ホントにいつもよりちょっとだけオーバースピードでした。もう、しょうがない! て感じで、ごめんコルテセ。転んでからはバイク的には問題はあったんですけど、それでもタイムは悪くなかったですし。これまでは1周目に慎重になってしまうことが多かったのですが、1周目で12台抜けて、ガツンといけるのが分かったことは、自分の中では大きな一歩だった。 転んで失うものはないですし、逆に得るものの方が多かったです」
結果は残念だったけど、沢山の人に声をかけてもらったり、みんなの応援がすごく力になると、日本でしかない空気を楽しんでいました。長島選手のチームのスタッフもとてもいい人ばかりで、レース後に「テツはいいライダーなんだぜ、FP1では9位。予選は苦戦しちゃったけど朝のウォームアップはいい仕事をしてるんだ。決勝はいきなり12台も抜いてきて、レースだから転倒もあるさ、それからリカバリーして27位から追い上げて20位のチェッカー受けたんだ。テツは素晴らしいスピリッツを持ってる、ホントにいい子だよ」ってどんだけべた褒めすんねん!(笑)っていうくらい褒め倒し。チームスタッフにここまで好かれるのも、彼の人柄!
3位に入ったマレーシア人のハフィス・シャリーンですが、アジアンライダーの雨の強さを見せてくれました。表彰台でシャンパンファイトのときにすっと消えたのですが、彼はイスラム教徒なのでお酒は厳禁なのです。
Moto3参戦1年目、父もGPライダーだった佐々木歩夢選手、レッドブルルーキーズカップでチャンピオンを獲得しているので、立派なレッドブルアスリートなんです。
「日本だけど、2年ぶりだから、ホームとか言えないですよね(笑)。3~4周で慣れてきてタイムも出せるようになってきてセットを変えて走って、初日は転んでしまったりしたんですけど、もうちょっといきたいし、いかないと! GP生活に慣れて、日本にいるのがなんか変な感じです(笑)。チームの人もやさしいし、みんな一緒にいるからホームシックになったりはしていません」
ルーキーの歩夢選手、決勝は終盤で転んでしまいましたが、すでに気持ちを切り替えて次のレースに向かっています。Moto3で3シーズン目となり鈴木竜生選手は自身最高位の4位でした
世界選手権って凄いなぁと思いつつ、全日本ロードレース最終戦は鈴鹿。最高峰のJSBクラスは2レース開催なので「レース観戦って楽しいな」と思った人は是非ご来場を。
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