2017年10月13日
Moto Guzzi V7Ⅲ STONE 試乗 『50年変わらない乗り味、 気持ちよく流せる走り モト・グッツィは 空冷Vツインでクセがスゴい!』
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍
■協力:Piaggio Groupe Japan http://motoguzzi-japan.com/
モト・グッツィと聞いて思い出すのは
その独特なエンジンレイアウトだ。
バイクが、工業製品がどんどん高性能化していって
ひとつの地点に集約。向かっているのに
モト・グッツィだけは違っているのだ。
それが「クセ」。モト・グッツィはクセがスゴい!
空冷Vツインエンジンというエンジン形式自体は、そう珍しいものじゃない。この数年の排出ガス規制、騒音規制によって「空冷」方式自体がずいぶんと減ってしまったけれど、ハーレー・ダビッドソンの主要モデルは空冷Vツインだし、ドゥカティ・スクランブラーシリーズも空冷Vツイン。BMWのR-nineTシリーズも、Vではないけれど、空冷ツインだ。
けれど、ハーレーはSTREETシリーズを、ドゥカティはスーパーバイクやスーパースポーツシリーズ、つまり水冷エンジンモデルをラインアップしているのに対し、モト・グッツィは空冷Vツイン一辺倒なのだ。今のところ、モト・グッツィの歴史上、水冷エンジンにチャレンジした記録はなかったような気がするしね。
モト・グッツィの空冷Vツインは、1967年にその歴史がスタートした。初代Vツインは700ccのV7。驚くべきことに、エンジンの基本設計やベースとなっている構造は、この初期モデルからほとんど変わっていない。もちろん、材質や細かいディテール、加工や設計の技術がアップデートされている分、そのままのエンジンなわけではないが、エンジンの基本とされる軸寸法や配置構造などはほぼ同一。初期モデルのパーツがそのまま使用できるものもあれば、逆に現在のパーツが初期モデルに使用できることもある。これって、ものすごい奇跡だ。
さらに、縦置きクランク+シャフトドライブの駆動系も初期モデルから不変。縦置きクランクというのは、バイクの進行方向に沿ってクランクシャフトが走っている構造で、通常(世の中の98%くらいのエンジン)は横置き、つまり車体進行方向に直交している。
これが、ブンとアクセルをあおった時に、車体が右方向にぐらっと傾く要因になっている。これがトルクリアクション。さらに、この縦置きクランクは、モト・グッツィのハンドリングの特徴を作る大きな要素になっていて、それがジャイロアクションだ。
ジャイロとは、ちょうどコマを回した時に垂直方向に安定する力のことで、回転する軸と直交する方向に安定する力のこと。つまりモト・グッツィは、クランクシャフトのジャイロで、直進方向に安定する特徴を持っているのだ。ラグビーボールをまっすぐ遠くまで飛ばすとき、プレイヤーはボールをきりもみ状に回転させながら投げるし、ライフル銃の弾丸は、銃身に線条痕を切ってある。それと同じことだ。
だからモト・グッツィは、停車時にアクセルをあおると車体がぐらっと右方向に傾くし、ハンドリングも直進安定性が強い。それがモト・グッツィのクセなのだ。
モト・グッツィV7は、初期モデルと同じネーミング。もちろん、現行のV7は2010年にブランニューモデルとして誕生したものがルーツで、V7クラシック、V7Ⅱ、そして2017年にV7Ⅲに進化したというわけだ。
それでも、やはりモト・グッツィはモト・グッツィだ。クセの強さは弱められてはいるものの、相変わらず車体はグラッと傾くし、クルージングではモト・グッツィらしい直進安定性が心地いい。このクセが、現代のバイクの中で際立っているのだ。
2010年に発売されてから、V7シリーズはモト・グッツィの屋台骨を支えるほどのヒットモデルになった。初期モデルV7クラシックに乗ったことは忘れられないな――。あぁ、こんなにベーシックで本物のクラシックバイクがあるんだ、とちょっと感動したりもしたからね。
V7Ⅲは、その最新バージョン。エンジンは、新規モデルとしてすでに発売されているV9(=850ccの空冷Vツイン)シリーズをベースに750cc化したもので、パワーアップし、好燃費化、そして最新の排出ガス規制「EURO4」をパスしている。
エンジンは新しく、力強くなったというものの、そのパワーフィーリングはモト・グッツィらしさにあふれている。旧V7クラシックや、その後継モデルであるV7Ⅱよりも、いくらかフリクションロスが減り、回転が軽やかになっている感じ。さらに、レスポンスもよくなっているが、決してシャープすぎないし、パワフルすぎることもない。けれど、このトルクの出方や、重いクランクシャフトがごろんごろん回るようなネバり感が、変わらないモト・グッツィのフィーリングを持ち続けている。
ハンドリングは、上にあるように直進安定性が強いタイプ。しかし、ガンとして曲がらない、なんてタイプではなくて、モト・グッツィらしく乗れば、スッと軽くレーンチェンジやコーナーにエントリーできる。モト・グッツィらしい乗り方、っていうのは、直進状態を崩す、つまりスッとアクセルを緩めてやればいい。すると、安定が崩れて、次の安定状態へ移ろうとする――それがモト・グッツィなのだ。
それでも、モト・グッツィらしさを一番感じることができるのは、やはりクルージング。高速道路を走っていると、トップギア6速で100km/hは3500rpm、120km/hは4250rpm。この辺の回転域で、ぶるぶると車体を震わせていた振動、いやそんなに高周波じゃないから鼓動というべきか、それがスーッと消えて気持ちのいいゾーンに入るのだ。
そこからアクセルを開けると、また加速してくれるんだけれど、モト・グッツィは6速4000rpmくらいが一番キモチがいい。それは断言する。
今回は、V7Ⅲシリーズの3台、スタンダードのSTONEと、V7誕生50周年記念アニヴェルサリオ、そしてカフェレーサーバージョンのRACERに乗ったけれど、走行フィーリングはほぼ同じだ。
V7Ⅲレーサーが、セパレートハンドルでバックステップ、さらにリアサスもオーリンズが標準装備されているから、車体姿勢も少し前がかりになって、リアの動きがいい。ワインディングを走るならばRACERが一番フィットするけれど、そこは少しペースを上げた時に感じる違いであって、気持ちよく流したいスピード域では、STONEもアニヴェルサリオも変わらない。もっと飛ばしたいなら、モト・グッツィは選ばないことだ。他に気持ちのいいバイクはたくさんある。
僕はSTONEがいちばん気に入ったなぁ。タコメーターもない、マットなカラーリングのボディはすごく落ち着くし、これでのんびり走る、少しアクセルを開け気味に走るのが、本当に気持ちがいい。初めてビッグバイクに乗ったときのような、新鮮な気持ちが味わえる。こういう気持ちにさせてくれるバイク、本当に貴重だと思う。
たとえば同じ水冷4気筒のスーパースポーツを乗り比べて、エンブレムやスタイリングを見ずしてそれがナニカを判別するのは難しい。目隠しして走れたとして、CBR1000RRとGSX-R1000Rを判別するのは難しい。けれど、モト・グッツィならばそれがわかるのだ。比較的似ているのはボクサーツインのBMW。けれど、モト・グッツィは明らかに違う。
これが個性だ。モト・グッツィはきっとこの先50年も、急に方向転換をして高性能を追い求めることはない。つまり、この個性を失うことはないのだろう。
(試乗・文:中村浩史)