2017年10月3日
YAMAHA YZF-R6 試乗 『コーナーを走り抜ける悦びに浸ることができる。』
■試乗・文/濱矢文夫 ■撮影/富樫秀明
■プレスト・コーポレーション http://www.presto-corp.jp/
久しぶりに、ヤマハのミドルスーパースポーツ、YZF-R6の新型が登場した。“次世代のR-DNA”と表現する、YZF-R1から始まったスタイルを継承しながら、さらに進化させたスタイル。ヤマハ最新の制御技術と車体技術を盛り込んで、スポーツライディングの次元をさらに高めたハンドリングという。その走りをクローズドコースではなく、一般公道のワインディングを走り体感してみた。そこで感じた新型YZF-R6の魅力をお伝えしよう。
9年ぶりのモデルチェンジとなったヤマハYZF-R6。何から何まで新しくなった、というわけではなく、フレーム、スイングアーム、クロスプレーンコンセプトの4気筒エンジンは従来のモデルを下敷きにしている。しかし、サスペンションの変更、最新の電子制御の採用、軽量化など多岐にわたりブラッシュアップした。その走りをクローズドコースではなく、ワインディングで体感してきた。兄貴分たるYZF-R1同様、速く走ることを突き詰めたヤマハを代表するスポーツモデル。前モデルは、スーパースポーツ世界選手権で3度チャンピオンに輝いている。その進化型なのだから、コースで高いポテンシャルを有していることは、想像できる(コースで乗ったことがないから……)。ただ、すべての人がコースで遊ぶために購入するわけではない。当然だ。一般道であるワインディングでもそのポテンシャルを楽しめるのか。個人的にはそこが気になっていた。
大きく変わった、と見てすぐに分かるところといえば、R1と同様のコンセプトを引き継いだスタイルだろう。試乗した車輌は、いま流行しているカラーであるマットブラック。トンネル形状で、現在のMotoGPマシンを彷彿する囲われたウイング形状になったテールや、折り重なる面構成のレイヤー構造を取り込んだ独特のスタイルは、フラッグシップモデルとして他とは違う新しさを狙って最初に登場したR1より肩の力が抜けて角がとれたように見える。R1より優雅な感じ。余計な装飾を廃したマットブラックカラーに今にも飛び出しそうなクラウチング姿勢もあって、「これはカッコイイね?」という言葉が素直に口から出ていた。ひと目で、ヤマハだ、と分かる個性に、美しさが増した感じ。この見た目だけで選んだという人がいても不思議ではない。
カタログに載っているシート高は850mm。現代の主流である前方の角を落として座面が細いシート形状だから、身長170cm、体重68kg(足は短め)のライダーで両足の先が届くから、片足ステップで片足地面といった信号待ちスタイルの足つきはまったく問題がない。車体が軽く感じることもあり、急な傾斜地でも不安に思うことはなかった。ハンドルに手を伸ばした乗車姿勢は、はっきり言ってしっかりの前傾姿勢。ステップも後方で高めだ。スーパースポーツなのだから、と理解をしながらもなかなかの前傾っぷりに戸惑った。最近はライダーに優しいオートバイが増えているから、それに慣れきった体にはとっつきにくい。しかし、走行を始めてすぐに気にならなくなった。それどころかこの姿勢に納得。体に触れるところの形状が秀逸で、フィット感が良い。ニーグリップが無理なくできて、腕に負担がかからない。オートバイを運転する時にハンドルを握る腕と手のひらに過度な力が入ってはいけないのはご存知の通りだが、これが楽にできる。R6の凹みに体がぴったりハマったような気にさえなった。
文字通り、車輌と一体化した感覚は、そのままペースを上げてコーナリングしても変わらない。加速、減速、コーナリング、どのシーンでも以前のモデルより車体がコンパクトになったような印象。アルミタンクやCFマグネシウムダイキャストのシートフレームなど、マスの集中化、軽量化が体感できる動き。600ccらしい自由自在感が、さらに増した。フロントにR1と同タイプのインナーチューブ径φ43mmのKYB製フロントフォーク、リアには同じKYB製ショックを採用した足周りは、舗装が荒れた路面でも追従性が良く、常にタイヤが接地している情報を伝えてくる。ピッチングの収束も良く意外と乗り心地がいい。フロントブレーキもR1と同じブレーキになってストッピングパワーが上がっているが、その性能を体感するフルブレーキング時でのしっかり感、高い安定感。タイヤがグリップしているのを把握できて、効きと制御性の良さも含めて減速が思い通りにやれた。
そこから寝かし込む時も、前後のタイヤがライダーの体に懸架されているようなフィーリングは続く。スパッと軽くリーンして、ダラダラとスロットルを閉じ気味にしないで、素早くスロットルを開けてリアタイヤで押し出すようにすると、気持ち良く決まる。コーナーでの自由度が高く、車体が深く寝ている時も高いスタビリティ。スロットルを開けながらクルッと回るのが楽しい。1000ccのスーパースポーツよりエンジンの最大出力も最大トルクも控えめなこともあり、ワインディングでも高回転までちゃんと使い切れる。
電子制御スロットルのYCC-Tと、可変吸気管長機構のYCC-Iに加え、新たに6段階効の効きと+OFFを選択できるTCS(トラクションコントロールシステム)が付いた。ワインディングで、しかもレースライダーでもない私が、それらによってどう速くなったのか、具体的な効果を今回乗っただけでは語れないけれど、スロットル操作に対する特性の自然さと、どの回転域でも右手の動きに合わせてスムーズにレブリミットまで回るスムーズさには感心した。ある部分からのけぞる加速特性ではなく、よりフラットな感じでぐんぐん速度が伸びる。
エンジン特性が選べるD-MODEも初採用して、スポーティーなA、オールラウンドなSTD、穏やかなBと右手のスイッチで走行中も変更できるが、個人的には断然Aモードがお気に入り。低中回転域でのレスポンスの良さがありながら、極低回転時のスロットル操作でもギクシャクしないから使いやすい。この新型YZF-R6はスロットルを積極的に開けながら走った方が面白い。排気音が切り替わって、人によってはうるさく感じるかもと思うほど、カーンと抜けるスポーティーな音も気分を盛り上げる。
ワインディングを主体に一般道を走って、唯一不満だったのは、前傾姿勢ではなく、ハンドルの切れ角が小さく、フルロックでもUターンの円弧が大きくなりがちなところだった。Uターンは得意な方だと勝手に思っているが、一般的な対面通行2車線くらいの幅で、フラットなところだとなんとか回れるけれど、傾斜していたりシチュエーションによっては難しい。素直に切り返せばいいだけと割り切るのが安全だ。スポーツライディングに特化したフロントフォークであり、ハンドルの位置、タレ角、絞りであるから、そこはいささか仕方がない部分だろう。
「スーパースポーツの高性能なんて一般道じゃ必要ないよ」と言うのを何度か耳にしたことがある。いや、いや、これはありだよ、あり!この乗り手と同化したようなフットワークで走る喜びはたまらない。速さを追求しなくても(公道だし)、操る楽しさだけでも味わう価値がある。事実として、前傾がどうのこうのと最初は言っていながら、気がついたら長い時間集中して走り込んでいた。この新型YZF-R6があるライフスタイルを想像してみた。普段乗りには汎用的な原付二種スクーターや、気軽に乗れる250ccを持っていて、早起きした快晴の休日に、このR6と非日常を付き合い始めた恋人同士みたいに楽しむ、なんてどうだろう。
(試乗・文:濱矢文夫)
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