2017年10月2日
KYMCO AK550 試乗 『台湾の本気は世界水準』
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明
■協力:KYMCO JAPAN http://www.kymcojp.com/
国内ではイメージが薄いかもしれないキムコブランド。Lツインのドゥカティ、水平対向のBMW、キムコは……スクーター?? スクーターはもちろんのこと、実は様々なモデルを世界的に展開しているキムコグループ。そんなキムコの50周年記念に登場した最新マキシスクーター「AK550」を試乗する。
台湾の実力者
創立50周年を迎えたキムコは台湾のメーカーで、日本ではスクーターのイメージが強いかもしれないが実はモーターサイクルもATVも作る大企業。しかもヨーロッパでの認知度も非常に高く、分野や地域によっては日本メーカーを上回るシェアを持っているなど、世界規模で見たときには日本メーカーの強力なライバルともいえる存在なのだ。
かつては台湾にてホンダ車の製作を受け持っていたが、その後独立。その経験から培った高い技術力をさらに高め続けたおかげで、現在ではK社やB社などの製品をOEM生産するなど他メーカーからの信頼も厚い。
そんなキムコが創立50周年という節目に投入したのが、このAK550である。ラグジュアリーやスポーツを高い次元で求めるマキシスクーターの分野の中で、さらに「全てにおいて最高を求める人たちへ」向けて開発したAK550はA(アニバーサリー)K(キムコ)の名に恥じない徹底して作り込まれたフラッグシップモデルであり、その完成度たるや目を見張るばかりである。
アジア地区を中心に小排気量スクーターを作っている会社、などというイメージがあったとしたらそれはもう過去の話だ。その証拠にこのAK550の試乗会はなんとツインリンクもてぎのフルコースで行われ、アジア各地からプレスが招待されたのである。日本車でもマキシスクーターは存在するが、もてぎのフルコースで試乗会をするほどスポーツをアピールしたいモデルも、パブリシティに力が入ったモデルもこれまでなかった。今回のローンチのためにキムコの代表取締役、アレン・コウ氏が現地に駆けつけたことからも、いかにキムコがこのモデルに自信を持っているか、そして世界に向けて華々しいデビューを飾りたかったかがうかがい知れる。
50年の集大成を見る
そんなキムコが50周年を記念して投入したAK550。ヨーロッパ各地で先行して販売されてきたが、国内の発売は今年の12月2日の予定だ。価格は税込127万4400円。
エンジンは新設計の550ccパラツインで、最近のトレンドである270°クランクを採用。53.5馬力という出力で加速、最高速ともに優れると同時に、2軸バランサーを備えることで振動を抑えている。なお、このエンジンは環境性能にも優れ、始まったばかりのユーロ4のみならず、さらに非常に厳しくなるユーロ5にまで先行して対応しているのだから驚く。もう一つの特徴として、ドライブスプロケットをスイングアームピボットと同軸とすることで、ドライブベルトの張力がサスペンションの動きに影響されないという機構も持っている。
車体は低圧ダイカスト製法で作られたメインのアルミフレームとハイドロフォーム製法で作られたサブフレーム部の組み合わせ。軽量でありながらスポーティさを追求し、またさらに低シート高など実用的な部分も総合的に考慮された設計だ。組み合わされる足周りは倒立フォークやブレンボキャリパーと豪華な装備で、前後15インチのホイールはキムコ自社生産。タイヤはメッツラーのFeel Freeが装着されている。これらの組み合わせによりAK550の前後重量配分はスポーツバイクのような50:50を達成しており、ナチュラルなスポーティさを実現する。
他社に対して大きくリードしたのはメーターをはじめとするユーティリティだろう。「ヌードー」と呼ばれるフィーチャーはスマートフォンとメーターをリンクさせるというもの。よって専用アプリを使うことでメーター中央に配置されたカラーディスプレイを、スマートフォン経由で自由に活用できてしまうのだ。
非常に深いバンク角でもてぎを駆ける
先述したように、モトGPも行われる国際レーシングコースでスクーターの試乗とはなんと贅沢なことか。それだけスポーツ性に自信があるということだが、同時にストリートユースがメインであろうこの車種の良さが本当にわかるのか、という不安もあった。しかしせっかく与えられた機会、まずは革ツナギを着こみ精一杯そのスポーツ性を引き出す走りに徹した。
ピットレーンを走り出し、コースインと共にアクセルを大きく開けるとレスポンスは上々、鋭い加速を見せる。スクーターのポジションながら、シート後部にストッパーがあるため尻周りのホールド性は高く鋭い加速時にも一体感は高い。エンジンや車体の暖気と共にライダーの気分も高めつつ一周すると、意外にも早くパワーに慣れてしまった。スピードメーターは優に150キロを超えているのだが、何せもてぎはとてつもなく広いため速度感覚が麻痺する。一般道ではかなり速いと感じるはずだが、この広大なレーシングコースでは、3周目にはすでに余裕を持って全開にしている場面が多くなった。ただこれは遅く感じる、というわけではなく、コーナー脱出のダッシュなどはやはり一定の鋭さを感じさせてくれるもの。しかし振動が少なく車体各部の立て付けも良いようで、それがもたらす上質感がエキサイティングさを上回ってくる。ユーロ5をもクリアしているという最新設計のエンジンはきっと街中でとても上質でありながら同時に十分なパフォーマンスを持っていることだろう。
コーナリングだが、とにかく深いバンク角に驚く。革ツナギを着ているためどうしてもスポーティな乗車姿勢をとりたくなるが、足が後方に置けず中途半端な姿になってしまうものの、それでも膝を擦るようなスポーティな走りを許容する。そしてその領域でも車体は何も擦らないのである(センタースタンドも装備)。バンク角はライバル機種より確実にあるだろう。
気分よく攻め込んでペースが上がるほどに純正指定圧に設定されていたタイヤ内圧が高くなりすぎ接地感が薄くなってしまったため、アグレッシブな走りから足を投げ出したノンビリ走行へと切り替えた。するとまた違った一面が感じられた。先ほどまではスクーターらしからぬ前後重量配分を活かすような、良く効くブレーキも活用した、フロントに積極的に仕事をさせる乗り方で旋回力を引き出していたのだが、そんなことを意識せずともとても素直に走れてしまったのだ。体を起こしてシートに体重を預けているとフロントタイヤはかなり遠くに感じるのだが、それでもコーナリング中に接地感が薄くなることはなく、オンザレールで気持ちよく旋回できてしまう。
そもそもスクーターで膝を突き出して走り込む方が不自然でありこちらが正しい乗り方なのだろうが、その二面性というか、許容度の広さに楽しみの幅を見た気がした。ちなみに後の走行ではタイヤの空気圧をサーキット向けに落として再試乗したが、こうするとさらにグリップ感が豊富で本当にスポーツバイクのように楽しく攻めることができてしまった。上質なツーリングと共にスリルのある走りを掲げるAK550だが、少なくとも後者の「スリル」の部分についてはスクーターの領域を飛び越えて十分に楽しめることが確認できた。
公道へと持ち越された細部の印象
まだ日本では発売前ということもあり、今回用意されたAK550はどれもナンバーが装着されておらず、大きな柱であるツーリング性能を味わうことができる場面に持ち込むことができなかったのは残念だ。しかし限られた試乗環境の中での印象は、サーキットでのパフォーマンスに限らずとても良かった。ブレーキやアクセルのみならず各部のタッチや遊びは日本車と同等以上のレベルにあり非常に上質に感じることができたし、視覚的にも高級車と呼ぶにふさわしい完成度と言える。音も静かで振動も少なく、タンデムでの長距離ツーリングでも後部座席からの不満は聞こえてこなさそうな印象だった。また高さを調整できるスクリーンの効果も大きく、試乗した1台めでは高く設定されておりこれが高い防風性を示してくれた(もっとも、スポーティさを求めるなら低い方が良いだろう。スクリーンが低い位置に設定されていた2台めの方が明らかにハンドリングは良かった)。
メーター内の「ヌードー」もじっくりと試す時間がなかったが、台湾現地の風景などが待ち受けに設定されており、まさにスマホと同じ感覚で活用できることが容易に想像できた。USBポートの設定など、この領域では日本車の一歩先を行っていると言えるだろう。
しかし本当の使い勝手やライバルとの比較は公道を走らせてみるまでは語れない。渋滞路での取り回しや信号でのストップ&ゴーなどは実際にそういった状況にならないと気づかない事柄も多いため、その分野においてはいずれ追レポートの機会を設けたい。
第5のアジアメーカー
キムコは日本の4社のように究極のスポーツモデルをリリースしているわけではないのだが、しかし一方で電動バイクの分野では日本メーカーの数歩先を歩んでいる。プロジェクトNEXと呼ばれる電動バイクへの取り組みは非常に現実的であり、2018年にはまるっきり新世代の電動バイクを発売するという。さらに欧州の国によっては日本メーカーよりもシェアが大きいこともあり、キムコは成長著しいアジアの大メーカーとなっているのだ。アジアのバイクと言えば日本の4社、というのは過去の話かもしれない。キムコの勢いを見るとアジアの第5のメーカーとして存在感は非常に大きい。
そんなキムコの頂点バイクAK550は最先端の性能を与えられ、ゆえに値段も決して安くはない。しかしそれでも国際的に日本車と渡り合える魅力を有しているのだ。その本気度合いに感じ入った共に、日本メーカーもウカウカしていられないな、などと思ってしまった経験となった。
(試乗・文:ノア セレン)