2017年9月13日

BMW S1000RRを 富士スピードウエイで 全開アタック!

■試乗&文:松井 勉 ■写真:富樫秀明
■協力:BMW Motorrad Japan http://www.bmw-motorrad.jp/

 
最終コーナーを立ち上がってからの増速は199PSを生み出すバイクに相応しいものだった。最高速に達するのが長いストレートの真ん中より手前。あとは1コーナーへのブレーキングポイントまで加速を続ける自分との根比べだ。旋回、減速、加速。そのどれもがピュアでパワフル、しかも愉しめる。F1クラスのサーキットで感じたその実力は、裾野の広さと登りやすいピーク。世界のライダーが支持する理由はその走りの中にあった。

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 2009年、BMWが満を持して国産4メーカーが守っていた牙城ともいえるスーパースポーツ系モデルへと参入した。倒立フォーク、アルミダイキャストフレーム、そして並列4気筒エンジン。そのパッケージは国産勢が残した轍にのっていた。テレレバー、デュオレバー、フラットツインやシャフトドライブといったBMWの独自性を打ち出すことはなく、あえて同じ土俵で勝負を挑む。
 そして、サーキットやワインディングの評価であっさり国産勢を上回る走りを見せ、世界のライダーを魅了してきた。
 
 リーマンショック直後から、このクラスを牛耳ってきた国産ブランドはモデルチェンジのタイミングが伸びる傾向となったことも重なり、アプリリア、KTM、そしてBMW、ドゥカティの評価が世界で上がる。現在、その中から消えたものもあるが、S1000RRは着々と成長を重ね、現在3代目。今年、ユーロ4適合になり、少なくないモディファイを受けているので、実質的には3.5代目か。しっかりと足早に進化を続けているのだ。
 
 2017 年モデルは、昨年から販売されている3代目から、エンジンスポイラーなどの形状変更や、ユーロ4対応の環境性能を付加し登場した。代を重ねてもS1000RRの個性は明確だ。エンジンはパワフルながら低回転からトルクがあり、ハンドリングはナチュラルでクセが無く、ライダーが冷静にハイペースを楽しめる高い基本性能を持っている。
 
 また、工場オプションの類をほぼフル装備される日本仕様は、この手のマシンにしては珍しくグリップヒーターまで標準で備える。
 
 BMWは電子制御技術の搭載にも積極的で、ライディングモードによるドライバビリティーのスイッチング、アップ&ダウンともに有効なオートシフターの装備、車体の安定性を保つGセンサーからの情報を元に車体を制御するトラクションコントロール、そしてコーナリングABSも搭載。各種センサーを搭載し、ウイリーコントロールなど姿勢変化への介入も行われる。
 
 また、セミアクティブサスペンションであるダイナミック・ダンピング・コントロールも採用。常に足の動きをモニタリングして最適なダンピングを提供する。こうした最新技術を採用するのもBMWらしい姿勢だ。
 
 デザインは初期型から引き継がれるもの。フロントマスクはアシンメトリー。初代、2代目までとはヘッドライトの配置が逆になったが、フェアリングサイドパネルの排熱ダクトの形状も左右独自になっている。BMWお得意のアシンメトリーデザインだが、フェアリングなど機能的にベストなデザインを追求したら左右とも違ったデザインになった、と開発者。
 とにかく、見た目はコンベンショナルなスーパースポーツだが、仔細に見るとBMWらしい独自性と高い技術が盛り込まれているのである。
 
 跨がってみる。ポジションは低い位置に構えたハンドルバー、高い位置にあるステップにより前傾姿勢となる。シートは後部から前端部にかけてシェイプされるように細身になり、旋回初期、ミドル、そして脱出時にライダーが体を入れやすい、預けやすい形状になっている。後部はワイド目になるので、シートの何処に座るかで足着き感は変わってくるのも他のスーパーバイク系モデル同様だ。ポジションをとってもそのサイズ感はコンパクトに感じる。

 サイドスタンドから起こす時のバイクの重みは軽く、さすがこのクラスのバイクだ。シンプルだが白い盤面の回転計とデジタル表示のモニター部分で造られたメーターパネルは低いスクリーンの奥に見える。

 ライディングモードの切り換えは右のスイッチボックスから。他のBMWの流儀どおり、スイッチでモードを選択し、クラッチを切ると変更が反映される。今回はスポーツで走り出す。さらに辛口なスリック、雨の日用のレインも用意される。

 走り出そう。視覚的に低いスクリーンがバイクの質量感を少なくし、スリムでコンパクトな印象を与える。実際に左右にS1000RRを振ってみても、その動きは軽く、それに追従して前輪に舵が入るレスポンスが早い。加速度の低いアクセル低開度や低い回転ではシフトアシストプロはやや突発な繋がりを示すが、アクセルを開き、力強い加速状態では滑らかかつ瞬間的にシフトをしてくれる。なにより、シフトアップ時に点火が着られ、マフラーからはき出される「ボッ……」という音が最高に刺激的。

 初代から受け継がれる旋回性能はさら世代を追うごとに磨かれている。ペースを上げてもコーナーへの動きは左右へのロールモーションが軽く、それと同量の適度な手応えがあり、それが安心感につながっている。狙ったラインに乗せやすい感覚とそこから生まれる一体感はサーキットをフルに攻め込む前から上々。精神的にも臆することなくアクセルを開けて挑む準備が出来る。これがS1000RRの美点の一つだ。

 また、前後のブレーキのタッチや制動力も巧くセットアップされていて、初期はマイルドに、握り込むとタイヤの接点をぎゅっと潰し込むようにフロントフォークと協調してグリップ感と減速を立ち上げる。シート後部にしっかりと加重しておけば、ABSが顔を出す場面を減らすこともできる。
 動きが学びやすい点も乗るたびに感心する部分だ。
 

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ユーロ4規制となり排気音などの静粛性が高まり、結果としてエンジンのスムーズさが印象的になった2017年モデルのS1000RR。


 
 ウォームアップは1ラップ目で完了。最終からの立ち上がりで全開加速する。シフトライトを頼りにシフトする。速度計は299km/hまで達し、コントロールライン、その先のブリッジ、そして1コーナーまでの距離看板をめがけて体を起こし、ブレーキングに入る。詰めて200メートルと150メートルの中間より200メートルよりあたりから減速開始だ。

 50メートル看板手前で旋回に備えて減速を緩めたいが、富士のストレートエンドはこの辺りでいつもバラついてしまう。でありながらS1000RRは気持ちのゆとりが途切れない。1コーナーを下り、コカコーラコーナーまで再び全開加速。右の縁石が始まったあたりでタイミングを取り切り込む。アウトにふくらみつつ100Rへのアプローチだ。この時、加速をしながらの切り返しが素直。緩い減速をしながら右に深く寝かし、途中で一度アクセルを戻し、インに寄せる時の動きも意図した通りに動く。軽く安定していて明快。だから恐くない。100Rはインに寄せてから再びアクセルを開けつつぐんぐん曲がる感じが最高に楽しい。

 その余韻を忘れ、ヘアピンに向けて下りを減速。入口は狭く見えるのに、左に曲がった瞬間、広大なエリアに放り込まれるようなコース幅だ。その中、S1000RRのノーズを300Rへのアプローチに向け、ミドルにするか、アウトまで使うか毎度悩む。ヘアピンからミドルで回り、丘を越えて300Rを全開で下る、というのが僕とは一番相性がよいようだ。

 ここでも200km/hを軽く越えた速度でベタっと寝かせながら加速を続ける。その時のリアタイヤがフルパワーを受けてムズムズするが、ASC作動のランプが点滅するぐらいで実際には自然な制御でライダーとしては「今、何をしてくれたんだろうか?」という程度のナチュラルさなのだ。
 ダンロップコーナーへと駆け下り、またもや度胸試しのような減速で富士のかっとび区間が終わる。とにかくここまでをご機嫌に走れるS1000RRは最高だ。

 その先、上り区間となり、ここまでのようにグッと荷重をのせたカーブとは異なる。視覚的にカーブのクリップを捕らえにくく、エスケープの広さに目印が付けにくい。路面のカントも曲がる度に変わるような視覚的トリックに見えるし、皮肉にも天気の良い日は富士山が真正面にくっきり見え、脇見運転必至区間でもある。僕は勝手にこの最終パートを富士のキライ区間と呼んでいる。設計者は相当な意地悪に違いない。

 ダートで言えばフラットなハードパック、砂と小砂利の浮いたカーブで、開け過ぎれば前後ともすぐに流れそうだし、開けなければ、速度が落ちすぎる。しかも、クリップでインをかすめたいが、上りだけにクリップの先が飛び出すんじゃないか、と思うほど寝かしたポジションからだと路面を確認しにくいから、それも難しさを助長する。慣れるのみだがなかなかどうにも攻めきれない。

 それでも、S1000RRの足周りは適宜ダンピングを調整するシステムを持ち、状況に合わせて足を調整してくれているので、ソロリとのせた荷重でも接地感が薄まるようなことが無い。苦手なキライ区間を自分でも無難にやり過ごすことができる。

 やたらと幅が広い最終コーナーは視覚的にインに寄りたくなるが、それもトラップだ。立ち上がりでアウトの縁石に吸い込まれる。ただ、ここだけは自分のラインを見つけたので、荷重をのせて立ち上がり重視で脱出する。

 直線になれば再び歌い出したくなるような加速を見せS1000RRは瞬く間に299km/h表示まで速度をのせる。コンパクトなスクリーンに伏せ、伸びる回転計だけを睨みながら、再び1コーナーへの減速開始のタイミングを待つことになる。何度かツッコミ過ぎたラップもあった。富士の行き過ぎはオツリがデカイ。減速Gに軽くなったテールが振られる。それでも最終的にはクリップを逃したぐらいで収束してくれる。だから次も「挑もう」と勇気を与えてくれる。

 199psというスペックもそうだし、優れた電子制御技術もそうだ。もちろん、スタイルや高いシャーシ性能もそうだけど、結局、楽しませてくれる才覚、それがS1000RRでサーキットを攻めだすと最後までポジティブでいられる人とバイクの絆というか、信頼関係、いや、友情関係のようなものなのだ。

 シーズンインに向けた試乗会やタイヤテスト取材、ウエットや雨のサーキットを走った経験もある。それでもS1000RRだと、真冬ですらグリップヒーターを付けるだけで楽しく汗をかける体験を何度もした。今回、真夏の路面温度が高い富士スピードウエイを文字通り汗ダクになりながらも楽しめたのは、このバイクが持つパッケージバランスの良さにほかならない。また一歩、このバイクと友達になれたような気分の試乗だったのである。
 
(試乗・文:松井 勉)
 
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リアブレーキはシングルピストンのフローティングキャリパーを装備する。スイングアームピボットは高さ調整可能なタイプ。ステップなどのパーツにも質感が漂う。Y字スポークのホイールはスポーティーで軽さ感を主張する。エキゾースト系は2017年仕様となった。リアサス下部のチャンバー室も大型になった。


 
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ハブの部分にダイレクトにディスクプレートをマウントするフロントブレーキ。対向4ピストンキャリパーが生み出す制動力と、セミアクティブとなるDDCシステムを採用するサスペンション。φ46mmのインナーチューブを持つフロントフォーク。その吸収性は300km/hからの減速でもゆとりを持たせてくれる。


 
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JSBでのこと。プライベートチームのS1000RRをいつ追い抜くか考えたワークス系フルチューンマシンを駆るライダーが「裏ストレートで料理してやる」とその時を待ったが、市販のストックエンジンのくせにストレートのあまりの速さに驚く、というエピソードを聞いたことがある。桁違いのコストが掛かっているバイクと同等の性能。S1000RR の速さは本物なのだ。13対1という高い圧縮比を持つ。199psは是非サーキットで試して欲しい。


 
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アルミダイキャスト製のアルミフレームを採用する。シフトリンケージは正チェン、逆チェンに対応。シフトアシストプロなるクイックシフトを装備。BMWはスーパースポーツのみならずツーリングも出るにも積極的にこのシステムを採用する。ロングライド時のクラッチ操作をしないことで疲労低減に威力を発揮する。


 
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ハイ、ロービームそれぞれ形状の異なるデザイン。中央のエアインテークはそのままクリーナーボックスへのダクトとなる。ちなみにミラーの視認性も抜群。


 
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フロントフォークでセンシングした路面状況をリアサスにフィードバックするDDCシステム。イニシャルプリロードは手動となるがセミアクティブサスとして高い性能を持つ。レースオンリーであればマニュアル調整のほうがフィットする場面もあるが、公道を含めたあらゆる状況にカスタマイズを含め対応できるのは強みだ。


 
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ウインカー、テールランプともLEDを光源とするS1000RR。


 
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ライダーのシートはご覧のような形状で、コーナリング時に動きやすく、ストレートで伏せるときも前後スペースが広く長身のライダーでも楽に全屈姿勢が取れる。


 
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17.5リッター入りの燃料タンクはニーグリップしやすくコーナリング時もホールドしやすい形状。質感のあるデザインと機能美。双方が備わっている。


 
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液晶パネルに多機能表示をし回転計はアナログ式を採用。中央にあるのがシフトライトだ。ライディングモードは、サーキット用であるSLICKモードを選択中。ハイグリップを前提としたパワーデリバリーとそれを越えた時の介入を示す。ノーマルタイヤでも選択ができるが、介入度が高くなる。左右のバンク角表示などスポーツモデルらしい内容となっている。


 
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●BMW S1000RR 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,055×720×1,140mm、ホイールベース:1,440mm、シート高:815mm、車両重量:210kg■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ、総排気量:999cm3、ボア×ストローク:80×49.7mm、圧縮比:13.0、最高出力:146kW(199PS)/13,500rpm、最大トルク:113N・m/10,500rpm、始動方式:セルフ式、燃料タンク容量:17.5L、変速機形式:常時噛合式6速リターン■フレーム形式:アルミ合金製ブリッジフレーム、キャスター:96.5㎜、ステアリングヘッド角:66.5°、ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク × 油圧式シングルディスク、懸架方式(前×後):φ46㎜倒立式テレスコピックフォーク × アルミニウムダブルスイングアーム、センタースプリングストラット■メーカー希望小売価格:2,272,000円(消費税込み)


 


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