2017年9月4日
BMW S1000R試乗 『サーキット対応ネイキッド、 手軽に味わえるBMWの本気度。』
■試乗&文:松井 勉 ■写真:富樫秀明
■協力:BMW Motorrad Japan http://www.bmw-motorrad.jp/
2014年に登場したS1000R。BMW謹製のスポーツネイキッドは、2017年モデルになってユーロ4適合。それに合わせてフェイスリフトも。なるほど、S1000RR仕込みのその走りは、超高速サーキット、富士スピードウエイをも楽しめる才覚。アクセル捻る手がもっといけ、と言い出すしまつ。それだけの「機能」が生む「ゆとり」を確かめた。
BMWのモデル群の中でS1000ファミリーはS1000RRを頂点に、スポーツクロスツアラーのS1000XRというアドベンチャーライクなモデル、それに加えてS1000RRからフェアリングをはぎ取ったようなネイキッド、S1000Rの3タイプで構成されている。
このS1000Rの開発秘話を少し。2014年シーズンに向けて開発されたこのスポーツネイキッドは、BMWの開発チームは「この手のモデルは、カウルを外してバーハンドルに交換すればレディーtoゴーだよね。」をS1000RRをベースに実践してみた。
しかし、それは理想からかなりの距離感を持った現実だったという。
「そうやって乗って見たら、ただただウイリーばかりする刺激的だけど街中では扱いやすいものとは言えない乗り物になったんだ。」
とのこと。
エンジン特性はもちろん、カウルに隠れていた部分で、見せたくないものの配置換え、そして近所のカフェへ、やお使いライド、タンデムもする。ツーリングだってもちろん守備範囲だ。そうした場面で大切な乗り味。これらを整理し、煮詰め、完成さえるのに意外と時間が必要だったという。
その間、Sファミリーを開発するグループでは2世代目のS1000RRのモデルチェンジをすませ、S1000Rを発売する段階では、3世代目のS1000RRの開発時期とオーバーラップしている(と想像する)。限られた人的資源をやりくりしてS1000Rの開発に熱を入れたわけだ。
その情熱は走りに見事に現れていた。S1000RRイメージを踏襲しながらも、小ぶりになったテールカウルセクション、電子制御のセミアクティブサスペンションをリアに搭載し、市街地、ツーリングシーンでベストといえる特性に練り上げたエンジン。並列4気筒ゆえ、気むずかしさなどみじんも無いS1000RRだが、思わず3000回転以上を使いたくなる高回転型の特性であることは明確だった。同型のエンジンながら、S1000Rのそれは、2000回転を割ってもラクラク走れた。14000回転近く回るRRに比べればトップの伸びの頭打ちは早くなるが、滅多に使わないそんな領域よりも、日常域でのパワフルさが魅力。
ひとたび回せば、11000回転まで続くトルクフルな加速こそ、S1000Rの醍醐味だった。
狙い通り、市街地、ツーリングペースの郊外ではハンドリングは安定感と運動性を巧くバランスさせたものとなり、クリップオンハンドルを備えたRRと比較すればアップライトなポジションだが、後退したステップと低く構えたバーハンドルは、アップダウンの多い峠道で最高の組み合わせはむしろS1000RRを上回り、ツーリング最速だ、と思ったものだ。
もっと高い所にあるS1000RRが狙った速度域よりも、日常レベルから相当に楽しい。サーキット以外ならこれだね、という結論だった。これはサーキットで走る今日まで変わらず持ち続けるS1000Rへの好印象だ
そのS1000Rも2017年モデルとしてユーロ4への適合となり、世界とほぼ共通スペックになったほか、フェイスリフトと外装の一部をリフレッシュ。さらに純正チューニングパーツでもあるHP(ハイパフォーマンス)ブランドのチタンマフラーも標準装備。アクラポビッチ製のコチラ、ルックスからして嬉しい装備。ルックスを引き締め、気になる走りはどうなのだろうか。
そんなS1000Rだが、富士スピードウエイのようなフルサイズサーキットでは初めて。ここには興味津々だ。だって軽く200キロオーバーでフルバンクするコーナーがここにはある。さすがに、そこは難しいのではないか、とも。
しかし、結論から言えば、そんな心配は無用だった。S1000Rが持つ乗り易さが、日本屈指の高速コースを見事、ファンライディングデイに代えてくれたのだ。
ピットレーンで跨がる。ポジションはスポーツネイキッドらしくパイプハンドルのバイクとしては前傾姿勢となる。ステップも適度に後退したもので、軽めのクラウチングスタイルとなる。ピットレーンエンドに向け、やる気がみなぎる印象だ。そしてバイクを起こす時の重量感はさすがスポーツネイキッド。軽い。しかも重量物が低く一箇所にある印象はスーパーバイクモデルに近い印象だ。
発進は並列4気筒らしくクラッチを合わせ、アイドリングより僅かに回転を上げるだけでスムーズに動き出す。低回転からトルクフル。ピットレーンの制限速度に合わせ走る。60 キロ程度での前後のサスペンションの動きはナチュラル。ハイパフォーマンスバイクだからといって、ゴツゴツ感はない。
ピットレーンエンドのラインまでそんな平和な移動をつづける。そこからは世界の違う加速を見せた。アップライトなポジションがもたらすその加速感は陶酔に値する。シフトアシストプロなるアップ、ダウン両方向に有効なオートシフターを備えるS1000Rなら、これから15分、再びピットに戻るまでクラッチレバーの存在を忘れることもできる。
シフトアップをつづけ、1万回転から11000回転周辺まで引っ張る。その時腹筋を意識しないと腕が伸びてしまいそうだ。
ホームストレートから下りながら折り返す1コーナーは、その入口がとても解りにくい。それでも、その先に拡がる大通りのような幅と広大な風景。それはまさに富士スピードウエイの魅力。コカコーラコーナーへと加速すれば、もう心は躍り出す。公道ではあり得ない速度からの減速だ。
フロントフォークの設定はストリート用ながらも、しっかりと200キロオーバーからの減速を受け止めている。そこから旋回へ。ライダーの体が動かしやすいのはS1000RR譲り。左膝の下で縁石を捕らえ、コカコーラコーナーをクリア。気持ち良くアウトへと加速ラインに乗れた。全開加速をして、次の100Rに備え、左から右へとバイクを切り返す。
この100R、入口から出口まで旋回時間が長く、深いバンク角を維持し、そのなかでアウトからインに、そしてミドルへと狙いを澄まし、次なるヘアピンに備えるカーブだ。個人的に富士での気持ち良さナンバーワンなので、ここが決まると相当にあがる。
さすがにクリップオンハンドルのS1000RRと比較すれば、このカーブでS1000Rはフロントへの荷重を意識しないとややアンダーが顔をだす。軽くフロントに荷重をかけつつ、旋回力をこじらないようハンドルバーへの入力を気をつけて行けば、ラインを変える自由度もアクセルに対する車体のレスポンスも大満足。気持ち良く旋回力をコントロールしている実感を楽しませてくれた。
ブレーキングしながら駆け下りるヘアピンはアップライトなポジションを武器に減速時はイージーに。ただし、減速から旋回に入る時、その後のワイドな加速ラインに備え、フロント荷重を意識しないとやっぱりプッシュアンダーが顔を出す。ここも決まると次なる300Rが尚楽しい。
300Rではさすがにアップライトなポジションだと伏せるのに気を遣うが、安定して気分良く複合的にラインがトレースできた。もうこれで富士の前半は大成功だ。フルバンク、200キロ越えで眼下を流れるコースを楽しめるほど雄大な風景だ。
その先、ダンロップのシケインに向けフルブレーキング。右、そして左と切り返すもっとも速度の低いカーブだ。その先、上りながらの加速、減速、そしてコーナーの入口もクリップも解りにくいカーブが続く。
路面のカントもコロコロ変わる。ややこしいセクションだ。高速からエイヤ!と寝かせてタイヤに荷重を乗せられたそれまでとはことなり、お行儀良くコントロールすることを求められる。それでいて、最終コーナーではアウトから一気にクリップめがけて加速体制を整え、長い、長いホームストレートに備えて一気に切り込む大胆さも必要だ。
こんな富士スピードウエイをS1000Rはネイキッドながら相当に楽しく走れた。市街地、ツーリング、スポーツライディングからサーキットまで、このバイクの守備範囲は広い。
S1000Rが凄いのは、270キロ近い速度から、フルブレーキングして飛び込む1コーナーへのアプローチで、ああ、タイヤが負けるのが解る……、と冷静に観察しながら強烈な減速を引き出せ、深く寝かしていっても旋回力が落ちる感触がない。剛性感の高いシャーシが、前後方向にしっかりと、左右方向へはしなやかな乗り味で、ライダーに乗り方の出来、不出来をしっかり伝えてくれることだ。
バイクとの対話に、手強さ、難しさ、冷たさがない。ライダーの荷重移動やポジション、アクセル操作に関しても早すぎ、もっと開けられるね、など、親友のように教えてくれるのである。乗りやすいのだ。
例えば搭載されているダイナミック・ダンピング・コントロールと名付けられたサスペンションは、ブレーキング時の荷重移動をタイヤのグリップ力に変換してくれるし、コーナリング時には安定した姿勢を提供してくれる。前半、後半でキャラクターが異なる富士を安心して走れるのも、適宜減衰圧を調整してくれるこのシステムの恩恵も少なくない。
また、アクセル操作に対して、前後輪の回転差があればしっかりフォローしてくれるASC(スタビリティーコントロール)。ウイリーコントロールも入っているし、コーナリングABSたるABS Proとの協調もするから、ハードブレーキング時の安心感もある。前輪が減速に負けている、などとのんきに構えながら、1コーナーへの寝かし込みのタイミングを今か、今かと狙えるのはこうした優秀なサポートあってこそ。
こうしたシャーシ性能を高めるデバイス以外にも、クルーズコントロールやグリップヒーター他、ライディングモードの選択肢の多さなど、海外モデルではオプション扱いになる部分までほぼフルオプションなのが日本仕様のS1000Rだ。
今回は逆説的に国際規格のサーキットを全開で走るコトで、S1000Rの旨味をあらためてかじることが出来た。そんなテストだったのである。
(試乗・文:松井 勉)