2017年8月11日
BMW G310R試乗 『ミニマムBMWに見る BMWらしさ』
■試乗&文:中村浩史 ■写真:島村栄二
■BMWカスタマーインタラクションセンター:TEL0120-269-437
http://www.bmw-motorrad.jp/
2015年11月のEICMA(ミラノショー)で初公開されてから
待望のスモールBMWがついに日本に上陸した。
普通二輪免許で乗れるBMWは、実に1955年のR26以来、60年以上ぶり。
BMWの新しい世界戦略モデル、G310Rは
ナリは小さくとも、やっぱりBMWらしさにあふれているのだった。
BMWってメーカーは、バイク/クルマを問わず、もちろん高級車であり、オトナのバイクであり、ビッグバイク、そうそうお値段もお高い、ってのもある。現在BMWの顔というべきR1200GS、S1000RRは200万円+αのプライスレンジ。でも、F800Rがほぼ100万円だったり、国産ビッグバイクに比べても、そうそう飛び抜けた価格帯ではないんだけれど、BMWにはずっとそういうイメージがある。
G310は、そんなイメージをことごとくぶち壊す世界戦略車だ。生産はインドのTVSモーターカンパニーで、インド国内ではモペッドやミニバイク、3輪バイクまで生産している、輸出実績が国内第2位の総合メーカー。もちろん、開発と品質管理はBMW本社なので、BMWクォリティはがっちり守られている。
インド生産のためか、価格がちょっと衝撃的だ。G310Rの消費税込み58万円ってプライスは、近い価格帯としてMT-03の55万6200円、VTR250の59万8320円、そして390DUKEの62万円といったあたりがライバル。いや、BMWモデルとして史上最高にお買い得なモデルだろう。
パッケージは、スモールサイズのシングルエンジンモデルで、サイズ的には国内250ccより小さめ。ホイールベースが1400mm近辺、車重160kgというサイズで、ちょうど125や390のスモールDUKEシリーズを思い浮かべるといい。車体の構成はごくオーソドックスで、フロント倒立フォーク、リアにモノサスを組み合わせた、シングルエンジンにスチールパイプフレームのスモールストリートバイク。けれど、随所に新しいアイディアが入っているのがBMWらしい。
まずはエンジンだ。通常のマウントレイアウトを真逆にして、前方吸気/後方排気としている。これは、エキパイをフロントホイール側に出さないことでエンジン搭載位置を前方に持っていき、フロント荷重を稼いで、軽快なハンドリングを可能にしているのだ。このことで、同じホイールベースでもスイングアームを長く取ることができて、これもリアサスの動き良さにつながっている。動きがいいから乗り心地が良く、ライダーの設定体重を多く見積もってスプリングレートを上げても、長時間乗っても疲れが少ないのだ。
車体構成はごくオーソドックス。けれど、エンジン搭載位置を前に持ってきたことで、エンジン重心も車体中心に近づき、159kgの車体重量よりも軽く感じられる。
またがってみると、やはり車体のコンパクトさと軽さが際立つ。シートは厚みがあるのに低くて足つき性がよく、フューエルタンクにボリュームを持たせているのに、スリムに感じられて、取り回しが軽い。僕の体格(178cm/80kg)でも窮屈じゃないし、160cmそこそこの体格のライダーでも取り回し泊にしないだろう。
エンジンの回り方は、まさに水冷DOHC単気筒。単気筒らしいドコドコ感はなく、吹け上がりが軽く、速い。低回転からドンとくるトルクではないが、発進トルクはそこそこで、バーグラフのタコメーターが4000rpmあたりでグン、6500rpmあたりでもう一段グンとスピードが乗ってくる。レスポンスがダイレクトで、アクセルを開けた瞬間のツキがいい。排気量の310ccという数字より、かなりパワフルに感じられる。
これはストリートバイクとしての適性がいいな、と思っていたら、高速道路のクルージングも苦にしないのがBMWっぽかった。ちなみにトップギア6速で80km/hは5000rpm、100km/hは6400rpm。クルージングスピードは120km/hくらいにしても、快適で苦もなくクルージングできるだろう。ちょっと違反だけれど、100~120km/hくらいが、高速道路の現実的なクルージング域だろうからね。
ハンドリングは、クイックというより、この車重にしては安定感がちゃんと感じられて、シャープな運動性よりも、乗り心地の良さを確保している印象。これは、エンジン搭載位置とロングスイングアームの効果なのか、安定性と動き出しの軽快さがうまく両立されている。少しワインディングも走ったけれど、クイックすぎる動きはなく、安定性と軽さが両立しているようなキャラクターだった。寝かし込みが軽くて、バンクしている時の安定性も高い、そんな印象。それでも、ちょっと入力を強めにしてやると、動きはとたんにシャープになる。倒立フォークとラジアルマウントキャリパーの装備はダテじゃないな。限界は高そうだし、純正タイヤがミシュラン・パイロットストリートなのもいい。タイヤのグレードは、国産のライバルたちより一枚上だ。
少し気になったのは、フロントフォークがソフト目だったこと。調整機構はないので、フォークオイルの番手や油面高さで調整するといい。リアサスは工場出荷より、プリロードを抜く方向で調整してみると、僕にちょうどよかった。
ストリートバイクらしいコンパクトさと小回りの利きがあって、高速道路のクルージングもまったく苦にしない。街乗り、高速道路、ワインディングを走る適正のバランスがすごく高くとれていて、これ一台あれば、走るステージを選ばないな、って思わせる。それも、やはりBMWらしいキャラクターだといえるのだ。
東京・お台場に「BMWグループ東京ベイ」って巨大ディーラー&ショールームがあって、メインはBMWやMINIのショールーム、それに興味があるお客さんも多いんだけれど、そこにモトラッドの展示スペースもあって、普段バイクに乗らない層のお客さんが興味深げに眺めているのが、電動スクーターのCエボリューションと、このG310Rなのだという。残念ながら国内在庫はほぼ完売で、次回の入荷を待つしかないのが残念。
そして、BMWのウェブサイトには、もうG310GSの写真も公開されている。Gシリーズも、GSやGT、RSなんてバリエーションが増えると面白いね。
まったく新しいBMWのGシリーズ。またひとつ、普通免許ワクに強敵が出現した、ってかんじです。
(試乗・文:中村浩史)