2017年7月20日
KTM 1290 SUPER ADVENTURE R試乗
先端装備とダートライディングの歓びを 高次元でまとめたKTM流・汗ばむ旅バイク。
■試乗&文:松井 勉 ■写真:KTM ■協力:KTM JAPAN http://www.ktm.com/jp/
BMW、トライアンフ、ドゥカティ、スズキ、ヤマハ、ホンダ、カワサキ、MVアグスタ……。クロスオーバー、アドベンチャーバイク、トラベルエンデューロ、様々な表現をもって呼ばれるこのカテゴリーの中で、最もオフロードライディングに強いプレゼンスを持っているメーカーがKTMだろう。そのトップモデルが1290スーパーアドベンチャーRだ。
エンデューロバイクの世界では、プロユースと同等のプロダクトをラインナップし、連綿とイヤーモデルとして進化させるほか、モトクロスやダカールラリーでの成功や、Red Bullなどエナジードリンクがサポートするエクストリーム・イベントで、KTMの名は轟いている。
そんなKTMがストリート向けアドベンチャーバイクに取りかかったのは1990年代後半、水冷単気筒のLC4エンジンを搭載する640アドベンチャーからだった。当時から市販のラリーマシンを用意し、アマチュアがラリーの門戸を開けやすいよう道筋を付けていた彼らにとって、ビッグタンクやカウルを装備したデュアルパーパス、という枠を飛び越え、エンデューロバイク同様、競技用に近い高性能なバイクとしてそれらは存在していた。事実、IMOというデジタルトリップにもなるメーターパネルを装備し、その気になればラリーバイクに改造する事も手間が掛からなかった。
初期のアドベンチャーは、バランサーを採用し、負圧キャブを装備したとは言え、レース用エンジンをベースにしたそれは、パワフルだが振動も多く、舗装路の移動ではそれなりの我慢をライダーに強いた。それでもデュークやモタードモデル同様、ストリート向けKTMを代表する一台だった。
連綿と続けていたKTMのダカールラリーへの挑戦がようやく報われたのが2001年。ヤマハ、カジバ、BMWの後塵を拝し続けた歴史に終止符を打ったKTMは、まさに新時代のアドベンチャーバイクの原型となるファクトリーバイクで初めての勝利を手中に収めた。950ラリーと名付けられたそのバイクは、2003年に登場する950アドベンチャーそのものと言っても良く、そのDNAは現在まで続く75°水冷V型2気筒、LC8エンジンに受け継がれている。
LC8エンジンはスーパーデュークや、さらにチューニングしRC8などにも転用され、KTMロードモデルの礎となった。
KTMのストリートバイクのラインナップを見ると、1290スーパーアドベンチャーS、そしてここに紹介するスーパーアドベンチャーR、1090アドベンチャー、1090アドベンチャーR、さらに30リットルの燃料タンクやセミアクティブサスを備えるスーパーアドベンチャーTの5機種展開をするあたり、KTMにとってアドベンチャーモデルに賭ける意気込みがただならぬことをお解りいただけるだろう。
フロント21インチ、
リア18インチ。
シャーシはKTMのラリーバイクの伝統となりつつあり、そしてストリートモデルでも活用されるクロモリ鋼を使ったトレリスフレームを採用。その間に1301㏄の排気量を持つエンジンをつり下げるように搭載。このパワーユニットは160psと140Nmという強靱な出力を生みだす。もちろん、すごいのは開けた時だけではなく、2500rpmですでに108Nmという充分な力をライダーに与えてくれることだ。
そして、前後のサスペンションは、1290スーパーアドベンチャーSが採用するセミアクティブ電子制御サスではなく、WP製のフルアジャスタブルを装備。前後ともに220mmのストロークを持つそれは、イメージカットで頻繁に使われる、ジャンプ上等! という走りにも応えるもの。
さらにフロントに90 /90 -21 、リアに150/70-18というタイヤを履く。アフリカツインと同サイズでもあり、オフロードを強く意識したサイズであることも特徴だ。エンデューロバイクが履くようなナローなダートタイヤはリムが太いのでフィットしないが、240キロほどになる満タン時の重量や、160psをうたわせたときの足の速さを考えたら、このサイズは妥当。今回もコンチネンタル製TKC80というダート向けタイヤを履いての試乗となった。
これは、とにかくダートでコイツの本領を味わって欲しい、というKTMの狙いだったのである。
最先端のデジタルダートクルーザー!
1290スーパーアドベンチャーSのリポート( http://www.mr-bike.jp/?p=130506 )でもお伝えしたとおり、KTMは2017年モデルでリニューアルしたこのシリーズに、最新デジタル技術を惜しみなく搭載してきた。ライダーがキーを所持していれば電源を起動できるキーレスエントリーとしたほか、TFTカラーモニターとなったインパネ周りも注目だ。周囲の明るさに合わせ、バックグラウンドの色も変わるほか、直射日光の下でも視認性に優れるものだった。
ライドモードの設定はこれまで通り採用されるが、搭載されるエンジンの変更や、ABS、トラクションコントロールなど電子制御周りの進化に合わせ、設定などが煮詰めなおされている。
さらにオプションとなるトラベルパッケージを選択すれば、ABSを同調制御させる坂道発進アシスト機能、ヒルホールドコントロールや、スマートフォンとバイクがBluetooth通信をすることで、TFTモニターにオーディオ情報、電話などの情報を表示できるKTM MY RIDEもアクティブにできる。
もちろん、これはヘッドセットを同期させれば、使い勝手がさらに上がることはいうまでもない。これまでもガーミンなどのナビで同様のコトはできたが、バイクとスマホ、ヘッドセットだけでそれが完結し、あれこれハンドル周りが賑やかになることもないのだ。
また、アップ、ダウン双方をクラッチレバーの操作をしなくてもシフト出来るクイックシフタープラスや、パワーアシストスリッパークラッチ(PASC)も装備するが、リアタイヤがグリップを失い、ロックすると、スリッパークラッチとしての機能が失われるため、さらに一歩進んで電子制御するためのモータースリップレギュレーションも付帯する。言わば、エンジンブレーキをコントロールするわけだ。このオプションを盛り込めば一括アクティブになるのはオトク感満載だ。
また、ヘッドライトがコーナリングランプを含め、待望のLEDライトとなった。遠地を走るアドベンチャーバイクにとって明るいライトは必須。ライバルと肩を並べたことが何より嬉しい。
実際、オーストラリアの田舎道を日暮れ後走ったが、LEDを体験すると、1090アドベンチャーRのハロゲンライトだと光量が物足りない、と思ったのが正直なところ。それほどストレスがない。
ツアラーとして高得点。
ダートバイクとして満点なスコア。
跨がるとシート先端部がしっかりとタイトになっていて、タンクも見た目のボリューム感とは裏腹にニーグリップエリアは体がコンタクトする部分が掴みやすい形状なので、大きなバイクだがごつさを感じない。
また、足着き感も足をまっすぐ下ろせるので悪くないと思った。とはいえ、890mmとシート高は低くないので体格を問うことは間違い無いだろう。250mmというエンジン下のクリアランスを確保した本気のダートバイクだけに、それが一つのキャラクターでもあるのだ。
ポジションはKTMらしいワイド過ぎないハンドルバーで同社のエンデューロバイクなどと似たポジションだ。ステップに立つと、さらにKTMらしいポジションだと感じる。
操作系に重さはなく、クラッチも軽いし、ブレーキもラジアルポンプマスターらしい初期からしっかりと油圧がキャリパーに伝わり好印象だ。
1日目、長い距離の舗装路をこのバイクで走った。タイヤがダート向けTKC80 だったので、ゴロゴロ感が抜けないところはあったが、ある程度ペースを上げた走りでも舗装路では想像以上にしっかりとした接地感、ハンドリングで楽しめた。また、ブロックタイヤ一連の唸り音も許容範囲だと感じた。ロードセクションだけならスーパーアドベンチャーSに軍配が上がるのは当然なのだが、以前の1190シリーズのような常にオフ車感がつきまとうコトもなかった。
それより2日目に走ったダートでの印象が嬉しかった。1090アドベンチャーRと比較すると、前後の荷重バランスがよりフロント寄りな印象で、アクションをするには相対的に1090のほうがやりやすいが、初めて走る林道ルートでは、フロントの安心感、接地感は1290のほうが上で僕の好みだった。
それでいて後輪のトラクションも良く、低い回転から排気量を利したトルクの厚みで加速すると、お尻を振りながら加速する1090をラクラクに捕捉する実力があった。
サスペンションの動きはスイートの一言。多様な性能の中でロードでのアジリティー、スタビリティーも必要な重量級パワフルマシンにして、低い速度、低い荷重からでもしっかりと仕事をするWPサスペンションが濃密な時間を提供してくれた。ブレーキング時も、初期からしっかりと路面にタイヤを押しつけてくれるし、ブレーキを残しながら入るカーブで、アクセルオンに転じる場面でも、フワつくこと無く挙動が一貫しているので、安心を背景に自分なりのチャレンジに没頭できる。これ、最高じゃん!
撮影では荒れ地にも入り込んだが、重心位置が低く、バランスが取りやすいばかりか、エンジンが2000rpm程度から充実のトルクでバイクを押し出すので、ここでも安心感が高い。クラッチレバーの操作に気をつけて、前輪が通るラインに注意し、走ればシングルトラック的な場所も停めず、搔かず進めることができた。
パワフルに走っても、ブレーキのタッチやサスペンションの良さが光るため、自信をもって楽しめる本気のダートクルーザーだ。ちなみに、ライディングモードをロード、オフロード、双方ともダート路で試してみた。ロードはフルパワーだが、トラクションコントロールの介入が早く、オフロードモードは最高出力が100psとなるが、より積極的にダート路を蹴る感じで、パワー差は全く感じ無かった。コツとしては、トラクションコントロールの特性をつかみ、アクセルを無駄に開けないライディングに徹すれば意外や、よく走る。トラコンが効くとライダーは心理的についつい右手を開けてしまうが、それは逆効果で、グリップ限界を超えている以上、余計に介入を促進するだけで推進力がそがれてしまう。濡れた赤土でトラクションを稼ぐがごとくアクセルを戻し、トラクションを探り「来た!」というポイント掴み、そこからじわりと開けてグリップを拾い出しつつ、無駄な部分を電子制御にまかせれば実はかなりの加速力を引き出せるのだ。
ABSも活かしたままでも、進入で慣性を活かしてテールをスライドさせれば、そこにある程度駆動力を載せるだけで軽めのテールスライドでニュートラル感覚のコーナリングを楽しめる。走ったダート路はカント変化が大きかったので、一発外すとスライドが止まらなくなる可能性があったので、ムリは出来なかった。それでも1300㏄のバイクをダートで楽しめるとは!
さすがKTMである。TやSもあるが、やっぱりR! 渾身の魅力を感じた。KTMとはなんぞや、と知らずにこのバイクを買う人も少ないだろうが、あえてKTMを買うと言う人にはこのバイクは本当にオススメ。激戦区で闘うための本気、その全てが詰まっているからである。
(試乗・文:松井 勉)
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