2017年7月4日

MBHCC E1 西村 章 MotoGPはいらんかね

Vol.121 第9戦 ドイツGP Another Second to Be

MBHCC E-1
西村 章

Vol.121 第9戦 ドイツGP Another Second to Be

 シーズン折り返しの第9戦で、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が8年連続ポールポジションスタートからの優勝。圧倒的な強さを見せつけて前半戦を締めくくった。レース前から「今回の狙いは優勝。25ポイントを獲りにいく」と公言していただけに、不安定な天候になった週末の各セッションを通じてドライでもよしウェットでもよし、と死角のない強さで、決勝でも30周のレースをきっちりとコントロールして、公約どおりに25ポイントを獲得。チャンピオンシップを争うライバル勢の各種各様の結果と相俟って、今シーズン初めてランキング首位に浮上した。
「3戦前は37ポイントも離れていたのにね。アッセンの前にチーフ・メカニックのサンティ・エルナンデスが『大丈夫。オレたちはランキング首位に立って夏休みに入るから』とWhatsApp(スマートフォン用無料通信アプリ。日本でいえばLINEのようなもの。余談になるが、レースウィーク中の我々はこれを使って各方面と業務連絡や打合せ、取材時間などのコミュニケーションを取ることが多い)のメッセージを送ってきたので『酒でも飲んでるのかい?』と答えたんだけどね」とマルケス自身が決勝後に話したとおり、今年はレースを経るたびに混沌の度合いが増している。
 第9戦終了段階での順位は、
 マルケス(129)-ヴィニャーレス(124)-ドヴィツィオーゾ(123)-ロッシ(119)-ペドロサ(103)
 という非常に接近した状態だが、サマーブレイク明けの2連戦チェコ~オーストリアを終えた頃には、このトップファイブの順位や得点差、そしてひょっとしたら顔ぶれも、現在とはまったく異なるものになっているかもしれない。知らんけど。

マルク・マルケス

指の折り方もいろいろあるのです。

*   *   *   *   *

 2位はヨナス・フォルガー(モンスター・ヤマハ Tech3)。ホームGPでその国出身の選手が活躍するのを見るのは、やはりよいものである。「正直なところ、優勝も狙っていた」とレース後に述べた言葉にあるとおりの覇気に満ちた走りで、最高峰へのステップアップ後9戦目にして表彰台を獲得。これで、今シーズンのヤマハはファクトリーとサテライトの全員が登壇したことになる。
 そういえば、開幕前の2月セパンテストで、バレンティーノ・ロッシが彼らサテライトの2名を評して「今年のTech3のふたりはなかなかいいと思う。ザルコは活躍すると思うよ。フォルガーも、少し後ろについて観察してみたけど、良い走りをしていた」と話していたことを、今回の彼の表彰台獲得でふと思い出した。
 ちなみに、最高峰クラスでドイツ人選手がドイツのグランプリで表彰台を獲得したのは1974年にニュルブルクリンクで開催された西ドイツGP以来(このときはドイツ人選手が表彰台を独占)。ザクセンリンクサーキット(現在のコースとは場所もレイアウトも異なる)では、1971年に東ドイツGPでE・ヒラーが3位を獲得している。
    

ヨナス・フォルガー

観客席からは地鳴りのような大声援。

*   *   *   *   *

 2010年から2012年まで当地で3連覇を達成したダニ・ペドロサは、今回は3位。このサーキットは左コーナーが10に対して右が3、と極端な差のあるコースで、タイヤの左側が摩耗しやすいのに対して右は適正な熱を維持するのが難しい、というのはよく知られている話である。決勝後のペドロサは
「このコースは周回が長く、タイヤのスピニングをマネージしながらでもラップタイムを刻んでいける。でも、今日のレースでは周回ごとにどんどん前が離れていった」
 と話していたのだが、つい聞き逃してしまいがちなこの言葉のなかに、MotoGPマシンの高度な技術とMotoGPライダーの卓越した技術が象徴されている。MotoGPって、すごいなあ。子供みたいな感想で、すいません。

ダニ・ペドロサ

レース後にはブルノでテストを実施。

*   *   *   *   *

 4位はマーヴェリック・ヴィニャーレス、5位にバレンティーノ・ロッシ、とモビスター・ヤマハ MotoGPの2台が入った。
 前戦のアッセンから使用しているニューシャシーはヴィニャーレスとロッシにそれぞれ一本ずつ提供されているらしく、つまり彼らのバイクは一台が2017年スタンダード、もう一台が2017年改、ということになる。つまり、レースがフラッグトゥフラッグになった場合は(ならなかったけれどもね)、どちらの車体で走り出すかということも彼らには重視しなければいけない戦略となっていた、ということでもある。
 バルセロナ事後テストでは、このニューシャシーに対して両選手ともに好感触を伝えていた模様だが、アッセンではややふたりの評価が分かれた様子で、さらに今回になると、ヴィニャーレスは金曜にはニューシャシーで走ったことを明言したものの、土曜と日曜の決勝レースでは、「話しちゃいけないって言われてるんだ」とあまり明らかにはしたくなさそうな様子だった。
 一方のロッシは
「ニューシャシーでなければ、今日のレースは最終的にバルセロナやヘレスみたいに低い位置で終わっていたと思う」と新しい車体を使っていることを明かし、その性能も積極的に評価している。で、このニューシャシーだが、2016年の特性に近似しているという説もあるようなのだが、はたしてじっさいのところはどうなのでしょうね。

マーヴェリック・ヴィニャーレス

ここ数戦の不調からは脱した模様。

バレンティーノ・ロッシ

38歳史上世界最速。たぶん。

*   *   *   *   *

 そして、今回ちょっと特記しておきたいのが、7位に入ったアレイシ・エスパルガロ(アプリリアレーシング・チームグレジーニ)。開幕戦カタールの6位に次ぐ、今季セカンドベストリザルトである。予選グリッドも8番手と悪くないパフォーマンスで、決勝でもヤマハファクトリー2台やドゥカティファクトリーと絡む走りをしてみせた。ただ、本人としては彼らの前に出られなかったことが、なんとも悔しかったようだ。「彼らと同じ集団にいたことはよかったけど、内心では自分はもっといいペースでいける気がした。でも行けなくて、がんばるたびにとまりきれずはらんでしまった」
 今シーズンはマシントラブルによるリタイアや転倒などノーポイントレースもいくつかあるものの、完走したレースはほぼシングル。昨年のアプリリアと比較するとわずかずつとはいえ、着実に前進を果たしている傾向はレースリザルトからも見て取れる。
 一足飛びに良い結果を得るのは難しいだろうが、今後も研鑽と努力と前進を続けてほしいものである。

*   *   *   *   *
アレイシ・エスパルガロ

よくがんばっていると思います。

 で、MotoGPはこれで4週間の夏休み期間に入る。決勝レースが終わったときには、パドック内の皆の顔が少し浮き立っているようにも見えた。というわけで、8月の第10戦までしばらくおやすみ。そして、季節は8耐である。では、また。


 



■2017年7月2日 
第9戦 ドイツGP
ザクセンリンク

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


2 #94 Jonas Folger Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


3 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


4 #25 Maverick Viñales Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


5 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


6 #19 Alvaro Bautista Pull & Bear Aspar Team DUCATI


7 #41 Aleix Espargaro Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


8 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


9 #5 Johann Zarco Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


10 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


11 #99 Jorge Lorenzo Ducati Team DUCATI


12 #9 Danilo Petrucci OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


13 #44 Pol Espargaro Red Bull KTM Factory Racing KTM


14 #38 Bradley Smith Red Bull KTM Factory Racing KTM


15 #43 Jack Miller Marc VDS Racing Team HONDA


16 #36 Mika KALLIO Red Bull KTM Factory Racing KTM


17 #17 Karel Abraham Pull & Bear Aspar Team DUCATI


18 #53 Tito RABAT EG 0,0 Marc VDS HONDA


19 #76 Loris BAZ Reale Avintia Racing DUCATI


20 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


21 #42 Alex Rins Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


RT #22 Sam Lowes Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


RT #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。


[第120回|第121回|第122回]
[MotoGPはいらんかねバックナンバー目次へ](※PC版に移動します)
[バックナンバー目次へ](※PC版に移動します)