2017年7月5日
スモール DUKE 三兄弟に乗ってみた──Part 3 KTM 390 DUKE
『ベースから3倍のエンジンを載せる……的痛快さ。 マッシブなコンパクトスポーツマシンを楽しむ。』
■試乗&文:松井 勉 ■撮影:富樫秀明 ■協力:KTM JAPAN http://www.ktm.com/jp/
こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/MZ7Vllfam3c |
ボディーサイズは変わらないのに、125、250の物腰とは異なるしっかりした足周り。それを要求するパンチと伸びのあるエンジン。ああ、390。これで開眼してしまったライダーは間違い無く手強い。そう思わせるスポーツバイクの逸材。今更だが、もう一度それを再確認した。
袖ヶ浦フォレストサーキットで行われたデュークシリーズのメディア試乗会。125、250、そして390と一気に同じトラックで試乗する事で、そのキャラクターの違いを改めて学習できた。スモールデュークがデビューする前、このシリーズは、125と同じ車体に200、250、そして390もゆくゆくラインアップする、とにかく若い人にストリートで楽しいバイクを提供したい、という考えをKTMのスタッフから聞いたとき「それはやり過ぎだろう」と思った。200までは何となく国内でも例があるが、390なんて、125の3倍だ。250とナナハンが車体を共有? 聞いたことない。じゃじゃ馬のマッスルカーになるのでは(それはそれでおもしろそうだ、とも感じた)、と思ったからだ。ホンダのホーネットもあったが、あれ、250と600、900では中身が別物だったし。
そんな思いで初対面の時には思っていたが、400クラスのエンジンを見事に使いこなすシャーシと、パワフルで伸びやかなエンジンがもたらす比類無き走りの世界にあっという間に引き込まれたのが記憶に新しい。
その最新型、2017年の390デュークだ。スタイルチェンジも今回の話題だが、先代までの少し丸くコンパクトバイクらしいカタチから一転、サイズはそのまま。前方斜め下に抜けるような伸びやかさを持ったスタイルになった。薄手のヘッドライトのスラント具合もその意匠に大きく貢献。どう見ても精悍さが増している。
ちょっとした「オトナっぽさ」の源泉はTFTカラーモニターを使ったメーターパネルなど、プレミアムクラスを思わせる装備や、トレリスフレーム、外観から力強いエンジン、WPサスペンション等々、デザインや素材のトーンがより大型のKTMからにじみ出す「本気度」がよりストレートに感じられるからでもある。コンパクトクラスとして生まれたデュークにして、2世代目は、大人への階段を着実に上がる成長を見せていることを喜んでいるユーザーもいる事だろう。
つまり、ビッグに疲れた、とか、小粋に小さいのを振り回したい、あるいは、ダウンサイジングの潮流に乗るバイクを待っていた、という人にはナイスなチョイスとして視野に入っているバイクではないだろうか。
125から共通のサイズ感だが、跨がった瞬間、パワフルなバイクであることはすぐに解る。サスペンションの初期設定がけっこうハードだからだ。
シート位置が上がり、前傾姿勢風味になったポジションもあって、ネイキッドだが戦闘的なポジションに思える。それでいて、そこは軽量なバイク。とっつき難さは微塵も無く、足着きも良いし、クラッチ、ブレーキの操作系にも重さはない。エンジンを始動すると、250よりも一回り強い鼓動感で排気量の大きさを伝える。単気筒400クラスというと、振動、ドコドコを連想する向きもあると思う。一言でいってKTMの4スト単気筒エンジンはテイスト路線ではなく、同社のエンデューロバイクなどがもつ、伸びやかでパワフル、特定の回転からパワーがドッと出るのではなく、フラットなトルク特性のもの。その特性に合わせたボア×ストロークやカムプロファイル設定を得意とするだけに、390デュークもアクセルに対するパワーの出方が想像しやすいタイプだ。
コースインして感じるのは250や125とはやはりクラスが違う速さだ。3コーナーに向けて全開にすると、到着速度が150キロ近い。その先、複合の4コーナーへとブレーキングしながら飛び込んでも、シャーシががっちりしていて、ふらつくこともない。そこから寝かし込み、旋回するのだが、大型のスポーツバイク同様、サスペンションもしっかりと受け止める印象で、旋回減速しながらのライン取りも自由度がある。
そこから上りを加速して右から左に倒し込む。長い時間リーンするこのコーナーは荷重を載せるのにメリハリが必要なカーブだ。クリップを狙いながら、アクセルを開ける。フラットなトルク特性のエンジンだから、むしろ何速を選ぶかが難しい。シフトライトを点灯させながら高回転を維持するより、一つ上のギアでトルクの上昇を巧く使いながら脱出加速につなげた方がその先が速い気がする……。
もう、スモールデュークにして390あたりになると、スーパーバイク系モデルでサーキットを走るのと同種のヒリヒリした感覚を楽しめる。もちろん、パワーは少ないし、車体は軽い。しかもそれらに比較すればアップライトなポジションだ。だからといって、無理強いをするライディングをすれば、正直に「嫌だよ」と返してくるのもコンパクトさの証し。
ブレーキングはとても安定している。250より速いのに、操作力やブレーキングポイントを手前に取らずともイケルのは、320mmプレートの恩恵だろうか。同時に、アクセルオフでクリップに向かい、その先、アクセルを開けはじめた時に強大なトルクでドンツキ感がでることもない。とにかく開け始めの部分のエンジンマネージメントがいい。
この辺、滑るダート路でトラクションを生み出す術をよく知るメーカーだ、と思わず唸る。チョイ開けから安心して立ち上がり旋回に集中できるから、アクセルを全開に持っていくまでも速い。それが操る気持ち良さに繋がり、ことサーキットではライディングファンの上昇スパイラルに突入できる。
125に比べて3倍の排気量、だから390はマッスルカー的な、なんて書いたが、扱いやすさはそのまま。走りの満足度は本当にマッスル的に美味しい。「バイクはコーナリングの一体感、そこから始まる次へのカーブへの物語」。今日はサーキットだったが、一般道を飛ばさずに流しても、同じような満足感を与えてくれるはず。
183cmの大男が乗るには写真的にアンバランスだが、それでも走りに窮屈さはどこにもない。やっぱりスモールとはいえデュークは楽しい。ABSや最新の環境性能をもちながら、この楽しさ性能。62万円は世界的希少価値のある単気筒スポーツと考えたらお買い得なのでは、とサーキットの帰りには捕らぬ狸が皮算用するのであった……。
(試乗・文:松井 勉)