2017年6月2日
SUZUKI GSX-S750 ABS試乗
『ミドルクラスネイキッドに求めるものは パワフルさでもシャープさでもない』
■試乗&文:中村浩史 ■撮影:松川 忍 ■協力:SUZUKI http://www1.suzuki.co.jp/motor/
GSX-Sは、GSX-Rのエンジンをベースとしたスポーツネイキッド。
これまでは1000cc、対して750ccはGSR750ってネーミングだったため
今回のマイナーチェンジを機に車名を変更。
けれど、新生GSX-S750は、それだけじゃなかったのだ。
GSR750は、実にツウ好みのスポーツネイキッドだった。
GSX-R750系エンジンを使用し、ノンカウルの軽量バージョンとしたストリートバイク。実は、車両重量自体はR750に比べて20kgほど重くなっているんだけれど、それはR750に使用していたアルミフレームやアルミスイングアームなど、ストリートでの効果は小さい、と判断されたパーツをスチール製として、販売価格を抑えてもいたのだ。
ちなみに、後に国内仕様が発売されてプライスダウンしたけれど、スズキの逆輸入車販売を手掛けるモトマップでの税抜き販売価格を比べると、2011年仕様でGSX-R750=131万円/GSR750=99万円だった。これが、スーパースポーツvsストリートバイク、つまりアルミフレームvsスチールフレームの解釈の違い、立ち位置なのだろう。
そのGSR、走りも文句なし、パワーがあってコントローラブル、それに価格も抑え目、というポイントが人気で、販売ベスト10に入るような目立った人気はなくとも、時にツーリング先で目にするような、それもベテランがサラッとカッコよく乗りこなしているようなモデルだったように思う。
GSX-S750は、そのGSR750のマイナーチェンジモデル。GSRのデビューが2011年だから、6年分の進化が詰まっているモデルというわけだ。見た目は大きく変わらないけれど、乗り味はきちんと上質に変わっている。それでいて、価格は据え置き――。これぞマイナーチェンジ、っていう正しい変更だなぁ。ちょっとくらい値段上げたっていいのにね、けれどこれがスズキの良心なのだ。
エンジンは、旧GSX-R750系の水冷直列4気筒をベースとした、先代GSR750のものを引き継いで、新規の排出ガス規制をパス。6年分の進化としては、GSX-S1000に採用されたトラクションコントロールを採用し、SV650に採用された、発進時に自動で回転をすこーし上げてくれる「ローRPMアシスト」も追加してある。
エンジンのフィーリングも大きくは変わらないもので、4000回転くらいからパワーが盛り上がってきて、8000回転くらいから上は12000回転ちょい下くらいまで、きれいに吹け上がる。その盛り上がり方、加速フィーリングは、うひゃぁとても目が追い付かない、ってタイプではなくて、きちんと自分の手の中でコントロールできる、そんな特性だ。どの回転域でも、ドンとくるパワーはないが、それはGSX-S1000を知っているからで、この750もきちんとパワフルだ。「ちょうどいい」なんて思えないほど力強い。
ハンドリングは軽快なもので、アップライトなポジション=高いアイポイントが気持ちいい。特に、シャープなハンドリングが云々というよりは、乗り心地がいいのに気がつく。これぞ6年分の進化の表れで、特にサスペンションのグレードが上がったわけではなくとも、装着されるパーツ単体が6年分新しくなったからか、動きがしっとりしている。
決してクイックな運動性ではなくとも、落ち着いた乗り心地。わざとギャップを乗り越えても、大きなおつりがくることもない、安定性ある動きなのだ。特に、GSR時代にはリアサスが動かない印象があったので、そこが大きく改善されていると思う。ここは、試乗車のコンディションにもよるから一概には言えないけれど、GSR時代にも大きな破たんはなかったし、問題も感じなかったのが、さらに落ち着いた、という印象が正しいかも。
エンジン、ハンドリングとも、タイプはコンフォートでイージー、というキャラクター。もちろん、張り切って走れば十分に速いし、ワインディングでがりがりとヒザをこすりつけて走るのもカンタン。けれど、それも魅力の「一部」なだけであって、渋滞路も街乗りもイージーにこなし、高速道路のクルージングも快適で、ワインディングでのスポーツも出来る。スズキが狙った通り、1000ccも含めて、GSX-Sはオールラウンドなスポーツなのだ。
ちなみにクルージングの快適性アップは改良点のひとつで、6速ギアがローレシオになって、ドリブンスプロケットも1丁ロングに、つまり同じスピードで走っても、GSR時代よりもエンジン回転数が抑えられ、その分ライダーは快適さを感じ、燃費もよくなっている、というわけ。6速、80km/hでは3300回転、100km/hで4000回転くらい。ここから加速しようとするとパッと反応してくれるし、クルージングでは振動やノイズが少なく、快適に流せる。これが、GSX-S750に「乗ってもらいたいライダー像」を感じさせるのだ。
今回、外装パーツが変更され、先代GSRよりも落ち着いたデザインになっているのも見逃せないポイント。兄貴分の1000と共通イメージになって、GSRのツギハギ感が薄れた印象。派手すぎず地味すぎず、写真の黒×青はスズキらしく、あとは先代の白×青(=トリトンブルーメタリック)も追加されるといいな。
ミドルクラスのスポーツネイキッドと呼ばれるモデルは、世界中のメーカーが持っているものだ。ホンダならCBR650Fがあって、ヤマハはMT-07/09、カワサキはZ800があるし、ドゥカティもモンスターがあって、BMWはF800かな、トライアンフもモトグッツィもMVアグスタもミドルクラスのスポーツネイキッドをラインアップに持っている。その中でGSX-S750は、ミドルクラススポーツが求められ、持っている性能がまっとうで、正しい。ナナハンだからって、決して「ちょうどいい」わけじゃないし、「ジャストフィット」なわけでもない。
十分に速い、けれど速すぎない。
軽いハンドリングだが、シャープすぎない。
そして、値段が税込み100万円アンダーで、安っぽさがない。
これがGSX-S750、これがミドルクラスネイキッドに求めるキャラクターなのだ。
(試乗・文:中村浩史)