2017年5月15日
Honda CRF250L インプレッション
始まりも、リスタートも。 バイクライフを鍛える一台、 ここにあり!
■試乗&文:松井 勉 ■撮影:依田 麗 ■協力:Honda http://www.honda.co.jp/motor/
『痒いところに手が届くアップデイトを施したCRF250Lの2017年モデルは、レーサーのCRFシリーズ同様、目にも鮮やかなレッドとブラック、そして渋みあるグレーが印象的にバランスされたルックスで出迎えてくれた』。
2012年にCRF250Lが登場して以来、最大となる変更を受けた2017年モデルを紹介したい。その内容は、吸排気系が中心となる。エンジン型式はMD38Eで変わらないが、スロットルボディーをφ36mmからφ38mmへと大径化。それに合わせて、エアクリーナーボックス内部からスロットルボディーに延びるコネクティングチューブを100mm延長し、吸入効率をチューニング。
また、排気系ではサイレンサーを3室型から2室構造へ。エキゾーストパイプの径を従来モデルではφ28.6mm径パイプだったものを、途中からφ38.1mmへと拡大する構造を採用している。
これらの変更で、新しい環境規制に合致させながらも、従来型よりも1kWアップの馬力と、250回転低い6,750rpmで1N・m多い最大トルクを稼ぎ出している。
オフセットクランクや、ローラーロッカーを使った水冷DOHC4バルブ単気筒の基本仕様は不変ながら、燃焼効率の改善とドライバビリティーを向上させているのが特徴だ。また、外装関係でも、テールランプやフェンダーをシュッとスリム化させている点で「一目でわかる」度を上げている。
サウンドに満たされて。
2017年CRF250シリーズのニュースは間違いなく“RALLY”の発売開始だ。それにちょっと隠れた感はあるが、「本家250Lも忘れてはならない」と250Lは力強く訴えかけてくる。
前250mm、後240mmという長いサスストローク、車体前側にデザインの重心があり、テールに向けて細くなる印象のスピード感。
跨がると、スリムなタンク、足着き性と快適性を兼ね備えた細身のシート、着座位置からハンドルバーへの距離が短く、コンパクトなライポジなど、オフ車らしさをしっかりと持っている。
クラス最軽量というタイトルは持たないが、適切な重量配分のおかげで重さを感じる場面はない。走り出しても、その印象は同じだった。
マフラーから聞こえる音はパルス感が増し、アクセルに対するレスポンスもしっかりと粒が揃っている。3,000rpmあたりからスムーズな力感があり、3,500rpmでシフトアップをしても、しっかり推進力を見せてくれる。それでいて、ポンポンとシフトアップをして、街中の流れの中で5速、6速がラクに使える。さすがに交差点の左折を3速のまま行こうとすると、単気筒エンジンが暴れるが、ひょっとすると、イケルのでは、と思う程スムーズさがあるのだ。
資料にあったエンジン性能曲線で確認すると、むしろ低い回転でトルクもパワーも出ているのは従来モデルの方だ。きっと、マフラーからの音質に単気筒らしいパルス感と、低音域サウンドが強化されたあたりから力感を受け取っているのだろう。2017年モデルの旨味は、5,000rpmから上のところで、トルクもパワーも従来型を上回っている。
先入観なしに乗っている時、感心したのは、そうしたスペックアップよりも、シームレスで力強く、4スト・シングルらしい伸びやかさを持っている事だった。どこからか急激に立ち上がるようなラフな印象はなく、5,000rpmあたりから「回せば意外と速いじゃん!」とニンマリさせてくれるパワーを持っているのだ。
ハンドリングは車体に無駄な動きをさせないタイプだ。コンパクトなポジションの源泉となるハンドルポストがやや高めな印象となる。これがCRF250Lの特徴的なハンドリングを作っている。初代はリアが硬め、フロントが良く動く印象で、ワインディングではロールさせると21インチのオン・オフタイヤとは思えない追従性でスイスイとコーナーを切り取る感じだった。
新型では、それよりもややフロントのレスポンスが穏やかになったようで、しっとりとした印象を今回は受けた。かといって250なのにどっしり、というワケではなく、オフモデルらしいワイドなハンドルバーと、ステップからの荷重などを巧く組み合わせて走れば、穏やかにもクイックにも反応を変えてくれる。これならばビギナーから巧いライダーまで楽しめる。
ミッションのタッチはあともう少々カッチリ感が欲しいところ。基本的にはクラッチの操作感と合わせてまとまっているし、ブレーキにも不満がない。良く走るバイクだ。
4スト250のオン・オフは、バイクの先生だ。
このバイクと走りながら、こんな事を思い出した。自分が初めてオフロード体験をしたのは河原だった。チャリダー時代、河原を漕ぐ事の重労働をよそに、バイクは虫が飛ぶように走っている。いざ、自分がバイク乗りになってそこへ行くと簡単ではなかった。自転車では太腿に乳酸がたまったが、砂地に玉石が混ざったコースをぎったんばっこんしながら走り、腕が揚がり(腕前が上がったのではなく、腕が筋肉痛で揚がってしまった……)、ものの5分でダウン。バンクのついたカーブの外にもっていかれた。
全身に力が入り、ハンドルを抑え、ガチガチになって走っていた。だから、体が少しでも後ろに遅れると、アクセルを閉じることすらできず、コントロールを失う。速度は30km/h以下。ギアだってローだ。しかし、そこにバイクの本筋の多くが入っていた。
「バイクが巧くなりたかったらオフに行け!」
先輩はそう言った。が、しかしその時点でその理由など解るはずもない。できたのはヘタな見本の実演ぐらいだ。
大分たって林道に行った。当時はやりの4時間エンデューロにも出た。林道への道程を250のバイクで走る。すでに大型2輪免許を持っていたボクにとって、そのパワー感はカワイイものだった。が、林道に入ると、とたんに重たいバイクに変貌する(軽いのに)。滑る→恐い→びびる→力入る→曲がらない→疲れる→おいて行かれる、というスパイラルに入り、リッターバイク経験者なんて肩書きは全く通じない。通っていたバイク屋では、一人で林道行った時、パンクしたらどうする! と、タイヤの交換を覚えさせられた。タイヤレバーでチューブを咬み、空気漏れ、幾ら空気をいれても、ビードが出なくて泣きそうだった(が、それのおかげで今では自信がある)。
「ヘタだなぁ、バイク乗るの」──先輩にそう言われる。オフロードでの所作は事実そうだ。開けっぷり、それだけは良かったが、曲がる、止まるは意に任せない。ハタチで限定解除、リッターバイク乗り、バイク界の頂点を極めたつもりになっていたが、オフロードではガタガタだった。これがあってこそ、その後の探求心が継続して今に続いているのだろう。仕事で海外のオフロードまで入り込み、長時間走る愉しさ、深さといったバイクの深淵も体験できた。それもオフロードバイクが取り持ってくれた縁だ。
大型二輪免許を持っていただけに、マイ・オフロードバイク1号こそ250だったが、2台目からは600に。排気量が大きいほうがウイリーもパワースライドも簡単。だから、仕事を初めて250に乗ると、小さなエンジンを使い切ることに馴れていないため、撮影した写真がダサかった。ここでケツ流して、ここで飛んで、ここでウイリーして、というリクエストをくれるカメラマンがライテクの師匠になった。なんとかそれに応えたい。基本を抑えられるようになって初めてそれらができた。
かなりたってから「巧くなりたかったらオフに行け、250から始めれば充分」という言葉が染みた。
CRF250Lも誰かをそんな魔界に引き込む導火線だとして間違いない。長旅用の大きな荷物を、スレンダーなリアフェンダー付近に積むのは難しいだろう。8リッターに満たない燃料タンクを使って、ガソリンスタンドの少ない田舎道で航続距離を計算しながら走ることは、不安との闘いだ(CRF250Lの開発を担当したオフロード好きのエンジニアは、通勤にもCRF250Lを使うユーザーでもあるが、彼によればツーリングでは35km/L近く走らせる事も可能だ、という)。足場の悪いところでサイドスタンドが地面に潜ってバイクがコケる、なんてことがないよう、停める場所にも気を配るようになる。簡単なメンテナンスを自分でこなせば、携帯するのに必要な工具の種類、ツーリングに便利なリペア具材などの情報にも敏感になる。チェーンのメンテがいかに走りに効くか、250だとリアルに解る。
このバイクで遠出をすれば、間違いなくバイクの感性が磨かれる。
そんなポテンシャルを秘めたバイク。それがCRF250Lだ。もっとツーリング寄りのRALLYも魅力的だが、250Lも侮れない。ああ、でもCRF250 BAJAも見てみたい、そんな贅沢も言いたくなる逸材だ。
冒険はあなたの中に眠ってますよ、とCRF250Lは静かに語っている。さあ、どうします?
(試乗:松井 勉)