2017年5月9日
MBHCC-E1 西村章・MotoGPはいらんかね
第116回 第4戦 スペインGP Milestones
第4戦スペインGPのMotoGPクラス決勝レースは、1949年にロードレース世界選手権として最初のレースがマン島TTの350ccクラスで行われてから3000戦の節目だそうである。1000戦目は1975年、ホッケンハイムで行われた西ドイツGPの50ccクラスで、優勝を飾ったのはアンヘル・ニエト。2000戦目は1997年の鈴鹿・日本GP500ccクラスで、優勝者はミック・ドゥーハン。そして3000戦目となった今回のヘレス・MotoGPクラスでは、ダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)が優勝を飾った。
21世紀に入って、年間のレース数は20世紀後半よりも増加傾向にあり、今後も年間開催数を増やす方向で検討されているようでもあるので、将来は年間20戦ペースで推移すると仮定すれば、4000戦目のレースは16年後にやってくることになる。去年や今年にMoto3クラスにデビューした若い選手たちが、ひょっとしたらその頃には最高峰で活躍し、次の節目を飾ることになるのかもしれない。
というわけで、母国GPで優勝を飾ったペドロサだが、MotoGP昇格初年度の2006年に最高峰デビュー(当時はスペインGPが開幕戦だった)で、いきなり2位表彰台を獲得したレースは非常に鮮烈だった。2003年に125ccでチャンピオンを獲得し、2004年と2005年は250ccを連覇。三年連続チャンピオンの勢いを駆って最高峰に昇格してきた当時の彼はまだ20歳で、「神童」ということばが相応しいオーラと存在感を発揮していた。小さな体躯で990ccのモンスターマシンRC211Vをどこまで乗りこなせるのか、という不安要素もないではなかったが、MotoGPデビュー戦になったヘレスのレースではそんな周囲の懸念を払拭する走りを披露した。
チームメイトのニッキー・ヘイデンをあっさりオーバーテイクし、その後はトップを快走するドゥカティのロリス・カピロッシに一時は0.2秒ほどまで迫り、最後は2位のチェッカー。レース後には「次はもっと速く走れると思います」と述べたことにも驚かされた。これはどえらい逸材が出てきたな、というそのときの印象はいまでもはっきりと思い出すことができる。
あれから11年が経過したわけだが(回顧モードになってしまってすいません)、ヘレスサーキットで開催されるスペインGPでは、ペドロサはコンスタントに表彰台に上がり続けてきた。2007年:2位、2008年:優勝、2009年:2位、2010年:2位、2011年:2位、2012年:3位、2013年:優勝、2014年:3位。
しかし、2015年は開幕戦カタールGP終了後の深夜に腕上がりの手術を行うと発表し、その経過観察のため、ホームレースのスペインGPは欠場。2016年は表彰台を逃し4位で終えた。
この近年2戦の結果は、ある意味では非常に象徴的で、最高峰昇格当初は次代のチャンピオン候補と目されながら、毎年のようにアクシデントや不運な怪我に見舞われて優勝争いから脱落。その一方で、新たにレプソル・ホンダのチームメイトとしてやってきたケイシー・ストーナーやマルク・マルケスがめざましい成績を上げて王座を獲得していった。
今年の四月末にHRCから引退した中本修平氏が、副社長就任中に達成できなかった大きな心残りのひとつとして「ダニにチャンピオンを獲らせてあげたかった」と、しみじみと述べたのも、その心情は慮るにあまりある。特に昨年は、タイヤサプライヤーの変更や共通ECUソフトウェア導入などの要素が、ペドロサに対してあらゆる方向から逆風となる格好で、かなりの苦戦を強いられるシーズンになった。
今年も開幕序盤2戦は厳しい結果だったが、前戦のオースティンでは3位表彰台。そして今回は、完璧にレースをコントロールする持ち味を発揮して優勝を達成した。レース後の質疑応答では、ここ数年チャンピオン候補と見なされなくなっていることを自分ではどう思っているのか、という厳しい質問も飛んだのだが、それに対する彼の回答がじつに素晴らしく、箴言といってもいいほどの示唆に富む内容だった。
「優勝候補でも蚊帳の外でも、そんなことは関係ない。大事なのは自分の目標に集中することなのだから。外野の言うことが結果を左右するわけじゃない。結果を出すのは、自分自身なんだ。今日のレースのようにね。だからこそ、今日は勝てたことが本当にうれしいんだ」
2位はマルク・マルケス。レース前にはヤマハに対して苦戦するであろうと公言していたものの、ウィークの推移はまったく逆の展開で、ヤマハファクトリーが両名とももがき苦しむようなセッションとレースになったのに対して、ホンダ陣営は総じて好調で、予選ではフロントローを独占。レースもホンダファクトリーの1-2フィニッシュ。ちなみにレプソルが1-2フィニッシュを飾るのは2015年ドイツGP以来。ヤマハ向きのコース、と予想されたヘレスで健闘した理由について、マルケスは「自分たちのバイクの長所が削られているぶん、短所だったところをよくすることで埋め合わせができている」と説明をしている。その意味では、次戦のルマンも従来はヤマハ優勢と言われることの多かったコースだが、そこで両陣営が果たしてどのようなパフォーマンスを見せるかにも要注目である。
3位のロレンソは、予選で8番手を獲得した際に、スリップストリーム狙いで後ろにつこうと執拗にまとわりつく選手を「はえ」呼ばわりして、相変わらず面白いことを言うなあ、と感心したのだが、ともあれこれがドゥカティ移籍後初表彰台である。
「一発タイムは出せなかったがレースペースはほぼ大差ない」と話していた自信を、しっかりと結果につなげた格好だ。ドゥカティに移籍した今シーズンは、開幕戦で11位、第2戦転倒リタイア、第3戦9位、と厳しい結果が続いた。アルゼンチンではシート位置を上げることで乗りやすくなったと述べ、また、今回のレース前には、ヤマハ時代には全然使わなかったリアブレーキも積極的に使用し始めたものの、まだ完全にモノにはしきっていない、とも話していた。
そんな彼と今年のドゥカティGP17のパフォーマンスに対して、今回のスペインGP前に欧州某誌が「ドゥカティの危機」と題して何人かのジャーナリストにアンケートを実施したのだが、それに対する回答として寄稿したものを少しここで紹介しておきたい。
[問1. ドゥカティはピンチか?]
ウィングレットを使用できなくなったこと、他メーカー(特にホンダとヤマハ)が共通ECUをうまく使えるようになってきたことで、ある面の優位性はなくなったといえるかもしれない。第3戦が終了した段階では苦戦傾向にも見えるが、開幕戦ではドビが2位表彰台を獲得しているので、今年のGP17が〈危機〉というのはやや拙速なとらえ方かも。ドゥカティが危機に見えるとすれば、それはあくまで序盤2戦でマーヴェリックが素晴らしい才能を発揮したからであって、また、COTAはマルクの独壇場であることも忘れてはいけない。
[問2. 今年のドビは苦戦しているか?]
開幕戦で2位表彰台を獲得している。次のヘレスとルマンは以前からドゥカティに厳しいコースだが、第6戦のムジェロと次のモンメロでは、きっとドビはいつもの高い戦闘力を発揮するだろう。
[問3. ホルヘはドゥカティに順応できているか?]
完璧ではないにしても、けっして悪くないと思う。まだ気持ちよく乗れていないのだろうが、2011年のバレンティーノの悪戦苦闘と比べればはるかにマシな水準なのではないか。次のヘレスとルマンは、ホルヘ自身がもともと得意としているコースなので、その2会場は、彼のドゥカティに対する順応レベルを測る良い機会になるだろう。
今回の3位獲得というリザルトを前に、改めて自分の回答をこうやって見てみると、けっして間違った方向の予測はしていなかったな、と手前味噌ながら少し胸をなで下ろす。まあ、その分、突飛な面白さには欠ける回答だったのかもしれないけれども。
そして、開幕以来トップを脅かす走りを何度も披露して大いに注目を集めるヨハン・ザルコ(モンスター・ヤマハ Tech3)は、今回自己ベストリザルトの4位でゴール。レース後に話を聞くため、チームのホスピタリティで待っていたとき、扉が開いてザルコが入ってくるとホスピタリティにいた全員が万雷の拍手で彼を迎えた。いいものだな、と思わせる良い雰囲気だ。取材の席についたザルコは、レース結果について「ファンタスティックなリザルトだ」と話した。
「スタートからなかなかのフィーリングで、他の選手たちが立ち上がりでリアのグリップに苦しんでいるようだったけれども自分はそこが良かったので、その機を逃さずに追い上げた。ダニを追いかけようとしたけども離れていたし、ホンダを追うのは厳しかった。3番手で走りながら、タイヤとラップタイムをうまくコントロールしようと心がけて、ホルヘに抜かれたときも、最終ラップまでついて行けると思ったけど、終盤8ラップは加速がホルヘのほうがよかったので、最後の数ラップは4位維持に切り替えた。今日は表彰台に上がれるかも、と長い時間(走りながら)思っていたんだけどね。目標は、常に表彰台を目指すことだから、これからも毎戦がんばりたい」
で、次戦は、そんなふうに話す彼の母国GPである。今の勢いと、サテライト仕様(≒2016年型)YZR-M1のパッケージバランスの良さを勘案すると、これは結構、また面白いレースを展開してくれるかも。
では、2週間後にルマンでお会いいたしましょう。
■2017年5月7日 第4戦 スペインGP ヘレスサーキット |
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順位 | No. | ライダー | チーム名 | 車両 | ||||
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1 | #26 | Dani Pedrosa | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
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2 | #93 | Marc Marquez | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
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3 | #99 | Jorge Lorenzo | Ducati Team | DUCATI | ||||
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4 | #5 | Johann Zarco | Monster Yamaha Tech3 | YAMAHA | ||||
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5 | #04 | Andrea Dovizioso | Ducati Team | DUCATI | ||||
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6 | #25 | Maverick Viñales | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
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7 | #9 | Danilo Petrucci | OCTO Pramac Yakhnich | DUCATI | ||||
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8 | #94 | Jonas Folger | Monster Yamaha Tech 3 | YAMAHA | ||||
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9 | #41 | Aleix Espargaro | Aprilia Racing Team Gresini | APRILIA | ||||
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10 | #46 | Valentino Rossi | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
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11 | #45 | Scott Redding | OCTO Pramac Yakhnich | DUCATI | ||||
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12 | #8 | Hector Barbera | Avintia Racing | DUCATI | ||||
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13 | #76 | Loris BAZ | Avintia Racing | DUCATI | ||||
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14 | #38 | Bradley Smith | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
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15 | #17 | Karel Abraham | Pull & Bear Aspar Team | DUCATI | ||||
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16 | #22 | Sam Lowes | Aprilia Racing Team Gresini | APRILIA | ||||
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17 | #12 | 津田拓也 | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
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RT | #29 | Andrea Iannone | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
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RT | #53 | Tito RABAT | EG 0,0 Marc VDS | HONDA | ||||
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RT | #35 | Cal CRUTCHLOW | LCR Honda | HONDA | ||||
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RT | #43 | Jack Miller | Marc VDS Racing Team | HONDA | ||||
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RT | #19 | Alvaro Bautista | Pull & Bear Aspar Team | DUCATI | ||||
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RT | #44 | Pol Espargaro | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
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