2017年4月17日
YAMAHA TMAX530試乗
フルモデルチェンジしたYAMAHAのスポーツコミューター「新型 TMAX530」 『これまでのモデルよりゼロ発進から200mまでの4馬身、5馬身くらい先に行く!』
■試乗&文:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明/依田 麗
■協力:YAMAHA http://www.yamaha-motor.co.jp/
新型のTMAX530はコンパクトになった印象だ。数値的な差というよりフロントマスクが小顔になって全体的にシャープな感じ。前から見ていると250ccクラスと間違ってしまいそうなくらい。近づいてみると、シボ加工された樹脂部分にある、職人が手作り入れたものを型にしたというステッチのテクスチャーが、クルマの内装みたい。各部のマテリアル感が違っていて全体的なシルエットだけでなくディテール、質感にもこだわったことが分かる。アフターバーナーを全開にして飛びたつジェット戦闘機のテールノズルをイメージしたというメーターも立体的に見えて面白い。流石イタリア、フランス、スペインを中心とした欧州、スクーター大国として知られる台湾などで、確固たる人気とブランド力を持っているヤマハスクーターの旗艦モデルといった作り込み。
試乗したのはスタンダートより豪華装備のDX。この日はずっと雨で、濡れた体が冷えるので、DXが標準装備している、グリップヒーターとシートヒーターのスイッチを入れた。その暖かさは、何よりも嬉しい装備だった。伊豆修善寺にある日本サイクルスポーツセンターの周回コースを走り出して、すぐに思ったのは、足周りの動きが良いこと。特にリアサスペンションがどの速度でもしっかりストロークして路面追従がいい。小径(前後15インチ)ホイールを履いたスクーターらしからぬ動き。ところどころ小川のように水が横断しているコンディションだったけれど、タイヤのグリップ状態を掴みやすく怖くない。この新型はスタンダードのSXで7kgもの軽量化している。そのダイエット項目の中にタイヤも入っており、バネ下が軽減されたことも効いているのだろう。
アルミのメインフレームは新型になって、単体で2.3kgも軽くなり、エンジンを40mm前に出し、19mm上に上げて、リアサスペンションはこれまでのプルロッドからプッシュタイプのリンク式になった。乗車した時の自然な沈み込みから、コーナー立ち上がりで、スロットルを開けていく時にグッと沈み込んでトラクションする立ち振舞は、よりオートバイ的な自然な動き。もちろんロードスポーツモデルとは乗車ポジションも含めて違うのは確かだけど、減速から侵入、そして旋回までの動きが自然でリーンしている時の安定感も高く、積極的にスポーツライディングしたい気持ちになれる。スクーターというとクイックで不安定な動きと想像してしまう人もいるかもしれないが、そういうのはない(旧型でもそうなんだけれどね)。足周りのレベルアップは、小さな溝や穴を痛快した時のいなしが落ち着いてスムーズで、スポーツライディングに貢献するだけでなく快適性にも繋がっている。スポーツスクーターとして、走りにこだわってきたTMAXだが、また新しい領域に入ったと感心しながら走り回った。下りながら減速し侵入するコーナーでも、左右に小さく周り込むコーナーの連続でも、スロットルを開けていき速度をのせて曲がる高速コーナーでも、水に足元をすくわれないように気をつけて走っているとはいえ不安定になるシーンは1度もなかった。
これにはYCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)を採用したことも大きい(CVTとの組み合わせはヤマハ初)。なんてったって、トラクションコントロールが付いているんだから。コースとはいえサーキット舗装ではなく一般道の舗装に近いところ。路面も一部荒れていたりもする。そしてこの天気。小径ホイールにより走破性、安定性で一般的なロードスポーツより苦しいスクーターだからこそトラクションコントロール装備はありがたい。水冷2気筒エンジンは吸排気を見直して、より低中速トルクを上げて、「これまでのモデルよりゼロ発進から200mまでの4馬身、5馬身くらい先に行く」と商品説明の時に聞いたとおり、開けるとグイグイと加速。さらにレスポンスが良いのに低速のスロットル操作でギクシャクするようなことがない。これと、そのハンドリングの組み合わせで、車格がワンランク小さくなったように俊敏に動け、四の五の言わずに単純に走り込むのを楽しめた。
新しいTMAX530は、見た目、利便性、快適性、走行性、どれも旧型よりレベルアップしたと実感した。進化の度合いは大きい。この力の入れ具合が、大きな市場と高い評価をされてきた裏付けでもある。DXで135万円といっきに上がった価格は、はっきり言って安くはない。けれど、本質を上げたこれなら、こだわりを持ったユーザーも納得できそうだ。ヤマハがスクーターという表現をあまり使わず、“スポーツコミューター”として、スクーターの範疇に入れたくない気持ちが理解できる走りだった。
(濱矢文夫)