2017年3月31日
Honda CBR1000RR SP 試乗
NEXT STAGE “Total Control”の実力は、 一般道で、どう体感できたのか?
■試乗&文:松井 勉 ■撮影:富樫秀明/依田 麗
■協力:Honda http://www.honda.co.jp/motor/
ホンダのスーパースポーツモデルのフラグシップ、CBR1000RRがモデルチェンジを受けた。新型CBR1000RRを造ったエンジニア達は、「軽く、操ることを楽しむためのモーターサイクルです。このバイク、まずは一般道で試して欲しい」と言う。歴代のCBRから受け継いだDNAは、普段の道で走ってみてこそ感じられるものだと言うのだ。それは最大限の、自信の表れでもあった。
こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/-d4-f8vd6HQ
ホンダを語る歴史は数多い。その中の一つ、ファイアーブレードの名で親しまれるCBR900RRから始まる走りのDNAは「BIGクラス最軽量 ニュースーパースポーツの開発」と題された一通の書面から始まった。
曰く……、
「BIGスポーツクラスの流れは最速化及び高出力化へ向けた競争下に有り、速さの評価は高いものの操る事はToo Much Controlと言う評価に結びつつ有るのが現状である。
従って操る愉しさを表現し且つ速さ(加速力)を両立した真のFun to ride可能な最軽量スーパースポーツを開発し、BIGクラスのニュースーパーコンセプトとして市場投入し、シェア拡大及び収益向上を計る(原文まま)」
そして四角く囲われた中に
「操る事を最大限満喫出来る最軽量スーパースポーツ」
とあり、
Namingとある別の四角の囲いの中にはCBR900RR(FIREBLADE)
全て手書きで記されている。
その下にある車両イメージを伝える文言にはこうある。
外観Looks 最新鋭RRフォルム
1 機能優先のワイルド&モダンデザイン
2 走行抵抗RC30相当
3 HRCタイプ、カウル面孔明化
走り 最軽量総合性能#1
1 完成車重量 185㎏(DRY)
2 パワー/115PS以上
3 動力性能
4 ハンドリング&取り回し 600ccクラス
また、書面の右上には92年モデル、CBR900RRとあり、主仕向地がEC、LPL(
ホンダ流の開発責任者を意味する役割、ラージ・プロジェクト・リーダーの略)馬場 とある。馬場忠雄さんだ。水面下で進められたというファイアーブレードシリーズが表面化し、転がり出した瞬間なのだろう。
初代CBR900RRの市販から25年。2017年にフルモデルチェンジを受けたCBR1000RRのメディア試乗会の会場に飾られたこの「歴史書」からは、最後のシェア拡大、収益向上という文言が加えられ、上司がハンコを捺しやすいようにした以外、造り手の思いが完結かつ力強くまとめられていることがわかる。
軽く、操作を楽しむためのモーターサイクル。そんなバイクをまずは一般道で試して欲しい。それはCBR1000RRを造ったエンジニア達は、引き継いだDNAをまずは普段の道で、とした。それは最大限、自信の表れだとも採れる。
サーキットはまた別の機会に、というワケだ。
しかし、3月も終わりだというのに、タイミング悪く南岸低気圧の影響で前日には関東の山々に降雪。試乗に出かける予定だった箱根の道は走れる状況ではなかった。
開発者による新型CBR1000RRの技術ブリーフィングを受ける中でキーワードだったのが軽量化だ。軽量化は初代から受け継ぐレガシーであり、CBR・RRシリーズのテーマだという。開発にあたって突きつけられた目標値は高く、すでに絞りきった贅肉からさらに絞るという物だったそうだ。しかし、3000点にも及ぶ構成パーツ一つ一つを見直し、結果的には15㎏の目標を上回る16㎏もの軽量化を達成している(ABS搭載車での比較)。
意のままのハンドリングは速度を問わず、ワインディングを攻めずとも交差点を曲がったレベルから体感可能だという。そこを味あわずして深化した走りをサーキットの全開走行の中、体感できようはずもない(自分が楽しいだけ、になってしまう……)。そこで、今日は日曜のツーリングペース、ほんの少しだけワインディングを楽しむペースで新世代CBR1000RRを走らせた。
試乗したのはCBR1000RR SP。チタン製燃料タンク、リチウムイオンバッテリーを標準で装備し、オーリンズ製セミアクティブサスペンション、スマートECを前後に装備。アップ、ダウンとも走行中はクラッチレバー操作をせずともシフトが可能なクイックシフターを備えた上級グレードである。
このSP、サーキット向けスペックというより、新型が標榜するネクストステージ・トータルコントロールをみっちり味わうこと。そして、ライバルに水をあけられていた最新の電子制御技術をフル装備したモデルで、走りのアイコンであり、趣味性、所有感をより満たす一台とも言える。装備されるオーリンズのスマートECは他のブランドでも採用されるものだが、その制御マップを共同で開発したCBR1000RR SP用専用レシピだという。
CBR1000RR SPが目の前にある。現物とは昨年に対面したが、あの時同様、強烈なコンパクトさで迎えてくれた。サイドスタンドからおこす。やっぱり軽い。チタンタンク、リチウムイオンバッテリーだけでスチールタンク、鉛バッテリーのCBR1000RRよりも3,300グラム軽いという。電子制御の装備や、2人乗りと1人乗りなどSPとの違いがあるから単純な引き算はできないが、兎も角、軽くコンパクト、という印象が支配的だ。
今、このクラスは走りの性能と、それを裏付ける電子制御というカッティングエッジな技術の分量がどうなっているのか。また、走りのためにどこまで造り手が拘ったのか、という熱量までをしっかりとユーザーは評価する。
その点でCBR1000RRはこのモデルチェンジで同一周回数へと復帰した、とも言える。たとえて言うなら、レースでのピット戦略は新型をどう変化させたのか。そこも気になるところだ。
パワフルさを予感させるレプリカ系4気筒らしい音を奏でる排気系もチタン製だ。クラッチは軽い。スロットルbyワイヤー(以下TBW)となったアクセルを煽っても、違和感など無い。右手とエンジンが、というより、意思が直接エンジンにコネクトしているような感覚すらある。
新型が装備するライディングモードはデフォルトで、レーストラック向けのモード1,ワインディング向けのモード2,そしてストリート向けのモード3が用意されている。SPの場合、そのモードに合わせ、オーリンズスマートECによりサスペンションの特性もモード1では操縦性重視、モード2では操縦性+乗り心地、モード3では乗り心地重視重視となる。また、セレクタルブルトルクコントロール(いわゆるトラコン)、セレクタブルエンジンブレーキ、パワーセレクター(出力特性、スロットルレスポンス)も合わせて変化する。
つまり、エンジン特性と足回りセットアップが同時に変化する。
さらに、車体の動きを緻密にセンシングする慣性測定ユニット(IMU)が車体姿勢を推定し、ABS、セレクタルブルトルクコントロール、サスペンションへもフィードバックすることで、より綿密で濃厚な制御と、結果として芳醇な操作フィールを生み出すという。
このモードにはデフォルト設定以外にユーザーが各数値をパーソナライズして好みに仕立てられるユーザー1,ユーザー2というモードも用意されている。お好みで設定したものを記憶しておけるものだ。
試乗のスタート時は、電子制御の変化が解りやすいよう、開発者が電子制御の介入がもっとも少ないようにパーソナライズしたユーザー1を選択してスタート。その後、モード1、2、3を試す。
軽いという印象の車体だ。アイドリングのままクラッチを繋いでもスルリと動き出す。2,500回転以下でシフトアップをする。その回転数でもクイックシフターの作動に引っかかり感はなく、クラッチやアクセルを戻さずシフトできる簡便さと新鮮さが嬉しい。シフトダウンもコン、コン、コンと落とせる。
TFT液晶のカラーモニターになったダッシュパネルは、新しさのアイコンでもある。コンパクトなスクリーンの奥に覗くそれは、視認性に優れ、コンパクトだが解りやすい表示だ。
それにしても192馬力を生み出すエンジンにして、実力の片鱗も見せない領域にしてとても扱いやすい。市街地を走るならどのギアでも3000回転まで回す事もなく事足りる。
自然なハンドル位置、シート高も適切。スリムに造られたタンクやシート。その幅はタイトで、シートの幅の広いところに尻を預けると、膝がタンクと点当たりして、大腿部が浮いてしまうほど。一般道では前目に座り、太腿全体でタンクを包んでやると、ステップへの荷重がとてもしやすく、バイクの動きが軽い。逆に、後ろ目(と、言っても指2本分程度)に座ると、ライダーの動きが伝わり難く、ハンドリングがゆったりするので、クイックさが要らない時はそうしたシートポジションを取るのも手だね、と思った。
フロントにブレンボ、リアにニッシンのキャリパーを擁するブレーキシステムは速度を問わず質感の高い制動感と速度コントロール性を見せてくれた。今日の速度域など、リアブレーキが活躍する場面も多かったが、その使い勝手が素晴らしい。あとで聞いたら、セミアクティブサスが、減速時にリアを沈ませる制御をとり、制動感がよりリニアに伝わる、のだそうだ。
ある程度電子制御が介入しないよう技術者によってパーソナライズされたユーザー1で走り、デフォルトのモードを試す。モード1はなるほどサスの減衰が強め。一般道では足の動きが遅く、ギャップで動きが固く感じる。途中、ワインディングでも試したが、細かなギャップで荷重と折り合いがあわずタイヤがやや跳ねるようだ。モード2だとその足回りの角が取れ、エンジンのレスポンスもツーリングペースの走りにマッチする。不思議なのは、1でも2でも、せき立てられるような気分にはならないコト。
そして一番マイルドに思えるモード3が、降雪翌日の気温と低い路温ではもっともマッチ。安心してギャップの多い道でも接地感が得られた。それで居て、フワフワする事がない。なるほど、電子制御サス、良い仕事しています。そのままペースを上げて見ても、レインモード的なかったるさがない。
好みでモード毎にセッティングも出来るので、自分の好みに近づけられるから、いろいろ試すこともできる。でも、結局、デフォルト設定に戻すような予感がするほど、乗りやすい。
これまで電子制御には奥手だったCBRだが、探求心次第で様々な変化を体感し「自分探し」ができそうだ。
20分ほど走ったワインディングでは、パッケージとして、さすが! と唸るばかりだった。コーナーへのアプローチへの減速したときの荷重移動の様子はじっくり解るし、そこから自分の好みのラインに載せ、旋回し、出口が見えたら加速を指示するまでの一連が速度や荷重の度合いにかかわらず、しっかりと乗り手に伝わり、充実感がある。
走りだしてからそのフィーリングは速度を問わず変わらなかった。なるほど、トータルコントロールである。電子制御だから? いやそうではない。確かにサスペンションは適宜ベストな減衰を生み出すべく様々な情報をとり、その動きを計算しているハズだが、ロボットに支配されているような違和感はまるでない。ABSもトラコンも今日は介入するほどでなないから、普通のバイクと同様な動きをしているわけだ。
基礎性能が高い上に、電子デバイスが走りの純度を上げるべく高度な領域で備えて準備を怠っていない。この手の制御技術のマッピングを造っているのも人だ。その人達の走りへの思い、精度が高いほど乗り味にプラスしてくれる。ソフトウエアは人の力なのだ。
その本領を発揮するのはサーキットで50度近いバンク角で曲がりながらアクセルを開けて後輪にパワーを掛ける時(ではないか、と想像する)だろう。
とはいえ、サーキットでの全開走行を待たずとも、この日のテストで相当な満足感が得られたのは言うまでもない。その殆どをクルマの流れに合わせていた、というのに。
遠くない将来、クローズドでの走りを紹介できるはずだ。その日にはまた別のCBR1000RR SPの姿をお伝えできると思います。
(試乗:松井 勉)