2017年3月28日
MBHCC-E1 西村章・MotoGPはいらんかね
第113回 開幕戦 カタールGP Alien Chase on Arabian Desert
2017年最初のプレシーズンテストでトップタイムを記録したのは、大型移籍で注目を集めるマーヴェリック・ヴィニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)だった。初日3番手、二日目2番手、最終日には1分59秒368のトップタイム、と貫禄すら感じさせるような詰めかたで、日々の走行後コメントも、言葉の端々に落ち着きと自信がにじみ出ていた。三日目はレースを想定したロングランに出たとたんに雨がぱらついてきてピットへ戻ったため、レース周回こそこなせなかったものの、中古タイヤでのシミュレーションは上々のようで、安定して誰よりも高い水準のラップタイムを連発していた。まだプレシーズンテストを一回行っただけとはいえ、チャンピオン争いの可能性について訊ねてみた際の「うん、できると思うよ」と素直に笑顔で述べた様子から見ても、今年は間違いなく優勝候補の一角を占めることはまちがいなさそうだ。
2位のアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)は「マーヴェリックの速さは、頭ひとつ抜けていた」と正直に認めたうえで、自分たちのレース戦略に関しては、「グリッドでリアタイヤをソフトコンパウンドに変更した賭けがうまくハマった」と述べた。
この賭けは、決勝レース直前に雨が降ってスタート進行が延期となり、周回数も当初の22周から21周、そして20周へと短くなったことを考慮した作戦によるものだった、と振り返った。
「勝負に出た理由は、湿度が高くなってレースではスピードが上がらないだろうから、無茶をしなければソフトでも温存できると思ったから。それがマーヴェリックに対抗する唯一の方法だと思ったけど、向こうはハードタイヤだしペースも良かった。ペースを維持しようと思ったけど、リアのポテンシャルを存分に発揮できなくて、ラスト5周はかなり性能が落ちていった。
右コーナーはマーヴェリックのように速く走れなかったけど、自分のほうが速く走れるコーナーもあった。ラスト5周は全力でがんばったけれども、向こうも僕の弱点をうまく突いてきて、ラスト2周で仕掛けられて差が開いてしまった。うまい戦略だとは思ったけど、あの段階ではもはや勝負できなかった。とはいえ、このトリッキーなコンディションでミスした選手もたくさんいた中で、20周を走りきって20ポイントを獲得出来たのでよかった。良いレースになったのでチームに感謝している。マーヴェリックにとても近いところでゴールできたのは、良い内容だったと思う」
という、この沈着冷静な作戦立案と状況分析はさすがドヴィツィオーゾ、というべきだが、そのドヴィツィオーゾを脱帽させてしまう移籍初戦のヴィニャーレスの凄みがさらに際立つ、ともいえるだろう。
そのヴィニャーレスのチームメイト、バレンティーノ・ロッシは3位表彰台を獲得。プレシーズンテストからいまひとつ何かが噛み合わない様子であったにもかかわらず、決勝ではしっかりと帳尻を合わせてくるのだから、やはりたいしたものである。
「レースは上々。マーヴェリックをずっと視界に収めているなんて、テストではあり得なかったからね」
と、軽く笑いを取ってから
「最後はドビはソフト側のリアで苦労をしてくれないものかとも思ったけど、自分もフロントの右側が厳しかった」
とまずは納得の3位獲得になった様子。厳しい状況下でもこうやってうまくまとめてくることができるかどうかが、経験と技倆の差、というやつなんでしょうね。
対照的に、タイヤ選択を外してしまった代表選手が、4位フィニッシュのマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)。フロント用にハードコンパウンドを選択していたものの、グリッド上でミディアムへ交換し、それが裏目に出てしまったのだとか。
「(雨のために)レースを延期したのは正しい判断だったと思うけれども、結果的に路面温度が下がって湿度も上がり、タイヤ選択が難しくなってしまった。フロントにはハードを入れていて、大丈夫かなと思っていたら、ミシュランのエンジニアが『ハードはあなただけなので、転倒しないように気をつけてね』と言われて『わかった。じゃあミディアムにする』と換えたんだけど、それが失敗だった」
「フロントにハードを入れていれば優勝を争えたかもしれない。でも、ハードだとインフォメーションが少ないので、転んでいたかもしれない」
「タイヤが厳しくなってからは、完走に目標を切り替えた。サインボードを見ると<ダニ・3秒>とあったので、ダニの前で終わろうと思った」
今回は表彰台を逃したとはいえ、チャンピオン候補の一角であることは間違いない。堅実に4位で終えて獲得した今回の13ポイントが、シーズン後半に大きく効いてくるかもしれない。
今回のレースで誰かに敢闘賞を与えるとすれば、そのひとつはまちがいなくこの人に進呈したい。今年からアプリリア・レーシング・チーム・グレシーニに移籍した、アレイシ・エスパルガロである。レプソル・ホンダ・チームのダニ・ペドロサとバトルを繰り広げ、最後は6位でゴール。MotoGPのファクトリー活動復帰以来のベストリザルトである。しかも今回はレース内容が良かった。
「マルクやダニと1秒以内の差だよ。レースでバイクが本当によく走ってくれた」
と、決勝後の兄は上機嫌で相好を崩した。
「予選の一発タイムは改善しなきゃならないけれども、プレシーズンから中古タイヤではうまく走れていた。正直なところ、トップテンがせいぜいだと思っていたので、トップシックスは期待以上の結果だよ」
「直線でダニを抜いたときはうれしかった。夢のようだったよ。最終コーナーのトラクションは、ウチのほうがホンダよりも良かったと思う。加速でもしっかりついて行けたし、スピードに乗せることができている」
今後の課題は上記のとおり、ニュータイヤを入れたときの走りだと指摘した。
「新品タイヤのときの加速が問題だね。レース序盤は厳しくて、誰も抜くことができないんだ。予選が良ければ、トップシックス以上も狙えたと思う」
その日が早く来ることを、楽しみに待たせてもらうといたしましょう。
もうひとり敢闘賞をあげたいのが、ジャック・ミラー(EG0,0 Marc VDS/ホンダ)である。今回のレースウィーク前に彼から話を聞いた際は「テストの内容は良かったし、レースペースもまずまずだった。ウィークでも良い走りをできると思うので、バカなミスをせずにトップテン圏内でフィニッシュできればハッピーだろうね」と話していたのだが、結果は8位。ドライコンディションでの自己ベストリザルトである。
「FP1で転んでしまったし、その後は天候が不安定でセッションがキャンセルになったりしたなかで、もっと厳しい結果になっていてもおかしくなかったのだから、シーズンのスタートを踏み出せたのは上々だ。思っていたよりも良いリザルトになった」
とレースを振り返った。昨年のアッセンで優勝した後も、「普通のコンディションで早く良い結果を出したい」と常々言っているだけに、今回のレースはその弾みをつけるよいきっかけになったのではないだろうか。
さらに、今回はリザルトを残せなかったものの、レース序盤にトップを独走して皆を唸らせたのが、最高峰クラス初年度のヨハン・ザルコ(モンスター・ヤマハ Tech3)だ。
金曜のFP3で3番手タイムをマークした際には、こんなことを話していた。
「初日からフィーリング良く走れている。ビデオを観て、マーヴェリックがどうやって走っているのか研究したんだ。マーヴェリックが目の前にいるときは、後ろについて走って、自分がどこで損をしているか勉強できた。コーナーの入りは自分も悪くないことがわかったし、気持ちよく旋回できている。制御やサスペンションを煮詰めることで、立ち上がりも良くしていけると思う」
決勝レースで転倒した後は、「ケガはないけれども気持ちが痛む」と残念そうに話していたザルコだが、走行初日に4番手タイムを出したチームメイトのヨナス・フォルガーともども、今年はこのチームの新人ペアにも注目しておくと吉、かもしれない。
一方、今回がドゥカティファクトリーでの第一戦となったホルヘ・ロレンソは、11位でゴール。この結果が象徴するように、なかなか厳しい週末だったようである。
「そりゃ残念さ。夢のようなデビューとはならなかったからね。今回は状況も厳しくて、デビュー戦に理想的なコンディションではなかった」
とウィークを振り返った。
「今はまだ、戦うための充分な準備を出来ていないんだ。学ぶべきことはたくさんあるけれども、ポジティブなことも多かった。レースのスタートはよかったし、しっかり完走して5ポイントを獲得できた。速い選手たちが何人も転んだなかで、自分は転倒しなかったしケガもしていない」
他の選手たちも、ロレンソが復調してくるであろうことは充分に想定している様子で、なにせシーズンは始まったばかりなのだから、第2戦以降の彼の走りには要注目である。
さて、日本人勢はというと、今年はMoto2クラスに2名、Moto3クラスに3名が参戦している。
Moto2では、中上貴晶(IDEMITSU Honda Team Asia)が3位表彰台を獲得。悲願のチャンピオン獲得に向けて、まずは幸先の良いスタートになった。
「前の選手との差がなかなか詰まらない状況でしたが、最後までプッシュして表彰台でシーズンをスタートできたのは良かったと思います。ただ、その半面で反省点もあるし、次のアルゼンチンでこの借りを返したいですね」
2014年以来の復帰となった長島哲太(Teluru SAG Team)は19位。
「もう少し序盤のうちに前に出ることができていればポイント圏内も狙えたかもしれない、というのが正直な気持ちです。今回は100点満点でいえば60点くらいですね」
Moto3は佐々木歩夢(SIC Racing Team)が日本人最高の11位。世界選手権デビュー戦で5ポイントを獲得した。
「自分の課題や、セッティングの詰めて行くべきところも見えたので、アルゼンチンに向けていいレースになりました。悔しい結果ですけど、初戦でポイントを取っていいスタートを切れたので、この調子で落ち着いてさらに上を目指して行きたいと思います」
マヒンドラからホンダ陣営に移った鈴木竜生(SIC58 Squadra Corse)は15位で1ポイント。
「勝てるバイクなので15位という結果には満足できませんが、開幕戦からポイントを獲得したのは重要だと思います。次戦はトップグループで走りたいですね」
鳥羽海渡(Honda Team Asia)は19位で完走。
「ウォームアップでセットアップの課題を確認できたので、自信はあったんですが、レースは後方スタートで前に追いつくのが難しく、自分の思うようなペースでは走れませんでした。次のレースではもっと良いところを狙いたいと思います」
次戦はアルゼンチンGP。遠いぞ。無事に生きて現地へたどり着くことができれば、またお目にかかりましょう。
■2017年3月26日 第1戦 カタールGP ロサイル・インターナショナルサーキット 9月25日 |
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順位 | No. | ライダー | チーム名 | 車両 | ||||
1 | #25 | Maverick Viñales | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
2 | #04 | Andrea Dovizioso | Ducati Team | DUCATI | ||||
3 | #46 | Valentino Rossi | Movistar Yamaha MotoGP | YAMAHA | ||||
4 | #93 | Marc Marquez | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
5 | #26 | Dani Pedrosa | Repsol Honda Team | HONDA | ||||
6 | #41 | Aleix Espargaro | Aprilia Racing Team Gresini | Aprilia | ||||
7 | #45 | Scott Redding | OCTO Pramac Yakhnich | DUCATI | ||||
8 | #43 | Jack Miller | Marc VDS Racing Team | HONDA | ||||
9 | #42 | Alex Rins | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
10 | #94 | Jonas Folger | Monster Yamaha Tech3 | YAMAHA | ||||
11 | #99 | Jorge Lorenzo | Ducati Team | DUCATI | ||||
12 | #76 | Loris BAZ | Avintia Racing | DUCATI | ||||
13 | #8 | Hector Barbera | Avintia Racing | DUCATI | ||||
14 | #17 | Karel Abraham | Pull & Bear Aspar Team | DUCATI | ||||
15 | #53 | Tito RABAT | EG 0,0 Marc VDS | HONDA | ||||
16 | #44 | Pol Espargaro | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
17 | #38 | Bradley Smith | Red Bull KTM Factory Racing | KTM | ||||
18 | #22 | Sam Lowes | Aprilia Racing Team Gresini | Aprilia | ||||
RT | #9 | Danilo Petrucci | OCTO Pramac Yakhnich | DUCATI | ||||
RT | #29 | Andrea Iannone | Team SUZUKI ECSTAR | SUZUKI | ||||
RT | #19 | Alvaro Bautista | Pull & Bear Aspar Team | DUCATI | ||||
RT | #5 | Johann Zarco | Monster Yamaha Tech3 | YAMAHA | ||||
RT | #35 | Cal CRUTCHLOW | LCR Honda | HONDA |
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