2019年9月30日
Kawasaki KLX230/KLX230R 開発者インタビュー 『これでオフロード走行の魅力を味わって欲しいですね』
■インタビュー:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明
■協力:カワサキモータースジャパン https://www.kawasaki-motors.com/
先日、カワサキの新型オフロードバイク、公道で乗れるデュアルパーパスのKLX230と、コース専用モデルのKLX230Rのインプレッション記事をお届けしたが、今度はその2機種が誕生するまで、どういう経緯があり、どういうオートバイを目指して作られたのかを、開発に携わったカワサキ技術者3名の試乗後インタビューを中心にまとめた。これで、すべてが新設計の意欲的なオフロードモデル2台についてもっと知ることができる。
KLX230とKLX230Rのモデルコンセプトは、『誰もがオフロードライディングを楽しめるライトウェイトスポーツ』。そのために、“コンパクトな車体コンポーネント”“初級、中級レベルに合わせて扱いきれる楽しさを提供”、公道で乗れるKLX230はカワサキ初となるデュアルパーパスモデル専用のABSを標準装備。
エンジンはオフロード向けに新設計された空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒で、ボア×ストローク=67.0×66.0mmの232cm3。KLX230は振動軽減のバランサーシャフトが入っているが、KLX230Rには入っていない。ベースは同じものを使いながら、公道リーガルなKLX230とは細かな仕様が違う。高張力鋼ペリメターフレームは、ディメンションなど基本的なスペックは2台でまったく同じもの。
φ37mmのインナーチューブを持つ正立フロントフォークを使うフロントサスペンションは、キャスターとトレールとホイールトラベル量とセッティングが違う。ボトムリンク式シングルショックのユニトラックサスペンションもKLX230Rの方がホイールトラベルは増やされている。スイングアームはKLX230がスチール製で、KLX230Rはアルミ製だ。細かい所の違いは他にもたくさんあるが、これが2台の大まかなアウトラインである。
試乗した後に、現地でお話を伺ったのは、開発責任者である、川崎重工業株式会社モーターサイクル&エンジンカンパニーの和田浩行氏。エンジン設計の城崎孝浩氏。そしてデザイナーの小林 稔氏のお三方。
—成り立ちから想像した以上に、動きが軽くオフロードでコントロールしやすいと思いました。
和田:「そう言っていただけると嬉しいですね。私は開発リーダーですが、車体をメインにやっていました。まずこの2台に求めたのは、走破性です。要はちゃんとオフロードを走れること。限界を低く感じさせず、もっと積極的に乗れるようなものにしたかった。具体的に言えば、すぐ底づきしないサスペンションや、オフロードバイクとして安定していながら軽快さを重視しました。もちろん、ハイレベルのライダーは限りなく行けてしまいますし、競技用としてはもっとも高性能なモトクロッサーKXがあります。その落とし所ですね。簡単に破綻しない走破性、タフネスを与えながら、もっと多くの人がオフロードで遊べる性能にしました。」
—乗りながら重心が低く感じ、実際のサイズより乗っていてコンパクトな印象です。
和田:「この前にあった水冷エンジンのKLX250は、これよりパワフルながら走りは安定傾向で、どっしりとしているのはいいんですが、重たいものが上にあるようでした。切り返しや、コーナーリングでも動きの重さを感じる。それでもっと軽い操作で、よりリニアに動くように、フレーム、足廻り、エンジン特性、搭載位置の良いところ探しました。自画自賛になりますが、結果として、とてもバランスの良いものができたと思っています。どんどん前に進ませてペースを上げていける面白さを味わって欲しい。他社さんの機種と比べてどうのこうのというのはまったく考えずに、我々にはこうしたいという明確な目標がありましたからそれだけに集中して。」
—それはKLX230が誕生したきっかけのひとつである、インドネシアを中心にしたアジア市場でも同じですか?
和田:「今、そこでKLX150がヒットしていまして、もっとオフロード性能を高めたステップアップモデルが欲しいという声がありました。オフロードでの運転をスキルアップできる機種。ユーザーがもっとオフロードを楽しみたいと思っているんです。そこで必要なのは、とっつきやすさや親しみやすさだけでなく、より高い走る性能が必要になってくる。日本市場ではどうなのか。技術説明の時に、スーパーシェルパの後継ではないのか、という質問もありましたが、シート高も含めて親しみやすさ、乗りやすさだけにこだわらず、新しい提案と言いましょうか、もっと運動性能を高めた。だから、他社さんと比べなかったんです。違っていいと思いました。」
—その狙いに対して、新設計の空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒エンジンはどう合わせこんでいったのでしょう。
城崎:「エンジンの出力、パワー特性、ギア比の設定、クラッチの操作性など細かくこだわって作り込みましたね。オフロードで走りやすいエンジン特性はどういうものなのかと議論を何度もしました。トルクは唐突に出るよりフラットな特性で、何も考えずにスロットルを開けるだけでちゃんと前に出られる押し出し感のあるフィーリングがいいという結論になり、車体と、ハンドリングなどとのマッチングを時間かけてやりました。」
—空冷シングルカムを選択した理由を教えて下さい。
和田:「水冷より軽く作ることができ、スペース的にも、価格面でも優位。それで我々が望んだパワーとフィーリングが実現できるのならば、余分なものはいりません(笑) 低中回転域でのトルクをしっかり出して、コンセプトに掲げた、初級、中級のライダーが扱いやすい設定にしました。もっと高回転域の伸びが欲しいならモトクロッサーのKXがありますから、そこにはこだわらなかったですね。だから企画の段階からこう選択しました。」
—走りのタフネスとおっしゃってましたが、エンジンも簡単に音を上げないタフネスさがあるのでしょうか。具体的には、オフロードでクラッチを酷使してダメにする事例がありますが、その部分はどうでしょう。
城崎:「クラッチは弱くはないです。問題ありません。社内で運転スキルの高いライダーがかなり攻め込んで走りテストを重ねて作り上げましたので、完璧というのはないのですが、このカテゴリーの中では良い部類に入っていると思います。他もこのパッケージに見合ったタフネスさは持たせています。」
和田:「エンジンは、ハイパワーじゃなく、こだわったのはスムーズな特性です。そこにとことん時間をかけました。だから、社内でも“カワサキらしくない”と言われる癖のないエンジンに仕上がりました。」
—シート高はそれなりにあり、体格によっては不満に思われる方もいるかもしれませんね。そこはどうお考えに。
和田:「もちろんユーザーさんの好みにどれだけ寄り添っていけるかというのは重要な項目です。それでも優先順位として、オフロードをファンライドできる性能を純粋に追求した結果がこれなんです。だから最初からあえて足着き性をプライオリティの高いところにしませんでした。とにかくオフロードを走るのは楽しいですから、それをちゃんと体感できるものにしたいというのが先です。」
小林:「デザイン的にもメリットがあるんです。サスペンションストロークが大きく、シートがわりと高い。だからモトクロッサーKXをモチーフにしたスタイリングが可能になりました。シートを低くすると、燃料タンクの容量との兼ね合いで、座面が短くなり、燃料タンクとの段差が大きくなるんですね。これはKXのプロポーションが実現できるというのがまず嬉しかった。実際はストリートモデルを作り込んでいく上で、KLX230Rより座面を広くしたりいろいろ調整しましたが、それがやりやすかった。」
—スタイリングに関してはオフロードモデルとしてライダーの動きやすさを考慮したものと伺いましたが。
小林:「クレイモデルを制作する間に、ライポジチェックという、ライダーに乗ってもらいチェックする項目を設けました。事あるごとに乗ってもらい、“もうちょっとここを細くして欲しい”“ちょっと動く時に引っかかるね”などと指摘をもらい調整をして、ちゃんとペースを上げて前後左右に体を大きく動かした時でも機能性に問題のないカタチができました。 レーサータイプを先に作り始めて、ストリートモデルを調整していったので、ストリートモデルでもライダーの動きを阻害しないものになっています。」
和田:「クレイを削りながらのライディングポジションを決めていくのはKXと同じレベルで作り込んでいます。それは乗って判断するライダーも同じですし。ライダーが激しく運動するモトクロッサーを基準にしましたから。空冷エンジンを採用したことがここでも大きなメリットになりました。水冷エンジンだとラジエターが必要ですから、ある程度シュラウド部分を中心に幅が決まってしまいます。これは自由にやれました。」
—公道モデルのKLX230が特徴的な大きなヘッドランプになったのには理由があるんでしょうか?
小林:「日本とは違い、インドネシアなどアジアの地域では、まだまだ暗いところを走る場面が多いですから、明るさは大事なんです。これまでこのクラスのオフロードモデルに装着されているヘッドランプは自社モデル、他社モデルも小さく明るさも貧弱なものでした。これは、それらより確実に明るくなっています。その機能的に素晴らしいところに合わせてヘッドライトカウルをデザインしています。」
—こうして完成したKLX230とKLX230Rが日本市場でどうユーザーに受け入れられて行くかとても興味があります。意気込みをお聞かせください。
和田:「どこかが突出しているのではなく、車体、足廻り、エンジン全体パッケージのバランスにかなり気を使い時間をかけてやりました。おざなりに作ったところはありません。教習所で乗りますし、オンロードバイクは最初からある程度乗れます。しかしオフロードはそうはいきません。オフロードで得た車体を制御するスキルは、オンロードでも確実に生きます。入門者や、もっとオフロードで上達したいと目指すライダーにとって固有の走り方を覚えなくていい気軽で癖のないものになったと自身があります。リーズナブルな価格設定しましたので、若い人からいろんなライダーに乗ってもらいたい。これでオフロード走行の魅力を味わって欲しいですね。」
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