2019年9月13日
Kawasaki KLX230/KLX230R 『オフロードを、もっと楽しめ! とコイツが言っている』。
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明
■協力:カワサキモータースジャパン https://www.kawasaki-motors.com/
2016年モデルとして発売されたKLX250ファイナルエディションを最後に途絶えていたカワサキの250クラスデュアルパーパスモデルだったが、少しのブランクを経て、エンジンからオールニューとなった新型が登場。それがストリートリーガルのオフロード車、KLX230である。さらに兄弟車として、公道で乗れない、日本ではオフロードコースなどで楽しめるKLX230Rも一緒に発売される。このカテゴリーに対するカワサキの意気込みを感じる2台に、自称中級オフローダーでオフロード好きの濱矢文夫が試乗した。
※こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/7qafHLyy2kc
250ではなく230の理由。
誰もがまず気になるところは、「なぜ排気量が230(232㎤)?」だろう。それに対し、事前の説明で、開発責任者の和田浩行氏からこう解答されていた。
「初級、中級のライダーが楽しめるオフロードでの走りを追求していった結果、車重を軽くするために空冷で、使い勝手の良いパワーと特性を狙いこの排気量になった」と。
もちろんコストの面も考慮されている。少し前に販売が終了したKLX250ファイナルエディションは8%の税込み56万4,840円だったが、このKLX230はABS が標準装備で、次の10%になる税込みで49万5,000円だ。大幅と言っていいほど安くなった。これは素晴らしい。考えてみれば250で区切りたくなるのは日本だけだ。でもそうなると湧いてくるのは、安いなりの性能になっているのではなかろうか、という疑念だ。そういうことを思いながらストリートリーガルモデル、KLX230から乗った。
アジアの市場が持つ熱量が後押し。
インドネシアやタイでオフロードブームが来ていて、KLX150が爆発的に販売台数を伸ばしたことがKLX230誕生のきっかけのひとつであった。その地域のユーザーからもっと高い走行性能を求める声が出てきて、KLX150のステップアップ版として計画された。ただ、その市場を優先したとしても開発初期段階から日本市場への導入も考慮していたという。
特徴的な大きなヘッドライトはバルブ式。これはLEDよりコストが低く、故障した時でも彼の地ですぐに手に入るからだ。明るさも考慮してヘッドライトはこの大きさになった。写真で見るとここだけがとても目立っていて正直、ちょっと違和感があったけれど、実物は取ってつけたようではなく、意外なほど似合うまとまりのあるスタイリング。
オフロード専用モデルをストリートに。
開発は、オフロード専用モデルのKLX230Rからスタートして、不整地での走りを作り込んでから、それをストリートリーガルに落とし込んでいったそうだ。
日常的な使い勝手と快適性を考えてKLX230Rより座面をやや大きくして、シート高を下げながら、オフロードでライダーが前後に動くのを邪魔しない形状にしたというシートの高さは885mm。身長170cmで平均より短い足の私では、両足を伸ばしてなんとかつま先が届くくらい。これで“低い”とは言い難い。それでも重量バランスからくる、サイドスタンド駐車から起こした時の軽さ、跨っての軽さがあり、片足ステップならもう片足が十分に地面に届くから個人的にはまったく気にならない高さではある。
重心移動のしやすさ、ホイールトラベルなど純粋にオフロードで楽しく乗れる性能を求めた結果のシート高だと聞いて、オフロードが好きで、なんとか足が着く私にとってはその考えを手放しで受け入れられる。一方で、入口にいるビギナーライダーや、小柄な人にとってはどうだろうか。一部のユーザーは足着きに対する考え、重要度によって評価が変わってしまうのも事実。難しいところだ。
舗装路での走りもなかなか。
ちゃんとナンバー付なので、最初は舗装された公道、朝霧高原付近のワインディングへ飛び出した。カワサキとしては久しぶりに新設計されたオフロード向け空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒エンジンは、バランサーが入っていることもあり、いっぱいまで回しても振動は少ない。
タコメーターがないので具体的な数値は分からないけれど、淀みがなくスムーズに高回転まで到達する。シフトアップして速度をのせていく時の加速感は、232㎤なりというもの。その排気量から想像するより遅くないし、速くもない、順当なパワー。
低中速トルクを重視した特性だが、ドカっと力が出てくるものではなく、しっかりトルクはあるのだけれど滑らか。どの速度域でもスロットル操作に気を使うことがなく、右手の動きにリニアで速度制御をやりやすい。なるほど、と思ったのは、オーバードライブの6速が5速と離れているところだ。
これは、オフロード走行も考慮した繋がりを5速までにして、高速巡航での速度維持と燃費を考慮した走行を6速に担当させたのだろう。林道や市街地で6速まで使い切ることはなかなかないのだから、この棲み分けは幅広いユーザーが幅広く使う上で有益な設定だ。
ブレーキはきっちり効いて、急減速してもデュアルパーパスタイヤのグリップ感が分かるから、大胆に減速しても大丈夫。進入でガッツリかけてフロントフォークが深いところまで入り込む時に、リアサスペンションの伸び側ダンピングがしっかり効いているので、急激なお辞儀姿勢になりにくいのもいい。
コーナリングではスーッと軽く倒れ込んで唐突なところがない。フロントホイールは21インチ外径のいわゆるオフロードでのフルサイズだけれど、「21インチだったっけ?」と疑いを持つようなフットワークの軽さと旋回性だ。車体サイズやホイールベースはライバルとそれほど変わらないが、ひと回り小さく感じてしまう。リーンアングルが深くなると、あるところでオンロード専用ではない細いタイヤのグリップが怪しくなるので、それ以上は自重したけれど、ワインディングでもなかなか楽しめる操縦性がある。速度を出した時のスタビリティも申し分ない。
重心、パワー、足周り、ポジション、ABS等々、全体のバランスが走りの魅力。
ダート走行はオフロードコースの『朝霧高原 イーハトーブの森』で。舗装路で感じたKLX230の軽快感はダートでも持続する。
デュアルパーパス、いわゆるトレールモデルの中には、フロント周りが重く感じるものもある。これは違う。曲げていく時に横へ逃げるような動きは小さい。前後の重量バランスがいい。前日まで雨模様だったこともあり、土の部分はツルツルだったが、正立フォークは初期作動が柔らかく突っ張る感じがなく、沈んだ先でほどよく踏ん張る。
リアサスペンションも同様。この、バネが柔らかくてダンピングが効いているサスペンションは、荒れたところを加速しながら通過していっても足の動きが追いつかずにドスンドスンと振られにくい。吸収しながら追従してタンタンタンと速度を上げたまま通過して行けたりする。リアサスの動きと唐突なトルク変化がないエンジン特性も味方してトラクション性も良好。これは安全で心躍るオフロード走行に結びつく。
ここまで読むとどれだけ高性能なんだ、と思われるかもしれないが、きっぱりとモトクロッサーやエンデューロレーサーのよう走破性はないと言える。あくまでも250クラストレールモデルの範疇での話だ。エンジンとの協調性がいいのだと思う。足周りの動きや全体の剛性が、パワーより少しだけ勝っている感じ。ハンドル切れ角は左右45°。これだけあれば狭いところでもそうそう困ることはない。
サイドまで伸びた長い一体式シュラウドは、モトクロッサーKXシリーズと共通のイメージで、継ぎ目のないことで前後に動く時に引っかかりにくくした形状。デザイン段階でもモトクロスライダーに乗ってもらい前後の動きやすさを確認したというだけあって、スタンディングして走りながら、前後の動きを邪魔するものがない。
オフロードブーツで挟み込んで、上り下り、凸凹に対処する姿勢が取れる。昨年秋から新型車に義務化されたABSは、BOSCHと共同で開発したカワサキ初となるオフロード車向け仕様だ。ABS付オンロードスポーツで林道に入り、ちょっとブレーキをかけただけで、すぐにABSが効いて、思うように走れない経験をした人もいるだろう。
このABSはそうはならないようにしつけられている。グリップの良い土の上だと、減速Gが立ち上がったすぐではなく、ググっと効いた奥でタイヤがズズっと軽く滑ってから介入。スライドが始まりだすところまで。玉砂利で滑りやすいところだったらリアブレーキでちょっとテールを流すことも可能だ。ABSをOFFにすることはできないが、これなら、ターゲットにした初心者、中級者にとって大きく邪魔になることはなく、逆に雨でヌタヌタのマディになったところでは効果的だと思える。
(動画の1分38秒~を参照 https://youtu.be/7qafHLyy2kc )
ライバルをまったく意識しなかったと言い切った。
開発責任者の和田氏が、ロングセラーであり、愛好家も多いセロー250をまったく意識しなかったと言っただけあって、まったく違うものになっている。スロットルを戻した極低回転域での粘りとトルクの強さはセロー250に軍配は上がるけれど、同じシチュエーションでもすぐにエンジンストールするようなこともない。
そして、こちらはより積極的にスロットルを開けて走りたくなる仕様で、速度を維持しながら車体コントロールする面白さ。同じようなことができてもシート高も含めて両車の嗜好とキャラははっきりと違う。これは素直にトレールバイクの選択肢が広がったことを喜びたい。オフロード走行は、ライダーの技量に依存する部分が大きく、上級者ならどんなマシンでも手足のように走破していける。ただ、そこまで至らないライダーは、シチュエーションやマシンの特性によってやれることが少し変わり、快適性や楽しさも変わる。
オフロード専用モデルはもっと楽しい。
最後はKLX230Rだ。公道で乗れるKLX230とコース専用モデルのKLX230Rは、高張力鋼ペリメターフレームを共有する。補機類の取り付けブラケットなどの違いはあるけれど、ディメンションや剛性などまったく同じもの。ただし他はいろいろ違っている。スイングアームはKLX230がスチール製だったのに対しアルミ製で、前後のホイールトラベルが増やされサスペンションのセッティングも変更されている。エンジンはバランサーが省かれ、二次空気導入装置も取り外された。もちろん保安部品は装着されておらず、ヘルメットホルダーやリアフェンダーなどもない。KLX230では固定式だったシフトペダルの先は可倒式に。燃料タンクもスチールではなく軽い樹脂製だ。メーターもなく、キーのメインスイッチではなくオン・オフボタンがあるだけ。ハンドルのスイッチもセルボタンとキルボタンのみ。ABSは装着されていない。そうやって約20kg軽い。ターゲットにした市場は北米のファンライドユーザー。向こうはデザートも含め走るところが多くある。
より高い回転数で発生する最高出力だけど、ストリートモデルと同じ数値。トルクは0.1kgf・m大きいだけ。だが、そのカタログスペックが信じられないほどパワフルになったと感じる。パルス感がしっかり出て、スロットルを開けた時のクリック感、ツキがはっきりあり力強い。KLX230でもコンパクトに感じた車体は、さらに小さい印象だ。それでもパワフルすぎて手に余り扱えないなんてことはない。もうちょっとパワーが欲しいと思わせるちょうど良さ。よりオフロードに特化したタイヤというのもあり、コーナで早めにパワーオンしていっても横に逃げにくく、路面状況にもよるが、パワーに負けていきなり滑り出さないから右手は開け気味。速度を落としすぎずにコーナーに進入して、バンクを利用してスロットルを開けて旋回。立ち上がりではリアタイヤに押されるように、飛び出すのが気持ちいい。低中速のトルクがあるので、間違ってひとつ高いギアを選択しても、スロットルを開けるだけでスルスルッと前に進むイージーさは強い味方。
坂を駆け上がってちょっとしたジャンプをしてフラットに着地しても、サスペンションは底付きせず。小排気量のキッズ、初心者向けコース専用車両より懐深い。フロント荷重を抜いて段差を飛び降りるのも、体重移動とスロットル操作で難なくできるなど、KLX230より走りの許容範囲が広い。私の基準で、この自由自在感はKLX230に比べ2割増し、いや3割増だ。
競技に挑戦する足がかりにもなる。
汎用性の高いトレールもいいけれど、純粋にオフロードを楽しみたかったらやはりこっち。カワサキの4ストロークの競技車両は、KLX110Lの上がパワフルなモトクロッサーのKX250だったから、その間を埋めてくれる。ちょっとダート走行に慣れたライダーがステップアップする車輌として適切だ。そこでKX250だとまず性能を使いこなせない、というより危ない。こちらもサスペンションの初期作動が柔らかいので、オフロード走行のスキルアップだけでなく、初めて挑戦するクロスカントリーレースやエンデューロレースにもいいだろう。オンロードモデルばかり乗ってきた人が、オフロードの世界へ入門する場合にもぴったり。
カワサキは市場を見捨てなかった。
空冷単気筒エンジンでそれほどパワーはなく、価格は安く決して高性能ではないが、しっかりオフロードを走って楽しめる性能を追求していると乗って伝わってきた。昔より小さくなった日本市場の中でも、さらに減退しているように感じてしまうオフロードカテゴリー。儲からないからと諦めずに、カワサキがオールニューの商品を出してきたことを、ひとりのオフロード走行好きとして素直に喜びたい。作ってくれたことを評価し、その走りのバランス良さを評価したい。
(試乗・文:濱矢文夫)
※KLX230 / 230R の開発者インタビューは、近々公開予定です。
■KLX230
■KLX230R
ハンドルスイッチは合計2つ。左の赤いボタンがキルスイッチ。右のグレーのボタンがスタータースイッチ。ハンドルグリップも同じ部品ではない。
| 新車プロファイル『Kawasaki KLX230』のページへ |
| 新車プロファイル『Kawasaki KLX230R』のページへ |