2019年9月17日

KTM 790 DUKE 『KTMの新たなチャレンジ、799ccコンパクトパラツインエンジンに試乗する』

■文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明
■協力:KTM ジャパン https://www.ktm.com/jp/

 
ダカールラリーの活躍などオフロードで名を馳せるKTM。ロードモデルに力を入れ始めたのは比較的最近だが、多くのモデルはシングルで、1000ccクラスになるとVツインというラインナップだった。が、790というこのニューモデルで初めてパラツインを投入。実質的には690 DUKEの後継機となるのだが、果たして?

 
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初めてのパラツイン

 パラツインという形式は、もうバイクが世に登場して早々に現れたもので、さらに最近は性能と経済性のバランス、もしくはスポーツ性と実用領域のバランスという意味で再びメジャーなエンジン形式になってきたと言える。ホンダ・ヤマハ・カワサキといった国産メーカーだけでなくトライアンフやBMWもパラツインを展開。シリンダーが隣同士に並ぶことでVツインよりも部品点数も少なくでき、かつコンパクトゆえ車体へ搭載するのに自由度があり、それでいてツインだからシングルよりは汎用性も高く性能も出しやすいという、様々なメリットがある形式だ。だから基本的にシングルかVツインしかやってこなかったKTMも、「やっぱりパラツイン、やるべきじゃなかろうか」と思うのも自然なことなのだ。
 とはいえ、レディ・トゥ・レースのKTMなのだから「良くできたエンジン」というだけではいけない。そこに690が持っていたようなエキサイティングさやスポーツ性を持たせなければいけない宿命がある。そのためにも、一般的な180°クランクや360°クランク、もしくは近年流行りの270°クランクではなく、75°位相クランクを採用したり、またバランサーをシリンダーヘッド側にも装着したりと、独創的なアプローチでKTMならではのパラツインを追求している。
 
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排気量なりのサイズ感があり、690のようにコンパクトな感じはないがそれはそれで安心感もあって悪くない。足着きは特別良いという印象でもないものの車体のスリムさが手伝って足を真下に素直に下ろせるイメージだ。タンデムシート後方にはしっかりとしたグラブバーがあるためタンデムにも荷物の固定にも重宝しそうだし、テールランプが後方に飛び出しているのも被視認性が良く、荷物で隠れることもない良い設計に思う。


 

 
フレームも新たなチャレンジ

 KTMと言えばオレンジ色が眩しいトラスフレームというイメージもあるだろうが、790ではダイヤモンドタイプ、いわゆるエンジン吊り下げ式のものを使っている。アイデンティティは薄れた気もするが、そもそもパラツインを採用した大きな理由が軽量さやコンパクトさの追求やそれら要素とパフォーマンスの高いバランスなのだから、フレームもそれに準じて新しいものを投入したというわけだ。このおかげでパラツインになったにもかかわらず車体はかなり細い印象で、外装類もその細さを主張するようなスリムなものを採用している。なおアルミ製のシートレールはそのまま外装部品の一部になっており、かつエアクリーナーボックスも兼ねる構造となっているのは690譲り。
 ビッグシングル690とフラッグシップのVツイン1290の間を埋める、スタンダードでありつつかつKTMらしさをもったミドルパラツインを実現すべく、エンジンだけでなくフレームもKTM思想を受け継ぎつつ、新たなアプローチをしているわけだ。
 ちなみにこの790のもう一つの命題は、技量に関わらすより多くのライダーに楽しんでもらうこと、そしてそのためには価格を抑えること。パラツインとしたのはコスト的な部分もあったのだ。さらに足周りやタイヤでもコストを重視したのが見て取れる。サスはKTMが保有するWPブランドだが、リアのプリロード以外の調整機能はあえて省いているし、タイヤはこれまで定番だったコンチネンタルやミシュランといった欧州メーカーに代わってマクシスを採用。おかげで約113万円という価格を実現し、比較的求めやすく抑えることに成功している。

 
勝手に危惧するKTMイズムの減少

 実は690 DUKEにしばらく乗っており、そのパフォーマンスに心底惚れ込んでいた筆者だからこそ、790にはちょっと懐疑的というか、どんな気持ちで接していいのかがわからないでいた部分がある。というのも、パラツインという形式そのものがとても一般的であり、「一般的」とは対照的な位置にいるKTMというメーカーがパラツインをやって良いのか? という気持ちがあったのと、また690は690ccのシングルという他にない独創的な成り立ちで、KTMならではの運動性や魅力を高いレベルで達成していたため、あれを越える存在とすることができるのだろうか、という心配があったのだ。
 しかしいかに690が良かったと言っても、クセは確かにあった。非常に軽量でしかも速かった一方で、3000回転以下はガクガクしてしまって使いにくかったし、軽量すぎたのか公道においてはトラクション感が得にくいこともなくはなかった。結果として、ハイグリップタイヤを履かせてサーキットで走ることがどんどん増えていき、さらにタイムが面白いように詰まっていくため最後はサーキット専用になってしまった。ちなみにこの690、サスに調整機能を持つRではなく、今回の790のようにリアにプリロード調整を持つだけのスタンダード仕様の方。それでも素晴らしいタイムが出たのには驚かされた。
 こうった経験を踏まえると、コストも重視した790があの690のような限界領域を確かに確保しているのだろうか、という不安と、一方で公道においては逆に690より乗りやすくなっているだろうけれど、それがつまらないものになっていないか、などを勝手に危惧していたのだ。それだけ690が気に入っていたということなのだろう。しかし試乗するとその心配は薄れていったのだった。
 
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どこを切り取ってもKTM

 実際に乗っての第一印象は、安心した、というものだった。パラツインになって落ち着いてしまっているんじゃないか、という心配は当てはまらず、75°クランクはとても個性的かつエキサイティングにフケ上がる特性を持っており、いかにもKTMらしい味付けだったのだ。当然速いのだが、それでいて怖くなるような感じはなく、690同様にその速さを楽しみやすいような特性なのはしなやかな新フレームのおかげもあるだろう。振動やレスポンス、機敏さ、エンジン音などどこをとってもまさにKTM。「これはちょっと違うんじゃないか?」という部分は見当たらなかった。
 特にエンジンは予想以上に良かった。ツインになったことで低回転域での粘りが出て、公道で日常的に使うことにおいては690よりよっぽど付き合いやすいだろう。それでいてアクセルを大きく開ければメカニカルノイズを伴いながらゥワッ!とフケるのはレディ・トゥ・レースそのもの。でもそのフケ方は690ほど一気に回転数の全てを使い切るようなガオッとした感じでもなく、使いたい分だけエンジンを回しやすいというか、本格的にパワーバンドに入っていく前にやめておけるというか……。690の頃は絶対パワーが少なかった分アクセルを開けたらレッドまで一直線! という感じだったが790ではもう少しアソビがある印象。初心者でもすぐに怖い領域まで踏み込まずに済みそうであり、同じKTMのVツインシリーズの寛容さもある。
 またゆっくり走るのも難しくない。低回転域が使いやすいのとトルクが十分あることで街中を流すのもストレスがなさそうだし、こういった運転の時もエンジンのキャラクターがしっかりしていてKTMらしさがあるのだ。このパラツインはすでにいくつかの機種に採用されているが、KTMの新しいエンジンとして広く受け入れられると思う。
 

 
今後が楽しみの車体

 一方で車体だが、パラツインとは言えかなりスリムな印象。特にシートは足着き性も考慮され前に行くにしたがって幅が狭いことがあり、跨った感じは690よりも細いぐらい。その細さゆえに逆にホイールベースが伸ばされた車体の長さに気づかされる。タンクが小さくリアシートもスリムで、何だか「細長い」というイメージ。ただその細さゆえにニーグリップもしやすく、車体をしっかりと抑えて走れる自信も生まれる。上下に潰されたような不思議な形のサイレンサーや、極端にスラントしたLEDのヘッドライトなどは好みがわかれるスタイリングかもしれないが、KTMらしい独創性は確かに持っている。
 足周りだが、これはわりにソフトな印象だった。普通に走っている分には乗り心地もよく過不足はなかったが、ペースを上げていくとちょっと足周り全体がバタつくような場面も感じられた。実はこの感覚はノーマル状態の690でもあったのだが、ハイグリップタイヤを履いた途端に収まったという経験から、790も同様にタイヤ交換や空気圧の調整だけで見違える可能性はある。あるいはリアサスのプリロードをライダーの体重や好みに合わせるだけでも良いかもしれない。690の経験から、減衰力の調整機能を持たないことを悲観することはないと感じている。KTMは車体の本質的なところでスポーツ性を確保しているように思え、それを引き出すべくプリロードやタイヤ銘柄、タイヤ空気圧を合わせていけば、このようなベーシックなサスでも十分快適に、かつサーキットですら十分なパフォーマンスを見せてくれるはずだ。
 ちなみに十分なハンドル切れ角を確保していることも書いておきたい。公道を走るには大切な要素である。
 

 
電子制御満載

 本質的なところでスポーツ性を確保、なんて書いたばかりだが、690ではABSしかなかったのに対してこの790は電子制御がふんだんに投入されている。パワー増大に伴って投入されたということもあるだろうが、そもそもKTMは電子制御に積極的であり、むしろ690の方が未搭載だったのが不思議なのかもしれない。
 790にはエンジン特性を変更させる4段階のライディングモードが採用され、さらにはコーナリングABSやトラクションコントロール、オートシフター(UP&DOWN)、そしてエンブレを調整するMSRも備えるなど充実の内容。短い試乗時間でこれら機能を使う場面はなかったが、あらゆる使い方をするうちに役に立つことも出てくるだろう。
 

 
新たなエントリーモデルとして

 新エンジン、新フレーム、新排気量ということでいったいどんな仕上がりなのだろうか、と興味深く試乗した790DUKEだが、これはKTMの新たなスタンダードとなると感じた。125~390のスモールDUKEシリーズから乗り換えても、確かな血筋を感じられると共に怖がらずに楽しい経験ができるハイパフォーマンスを備えていると思う。BMWのパラツインが不思議とボクサーツインと似た印象になるとの同じで、KTMのパラツインも不思議としっかりKTMだったのだ。
 690は確かにちょっとマニアックだった。かといって1290系はちょっと過ぎるか、と感じていた筆者は、これまでKTMに興味のある人には390を薦めていたが、これからは現実的な毎日のバイクライフにも合致する790も合わせて薦めたい。
 
(試乗・文:ノア セレン)
 

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799ccのパラツインエンジンは75°位相クランクで、同様に75°V角をもつVツインシリーズと同様の爆発間隔を持つ。105馬力のピークパワーをもち、どの回転域でもKTMらしいキャラクターを発する。2本のバランサーシャフトにより不快な振動はカットされているのも歓迎だ。


 
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特徴的な、上下に潰れたようなアップサイレンサーも790のフィーチャーの一つ。排気音はハスキーだ。タンデムステップは意図的にかなり下の方に設定されているのがわかり、タンデムライダーの快適性も考慮しているのが伺える。外装にも見えるシルバーの部品はサブフレームでありエアクリーナーボックスも兼ねる。


 
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フルカラーTFT液晶となったメーター。各種ライディングモードなどは左のスイッチボックスから変更することができる。倒立フォークはスタンダードグレードのWP製。


 
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リブを外側に見せるアルミのスイングアームはKTM定番。リアタイヤは690の160幅から180幅へと太くなった。リアサスはリンクレスで装着される、プリロード調整機能付きWP製ユニット。


 
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フルLEDのヘッドライトはライト部を囲むようにアイラインが入っておりますます特徴的。ウインカーやテールランプもLEDを採用する。


 
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