2019年9月2日
BMW R1250 RT試乗『変わったけれど、変わってない』。
■文:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明
■協力:BMW Japan – Motorrad http://www.bmw-motorrad.jp/
BMWのツーリングモデルがR1200RTからモデルチェンジ。R1250RTになった。これは、ただ空水冷フラットツインエンジンの排気量を上げただけではない。違いを生む新しい機構を採用するなど大きく手が入った。乗った時間は長くなかったが、それでも違いを感じ取れた印象をレポート。
見た目はキープコンセプト
息子が大好きなデボン紀最強の甲冑魚、ダンクレオステウスに似た見た目はR1200RTからのキープコンセプトだ。BMW伝統のフラットツインエンジンは、85cc排気量アップして1254ccになり、重要なのは、BMWシフトカムという可変バルブタイミング機構を採用したこと。ツーリングモデルのRTは、1978年に登場したR100RT以来、約40年間、いかに気持ちよく、快適に、長時間クルージングできるかを追求してきた機種。大きなフェアリングやスクリーン、ポジションなど、そのために考えられたもの。
試乗したのは一般道ではなく、大磯ロングビーチの大きな駐車場に設けられたコースで、乗れた時間は正味40分ほど。可能なら最低でも1日たっぷりと時間をかけ長距離を走って、その印象を述べるのが好ましいが、それは出来なかった。これではある意味でこのオートバイが持つ本質的な部分を感じ、それを語ることはできない。だから、ちょい乗りした印象だと思っていただきたい。それでも時間内で切り返しとタイトターンがあるコースを速度変化させながらぐるぐるとめいっぱい走った。
ポジションから感じる哲学。
身長170cmで、比較的股下が短い私がまたがっての足着きは、この迫力のボリュームから想像するより良好だと言える。両足がカカトまで届く、とはいかないが、無理なく力が込められる拇指球まで届いた。ハンドルはおへその位置より上で、手前側への絞りも適度にあり、腕を伸ばせば手が届く。その状態で背筋はほぼ垂直。同じようにツーリングに適しているクルーザーモデルのようにステップバーの位置が前にあり、椅子に座るようなポジションではなく、体幹、胴体の真下に近い場所。しっかり踏み込めて、ツーリングをスポーツライドして楽しもうというBMWの主張を感じるところである。
重さを感じるものの自由自在に動ける足さばき。
低速でそろそろとゆっくり進んでターンをしようとすると、割と強めにハンドルが切れる。玄人好みでビギナーがあまり選ぶ機種ではないけれど、そういうライダーがゼロではないだろうから書くと、怖いからと切れ込みに抗わないで、腕から力を抜いてなすがままにするのがいい。スロットルを完全に閉じてしまうと最悪は転ぶけれど、開けていて前に進む力がある限りそれに応じた状態で安定するから。
低速でのUターンは、この動きによってくるっと小さくできるから下手に曲がろうとハンドルをこじらずに、バイクまかせでいい。ただ、シンプルだったむかし、むかしのRTとは違い、いろいろな快適装備がついていることもあり、小さく自由自在に動かせても、「軽い」という印象にはならない。どの場面でもある程度車重を意識してしまう。特に、今回のようにちょこまか動くシーンではなおさらだ。
欲張りな可変バルブタイミング機構。
豊かなトルクで走るこれまでのBMWフラットツインエンジンと同様に、低速でのスロットル操作で神経質な面を見せず、扱いやすい。そして1200時代より明らかに低速トルクを増している。力強さとイージーさが同居したところを使って、速度的に1速高いと思ってしまうギアを選択していても、そのままでOK。ズボラに運転しても許してくれる限度が高い。電子制御も含めて、自然なフィールで違和感はない。
そこからガバっとスロットルを大きく開けると、吸気側だけ、カムシャフトに2種類のカム山を持ち、スライドして役割を交代する可変バルブタイミング機構が切り替わるわけだ。ガバっと開けずに普通に流して運転していても5千回転で切り替わるという。切り替わってもトルク変化は顕著には解らず、あくまでもフラットなトルクカーブで気持ちよく高回転域まで伸びる感じ。
巡航している時は2千回転前後付近でしっかりあるトルクに身を委ねて、操作は右手だけでいい。長時間クルーズでも疲れにくそうだ。ワインディングにくると積極的に操作してシャキシャキっとコーナーリングするのが気持ちいい。ブレーキの効き、フィールも申し分ない。エンジンが変わったからなのか、前モデルよりフットワークが軽く、タイヤが接地しているのも掴みやすいように感じられた。電動スクリーンなど快適装備や便利機能を語るにはあまりにも試乗時間が短かった。
R1200RTからいろいろ見事に変わっているけれど、全体としてとらえると、ちゃんとRTらしさがある。道具として、できることを変えずに、そこに至る過程をブラッシュアップした。ツーリングバイクとしてこうあるべきという主張が明確で強い。これはもうRTというカテゴリーだと思えるほど。長距離をともに出来なかったことが実に残念だ。本来の使い方をすると、まだ見えていない部分もあるかもしれない。大陸的な使い方とは違う、ショートストップが多く、道が狭い日本的な使い方ではどうだろうか。興味は尽きないが、それはいつかしっかり乗れた時に味わおう。
(試乗・文:濱矢文夫)
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