2019年8月21日

HONDA NC750X試乗 『二代目はこっそり大変身 至れり尽くせりのおもてなし』

■試乗・文:中村浩史 ■撮影:島村栄二
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/

 
ニューミッドコンセプト、と銘打ってデビューした
NC700S/700X/インテグラ3兄弟が
現在ではNC750S/750X/X-ADVへ成長した。
700cc時代より、個性のはっきりした3兄弟。
X-ADVは完全に違う路線を歩み始めたけれど
スポーツバイクとして、NC750Xの魅力、たっぷり再確認しました!

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 NC750S/Xの前身、2012年デビューのNC700シリーズは、ホンダのバイクづくりの中でも珍しいケースだった。
 ホンダの、特にビッグバイクづくりというのは、まずスポーツ性が高く、誰にでも楽しく乗れるものを目指す、というのが大前提。これはきっと、1947年のホンダ第1号車、自転車用補助エンジン「ホンダA型」からずっと変わらないものだったんだろうな、と思う。
 けれど2010年、ホンダは「2020年ビジョン」を提言した。これは「いい商品を早く、安価で、省エネルギーでお届けします」というもので、この時点でのホンダの「10年後のモノづくり」を模索、もちろんスポーツ性をないがしろにするわけではなく、こっちの方向性もあるんじゃない?というトライだったのだと思う。

 大げさに「近代史」という言葉を使えば、日本のバイクっていうのは、海外メーカーに追いつけ追い越せだった1970年代、どんどん技術的進化を求めた1980年代、それによる性能向上を目指した1990年代、個人の楽しみを優先した2000年代、そして身の丈に合ったバイクとの付き合い方がわかり始めた2010年代──。そんな感じなのだと思う。
 NCが発売されたことで、当時僕は柄にもなくそんなことを考えたことを覚えている。ビッグバイクが偉いなんて時代じゃない、毎日のように気軽に乗れて、時々ツーリングに出かけるくらいがちょうどいい。そうだ、そんなこと考えて、ぼくは人生で初めての125ccスポーツバイク(KTMの125 DUKEだった)を買ったのだった。

 そしてホンダはこの頃、面白い調査結果を公表している。それが、ヨーロッパを中心に、ミドルクラス以上のバイク乗りが、どんなバイクの使い方をしているか、ってこと。これは、新しいバイクのスペック検討のために常に行われているリサーチなのだそうで、いつも使うスピード域やエンジン回転数を計測、使い方に合った「次世代のバイク」をいつも探しているのだろう。へぇぇ、面白い調査やってるんだなぁ、って印象に残っていたのだ。

 その結果は、
■速度域は140km/hの使用頻度が90%
■回転数は6000pm以下の使用頻度が80%
 というもの。ここから目指すべきは、そんなに高回転まで回さない、そんなにスピード出さなくていい、ってこと。ヨーロッパだからね。日本なら「速度域は100km/hが90%、回転数は6000rpm」ってところだろうか。
 これは高性能ばっかり望んではいませんよ、その代わりに、気軽に面白がれて好燃費だったらいいよね、ってことだ。もちろん、ただのアシでは物足りない、根っこにはスポーツランができる素質があること。ただ、あんまりスポーツばっかりに偏らないようなバイクを作ってみようか、ってことだったのだろう。
 それが「ニューミッドコンセプト」と銘打って発売された、NC700S、NC700X、INTEGRAだった。
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 環境性能が高く(つまり好燃費ってこと)、そこそこの限界性能、もちろんスポーツランが楽しめるもの、それがニューミッドシリーズ。
 ただし、誤解を恐れずに言ってしまうと、NC700シリーズは「狙いはわかる! でももうちょっと元気なのがいいなぁ」ってバイクだった。特にパワーフィーリングが、不等間隔の並列2気筒らしいドロドロドロドロッとした特性で、低回転から力のあるキャラクターだったんだけれど、さぁ面白くなるぞ、ってエリアでパワーが頭打ちするような、そんな感じ。
 ハンドリングはすごくしっとりしていて、決してシャープなものではないけれど、それはホンダの狙いが良くわかるものだったし「あぁ惜しい。エンジンがもう少しなぁ」って思ったものだ。
 それで、燃費がものすごくよかったのもびっくりした! 初めてNC700Sで遠出した時の燃費が、リッター30kmオーバー! わ、すごい、700ccでこれはすごいねぇ、ってジャーナリストのみんなと話したのを覚えている。「ただしエンジン、もう少し回るといいよね」とも。ちょっとしつこいけれど、でも本当にそんなだったのだ。

 それから2年。NC700シリーズはリニューアルを受けた。それは、主にエンジンに関する仕様変更で、670ccの排気量を745ccへアップ。最高出力は4psだけのアップに留まったが、1軸バランサーを2軸にして振動を低減、ギア比をハイレシオに振って、同じスピード域でも使う回転域を下げ、さらに燃費を数%向上。お、これはもしかして……という期待は、ズバリ当たっていました! エンジン、すごく良くなっていたんです!
 新750ccエンジンは、排気量アップと同時にトルクが厚くなっていて、低回転域の力強さがさらに増して、回転域も少し上に伸びた印象。先代のNC700で感じた「でももうちょっと!」が改良されていたのだ。2軸バランサーの効果は、僕みたいに数日、数100kmしか乗らない人にはわかりにくいことで、燃費向上も乗り方次第なんだから同じこと。それでも、あいかわらずドロドロッと回る面白いエンジンで、あいかわらず燃費も抜群にイイ! 
 
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 さらに2年。現行モデルはさらにスタイリングを変更、それが写真の、今回試乗したモデルだ。タイプは自動変速モードが選べるDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)車。DCTも細かく改良が積み重ねられて、ものすごく快適なメカに仕上がりました。
 エンジンは先代(つまり750cc初期モデル)をベースに、主にDCT車で制御内容を変更。オートマチックモードのうち、さらにスポーティな走りができるSモードを、その中でも3段階に分けたり、マニュアルモードで、より高回転時のシフトダウンが可能になったり。つまり、もう機械まかせというより、自分の走りに応じて勝手にコントロールしてくれちゃう。街を走っていても、ワインディングを走っていても、車体のコントロールに集中できるのだ。
 相変わらずNCの並列2気筒は、アイドリングすぐ上からドロドロドロッといいトルクがあって、のんびりとしたスロットル開け閉めの時にはシフトアップタイミングが早く(=つまり、より低回転で走れる)、キビキビ走りたい時にはSモードにしたり、それでも物足りなかったら、右ハンドルスイッチのシフトボタンを長押ししてSモードのレベルを1/2/3段階と変更すればいい。うーむ、至れり尽くせり! 
 Dモードでいつも使っている回転域は2000回転台で、3000回転を境にシフトアップして行くようなイメージ。つまり、この2~3000回転のトルクがぶ厚いからこそできる芸当なのだ。これがSモードだと、シフトタイミングが500回転上がる感じかな、マニュアルミッションで、上まで引っ張ってシフトアップしていくようなイメージだ。
 高速道路に乗り入れると、トップ6速の80km/hが2400回転、100km/hが3000回転、120km/hが3800回転あたり。100km/h+αで流していると、両足の下でコロコロと並列ツインが回っている。穏やかで、優しい時間。
 ハンドリングは、初期700ccモデルから大きな変更はなく、安定性をメインにしたハンドリングで、決してクイックじゃないが、もちろん鈍重じゃない。路面に貼り付くように走る、すごく安心感の高いもの。現行モデルは、フロントフォークに手直しを受けていて、動きがさらにしっとりしている。スコスコ動くのではなく、しっとり、ね。これも決して鈍重じゃない、っていうのは大事なところだ。
 クルージングでは、先代の750ccよりもスクリーンが高くなっている分さらに快適。なんだか風切り音がしないな、と思ったらスクリーンの左右両端のふくらんでいる部分にスリットが設けられていて、これが効いているんだという。うーむ、至れり尽くせり。
 
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 だいたい僕の試乗っていうのは、街中の渋滞を走ったり、高速道路を流したり、なんだかんだ1週間くらい乗りまくることが多いんだけれど、他のモデルではあまり着目することのないNCのすばらしさは、やっぱりラゲッジスペースと好燃費だ。ラゲッジスペースは、通常のタンク位置にある収納スペース、つまりメットインスペースのこと。もちろん、つばつきのオフロードヘルメットなんかは入らないけれど、ぼくが使っているエアダクトのあるAraiフルフェイスも、もちろんオープンジェットもスッと入った。入れる方向が決まっていたり、ヘルメットを入れちゃうとスペースに余裕がなくなるのは、きっとこれが限界のサイズなんだろう。
 このスペースの便利さは、まさにスクーター級のありがたさで、走っている時には荷物をぽんと入れられるし、バイクを降りるときには、入れていた荷物を持ってヘルメットをぽん。かつてはスズキアクロス、ホンダNS-1もこうだったけれど、車両の前後重量配分が変わったり、ガソリンタンクのスペースに苦労するとはいえ、もっとこの「メットイン」(はホンダの商標だったっけ)が広がるといいなぁ、と思う。ほら今のMotoGPマシンも、ガソリンタンクはシート下、通常のタンク位置はエアボックスやコンピューターの位置だから、市販車ではそのままメットインスペースにするといいんじゃないかな。そんなカンタンにはいかないだろうけど。
 しかもこのスペース、ハードケースと等しいから、形あるもの、バックパックに入れたら潰れちゃうものだって収納できる。ちょっと出かけて焼きたてパン買ってくる、なんてなかなかバイクじゃできないからね。
 もうひとつはライバルを圧倒的にリードする好燃費。今回の取材では、約500km走ってレギュラーガソリンを約16L給油、燃費は約31km/Lでした! これ、もちろん個人差はあるだろうけれど、さして燃費走行をしていない今回の試乗では、かなりの数字でした! ちなみに、直近で試乗したヤマハMT-09(850ccの3気筒 http://www.mr-bike.jp/?p=162961 参照)が同じような乗り方をして約22km/L。これもかなりいい数字だけれど、NCはさらにその上! ショートツーリングに出かけて、街乗りをあちこち、それで500km走ってガソリン代が2200円くらいでした。これぞ好燃費!

 NC750Xは、決して目立つバイクじゃない。それでも、なんと好ましい、なんと長く付き合えそうなバイクなのだ。
 そんなに高回転まで回さない、そんなにスピード出さなくていい、そのかわりに、気軽に面白がれて好燃費だったらいいよね──。ホンダが約10年前に提言した2020年ビジョンが、きちんと形になってきた。
 
(試乗・文:中村浩史)
 

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初代の700ccは、好燃費で定評のある自動車、ホンダ・フィットと同じボア×ストローク値=73×80mmを採用、それで燃費がいいんだぁ、なんて言われたもの。現行750ccはボアアップして77×80mm。これがバイク用の最適化というもの。写真は現行NC750のDCT仕様で、3レベルSモードが選択可能、ATモードの時に登り&下り坂を検知するとシフトアップ&ダウンのタイミングが遅れ、上りでは高回転まで引っ張れるし、下り坂ではエンブレが強めに効く設定としている。


 
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現行モデルはサイレンサーを小変更し、サイレンサー内部を2室構造としてショート化。これが重いものがさらにエンジンに近くなることでマスの集中が図れる変更点。サウンドは先代の750ccよりも低く太い、音量も少し大きくなったかな。


 
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常用回転域でのトルクとワイドレシオで、好燃費エンジンを目指した並列2気筒エンジン。前傾シリンダーとしたのはエンジン上のスペースを有効活用でき、つまりメットインスペースを作れるから。パラツインエンジンは270度クランクの不等間隔爆発で、ドコドコ感が味わえる。DCT仕様(写真)は、外観上クラッチカバーまわりで判別可能。


 
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ABSは全車標準装備。フロントはφ320mmローター+2ピストンキャリパーで、初代700ccに採用した時には「ホンダ初の」ウェーブディスクだった。ユニークな製法としては、1枚の部材からフロントディスクとリアディスクを抜いて省資源化。実車を見ると、たしかにリアディスクがフロントディスク内にちょうど収まりそうに見える。


 
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φ240mmローターにセットされるのは、スイングアーム上のキャリパーが通常のリアブレーキで、スイングアーム下のキャリパーは、DCT仕様にだけ装着されるパーキングブレーキ用。坂道に駐車するのにギアいれて、ができないからね。リアサスはプリロードが調整可能で、前後ともエアバルブが90度回転して外向きになって、エア管理がしやすい。


 
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通常のフューエルタンクの位置に収納スペースが設けられる。このスペースは、前方にキーシリンダーがあり、右へ回すとスペースオープン、左に回すとリアシートがオープンして給油できる。スペースの樹脂製リッドにはフック付きのレールを設置して、ちょっとした荷物や、マグネット式が使えないタンクバッグも使用することができる。


 
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つばつきオフロードヘルメットなどの一部形状を除く、フルフェイス&ジェットヘルメットが収納できる容量22Lのメットインスペース。やっぱりコレ便利です! 収納はこの方向(頭頂部をシート方向に向けて)のみ可能で、スペース底板下にはETC2.0車載器を標準装備。ここは工具不要でETC車載器にアクセスできるとさらにうれしいです。


 
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DCT仕様車には、右ハンドルスイッチにN→D→Sの走行モードと、裏側にAT/MT切替ボタン、左スイッチに+/-ハンドシフトボタンが装備される。左ハンドル内側のレバーはパーキングブレーキで、指で押さえているところが解除ボタン。ちなみにハンドルグリップ径が変わらないまま、グリップヒーターも標準装備。


 
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バーグラフ式のタコメーターとギアポジション表示付きの液晶デジタルメーター。オド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費などを表示する。タコメーターのバーグラフ色が変えられる機能付きで、Sモードは赤、Dモードは青いバーグラフになる。


 
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ヘッドライト&テールランプはLEDを標準装備。スクリーンは従来モデルより上に70mm高くなり、送風ダクトをつけることでヘルメット部分の乱流を抑えているという。スクリーン中部両端にスリットが設けられている。


 
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荷物はヘルメットスペースに、なんだけど、そこに入らないならリアシートにゴムコードで、が定番。タンデムステップ裏は便利だが、グラブバーにつけられている突起は浅くて角度も悪く、フックがかけにくかった。


 
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●NC750X(2BL-RC90) 主要諸元
■全長×全幅×全高:2018×845×1320mm、ホイールベース:1520mm、シート高:800mm■エンジン:水冷4ストローク直列2気筒OHC4バルブ、ボア×ストローク:77.0×80.0mm、最高出力:40kW(54ps)/6,250rpm、最大トルク:68N・m(6.9kg-m)/4,750rpm 、燃料消費率:国土交通省届出値、定地燃42.0km(60㎞/h)(2名乗車時)、WMTCモード値28.3km(クラス3、サブクラス3-2)(1名乗車時)■タイヤ(前×後):120/70ZR17M/C 58W × 160/60ZR17M/C 66S、車両重量:166㎏、燃料タンク容量:14L
■メーカー希望小売価格(消費税8%込み):NC750X 884,520円/NC750X Dual Clutch Transmission 950,400円


 


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