2019年8月19日
外国車試乗祭 ── Vol.8 BMW C400X 『BMWが作ると、 スクーターはこうなる。』
■文:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明
■協力:BMW Motorrad Japan http://www.bmw-motorrad.jp/
BMW初のミドルサイズスクーター、C400Xに試乗。C650シリーズよりコンパクトで、日本の道路環境や居住環境に合わせやすい魅力的なサイズと、パワー。ただのスクーターというだけでなく、BMWらしいアイデアと装備を持った意欲作。その走りはいかに。
BMWスクーターの歴史
BMWがスクーターを手がけた歴史は、2000年から販売したC1からだった。エンジンは、燃料噴射装置と組み合わせたロータックス製の4ストローク、125ccと176ccの2種類。屋根がついて、シートは背もたれがある4輪車のようで、シートベルトをしなければエンジンがかからない仕様。
徹底的に対クルマを想定したクラッシュテストをして、省スペース、省コストの都市で最適なコミューターとは何か、という考えで生まれたものだった。生産はあのカロッツェリア、ベルトーネ。残念ながら日本には導入されなかったけれど、スクーター型乗り物の機能性、利便性に目をつけていた。
欧州では90年代後半にイタリア市場を中心にヤマハのYP250(マジェスティ)が成功し、その後、さらに排気量が大きい499ccの2気筒エンジンを積んで走りをレベルアップし、高速移動にも適したXP500 TMAXを発売。これがヒット作となりマキシスクーターというジャンルを確立。BMWもここに目をつけ、かつてC1で試みた、日常生活に根ざした新しいコミューターとは異なる、より行動範囲が広い移動で快適に使えるTMAXと同じジャンルの2気筒大排気量スクーターを送り出した。
それが2012年発売のC600Sport(現在はC650Sport)とC650GT(試乗インプレッションはコチラ→ http://www.mr-bike.jp/?p=102801 )。両車は共通エンジン、フレーム、足周りで、名の通りC600Sportはより運動性を楽しめる軽快性を、C650GTはBMWお得意とも言えるツーリングに適した装備とポジションで棲み分けた。そこには他とは違うBMWらしいアイデアやこだわりがみられた。
そして電動マキシスクーターであるC Evolutionが発売される(試乗インプレッションはコチラ→ http://www.mr-bike.jp/?p=128458 )。日本国内では、短距離用の小型電動スクーターはこれまでも販売されたことはあったが、本格的な大型マキシスクーターの電動モデルは初めて。それをお膝元である日本のメーカーではなく、海外のメーカーが発売したという事実は無視できない。
そのC Evolutionに試乗したことがあるが、オートバイを知り尽くしたメーカーらしい走りの完成度と、レシプロエンジンを搭載する大排気スクーターを凌駕する加速に驚いた。確かにフル充電での航続距離は、普通のエンジンスクーターより短いけれど、それ以外に劣るところはまったく見当たらないどころか、勝っている部分がある。
400ccクラススクーターを欲しがる人はいる。
前置きが長くなったが、今回乗ったC400Xと、C400GTは、言うならば、BMWスクーターの第三の波である(試乗インプレッションはコチラ→ http://www.mr-bike.jp/?p=146741 )。400ccクラスのスクーターは、ビッグスクーターがブームの頃に日本メーカーからも複数のモデルが発売されていた。だが、いつの間にか国内市場ではスズキのバーグマン400 ABSのみになってしまった。はたして国内に市場はないのか。
そうは思わない。軽二輪と違い車検があるけれど、その費用は昔と比べたら低い。オートバイよりイージーに乗れ、トランクなど便利な装備を持つスクーター。それを市街地だけでなく、より長い距離を余裕持って快適に走りたいけれど大型モデルまではいらない。そんなユーザーがレアケースだとは思えない。実際に求める声を聞くことがある。そんなことを考えながらシートに座りハンドルを握った。
コンパクトサイズにBMWらしい作り込まれた走り。
当たり前だが、乗車してのサイズ感は、C650シリーズよりかなりコンパクト。C400Xは兄弟車のC400GTよりスポーティーさを意識したモデル。フロントフェイスはアシンメトリックなヘッドランプなどGSシリーズを連想させる造形だ。エンジンは2気筒ではなく、水冷単気筒349ccというのもあり、重いなんて印象にならない。車両重量は205kg。かつてあったヤマハのグランドマジェスティ400が221kgだった。サイズはこちらの方が小さいし、装備を考えたら妥当な重さだろう。ちなみにC400GTは215kg。
停止からスロットルを大きめに開けて発進すると、最初にタイヤが回りだす時のグイっと押し出す力強さは250ccとは違う。右手に対しクイックに反応し、体が後ろに置いていかれるような唐突にトルクが立ち上がるのではなく、フラットな加速感で確実に前に進ませ、100km/h近くまでスムーズに速度が伸びた。
エンジンも一緒にスイングする一般的なスイングユニットに2本ショック。それに14インチホイールを用いたリア足周りは、程よく荷重がかかりトラクション性能が高いと感じた。当然ながらエンジンとCVTの変速特性も味方して、少し荒れた路面や段差でも、必要以上に気を使うことがなく加速できる。前輪も含めサスペンションのストローク感があって、路面変化に追従している実感があった。これならもっと路面グリップの低いところでもコントロールしやすいだろう。
あたかも普通に感じさせる根底にある実力。
高速域からの急減速ではブレーキの効きだけでなく、フロントサスペンション、スチール鋼管を組み合わせたフレームを持つ車体の剛性からか、思いっきりレバーを握り込んでもタイヤのグリップ感が分かる安定したブレーキングができる。コーナーリング中のリーンアングルも問題ない。ルックスからスポーツスクーターのようなクイックなハンドリングを想像していたけれど、実際は機敏すぎず適度なおだやかさで曲がる。他のビッグスクーターと近いけれど、コーナーリング中も含めてしっかり感があった。これなら、ペースを上げて走行し続けられることも苦にならないだろう。
他のスクーターと同様に、スロットルを開け、変速操作いらずに加速し、ブレーキレバーを握って減速と、イージーに乗れる。これといって特別な機構や機能はない。しかし、その根っこの方には、快適性だけでなく、”思いっきり走らせる”という意思がある。さらっと乗ったら普通のスクーターだが、走り込むと、このベースがBMWブランドらしい個性と魅力に繋がっている。ユーザーに意識させない底上げ感と表現すればいいだろうか。メーカー希望小売価格 (消費税込)は85万1000円と、かつてあった国産400ccスクーターや、現行バーグマン400 ABSと変わらない。日本市場に新しいミドルスクーターの波を起こすかもしれない。
(試乗・文:濱矢文夫)
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