2019年7月29日
YAMAHA MT-09試乗『クロスプレーンコンセプトって こういうことか!』
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍
■協力:YAMAHA https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/
「マスター of トルク」ことMT-09が誕生したのは
大げさに言うと衝撃的な出来事だった。
大排気量も、大馬力も、超軽量車も乗った。
200psで300km/hなんて、もう珍しくない。
けれど、MT-09登場には、度肝を抜かれてしまったのだ。
これは何度も書いたことだけれど、僕は初めてのバイクに乗る時に、事前資料をあまり読み込まない。カッコつけて言うわけじゃないけど、素の状態で乗ってどう感じるか、自分の感覚を研ぎ澄ますようにしているのです。
このエンジンでこんな車体、こういう着座位置でこんなライディングポジション、ふんふん、こういうキャスターでこんな車高で、こんなOEMタイヤか――これで「こんなバイクなんだろうな」って予想して乗ることが多いんだけれど、それは8割がた9割がた当たるものです。これ、他のテストライダーや雑誌でインプレッション書いている人なんかだったら、だいたいわかるものです。
結果、乗り終わったあとにいろんな感想が芽生えるわけで、あんな感じだったな……と資料を読んでみると、あぁこういうことだったか、と合点がいったり、資料に書いてあるメカや狙いを感じ取れなかったりすることだってある。そんなにズバズバは当てられないけれど、大筋は間違ってないな、とかね。
そして「こんなバイクなんだろうな」って予想が大ハズレなことがある。初めて「うわ、こりゃすごい」と思ったのは、忘れもしない初代ホンダCBR900RRだった。あとは初めて乗った時のCB750FOURだったり、ヨシムラ零50だったり、1960年代のトライアンフ・T120Rボンネビルだったり。最近では、ホンダRC213V-Sとか、カワサキH2だったり。
そして、MT-09も度肝を抜かれた1台だ。初めての試乗は、へぇぇ水冷並列3気筒なんだ、フレームはアルミダイキャストなんだね、すごいスタイリングだなぁ、なんて思いながら走り始めたのだった。
へぇぇ、元気いいな。レスポンスがシャープで、車体が良く動くバイクだ。気持ちいいねぇ――まだまだ、試乗前の予想を大きく超えてはこない。けれど、ひとつの出来事で、その思いが一変した。
右ハンドルスイッチにある小さなボタン。MODEと書いてあるってことは、パワーモードだ。メーターにはSTDと表示されているから、パワーモードが真ん中なのかな。ではパワフルな方のモードは……と、「A」モードで走り始めてびっくりした! なんだこれ! これが新設計3気筒、しかも850ccかそこらのエンジンパワーか! とんでもない、スゴいなこれ! 正直、そう思ったのだ。僕の「こんなバイクなんだろうな」予想なんて軽々と飛び超えて、MT-09は、僕の想像の遥かナナメ上をスッ飛んでいたのだ。
スロットルにいい反応するな、って思ったレスポンスはさらに俊敏になり、新設計3気筒エンジンがギュルギュルとうなりを上げ、ふわりとフロントの荷重が抜けてくる。3速くらいまで、トラクションコントロールのスイッチを切ってガパッとスロットルを開けると、フロントがふわりと浮いてくる。うおぉ、久しぶりにパンチあるな、これ!
最高速度300km/hとか200psオーバーなんてとっくに体験済みだし、スゴそうだぞ、って身構えていると、意外とそうでもなかったりする。だから、気を抜いて走り出したMT-09に度肝を抜かれたのだ。最高出力116PSで、車両重量は193kg――とりたてて驚くような数字ではないけれど、いかに数字があてにならないか。それほどスゴいと思ったのだ、MT-09に。
その後も、何度かMT-09に乗る機会はあったけれど、マイナーチェンジごとに出力特性がマイルドになって、それでも凶暴さは失っていなくて、粗さが修正された、ってそんな程度。そして今回のMT-09の試乗でも、まだ僕は度肝を抜かれている。いい加減慣れなさいよ、俺(笑)。
相変わらずフルパワー「A」では、レスポンスも俊敏で、発進などでラフにスロットルを開けようものなら、すぐにトラクションコントロールが介入してくるような、そんな元気さがある。スロットルひとつで車体をコントロールできるタイプで、軽量でスリムな車体を進めるも停めるも曲げるも、自由自在なのだ。
なにせ、ストップ&ゴーの多い渋滞路を走っていて、あまりにもそっと発進しなきゃいけないから、こっそり「STD」にパワーモードを変更したくらい。なんか、MT-09に負けたような気分だった。
高速道路に乗り入れると、ワイルドさはなく、思い通りに車体を動かせる気持ちよさばかりが目立つ。トップギア6速で80km/hは3200rpm、100km/hは4000rpm、120km/hは4700rpmくらい。面白いのは、6速でクルージングしていて、3500rpmくらいになると吸気音が「キュイイイィィィン」と鳴きだして、4200rpmくらいで泣きやむところ。100km/hあたりで走っていると、この音が鳴り始めるから、高速道路を走っていると退屈しなかったなぁ。鳴くぞ鳴くぞ……ほらきたぁ、ってね。
ハンドリングもすごくフィーリングのいいもので、着座位置がフロント寄りで、ちょうどモタードみたいな走りが良く似合うこと。ストリートでクイックで、俊敏すぎない。高速道路では快適で穏やかなハンドリング。これは、ライダーの入力しだいでハンドリングが変化することを意味してもいる。
いやぁパワフルだなぁ、と思ったから、僕は試乗の半分くらいをSTDモードで走っていた。「B」モードは路面温度が低いときとか雨の日用で、レスポンスも穏やかに、パワーもそんなにガシガシ出てはこない。パワーモードのあるモデルは数あれど、変化の具合はMT-09がナンバー1だと思うなぁ。「A」モードがパワフルだからって「STD」で走るなんて、僕そんなタイプじゃないのに(笑)。扱えなくたってハイパワーな方を選ぶものなのに、それだけフルパワーモードがスゴいパワーだってことだ。
アクセルひとつで車体を動かしやすくて、意のままにコントロールできる。それが僕のMT-09評で、実はこれ、ヤマハが提唱する「クロスプレーンコンセプト」そのもの。YZF-R1がねじりクランク(これをヤマハはクロスプレーンクランクシャフトと呼びます)を使って不等間隔爆発としているのがクロスプレーンコンセプトだと思ったら、そうではない。この思想すべてを指すのがYZF-R1であり、MT-09であり、MT-07なのだ。
現行モデルは、イカツいルックスで、獰猛なビースト感を出しているMT-09。このバイク、たとえばSRや昔の650XS-1みたいな「まったくフツーの」ルックスも見てみたい。XSRよりも、もっとフツーのね。
そしてそんなバイクが誕生したら、うちのガレージも、1台分スペースを空けとかなくちゃなぁ――とまで妄想してしまうのだ。
(試乗・文:中村浩史)
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