2019年7月8日
KYMCO G-Dink 250i試乗 帰ってきた「使える」軽二輪スクーター
■文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明
■協力:キムコジャパン http://www.kymcojp.com/
私的ベスト輸入車二年連続ランクインのキムコ「ジーディンク」。去年もこのJAIA試乗会で試乗し、何だこれは!? 素晴らしく良いじゃないか! と感動したキムコの250スクーターである。国内の軽二輪スクーターは肥大化した末、現在はスポーティ路線となった250、そして都市部ではコンパクトな150ccクラスが覇権中だが、かつてコンパクトでパワフル、「使える250スク」があったじゃないか! と思い出させてくれるG-Dinkである。
スクーター遍歴
スクーターはオジサンの乗り物、というイメージがひっくり返されたのは20世紀の終わりごろにマジェスティをはじめとする普通のスクーターをカスタムする文化が広まったおかげだろう。若者がそれまでストリートで主流だったSRやTWから250ccスクーターの便利さに屈し、一気に火が付いたと言える。基本的には移動のために乗るわけであり、そうなるとスクーターに敵うものはなかなかない。対候性も高く収納もあり、タンデムも容易でステッカーをペタペタ貼るだけで楽しい。マフラーだけ換えればカスタムした感もあり、「オジサンのもの」という枠さえ取り払えればこれほど良い移動手段はなさそうだ。
ところがこの流行りが進むにつれ、スクーターはなんだかゴテゴテしていったのも事実。普通のオジサンスクーターだった初期マジェをカッコ良くするのが楽しかったのに、いつしかスクーターは純正でカッコ良い乗り物になっていった。同時にサイズが大きくなり、スピーカーが純正でついて、リモコンキーになって、疑似変速がついて……と、どんどん豪華になって値段も高くなっていった。
極めた頃には流行りは終わっているのは世の常、250ccスクーターは途端に消えていった。代わって台頭してきたのが125ccをベースにした、150ccクラスのスクーターだ。コンパクトで扱いやすく、軽くて便利なのにナンバーは軽二輪枠だから首都高やバイパスも乗れる。なるほど便利であり、やっぱり結局スクーターは便利に立ち返るのだな、などと思ったものだ。
どうせなら?
これら150クラスのスクーターに乗ると、確かに良い。のだが、特にバイパスや高速道路、またはタンデムでのパワー不足は否めない。サイズ的にはかつてのフリーウェイぐらいのイメージなのにエンジンは100ccも少ないのだから当然の感覚だろう。この車体で、どうせなら250ccのエンジンが載ってても良いんじゃないか? と思う。
国内での250ccクラススクーターはかつてのゴテゴテした大型化路線からは脱したものの今度はスポーティ路線へと舵を切ってしまい、妙に腰高でスパルタンなモデルが出現した。「そうじゃなくてさ、フリーウェイ的なコンパクト&低重心でパワフルな実用車がほしい」、と筆者は思ったのだった。
その答えがこのG-Dink250iである。コンパクトで低重心な車体にパンチのある250ccエンジン。去年乗った時も「フリーウェイの再来だ!」と喜んだのだが、今年も全く同じように「フリーウェイの再来だ(笑)」と嬉しくなった。ちなみにG-Dinkはここ1年でモデルチェンジしていないため、今年乗ったものと去年乗ったものは全く同一。1年の歳月がたっているのに同じように感じるということは、少なくとも筆者は一時的な感情ではなく慢性的に「コンパクトな250スクがあればいいのに」と思っているということだ。
実用性第一
バイクには常に一定の実用性も求めている筆者だが、特にスクーターはカッコ良さや走らせる歓びのようなものを追求するよりも、まずは便利であることが優先されるべきだと考えている。利便性を確保したうえでカッコ良くするのはもちろん賛成だが、スクーターという性格上、カッコ良くするために利便性を犠牲にするのは、ちょっと違うんじゃないかと思う。
その点、G-Dinkはぬかりない。そもそも欧州でも大変人気だったグランドディンクの後継なのだから国際的にその実力は認められている。G-Dinkはその評判を引き継ぎ、十分なシート下スペースの確保や、12V電源の他にさらにUSBポートを備えるなど時代にマッチした利便性を追求。さらにはコンビニフックやフラットフロアなど、国内では125ccクラスで見られるような便利な構成を250ccでも実現している。フラットフロアは250ccクラスでは唯一だろう。乗り降りがしやすい事はもちろんのこと、(法律的にはグレーではあるものの)足元に荷物を置いたりすることもできる。フラットフロアはスクーターらしいアクセスのしやすさ、使いやすさの大きなポイントに思えるため、これは大歓迎したい。
さらに快適に乗れることも大きなポイントだ。全体的に小柄なのにもかかわらず、185cmの筆者が乗っても窮屈さを感じさせないのはフロアボードが前方に長いからだろう。またとても低くて低重心の安心感を提供してくれるシートの快適性も特筆もの。座る位置を限定しないためライダーの好みのポジションをごく自然にとれるのだ。
高いスクリーンも快適性に貢献する。短めのスクリーンの方がカッコ良いとされ国内スクは短いスクリーンを採用する例も多いが、G-Dinkはしっかりと防風性のあるスクリーンを採用。しかも結構厚めでしっかりした造りなのが印象的だ。
さらに細かいことを言えば、シートで挟むように使うヘルメットロックは左右2か所に用意されているため、シート下スペースを荷物に使っていても(タンデム時には二つの)ヘルメットをしっかりとロックすることができたり、またテールランプの被視認性が非常に高く安全性も追及していたりと、優秀な移動体として細部までぬかりないのだ。これならば欧州各国で人気なのもよく理解できる。本当に細かいところまで詰めていると感じさせてくれるG-Dinkである。
走りはどうか
いかに便利でも走りの方がおざなりでは、欧州での人気につながらなかっただろう。走りも期待を裏切らない。
キムコは各モデルの緩急の付け方やセッティングの違いを持たせることが得意だと感じる。非常にリーズナブルなモデルは、良い意味でリーズナブルなりの作りと感じることがあり、逆にフラッグシップモデルは「さすが!」と思わせる作りをしている。そして「この作りでこの価格ですか?」的なボッタクリ感はどのモデルにもない。どれも想定される購買層がそれぞれ納得できる作りと価格と性能のバランスがとれており、それはとても上手に思う。
共通のエンジンを使ったり、共通の車体を使ったりすることも(他メーカー同様に)あるのだが、キムコはこれも味付けが上手で「やっつけ感」のようなものを感じさせない。例えば400ccクラスの車体に125ccエンジンを積んだ「いくらなんでも無理があるでしょう」と思ってしまいそうなモデルもあるのだが、変速の設定をしっかりと高回転域で繋ぐようにするなどして、驚くほどキビキビ走らせられるように作り込んでいたりするのだ。日本では国内4メーカーがあるため目立つ存在ではないが、キムコは今や世界的メーカーであると強調しておきたい。
さてG-Dinkの走りだが、これが滅法良いのである。最初から強調しているように、とにかく車体がコンパクトで低重心なため、まさにかつてのホンダフリーウェイのような感覚なのだ。小さい車体を250シングルで小気味よく加速させるフィーリングは痛快で、2バルブの19.9馬力エンジンながら速いとすら感じさせる。装備重量182キロという最近のスポーティなライバルと同等の軽量さも効いているだろう、特に発進加速や低速域ではキビキビと走らせることができとても気持ちが良い。一般道においてその動力性能に不満を持つことはまず考えにくいし、トルクフルなエンジンは重積載やタンデムでも活きるはずだ。
車体の方もとても素直で、コーナリングもふらつきなど皆無。ステップスルーゆえにフレーム剛性は大丈夫か? などと思いそうなものだが、全く不安はなくけっこうなバンク角まで持ち込める。さらにハンドル切れ角は国産スクーター以上にも感じられ、コンパクトな車体と共に都市部の渋滞路などではまさに150ccクラスの軽二輪スクーターと近い感覚で乗れるはずだ。
ちなみに高速道路での試乗はしていないが、キムコジャパンによると最高速は120をちょっと上回るぐらいじゃないか、とのこと。2バルブの250スクーターとしては標準的な数値だが、日常領域のトルク感を考えると高速道路を法定速度で走り続けるのは、例えタンデムでも苦にしなさそうな印象だ。
手放しで褒める
ここまで何ひとつ悪い事、気になる点を書かずに来てしまった。困ったことに、そういった項目がないのだ! 本当に良くできたバイクだと思うと共に、さらにこのバイクを魅力的にするのは43万2000円という価格。国内メーカー150ccクラスと大差ない値段設定である。輸入車は値引きされることが少ないが、実売されている状況を見ると国産車と同等程度の値引きがされていることもあり、かなりお買い得に新車が買えてしまう。メーカー保証も距離無制限で3年付くため、筆者としては手放しで褒めることができるイチオシのスクーターである。試乗できる場面は少ないかもしれないが、便利で機動力のある軽二輪スクーターをお探しなら是非とも選択肢に加えたい良車である。
(試乗・文:ノア セレン)
●G-Dink 250i 主要諸元
■エンジンタイプ:水冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒、燃料装置:フューエルインジェクション、総排気量:249cc、内径×行程:72.7×60.0mm、圧縮比:10.3、最高出力:14.6kw(19.9PS)/7,500rpm、最大トルク:20.9Nm(2.1)/6,500rpm、変速機型式:CVT、始動方式:セルフ式、装備重量:182kg
■全長×全幅×全高:2115×770×1360mm、シート高:770mm、軸距:1450mm、燃料タンク容量:9.0リットル、タイヤ:(前)120/70-13、(後)140/70-12、サスペンション形式:(前)φ35mmテレスコピック式、(後)5段階調整式ツインショック、ブレーキ形式:(前)240mmフローティングぺタルディスク、(後)200mmディスク、キャリパー:(前)ピンスライドO27mm×2ピストン、(後)ピンスライドO25.4mm×2ピストン、ABS:標準装備
■メーカー希望小売価格(税込):432,000円。
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