2019年6月25日
Husqvarna VITPILEN 701 ヴィットピレンとは、『白い矢』である。
■文:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明
■協力:Husqvarna Motorcycles http://www.husqvarna-motorcycles.com/jp/
Husqvarnaが2015年のEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表したコンセプトモデルから誕生した、ロードスポーツモデルのVITPILEN。排気量などが違う2機種があり、今回はその大きい方、692.7 cm3のVITPILEN 701にJAIA(日本自動車輸入組合)の試乗会で乗った。スタイルコンシャスなデザインやディテールをしたシングルエンジンスポーツの魅力はどんなところだろうか。
気になるのはKTMブランドとの違いをどう出しているのか。
ご存知の方が多いだろうが、現在のハスクバーナはKTMと同じファミリーだ。ブランドの歴史としてはエンデューロ、モトクロスといったオフロードレースシーンで活躍してきたメーカー。それらをベースにしたモタードモデルはあったけれど、新たに純粋なオンロードスポーツを出してきたことはとても興味深い。KTMのコンポーネントを使いながら、どんなオートバイに仕上げたのか気になるところ。
『白い矢』を意味するヴィットピレンには、KTM390 DUKEと兄弟車である401と、この701とがある。KTM DUKEのミドルクラスは現在、パラツインエンジンの790 DUKEに代替わりしているが、これはシングルエンジンだった以前の690 DUKE譲り。ヘッドが小さいシングルカムの水冷4バルブエンジンは、ボア×ストロークも共通の692.7cm3。それでも、そのまま690 DUKEの外装だけを変更したのではなく、ポジションも含めいろいろ手が入っている。
兎にも角にも、角のある硬いものを柔らかい素材で包み込んだような特徴的な燃料タンクの形状と、思い切ったショートテールの大胆なスタイリングが目を引く。流行りのレトロテイストやストリートファイターテイストとも違う。単気筒エンジンだし、古い人間としては、80年代のヤマハSRX400/600を思い出してしまう。デザインにこだわっているところも近い。気に入る、気に入らないは別にしてこの造形へのこだわりは大いに評価したい。眼の前をさっと通り過ぎても、すぐにヴィットピレンだと分かるモダンなルックス。
適度に前傾したゆとりのある姿勢。
高さが830mmあるシートは、身長170cmの私には高めで、トップブリッジと一緒にマウント部分が鋳込まれたセパレートハンドルだから、どうしても前傾姿勢になる。しかし、燃料なしの状態で157kgという軽さと、細い車体のおかげでバランスが取りやすく、片足が接地しておけば問題ないという印象。ハンドルはやや開き目で、角度は変更できない。手足の短い私はハンドルをもう少し内側に絞った方が好みだ。その方がコンパクトに感じるだろうし操作がやりやすくなりそう。
だからといって、現状が不満だというわけではない。下半身はゆとりがあり、より大きな人でも窮屈に感じないライディングポジション。前傾はするがキツイ姿勢ではない。アップライトなのが多い今のオートバイの中では上半身が前に倒れている方ではあるが、1時間にちょっと足りない試乗時間中ずっと乗っていたが、気にはならなかった。走っていてリアタイヤに適度な荷重がかかってトラクションがかかる座る位置が、シート座面の広い部分でやや後ろ。ハンドルやステップ位置も含めてやはりもう少し大型な人の方がフィット感は良さそうだ。
それでもアップハンドルで楽なのや、ストリートファイターのように脇が開いて肘が横に出るのとも違う、低くかまえたスポーティーな乗車スタイルはこの車両のデザインとマッチしていると思う。ヴィットピレン401が良い意味で特殊な乗車感だったので、「これはそれの拡大解釈版かな?」と思っていたけれど、突飛なところがなく一般的なものだった。もし気になるなら、アップアンドルの『黒い矢』、スヴァルトピレン701がこの6月15日より販売されるので、検討してみるといい。
スポーツすぎない味付け。
軽くてこの見た目だと、カミソリのように切れる乗り味を想像してしまうが、乗ってみるとそうではない。ひらひらと軽快に動きながらもクイックすぎず。サスペンションはしっかり動いて、タイヤはグリップしているのも手に取るように分かる。路面の継ぎ目などもあまり神経質にならず安定した挙動。フットワークは良いけれどしっとりとした動きという表現がしっくりくる。難しいところは何もなく、運転技術によって走り方は変わるかもしれないが、許容範囲が広く、ビギナーでもスポーツライドしている楽しいフィーリングを味わえるもの。駐車場に設けられた簡単なコースでスロットルを全開にして速度が伸びてもスタビリティは十分。やっぱり軽さは七難隠す。スイングウェイトが小さく、車体と体が一体になったようなアジリティがあり、サスペンションの動きや加速を助け、ブレーキコントロールしやすさに繋がっている。
熟成が進んだライドバイワイヤのシングルエンジンは、クラッチを繋いだらスルスルと簡単に前に出る。3千回転をちょっと回ったらトルクに力強さが出て、ドライで軽めの歯切れの良い排気音を伴ってダッシュする。回転上昇と共に押し出す力を増していくが、その間に淀みはなく9千回転を超えてレブリミットに当たるまで一気に回せる。ひと昔前のビッグシングルとは違い、パワフルながら軽やかに回りスムーズ。さらにイージー。自分の意志(右手)に対し、レスポンス良く、リニアに反応しながら、ギクシャクするような動きにならない。シングルエンジンらしくトラクションが良くて、積極的に前に出ていく気持ちにさせる。
ちょうどいいライト感。
世の中にはいろいろなオートバイがある。パワフルで速く走るのに特化したものや、利便性や機能性を高めた便利に使えるものなど、同じカテゴリーでも違いがある。乗ってみて感じたヴィットピレン701の魅力は、汎用性など考えず、純粋にオートバイと対話しながらスポーティーに走ることだけを抽出したような割り切りの良さだ。それでいて常に寛容で難しさはない。突飛な動きもない。アスリートのような走りに振りすぎていないさじ加減がいい。乗り手を選ばない。私は、カワサキZ900RSとどこか似ていると思った。Zはレトロだし4気筒だし違うけれど、スタイルの存在感と走り程よさが近い。値段も同じくらい。正確には、ヴィットピレン701の方がちょっとだけスポーツ度が高いか。街で似合って、山(ワインディング)でも適度に遊べる。より走る性能にこだわった、良い意味でのオートバイマニア的なKTMのDUKEよりライトな感じで乗れるのがちょうどいい。ライフスタイルの中に置いておきたくなる1台。
(試乗・文:濱矢文夫)
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