2019年6月10日

外国車試乗祭 ── Vol.3 Ducati Panigale V4 S 『鳥かごにハヤブサ』

■文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明
■協力:Ducati Japan https://www.ducati.com/jp/ja/home

 
ワールドスーパーバイク選手権を席巻しているドゥカティのV型4気筒。スーパーバイクで勝つために作られたと言っても過言ではないため、勝って当たり前と言えば当たり前かもしれない。しかし長らくV(L)ツインで戦ってきたドゥカティが、初めて公道仕様車にMotoGP技術を投入したV4を放った(かつてのGPレプリカ「デスモセディチ」はあったが)という意味でもこのバイクは特別だ。惜しむらくはその性能をフルで味わうのには難しい試乗環境だったということだけだ。

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全ての性能が「異次元」

 1103ccの排気量、セミモノコックフレーム、195キロほどという車両重量、14000回転も回るエンジンから発生される214馬力、電子制御サス……。近年のスーパースポーツモデルはどのメーカーのものも少し前のMotoGPマシンの技術がふんだんに使われている、まるで兵器のような超最先端マシーンではあるものの、その中でもこのドゥカティのV4は別格だろう。全てにおいてとびぬけていて、息をのむ美しさと共に「ドゥカティはやっぱり特別」という気持ちにさせられる。
 超高回転型エンジンはクランクが逆回転しているというのも特徴だろう。一般的な公道を走るバイクは車輪が回る方向と同じ方向にクランクも回転しているが、パニガーレはそれとは逆回転でMotoGPマシンと同様の設定。コントローラビリティやウイリーのしにくさなどアドバンテージがあるというのだが、これを市販車に採用するあたりも特別だ。
 エレクトロニクスも当然ながら最先端。コーナリングABSやトラクションコントロール、IMUの導入によりスライドコントロールもプラスされている。クイックシフターなど当然の装備だ。ちなみに値段は331万円である。
 
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ライダー身長185cmのため車体が小柄に見えるが、実車はスーパースポーツらしく腰高な印象で、車体はスリムではあるもののリアが高い印象。また前傾もあくまでスポーツライディング、さらにはサーキット走行を第一としたものだ。


 

 
盛り上がるファーストコンタクト

 跨るとシートは高くてハンドルは低く、全体的にコンパクトで、ライダーはこれから獲物にとびかかるようなクラウチングスタイルを強要される。200馬力を優に超えていくマシンに乗るのだから、この高い一体感はマストだろう。強烈な加速や減速時にしっかりとバイクをホールドしなければいけないし、コーナリング中にもライダーの体重や入力を最大限生かせるポジションでなければいけない。これはスーパースポーツモデルに共通することではあるものの、パニガーレではそれがさらに極端に感じ、ワンランク上の究極スポーツを感じさせると共に気分は完全にワールドスーパーバイク選手権を現在V4ドゥカティで引っ張っているアルバロ・バウティスタになってしまう。
 スイッチを入れると液晶メーターがとてもモダンでレーシー。始動するとV4になったことで少し洗練されているかと思ったらそんなことはなく、デスモ機構をカチャカチャ言わせながらドゥカティ節全開でエンジンが目覚める。アクセルをあおると「ガオッガオッ!」とフケ、例えばホンダのV4とはずいぶん印象が違う。そういえば、ホンダがVツインを作った時(VTR1000SP)も決してドゥカティっぽくはならなかったな、などと思い出す。強烈なポジションに身を沈め、攻撃的なエンジンと共に走り出す。
 

 
恐ろしいほどのパワー

 試乗コースは、ある程度広いとはいえ所詮は駐車場である。一方、スーパースポーツモデルは少なくとも1周1キロほどはあるようなサーキットで乗るべき乗り物だろう。パニガーレほどのプレミアムモデルでは、個人的にはツインリングもてぎクラスのコースで試乗したいと思う。限られたスペースではアクセルを開けるのも一苦労。14000回転も回るエンジンのため、パワーバンドの入り口をかすめる程度の試乗しかできなかったというのが真実だ。わずかにパワーバンドに入った時にグワッと盛り上がってくるのが分かるのだが、同時に試乗コースがキュッと狭くなるかのような加速である。危ないったらない。
 やはりこのバイクの真価を確認するにはある程度以上の広さがあるサーキットがベストだろう。以前にVツインのパニガーレを袖ヶ浦FRWで走らせて楽しかった経験を思い出しながら、この日の限られた環境を恨んだ。これではまるでハヤブサを小鳥の鳥かごに入れているようだ……。
 とはいえ、超軽量な車体にとんでもなく速いエンジンが載っているその感覚は限られた環境下でも代えられない悦楽がある。タンクを抱え込むように乗り、小さなカウルに身を隠して意を決したようにアクセルを開けた時の、息つかせぬ加速。わずかな入力でもピピッと敏感に反応してくれる正確性、ブレーキレバーに指をかけた瞬間に強烈な減速を始めるブレーキとその車体姿勢の変化に即座に対応する電子制御サスの緻密さなど、まさにモトGPマシンに乗っているような特別な感覚にさせてくれる。それは国産のスーパースポーツのように公道での乗りやすさもある程度考慮したような優しさを伴うものではなく、本当に純レーサーに乗っているような、抜き身のスポーツに触れるような体験。このようなモデルを(とても高価ではあるが)ナンバー付車両として普通に商品化するドゥカティには頭が下がる。
 
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厳しさも見える日常領域

 これだけのパフォーマンスを持っているものの、これは一応ナンバー付のモデルであり、公道を走れることになっている。公道とは高速道路、国道、県道、市道、舗装林道、さらに渋滞路や雨天時まで様々であり、では果たしてこの究極のマシンがこれら環境で走れるのだろうか、ということも頭をよぎる。
 とりあえずパワーはいくらでもあるため、高速道路では気持ちよく走れることだろう。しかし試乗の合間にするUターンや極低速域での取り回しは、正直かなり辛いものがある。というのもポジションの前傾が強く、しばらくは首を一生懸命持ち上げてはいるものの、直線が続くとさすがに疲れてくるし腕にかかる負担も少なくない。常に左右に切り返し、ライダーも身体を使って積極的にスポーツしている時には気付かないが、巡航するには(当然だが)それなりに厳しいポジションだ。
 またクラッチのつながり方がけっこう唐突というか、特に低回転域ではスムーズとは言えなく、さらに全閉からジワリとアクセルを開ける領域もツキが曖昧な部分が見られた。これはスピードが乗っていて、エンジンもある程度回っていれば気にならないことなのだが、Uターンや渋滞路などではストレスになりそうな部分。そもそもパニガーレで渋滞路を走るんじゃないよ!というハナシではあるのだが、ナンバーがついている以上、間違ってこれでツーリングに行こうと思う人がいては困るから、気づいた点として一応記しておこう。
 

 
「一応ナンバーがついている」レーサーという認識

 サーキットや高速ワインディングを気持ちよく、速く走るために特化した性能を有するパニガーレV4S。その使い方を間違ってはいけないと思う。MotoGPマシンを公道で乗ったら色々と不都合が出るのと同じで、意図された環境で乗ってこそ最大限の楽しみを得られるマシンなのだ。一方で、そういった環境で乗れば無二の快楽が得られることだろう。
 
(試乗・文:ノア セレン)
 

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通常のパニガーレV4に加え、このV4S、V4Sコルセ、V4スペシャル、V4Rと5種類がラインナップされるV4シリーズ。V4Sは通常版にも備えられるパワーローンチ、クイックシフターUP&DOWN EVO、デイタイムランニングライト付きLEDヘッドライトなどに加え、スマートETC2.0、アルミ鍛造ホイール、リチウムイオンバッテリー、アップグレードされたオーリンズサスなどを装備する。


 
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パニガーレらしいフロントマスクはVツインのころから引きつぐイメージのもの。ウインカーはミラーにビルトインされる。


 
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オーリンズのサスペンションは電子制御式で、あらゆる路面コンディションやライダーの入力に対して即座に適切な吸収性を発揮。φ330mmのブレーキも強力だ。


 
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214馬力の最高出力を13000回転で発揮する高回転型エンジンはパワフルの一言に尽きる。ビッグボア、ショートストローク、デスモ機構など、いかにも「ドゥカティらしい」フィーリングに溢れているうえ、各種電子制御や逆回転クランクなど最先端のMotoGP技術がふんだんに使われていることも魅力だ。腹下に納められたツインサイレンサーはマスの集中に寄与するだけでなく美しいフォルムにも貢献する。


 
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スリムなタンクにはオプションのカーボンパーツも装着。写真にはないが5インチTFT高解像度・高輝度フルカラーディスプレイもモダンでレーシーである。


 



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