2019年5月27日
SUZUKI KATANA 新たなる“KATANA伝説”の始まり。
■文:濱矢文夫 ■撮影:依田 麗/SUZUKI
■協力:SUZUKI http://www1.suzuki.co.jp/motor/
今年3月に京都で開催された、新型KATANA国際試乗会に続いて、国内での販売についての新商品説明会が5月24日に開催された。その場で株式会社スズキ二輪 代表取締役社長の濱本英信氏より、発売日が今年、令和元年5月30日。車両価格は税抜き140万円、税込み151万2,000円。国内での年間販売計画台数は1,000台と発表された。説明会では日本では19年ぶりの登場であるカタナについてスズキとして並々ならぬ意気込みがあること、開発に携わった人の思いや苦労などをうかがい、KATANAについていろいろな情報を得ることができた。詳細に加え、歴史、開発の流れ、開発者3人のインタビューを交えてお伝えする。
(※注:分かりやすくするために、新型を“KATANA”、それ以外を“カタナ”と表記させてもらいます。)
カタナの呼び名は、これまで例外はあるもののほとんどの場合ペットネームとして使われてきたが、新型は車名をずばり『KATANA』にしてきた。これまでとまったく違う、新しいカタナというのを主張しているのかもしれない。新商品説明会の冒頭でマイクの前に立ったスズキ二輪 代表取締役社長の濱本英信氏は、これまで国内で販売されたカタナについて、スズキにとってカタナブランドの大切さを語り、最後に自身のスズキへの入社が最初のカタナ、GSX1100Sが発売された年であり、「今回、KATANA復活の場に立ち会うことができたことを大変幸せに思う」と語った。
カタナのスズキを象徴するブランドになった。
最初のカタナ、スズキの開発陣は“ファーストカタナ”と呼んでいた初期型GSX1100Sのプロトタイプが登場したのは1980年のドイツ、ケルンショー。それまで見たことのない斬新なスタイルは世界中を驚かせ大きな話題となった。KATANAのチーフエンジニアを務めた寺田 覚さんは、昨年、新型KATANAの発表の場はINTERMOT、ケルンショー以外は考えられなかったと話した。
ファーストカタナの発売は発表の翌1981年。ベースとなったのは2バルブのGSシリーズから進化し4バルブを採用した空冷DOHC直列4気筒エンジンをダブルクレードルフレームに搭載したGSX1100Eだった。基本はGSX1100Eと同じで、ほんの少し変更して、あのカタナスタイルを身にまとった。当時750ccを超える排気量の車両を販売していなかった国内市場でもカタナを望む声が高まり、1982年にGSX750EをベースにしたGSX750Sを投入した。初期モデルは、スクリーンが装着されておらず、フロントカウル下部にスポイラーもなかった。リアホイールが1100の17インチ径ではなく、18インチ。スタイリングの特徴的にもなっているクリップオンハンドルではなく、その後“耕運機ハンドル”と言われたセパレートながらアップハンドルが装着されていたことに賛否両論あったけれど、立派なカタナだった。
1100のファーストカタナは販売が終了した後にも望む声が多く、1987年の限定車、1990年スズキ70周年記念車として、オーバー750ccを販売することにした1994年には国内仕様と復活し、1100台限定で2000年に発売されたファイナルエディションで歴史の幕を閉じた。’80年代に750は消えたが、’90年代に入ってオリジナルカタナスタイルを継承した250、400も発売。スタイル違いや時系列を考えず明記すれば、世界の市場で、スクーターの50ccから、125、250、400、550、600、650、750、1000、そして1100とカタナの名前は多くの機種に使われたスズキを代表とするブランドである。
新しいカタナへの挑戦はあった。
1100は若干のアップデートや変更はあるものの、エンジン、フレーム、スタイルなど基本はまったく変わらず(最大の変化はファイナルエディションで)20年近く販売されたけれど、これまで新しいカタナがなかったわけではない。1984年に発売された通称3型と呼ばれるGSX750Sは、ファーストカタナから進化したようなモダンデザインを採用。当時だけでなく今でも画期的に見えるリトラクタブルヘッドランプにして実現したスラントノーズは、カタナらしさを残しながらまったく新しいものだった。ファーストカタナのように海外のデザイン会社が手がけたのではなく、自社でやったスタイリング。新作の空冷4気筒エンジン、角パイプダブルクレードルフレームなど力が入ったものだった。しかし、まだファーストカタナが発売されてから数年しか経っていない時期だ、市場にオリジナルスタイルへの思いが残っていたかもしれない。これがカタナの発展につながることはなかった。
それからしばらく新しいカタナを私達は目にすることはなく、噂も聞こえてこなかった。ところが、ファイナルエディションの発売から5年後の2005年、第39回東京モーターショーに1台のコンセプトモデルが出展される。『STRATOSPHERE(ストラトスフィア)』と名付けられたそのコンセプトモデルは、4気筒並にコンパクトな1100cc水冷直列6気筒エンジンを採用。このストラトスフィアのアルミ叩き出しで作られたフロントカウルと燃料タンクは、誰が見てもカタナの流れをくんだもので、ファンはカタナ復活かと色めき立った。6気筒エンジンは実動で、コンセプトモデルはちゃんと走行できたにもかかわらず、残念ながら日の目を見ることはなかった。バイクにあまり興味がない人でもその存在を知っていることが多いカタナというスズキにとって重要なアイコンを、新しくして市場に出すことが一筋縄ではいかないことは想像に難くない。
新型KATANAのプロジェクトが動き出した。
前置きが長くなったけれど、新型KATANAの話に入ろう。なかなか生まれなかった新しいKATANAが今回誕生したきっかけは、外からの刺激だった。2017年のEICMA(ミラノショー)に、イタリアの二輪専門誌『モトチクリスモ』が企画をし、ロドルフォ・フラスコーリ氏がデザイン。それをエンジンズエンジニアリング社が制作したKATANA 3.0 CONCEPTが出品された。それに対する市場からの反響は大きく、スズキの欧州代理店、現地で目の当たりにしたスズキ社内の人も大変共感。ここから量産化に向けてのプロジェクトが立ち上がった。開発期間は約1年間と異例の短さだ。
寺田:「鉄は熱いうちに打て、刀は熱いうちに打て、とでも申しましょうか。お客様の気持が冷めないうちに。新しいカタナについてのいろんな意見が社内でも出てきたのですが、どうあるべきかとなるとなかなか難しくて……。その中で外部のデザインですけれど、KATANA 3.0 CONCEPTがぱっと出てきて大評判になりました。
社内のいろいろな基準に沿ってデザインすると、なかなかああいうふうな大胆なスタイリングは難しいのかもしれません。これによって我々が新しくつくるカタナとしてこれはありじゃないか、となりました。ミラノショーの現場にいましたけれど、現地でも反響がすごかった。こういう時代ですからネットを通じて見た日本の方からの反響もすごかった」。
何が何でもスタイルを優先。
開発の柱はKATANA 3.0 CONCEPTのスタイルを最優先して実現すること。日本にそのコンセプトモデルを持ち込んで検証。KATANA 3.0 CONCEPTがそうだったように、自社のロードスポーツであるGSX-S1000をベースにする。原稿実同社を使ったコンセプトモデルだといっても、機能性、実用性、快適性、法規を考えて作られておらず、それらをクリアするのはたいへん難しいものだった。車体設計グループの三池翔太さんはこう話した。
三池:「3.0 CONCEPTは物が入らないデザインでしたから、どこに何を置くかを時間かけてレイアウトしました。バッテリーがライダーの後にきており、重量物をそこに置くことは議論になったんですが、ライダーが座る位置が前にきたライディングポジションでバランスが取れたと思います。結果的に、バッテリーのメンテナンス性が向上しました。3.0 CONCEPTを絶対に崩すなということですから、普通ならデザイナーに意見をして変更することもできるんですが、それができません。デザインは不変でそれに合わせていく。設計としては新しい試みでしたね。エアクリーナーの場所は動かせませんから燃料タンクはシート下まで伸びています。それとレギュレートレクチファイヤの位置を微調整しています。場所は大まかには同じですが、そのままは厳しいので“皆さんお詰めください”という感じで少しずつ位置を変更しています」。
寺田:「カタチを変更できないから燃料タンクは後にさがる。しかし後は短くしたいと前に来る。そのせめぎあいです」。
同じように見えて、よく見ればKATANA 3.0 CONCEPTとはディテールが少し変わっている。それは量産に向けてのレイアウト的な要望からではなく、よりカタナらしさを出すためだ。“A Cut Above”と刀で切る=Cutの単語を入れながら、「より上質な」、「一枚上の」、という意味のあるデザインコンセプトを掲げて、スピード感を出しもっと魅力を増すようにと説明された。KATANA 3.0 CONCEPTよりフロントエンドは尖って伸ばされ、ヘッドライトはファーストカタナを連想させるスクエア形状に近いものを採用。よりシャープな顔つきになった。形状は違えどファーストカタナにあった、チンスポイラーをオマージュした黒いウイング部分にはLEDポジションランプが装着されている。
試行錯誤して実現したスズキ初の試み。
ターンシグナル付スイングアームマウントリアフェンダーは、スズキとしては初めての採用だ。だから社内に持ち込まれたKATANA 3.0 CONCEPTを見た設計部門から真っ先に不安の声があがったという。スイングアームと一緒に常に上下動を繰り返す部分。テストでは不安の通り、振動に苦しんだ。特にステーで横に飛び出したターンシグナルの試作品ができるたびに問題が出てきて振動対策に翻弄され、途中でシート下でもいいのではないかという意見が出てきたほど。これを実現化することで特有のショートテールスタイルが維持できた。シートもひとり乗りだったコンセプトモデルそのままというわけにはいかなかったところ。スタイルを崩さずにタンデムができるスペースを確保しながら快適性、国内法規の要件をクリアしなければならなかった。その中で前後の段差が少ないシート形状で体の大きなライダーでも乗りやすく自由度を高めることができたと自負する。ファーストカタナにあった後席部の3本の溝をイメージした3本線などニクイ演出もある。ちなみに灯火器類はすべてLED。
らしさを追求しKATANA専用の作り込み。
見た目は大きく異なるけれど、ハード部分はGSX-S1000とまったく同じだ。スーパースポーツとしてはロングストロークで低回転域からトルクフルで評価が高かった、2005~2008年のGSX-R1000をベースにした水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒998ccエンジン。最高出力=109kW〈148PS〉/10,000rpm、最大トルク107N・m〈10.9kgf・m〉/9,500rpmというスペックも変更はない。安定した減速ができるスリッパークラッチ、小型の水冷式オイルクーラー。クラッチをつないでの発進時や、低回転数のときに回転の落ち込みによるエンストを防ぎ、運転をスムーズにさせるローRPMアシスト。スタートボタン1回押せばセルモーターが一定時間回り、長押しする必要がないスズキイージースタートシステム。走行モード切り替えはないが1~3とOFFの4段階あるトラクションコントロール。それらもGSX-S1000と共通。
エンジンとその制御の部分でKATANAにあわせて変更されたのはスロットルプーリーになる。一般的な真円ではないプログレッシブタイプになっている。低開度でいわゆるロースロットルになるような形状で、コントロール性を高めることを目的とした。
三池:「短時間の開発期間でこのような微調整をやることに議論はあったけれど、KATANAの理想を具現化するために、国内外の開発者やテストライダーの声を集め、自身でも確認しながら求められるフィーリングをスロットルのプーリーにフィードバック。時にはイメージを手書きの曲線に表して、それを参考に図面を描いてテストを重ねました。外観からは分からないKATANAにとって縁の下の力持ちのようなものです」
誰もが操れる間口の広いハンドリング。
足周りもGSX-S1000と変更はない。メインチューブがステアリングヘッドからスイングアームまで直線的に伸びたアルミフレームと、剛性の高いスイングアームの形状はGSX-R1000を継承。その中で前後のサスペンションはリセッティングしている。ライダーが座る場所、着座位置がGSX-S1000より前にきているので、前輪荷重が増大したことによる変更だ。実走テストを担当した技術・品質評価グループの大城 光さんはハンドリングを決めていく作業を振り返る。
大城:「プロトタイプに乗った時の感想は、素材はいいが調和していない、でした。そこでKATANAを作り上げる道筋においてテストライダー同士で話し合いをして目標は現代にふさわしいカタナの走りと決めた。ファイナルエディションを担当したテストライダー、GSX-R1000Rを担当したテストライダー、若手のテストライダーがチームとなって走行実験をやっていきました。スズキの竜洋のテストコースでベースを作ってから、ドイツのアウトバーン、市街地など多くの状況で走行実験を繰り返しました。少しでも良くするために海外のテストライダーにも乗ってもらい多くの意見を出し合って仕上げました」
それに付随してハンドルバーもKATANA専用だ。肘を横に出したストリートファイター的なポジションで操れる。振り回して乗る際には抑えやすく、かつダイレクトな操作性のためにステアリングステムとグリップの距離を調整した。
三池:「ここにたどり着くまで15種類のハンドルポジションをテストし、走り込みながら探っていきました。アグレッシブに乗る際には車体を制御しやすく、街乗りなどでは上体に余裕ができてゆったり楽に乗れる最適なポジションができたと思っています。外装の作りから制約はあるのですが、その中でもハンドルバー形状の選択肢は幅がありました。3.0 CONCEPTは走ることができましたから、まず乗ってみてどういうポジションがいいのかと考えた結果、今どきのストリートファイターのように抑え込んで乗っていくのがマッチしてかっこいいと思いました。ファーストカタナがそうでしたからセパレートハンドルという話は当然出てきました。しかし、外装がキーシリンダーに横から覆いかぶさるように回り込んでいますから、実車でやっていただくと分かるのですが、最大に切るとアッパーブラケットがタンク部分の外装に少し入り込むようになるんです。それでこのデザインのままセパレートのクリップオンは難しい。ちなみにKATANAのハンドルの切れ角は29°です」
大城:「シート位置が前方に移動して、フロント荷重が高まったことでフォークをしっかりさせ、リアの荷重が減った分、リアサスペンションを柔らかくして対応しました。それで直進時のスタビリティをそこなうことなくニュートラルなハンドリングを実現しました。ダンロップのタイヤ(SPORT MAX Roadsport 2)もそれに貢献しています。誰が乗っても操りやすく気持ちの良い旋回を感じられると思います。ファーストカタナに乗ったことがあるライダーから、久しぶりに運転するリターンライダー、経験がまだそれほど長くないライダーでも安全に楽しく運転ができるように間口を広げたものに仕上げました。ライダーの操作に対して穏やかに反応して、路面状況によって神経質にならずに乗れます」
3人に最後の質問として「ファーストカタナに乗ったことはありますか?」と聞いた。
寺田:「私は1100に乗ったことがあります。やっぱり初代はライディングポジションが独特でした。全長が長く、燃料タンクも長く、ハンドル位置が遠くてなかなか難しいと思いましたよ」
三池:「大学生の時に先輩からGSX750Sに乗らせてもらいました。それが最初のカタナ体験です。乗りこなすのは難しいけれど、意のままに操れた時にバイクが体の一部となる感動がありました」
大城:「実は運転したことがなく跨ったことがあるだけなんです。でも、その時はファーストカタナを担当したテストライダーに興味深い話をうかがいながらでした」
KATANA伝説のはじまりだ。
最後の質問からも開発を担当した3人は、カタナをリスペクトしながらも爆発的な人気があった過去の実績に囚われ過ぎていないことが分かる。社外で制作したコンセプトモデルが起爆剤となり、過去の偉業を恐れない開発者達がはっきりとした目標を持ち、短い時間でスマートに作り上げたのが、新生KATANA。これは“カタナ伝説の続き”ではなく“KATANA伝説の始まり”と言えるのかもしれない。
(文:濱矢文夫)
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