2019年5月31日
VERSYS 1000 SE試乗 奇抜なルックス・乗れば「らしさ」全開 「This is Kawasaki.」
■文:ノア セレン ■撮影:松川 忍
■協力:カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/
ヴェルシス。なかなかメインストリームになりにくいモデルである。しかし各社からリリースされる、アドベンチャーなどと呼ばれる大排気量長距離ツアラー群に対するカワサキの答えがこれだ。アドベンチャーモデルとはいくらか毛色が違うが、乗るとそのカワサキらしいフィーリングに納得する。
イノシシ年の年男
”V”の発音が基本的に存在しない日本語において「ヴェルシス」という車名がちょっと覚えにくいと思う。「ベルシス」と呼ばれることも多いはずだ。国内仕様がしばらく存在しなかったことも日本市場に定着しにくかった一因かと思うが、ヴェルシスブランドはまず最初2007年、パラツインの650が登場しているからその歴史はすでに12年。イノシシ年の年男(男?)なのだ。しかもこうしてモデルチェンジも繰り返しているのだから、一定の支持層がいるはず。アドベンチャー系モデルとしては珍しい4気筒(ニンジャ1000系)を搭載したヴェルシス1000は2010年に650と共通するデザインイメージで登場し、後にこのニンジャ顔へモデルチェンジすると同時に機能面もブラッシュアップしてきた。今回乗ることができたのはその最新型、しかもアクセサリーフル装着の最強ツーリング仕様である。
充実の装備
機能面に触れておくと、基本的にはニンジャ1000を下敷きにしていると考えて間違いない。フレームもエンジンも細かな部分以外では共通で、その骨組みをベースにストロークの長いサスペンションやよりリラックスできるライディングポジション、タンデムも快適なシートなどを装着し長距離ランをサポートしている。さらに電子制御サスを始めとする各種最新電子機器を搭載し、カワサキははっきり「アドベンチャーモデル」とは言わないものの、いわゆるカワサキ版アドベンチャーと言える。各社ともにアドベンチャーモデルへの力の入れようはSSモデルへのそれと同様にレベルが高いため、まさに最先端のカテゴリーと言えるだろう。
カワサキはそこに敢えて4気筒で挑み(BMWもS1000XRという4気筒アドベンチャーを持っているが)独自の世界を追求。多少のオフロードはこなせるだろうけれど、「だって道のほとんどはオンロードじゃないか」という開発者の声が聞こえてきそうだ。オフロード性能も追及する大型アドベンチャーモデルも多いが、そもそも大きく重く、そこまで踏み込んだオフロードを走るのはライダー側に求めるものが大きくなりすぎるんじゃないか、と常々感じていた筆者としては、カワサキのチョイスは正解に思える。4気筒で前後17インチという成り立ち以外では、各種最新の充実装備はライバルと同様なのだから。
楽しみにしていた試乗
650の方は何度か乗ったことがあり、これが非常に好印象だった。軽くて速くて快適で、本当に良くできたモデルだと今でも思う。特に初期型はキノコみたいな形をしたライトで、個性や愛らしさもあり個人的には魅力的に感じた。
後にモデルチェンジし、デビューした1000と同様の風の谷のガンシップみたいな顔になったが、それでも個性的に思え興味をひかれた。ちなみに今は650もニンジャ顔である。スタイリングの移り変わりはともかくとして、1000の方は未試乗だったため、650のあの良さが1000でも表現できているのだろうか、あのサイズになってもヴェルシスの魅力は同様なのか、と前から気になっていたのだ。
カワサキの考えるビッグアドベンチャー、ビッグツアラーとはなんなのか。ニンジャ1000という優秀なツアラーに加えZX14Rというハイスピードスポーツもラインナップする中、どんな立ち位置なのか……。電子制御サス等が装着されたこの最新SEモデルでやっと試乗が叶ったのだった。
驚いた「カワサキ感」
ニンジャ1000やそのノンカウル版のZ1000はとても速いバイク。ルーツをたどればZX-9Rまでさかのぼれるエンジンではあるものの、現代的な技術と味付けでとてもモダンな乗り味及びエンジンフィーリングになっている。基本を共有するヴェルシスも同様かと思えば、そうではなく驚かされた。
マニアックな話で申し訳ないのだが、この車両に興味を持つ読者、もしくは購入を検討する読者は50代以上と考え、旧い車種を挙げさせていただきたい。ヴェルシス1000のフィーリングは、カワサキ空冷2バルブ最強を誇った、GPz1100と瓜二つだったのだ! 筆者も「え? そんなバカな」と自分の感覚を疑ったりもしたのだが、乗り込むほどに確信した。これは紛れもなくGPz1100なのだ。
紛れもなくといっても、基本的にはエンジンの話ではある。確かに親しみやすいライディングポジションや柔らかめのサスペンション、快適なシートや細めのニーグリップなども旧車に通じる部分もあるが、「こりゃGPz1100だ!」と最も感じたのはやはりエンジン。低回転域からズルズル、もしくはジュルジュルと重さを伴って回り、そのままあまり大きな変化が起きることなく回転は上昇、ストレスなく回っていくものの、どうにも速度がのっている気がしない。ところがスピードメーターを見ればやっぱりちゃんと速度は出ている。振動は少ないのだが、全回転域で満遍なくその少ない振動が続き、一定の速度帯だけでハンドルがビリビリするとかそういうことがない。いい意味で全てがフラットでドラマがない、ツーリングバイクとしては理想的な出力特性なのだ。まさにかつてのカワサキが、GPZ1100や後のZZRシリーズなどで得意とした特性であり、「カワサキ感」溢れる乗り味に感動してしまった。最高出力もGPz1100と全く同様の120馬力なのも偶然とは思えないほどである。
中性能をサポートする高性能
こんな出力特性のため、正直に言って「速い」という感じはない。アクセルを大きく開けてもまるで5速ミッションかのような息の長い加速をしていくため、キビキビ感は少なめと言える。どこまでも穏やかで、意図的な性格付けをしたという印象がなく、素直にいいものを作り上げた結果優秀なツアラーになったという印象。あくまで長距離をストレスなく走破するための味付けと言えるだろう。さらに今回はフルパニアも装着されていたことで、高速域では走行風の流れが気になりそんなに飛ばそうという気にもなれない。やはり淡々と距離をこなすのが得意な、英語でよく言われるところの「マイルイーター(静かにマイルを食べていく優秀なツアラー)」というわけだ。
しかしそうはいっても120馬力、車両重量はアクセサリー品がない状態で257キロである。ABS、トラコンは当然装着し、しかも車体姿勢を認識するIMUも搭載することでこれらの精度を高めると同時に「KCMF(カワサキコーナリングマネジメントファンクション)」なるものまで搭載されている。そして電子制御サスにクイックシフター……。まさに全部乗せの状態で最新の技術がてんこ盛り。エンジン特性そのものは特別「高性能」という感じでもないのだが、長距離ランをサポートする各種補器類は紛れもなく最先端の「高性能」である。
長距離ツアラーに贈る
近年のカワサキはスーパーバイクでの成功やスーパーチャージャーモデルの登場などでエキサイティングな印象もあるかと思う。しかしヴェルシスの試乗では、そもそもカワサキが何を得意としていたのかを思い出させてくれた気がする。淡々と長距離をこなし、公道で起こりえるあらゆる状況を涼しい顔でいなしていく。かつての水冷GPZ900Rニンジャや空冷GPz1100、そしてZZR1100シリーズなどが次々と頭に浮かんでくる乗り味であった。
高速道路を積極的に使い、しゃかりきに飛ばすのではなく、静かに、確実に距離を稼いでいきたいような、長距離ツアラーライダーならばこのモデルの真の魅力に惹かれることだろう。
(試乗・文:ノア セレン)
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