2019年5月10日
新たにDVTエンジンと新設計のフレームを採用した新型「ディアベル 1260」 ディアベルらしさを受け継ぎながら、 パフォーマンスをアップデートした。
■試乗・文:河野正士 ■写真:ドゥカティ
■協力:ドゥカティジャパン http://www.ducati.co.jp/
昨年のEICMAで発表された「Diavel 1260(ディアベル 1260)」およびそのスポーツバージョンである「Diavel 1260 S(ディアベル 1260エス)」。2010年にデビューした初代「ディアベル」から数えて初めてのフルモデルチェンジであり、その内容はほとんどすべてを一新するほどのビッグチェンジとなった。またカーボンやチタンといったマテリアル変更による上級モデルは存在したものの、ドゥカティの方程式を用いたSバージョンの設定はディアベル史上初となる。ここではその詳細とともに、スペイン・マラガで開催された国際試乗会でのインプレッションを紹介する。
こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/eZ8OxKuYr20 |
今回の国際試乗会の舞台はスペイン・マラガ。イベリア半島南端のジブラルタル海峡に面したリゾート地であり、背後には渓谷や山脈を背負ったヨーロッパ有数のワインディングスポットだ。そこにはスピードの乗る高速コーナーや奥がきつくなったブラインドコーナーのほか、細かな切り返しが続くS字コーナーも多数あり、道幅の狭いそれらのコーナーはうねっていて、車体にはいろんなパフォーマンスを、ライダーにはいろんな動きを要求する場所だ。今回試乗した新型ディアベルは、前後にオーリンズサスペンションを装着したスポーツバージョンの「ディアベル 1260 S」であり、ドゥカティはそのテストの場所として、あえてマラガを選んだ。
筆者もすっかりと忘れてしまっていたが、ディアベルの開発キーワードは“メガ・モンスター”だ。初代「ディアベル」の発表時にそのコンセプトを知ったが、その見た目とプロモーション的理由から“ハイパフォーマンスクルーザー”や“スポーツクルーザー”というコピーが広まったのだった。しかし今回の国際試乗会でドゥカティは、プレスカンファレンスの冒頭に“メガ・モンスター”のキーワードを改めて強調。それを元に、初代ディアベルはスポーツネイキッド/スーパースポーツ/クルーザーという各カテゴリーモデルのデザイン的要素、パフォーマンス的な要素を抽出し、新しい価値観を持ったバイクを造ろうと考えたのだ、と。そして新型「ディアベル1260」は、そのデザインもパフォーマンスも進化させたのだ、と。
進化した部分。それはエンジンから、フレームから、外観から、そのほとんどだった。エンジンはドゥカティのアイデンティティであるデスモドロミックL型2気筒エンジンの可能性を広げた、エンジンの回転数に合わせて吸排気のバルブ開閉タイミングを変化させる、テスタストレッタDVT1262。先に、兄弟モデルある「Xディアベル」に搭載されたエンジンだ。DVTの機構そのものは「Xディアベル」はもちろん「ムルティストラーダ」ファミリーが搭載するそれと同じだが、その可変バルブタイミングを含めた出力特性を「ディアベル1260」専用に造り込んだ。またエンジンそのものをスタイリングの重要なポイントと位置づける初代ディアベルからのコンセプトを受け継ぎ、ウォーターポンプの位置を変更することで、そのポンプはもちろんラジエーターへ向かう冷却水用ホースが目立たないように設計されている。
フレームはステアリングヘッドからリアフレーム一体型のピボットプレートへと繋がったトレリスフレームの前モデルから、エンジンをフレームの一部として使用することで、2つのシリンダーからステアリングヘッドまで伸びるシンプルで軽量な、「Xディアベル」と同じフロントフレームのみに変更。スイングアームピボットと車体側リアサスペンション取付プレートを兼ねるコの字型のアルミ鍛造プレートと、鋳造リアフレームを分離した。スイングアームは前モデル同様の片持ちのアルミ製だが、スイングアーム長を56mmも短くした新型とした。またリアサスペンション位置をスイングアーム下から上へと移動。このリアサスペンション搭載位置は「Xディアベル」と同じだが、Xディアベルはスチール鋼管を組み合わせたスイングアームとベルトドライブを使用していること、さらにはリアホイールトラベルが20mm増えたことでリンクレシオを変更している。
スイングアームが短くなった理由は、エンジンの搭載位置を40mm車体後方に下げたことに起因している。初代ディアベルでは、前後長が長いエンジンをできるだけ車体前方に搭載し、フロント荷重を稼ぐことでドゥカティらしいスポーツ性を高めようと試みた。しかし新型「ディアベル1260」のDVTエンジンをしっかりと管理するために、ラジエーター位置を冷却効率が高いエンジン前へと移動した。それにより、エンジンは搭載位置を車体後方に移動したのだ。この実現には新型フレームの採用も大きく影響しているという。
このエンジン搭載位置変更が「ディアベル 1260」の進化の肝になっている。分かりやすく言えば、ライダーと一体感を増す車体造りが行われ、それにより快適性とともにスポーツ性が高められているのだ。
初代「ディアベル」は、スーパースポーツ系のエンジンのパワフルさが爆発していた。そのエンジンを、ライダーをやや後ろに載せる車体と240サイズのリアタイヤを使ってスポーツさせようと、エンジンを可能な限りフロントタイヤに近づけた。しかしそれは、ライダーとエンジンの間にわずかながら距離を作り、それによって離れた場所にある重心をライダーがコントロールしなくてはならず、それが得も言われぬ重さとなっていた。
しかし新型「ディアベル1260」は、その重さが消えている。エンジンが40mm後退し、エンジンの重心がライダーにグッと近づいたことが、その大きな要因だ。さらには初代ディアベルに比べキャスター角を立て、トレール量を減らすなどしてフロント周りのアライメントを変更していること。DVTエンジン搭載により低中回転域のトルクが太くなり、扱いやすくなったことによっても軽快さを増しているのだ。
この軽快さには車体の徹底した軽量化も、大いに効いている。DVTエンジンとしたこと、そしてエンジンをフレームの一部として使用することでエンジン自体の剛性を高める必要があり、その結果エンジン単体で7kgの重量増となったにもかかわらず、車重は33kg強増にとどめている。重くなったエンジンをライダーに近づけ、ライダーから遠く離れるパーツを軽くする。その効果は絶大だ。
またリアホイールトラベルの増量と、そのセッティングもスポーツ性と快適性の向上に大きく影響を及ぼしている。リアホイールトラベルは初代「ディアベル」から10mm、同じリアサスペンション構造を持つ「Xディアベル」からは20mmも伸びている。そのなかでサスペンションをしっかりと動かし、車体を路面に押しつけているのだ。
このしなやかさ、乗り心地の良さ、パワフルさ、そしてスポーティなハンドリングは、どこかで感じたことがある。そしてその“どこか”は、日本メーカーが得意としている“ビッグネイキッド”だったことに、試乗途中に気がついた。いままでドゥカティの刺激的なエンジン特性とシャシーの特性は、そのイメージとは相容れなかった。しかしデスモドロミックエンジン特有の高回転域のパンチはそのままに、低中回転域のトルクを豊かにしたDVTエンジンを採用し、その特性をさらにディアベルの特性に合わせて造り込んでいること。またエンジンの重心位置を変更しながら、素直で快適で、それでいてスポーティなシャシーを造り込んだことで、ビッグネイキッド的なフィーリングを造り上げていった。グリップ、シート、ステップが造り上げるゴールデントライアングルは初代「ディアベル」からほとんど変わらず、それでいてネイキッド的なごく自然なライディングポジションであることも、ビッグネイキッド的フィーリングに起因しているだろう。
したがって、その乗り方も街乗りからツーリング、そして時折ワインディングでスポーツするという、日本的バイクライフにもフィットする。だからこそ、いままでドゥカティを経験したことが無かったネイキッド好きライダーに、是非ともトライしていただきたい。ワタシのように「う~ん、なるほど」と顎を手で擦る仕草になること、間違いない。
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