2019年5月9日

Kawasaki W800 STREET/W800 CAFE試乗 『アレコレ変わって変わってなくて これがWだ、カワサキだ』

■文:中村浩史 ■撮影:赤松 孝/南 孝幸
■協力:カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/

ファイナルエディションなんてバージョンが発売されて
一時的にカタログ落ちしていたW800が帰って来た。
新しい排出ガス規制に対応させたリニューアルと合わせて
あれやこれやマイナーチェンジしたんだけれど
根っこはやっぱりWのまんま。
これが、みんなが喜ぶマイナーチェンジだ。

 

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W800 STREET。


 
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W800 CAFE。


 
 僕のケータイにはナントカ精細ディスプレイも、デュアルカメラも4Kビデオ撮影機能も、顔認証システムだってついていない。だって、要らないし、使えないもん。
 可能なら、通話とメール機能があって、LINEが使えて、地図ソフトが使えるだけの最小限だっていいな、と思う。その分、操作スピードが速かったり、価格がうんと安いのがいい。あ、カメラはやっぱりあったほうがいいかな。
 
 同じことがバイクにだって言えると思う。200psは当たり前、ラジアルタイヤに倒立フォーク、アルミフレームに電子制御サスペンション、ABSがあって、トラクションコントロールもあって、ローンチコントロールってナニモノだ?
 もちろん、最先端ケータイだって使えるし、最新スーパースポーツだって乗れなくはない。けれど、使えないものが多すぎるって、窮屈だ。あるべきもの、あった方がいいもの、出来ればあってもいいもの、なくてもいいもの――Wのニューモデルは、そういうところから開発がスタートしたんじゃないかと思う。
 リニューアルするW800にあるべきものは、新しい排出ガス基準をパスすること。あった方がいいものは、ABSやリアディスクブレーキ、ETC車載器、出来ればあってもいいものはグリップヒーター、そしてなくてもいいものは、電子制御にアルミフレーム、その他おおぜいの最新技術。
 それが2019年型カワサキW800だ。
 
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W800 STREET。


 
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W800 CAFE。


 
 ニューW800は、ノンカウル+アップハンドルの「ストリート」と、ビキニカウル+ローハンドルの「カフェ」の2本立て。これは、2018年春に生産休止された頃のW800にオプションとして設定されていた、ビキニカウルやシングル風シートの評判が良かったこともあって、そのまま正規モデルとして追加ラインアップしたもの。ユーザーにしてみればカウルを取り付ける手間もシートが余ることもないんだから、これは正解だと思う。Wのスタンダードな味と、ちょっとスポーティに乗りたい味、両方を提供できるってことだ。
 ニューW800で乗り出してみると、あれ、何も変わっている感じがしないよ? もちろん、従来モデルに直前まで乗っていたような直接比較試乗じゃないから、厳密には分からないけれど、僕の記憶の中にあるWそのまま。
 アイドリングでは、少しサウンドが太く低くなったようだ。これは、乗っている時にはわからないけれど、走っているWを見ると、横で聞くとイイ音出してる! 乗っているライダーにも、もう少しこのイイ音が伝わればいいのにな。
 アイドリングすぐ上からのパワーフィーリングはWのままだ。800cc(実際には770cc)もあるビッグバイク、ビッグツインというのに、クラッチをつないだ時に「ドン」という力強い押しがなく、スーッときれいにトルクが出ている。非力じゃない、必要充分の少し上、そんな発進トルクだ。
 
 ここからフラットトルクがきれいに伸びて、3,000~4,000rpmといったあたりが常用回転域になるのだろう。ちなみにミッションは5速、街を普通に流していて50~60km/hで走っていると1,500~2,000rpmで、こんな回転域でもWは息つきもせずギクシャクガチャガチャもせず、じゅうぶんにスーッと、流すように走れる。大排気量のトルクあるエンジンって、こういうところがいい。ジェントルに走れるバイクって、最近すごく少ない気がするからね。
 街を流していると、フロントホイールが18インチになったことも、リアがディスクブレーキになったことも「そういえばそうか」ってレベルで気づくことになる。そういえば切り返しなんかでハンドリングが軽快になったなとか、ちょいと掛けくらいのリアブレーキが使いやすいなとか、そんなレベル。
 ただしABSは一度、飛び出し車両でびっくりブレーキをしたことがあって、実際に働かせてしまった。ABSがなかったらきっと、フロントをズルッと滑らせていたようなブレーキングで、やっぱりABSは必要な装備なんだとわかる。
 
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W800 STREET。


 
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W800 CAFE。


 
 快適に、安全に流せる街を抜けて、高速道路に乗り入れてみる。トントンとシフトアップして、トップ5速80km/hでは約2,800rpm、100km/hでは約3,500rpmといったあたりで、この時の振動も少なく、さすがはバランサーつき空冷SOHCエンジンだな、ってことがわかる。もっとズドドドドド、ってテイストが欲しい人もいるだろうけれど、それはもう現代のバイクでは望むべくもないのかなぁ。
 それでも実際に走る時には、100km/hとかのクルージングで振動なく走れた方が快適だ。昔は100km/hでミラーが見えないくらい振動しちゃってな、なんて決して美談じゃないもの。点火時期を手動で遅らせてズドドドドド感を出すようなパーツ、カワサキから純正オプションで発売されていたらいいけどね。
 
 高速を走っていて、もうひとつ気づくことになる。道路のわだちに乗った時、うねりに入っちゃった時、Wの車体がゆさり、とゆっくり揺り戻しすることは少なくなった。これはちょっとイジワルして、減速なしでサッとレーンチェンジする時なんかにも感じることができて、これがフレームやフロントフォーク剛性を最適化した効果なのだろう。剛性を高めて、って言っても、ガチガチで乗り心地が悪くなる、高速コーナリングでフレームがヨレない、なんて狙いではないのだ。
 
 ワインディングを走っていても、このフレーム高剛性化を実感できることは少ないと思う。そもそも標準装備のダンロップK300GPのグリップを超えるほどの激しい走りをするようなバイクじゃないし、バンク角を深く取ってアクセルオンしたって、すぐにステップが接地して、逆に危ない。Wにそんなハイペースは不要だし、似合わないよね。
 新たに設定されたW800 CAFEは、ハンドルが低く、ビキニカウルを装着したバージョン。なんだこれだけか、なんだけれど、低いハンドルでライディングポジションが変わって、ストリートよりも前輪荷重は増えることになる。取りまわしや低速域ではハンドルがしっとり重くなるし、ワインディングでも少し荷重を前に残して、よく曲がる(ような気がする・笑)。ライディングポジションって大事なんだけれど、それならステップももう少し後退させてほしかったな。
 
 必要なもの、あればいいもの、要らない物。そんな取捨選択がきちんとできたニューWは、いいところが変わらず、少しだけ完成度が増した、すごく良心的なマイナーチェンジだ。
 こんなバイクと暮らしてみたい――初めて乗った人が、きっとそう思う魅力が変わらずにあることがうれしい。
 
(試乗・文:中村浩史)
 
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フロントホイール径が19→18インチに変更され、ハンドリングもやや軽快方向へ。ブレーキはABSが標準装備となり、ホイールはワイヤースポークのまま。ストリートはシルバーアルマイト、カフェはブラックアルマイト仕上げとなっている。


 
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バランサーつき、フューエルインジェクションの空冷ツインは、鼓動や振動を感じさせないスムーズな回転フィーリングを味わえる。シリンダーサイドのベベルギア駆動のシャフトが、唯一無二のWの魅力。美しさもWの性能のひとつだ。


 
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美しさにもこだわった2本出しマフラーは、曲線をなだらかに、直線部分を多く取ったデザインとしている。サイレンサーはキャブトン型と呼ばれるピーシュータースタイル。サウンドも新規制に合わせた音量で、低く乾いたいい音を聞かせる!


 
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60年代の英国車を思わせるコンパクトなラウンド形状フューエルタンク。容量は15L、今回の試乗では、実測参考燃費で約25km/Lを記録した。ストリート(写真上)とカフェ(写真下)はグラフィック違いで、カフェにはニーグリップラバーが標準装備される。


 
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ストリート用シートはタックロール入りのクラシカルデザイン。


 
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カフェ用シートはタンデムもできるシングルシート風デザイン。キーで取り外しできるシート下には標準装備のETC2.0車載器が取り付けられ、車載工具が収納されている。


 
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大径φ170mmのヘッドライトはLEDを使用し、ルックスもうまくクラシカルさとモダンさを両立させている。


 
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カフェにはビキニカウルが装着され、スワロー型といわれる低いライディングポジションを可能にするハンドルが装着される。


 
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丸2眼アナログメーターは液晶表示部をもち、液晶部はオド&トリップメーター&時計を表示する。今では当たり前のギアポジション表示、80年代にカワサキが標準化したツイントリップ計がなく、燃料計が残量警告灯のみなのは物足りない。


 
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リアサスのアッパーマウント部にあるグラブバー、荷かけフック(後方にもあり、計4か所)、外部ヘルメットホルダーこそがカワサキの良心。サイドカバーはスチール製で、サイドカバー上のキーシリンダーはシート取り外し用。


 
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タンク下に新たに装着されたカバーはABS配線やユニットをカバーするもので、クラシカルなWでは、あってもいいが、見せたくない物のひとつ。こういった補器類を目立たなくレイアウトする苦心も、Wの開発チームに課せられた難題だった。


 
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テールカウルなし、リアフェンダーと別体大型テールランプは、初代Wゆずりの逆三角形おむすび形状。ウィンカーボディもきちんと大型で、レンズ部以外のボディ部はメッキ仕上げの砲弾型形状。こういう形状もいまや貴重な少数派だ。


 
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左右ハンドルスイッチのデザイン、形状もクラシカルなもので、左スイッチには手動リターン式のハザードスイッチを標準装備。ブレーキ/クラッチレバーはあそびダイヤル調整機構付きで、ブレーキは4段階、クラッチは5段階に調整可能。写真はストリートのものだが、カフェのみにグリップヒーターが標準装備される。


 
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W800STREET。写真下がW800 CAFE。


 
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■KAWASAKI W800 STREET〈CAFE〉主要諸元
全長:2,135×825〈925〉×1,135〈1,120〉mm●ホイールベース:1,465mm、シート高:770mm〈790mm〉、●エンジン種類:空冷4ストローク並列2気筒SOHC4バルブ、排気量:773cm3、ボア×ストローク:77.0×83.0mm、最高出力:38kW(52PS)/6,500rpm、最大トルク:62N・m(6.3kgf-m)/4,800rpm、燃料供給装置:電子制御燃料噴射、燃費消費率:30.0km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、21.1km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)、燃料タンク容量:14リットル、変速機形式:常時噛合式5段リターン、車両重量:221〈223〉kg●メーカー希望小売価格:993,600円〈1,112,400円〉


 



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