2019年2月8日
BRIDGESTONE BATTLAX HYPER SPORT S22 『ワインディングライドを極め、 天候に無防備なバイクの真髄を楽しむ。 この春、ジャンプアップならこのタイヤ!』
■試乗・文:松井 勉 ■写真 ブリヂストン
■協力:ブリヂストン https://www.bridgestone.co.jp/
今シーズンのライディング目標を、ツーリングもワインディングも「走り、その楽しさをもっと飛躍!」と位置づけ、今からわくわくしているライダーの皆さん、ブリヂストンのプレミアムセグメント向け新型ラジアルタイヤ、バトラックス・ハイパースポーツS22をお試しあれ。早春の冷えた道、突然の雨、しみ出した水で濡れた道だってすっかり仲良くなれる。緊張を安心に。不安をファンに。嫌い!を普通に、普通を好き!に変換してくれる魔法の1本。タイヤはついにここまで来たか!を実感させてくれる新作だ。そのわけ、是非読んでみて下さい
先代、S21の断面形状と新コンパウンド。
パタンデザイン 決定に実走で磨き抜いたS22。
現在、プレミアムセグメントに向けたブリヂストンのラジアルタイヤ、バトラックスシリーズは、スポーツツーリング用のT、公道も走れるレーシングタイヤを標榜するレーシング・ストリートを意味するRS、アドベンチャーモデル向けがA、そしてスポーツライディングを好むユーザーに向けたハイグリップかつ軽快なハンドリングキャラクターを持つタイヤがS。今回紹介するS22は、T30とRS10の中間に位置するタイヤだ。
このタイヤは、ツーリングやシティーユース、そしてサーキットでのトラックデイ、そのあたりまでを幅広くカバーするキャラクターだけに、実は注文が多く、一つ一つの要望だって厳しい。特に走るコトにこだわったバイク、こだわったライダー達へのタイヤだけに、まあまあな性能では支持を取り付けるのは難しい。
そのシリーズの最新作であるS22の歴史を振り返ると、バトラックスシリーズがBT-000というような三桁数値呼称だった時代からの流れをくみ、2012年に新シリーズ、S20を発売し新たなスポーツシリーズとして始まっている。そして2014年にS20 EVO、2016年にS21と正常進化を続け、2019年2月にS22へとそのバトンを渡すことになる。
開発者が注力したのは、高いグリップと軽快なハンドリングの両立。こうしたスポーツ性と、ワインディングまで、ワインディングから自宅へのツーリングでの安定感、乗り心地、そして低温時や降雨時など天候条件によるライダーが感じる不安要素の低減だった。S22のタイヤ断面形状はS21を踏襲しつつ、ケース形状の上物であるタイヤのコンパウンドをリフォームすることで具現化しているのだ。こう書くとお手軽に聞こえるが、最新のコンパウンドを生かすため、テストライダーは実走テストを繰り返し、トレッドパタン配置など、細かな作業に没頭したそうだ。もちろん、シミュレーションもしたそうだが、その点で手打ち、手ごね、自家製麺などの文言同様、料理の達人の手料理という印象が頭を占めた。
新開発された超微粒子のシリカ配合コンパウンドは、低温時やウエットグリップに効果を発揮する。それでいて幅広い温度域で高いグリップを発揮するという。その新作コンパウンドを、フロントタイヤセンター部分と、リアのミドルショルダーに配置している。これを基本として、ウエット時の排水性などをしっかりと確保した上で、ブレーキングや旋回時にしっかりとした剛性感の確保をテーマに開発されている。剛性をあげるなら溝のないパタンが手っ取り早いそうだが、それではウエット性能の要である排水性を満たせない。それでいて高荷重時にトレッドゴムが動きぐにゃり感が出ないようテストに明け暮れ、結果的に、新しいトレッドコンパウンドと広い用途での性能アップを実現する溝比率を見つけ出した。これにより路面をつかむ性能はあがり前作にも増して自信作になったという。完成したS22を見ても、トレッドパタンやましてやケースをベースにするだけにS21から激変しているわけではない。
その辺はテストで感じとれるのであろうか? 実はちょっと不安になってきた。
まるで「芸能人格付けチェック」的
つまみ食いでテイスティング。
今回の取材は、ブリヂストンのテストコースを舞台に行われた。栃木県黒磯にあるブリヂストン・プルーピンググラウンドには3つの異なるテストシチュエーションが用意されていた。
まず一つ目。ドライハンドリング路。ここは、ツーリングで出会うワインディング風テストコース。部分的にヨーロッパで体験したような緩やかなアップダウンで先の見通しがあまりきかない程度の高低差に複合コーナーを織り交ぜたようなルート。速度レンジによってバイクを操る難しさががらりと変化するタイプで、一周は約2キロ。高速周回路のインフィールドに設けられた縦長レイアウトで、コースの両エンドはともにタイトターンで折り返す設定だ。ここではCBR1000RR、YZF-R1、そしてNinja650の3機種でS21とS22の比較体験を各機種2ラップで乗り換えテストが行われる。
二つ目はウエットハンドリング路。一周1キロのコースは日本的な峠道でもあり、路面のカントやアップダウンとカーブが組み合わされ、嫌らしくタイヤの特性を暴くテストコースだ。息を抜ける場所が少ないのが特徴で、ドライ路同様、速度の二乗で難しくなる印象だ。ここでのテスト車は2017年以降、OEMでS21を履くYZF-R6。3ラップでS22装着車に乗り換えつつ比較体験テストが行われる。
三つ目は一周4キロほどの高速周回路での高速道路をイメージした体感テスト。ここではS22のサイズレンジをもつ機種、フロント120/70ZR17、リアは180/55ZR17、190/50ZR17、190/55ZR17などを履く、YZF-R1、MT-09、GSX-S750、GSX-R1000R、GSX1300 HAYABUSA、ZX10R、BMW S1000RRの7モデルが用意され、2ラップごとに乗り換えながら走るテストをする。
私自身、このコースは初めて。用意されたバイクはそれぞれ走らせた経験はあるが、不慣れなコースだし、短い時間で乗り換え特性の違いを取材しなければならない。慎重かつ集中力が必要だ。ふと、「芸能人格付けチェック」的バラエティーのように、ブラインドテストで乗ったあとにS21かS22かを答えを求められたらどうしよう、とちょっとだけナーバスに。でも、ちゃんと最初にS21、その後で同一機種にS22を装着車両で走行し、テスト、ということだったので、その心配は無かったのだが……。
違い一発。
S22はすごい安心感だ!
ドライ路では最初の1台だけコースへの習熟もあるから1ラップ多い3ラップが許された。最初に書いたようにテストコースだ。どちらかと言えば気持ちいいカーブよりも嫌らしいカーブが多い。で、撮影もその中で行われるので、まったりもしてもいられない。案外、刺激的なつまみ食いテストだったことを告白しておきます。
S21で走り出す。どのモデルでも共通だった印象として接地感は十分。カーブに向け減速し、バンクさせる安定感も基本素晴らしい。これはこれでさすがの出来映えだ。接地感もしっかり伝わるし、新作にスイッチする意味合いをこの段階で推察するのは逆に難しいほど。
しかし、わずか数スラップの後S22で走り出す。一つめのカーブでアクセルを閉じ、左に緩やかにバイクを寝かし始めたとき、すでに二者の違いははっきりと実感できた。まるで違う。まるで良いのだ。曲がってゆく先のクリップがつかみにくい右への切り返しも、その先に現れるペースをつかみにくいS字でも、コース折り返しの緩い複合からのヘアピンへのアプローチ、そこから立ち上がりでも、違いは大きかった。
まず、接地感を比較すると、エッジに乗る感じのS21に対してS22のそれはまるでバイクを寝かし始めた瞬間に路面と接地しているトレッド面(コンタクトパッチとも言う)が横にも縦にも広がり、路面を包み込むように捉えているような印象なのだ。このような特性は空気圧を落としても同様だが、その時に現れるハンドリングの重さや、切れ込みといった症状は全くない。S22と比べるとS21は、寝かしている時に接地しているタイヤのトレッド面が外周にそって細長いかのような印象なのだ。
この感覚を例えるなら、河川の土手、その斜面に下向きに立っている時、足の裏全体で斜面を捉え踏ん張れる感じ。それがS22。土手の斜面に対し、上流、もしくは下流に向かって立っているようなイメージで、斜面を捉えるために足首から下、接地面は斜めになり、小指から踵にかけての足の裏の外側で体重を支えている、それがS21。同じ斜度に立っていても、接地する足にかかる体重の受け止め方で安心感が違う。S21とS22の違いをわかりやすく言うとそんな感じなのだ。
この安心感がありつつ、軽快さとハンドリングの自由さを出しているS22を体感してしまうと、グリップ感と接地感の頼もしさに思わず一周目からペースアップしてしまう楽しさに包まれるのだ。
カーブの入り口から自分がイメージしたクリッピングポイントまで同じようなラインを描いても、ペースが同じならS22のほうが楽にスムーズに曲がれる。コース幅が広がった印象すらある。コースを走る組み立てもわずかずつ旋回開始ポイントや加速ポイントが前倒しにできるのでバイクとの対話、道との対話をする充実感がある。すごい。
ハンドリングは軽快なのにどこにもピーキーさはなく、深いバンク角まで寝かし込む時も、クイックさではなく自然にそこの角度まで持ってゆく奥の深い感覚。同じ1秒がゆったりと引き延ばされたように感じるほど。つまり濃密なのだ。
3台目となるCBR1000RRに乗る頃にはコースにも慣れたこともあるが、ガンガン走りたくなる誘惑が止まらないほど。こんなに違うんだ。2本のタイヤは見た目からガラチェンをして違いをアピール、というわかりやすい手法も取られてはいない。トレッドゴムと溝配置にこだわった職人気質のアップデイトは、作り手の思いがライダーの心にストレートに届くものだったのだ。
もっと驚いたウエットでの走り。
つかむ信頼感は別次元だ。
ウエットハンドリング路だ。ここもアップダウンと複合カーブが折り重なり、荷重が前荷重になったり後ろ荷重になったり、タイヤを鍛えるコースなのは分かるが、ビジターには厳しいルート設定だ。
ここでの印象もドライ路と基本同じ。S21はS22に比較すると接地面が細身な印象で、荷重移動が加わるとそれこそつま先立っているようなグリップ感にも感じる。破綻などする速度ではないが、なんとなくこの先いきなり足下をすくわれそうでちょっと恐い。奥が回り込みながら上りに転じる右カーブ。登り切ったところから下り、今度は左に長い時間寝かしながら曲がるような、アクセルもパーシャル維持で荷重を載せにくく、印象としてはアクセルを開けるまでの待ち時間が長い。だからどこかトラクションを掛けている安堵感より、タイヤのグリップだのみになりやすいようなコースに感じた。
それがS22装着のR6に乗り換えた瞬間、真冬だった心が、4月や5月に感じる、年に一度あるかないか、という気持ちよいツーリング日和にあたったような印象に変わるのだ。その源泉は「安心感」である。接地面が大きくグリップ感と接地感、そして旋回時に素直に曲がってゆく。これなら滑らない、という自信がわき、パーシャルだったアクセルを絞るように開けてゆくと、加速しつつ曲がるというとても良いフローができる。待ち時間をもっと詰めて攻めたくなるのもドライ路同様。
まるでサスペンションをソフトなレインセッティングにしたような乗りやすさ。乗り出しからまるで別物に感じるほど。それでいてスポーティーさは今まで以上に感じとれる。立ち上がりのアクセル開度、カーブまでの直線で感じる到達速度、ペースもそれなりに上がった。明らかにタイヤの違いを実感することになった。
高速道路ペースでも安定感が印象的。
高速周回路では比較はなく、S22を機種別テストとなった。直進では時速80キロ、100キロ、120キロとそれぞれのモデルで試してみた。その時点での直進安定性、レーンチェンジ時の所作などツーリングタイヤとして十分なポテンシャルを秘めていると感じた。なにせ、ワインディングは自宅からはしばし離れているもの。時にそれは高速道路を何時間も走った先だったりもする。このタイヤなら雨でも気温の低い時間帯や季節でも気苦労なくバイクを楽しめそうだ。
高速周回路名物のバンクの一番下にある平らな路面で長いカーブを模して走ってみたが、どんな速度域でも十分なグリップ力を持っていることも確かめられた。その時の旋回性は速度を上げても素直さとバイクが持つキャラクターとうまく融合しながら走る印象。満足度は個々でも高い。サスペンション設定の関係か、MT-09では比較的バンク下コーナーは、速度を上げるとやや手に余る印象だったが(といってもとんでもない速度での話だ)、剛性感とパワーに満ちたスーパーバイク系でも、GSX-S750のようなスポーツネイキッドでもマッチングは上々。重たいハヤブサでもスズキらしいハンドリングや、モデルの古さを感じさせない走りを見せてくれたあたりに相性の良さがにじみ出る。
長持ち重要視派?
それとも換える派?
取材を通じて新しいタイヤをテストする機会が多い私は少なくとも、2年に一度、多い時は年に数回は「タイヤ・ショック」に直面する。惚れ惚れするようなタイヤとの出会いだ。今回はまさにそれ。短時間での試乗テストだったが、同一バイク、同一の道でタイヤだけが異なる比較テストの結果、ストンと腑に落ちるような理解ができた。最近の新しいタイヤの進化はすごいのだ。
特にここに紹介するようなプレミアムセグメントのラジアルタイヤは、バイクの消耗交換部品としても安いものではない。もしご自身のバイクライフが年間走行距離がそれほどでもなく、車検をまたいでも同じタイヤを履いている、としよう。最近のタイヤは数年でかなり進化をする。換えただけで楽しさがぐっと上がる。とすると、バイクライフを楽しむ一つのテクニックとして、新しいタイヤを履くことはその近道だと思う。今回、ブリヂストンのバトラックス・ハイパースポーツS22を試し、このタイヤも履くだけで走る楽しさがあがるデバイスであることが分かった。グリップとかハンドリングとか乗り心地とか複合的なものが醸す楽しさだ。ライフに関してブリヂストンは「乗り方、使い方次第という前置きは必要ですが、S21と同等の摩耗性は確認しています。」とのことだった。この一体感、おすすめです!
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