2019年1月30日
EICMA ミラノショー2018をじっくり振り返ってみよう! Part1 『国内メーカーの2019年のアプローチは?』
■レポート&写真:河野正士
すっかり遅くなってしまいました。申し訳ありません。日本のバイクシーズン到来を前に、EICMAで発表されたニューモデルやニューアイテムをお復習いさせてください。まずは国産メーカー編です。
■Honda
ホンダはじつに手堅くまとめてきた、と感じました。速報でもお伝えしたとおり、欧州のスタンダードモデルと言っても良いCB500系のエンジンを中心にアップデート。スポーツネイキッドの「CB500F」、ライトアドベンチャーモデルの「CB500X」、フルカウル装着のスポーツモデル「CBR500R」に搭載し発表しました。
このCB500系、日本ではCBR400Rや400Xとしてリリースされています。欧州では年齢や免許保有年数によって免許が区分されていたり、また決められた最高出力以下の車両は保険料が安くなる制度があったりと、そこに当てはまる車両は初心者からベテランまで幅広いキャリアの、そして数多くのユーザーが存在する、欧州二輪市場の重要なマーケットであります。CB500系の各モデルは、まさにこのカテゴリーど真ん中の車両。ホンダ以外の各メーカーもこのカテゴリーに複数のラインナップを持ち、定期的にアップデートをしているのです。
2気筒CBは、1960年代には最高峰モデルとして、4気筒エンジンがデビューした後の’70年代には軽量コンパクトなスポーツバイクとして、そして’90年以降はスタンダードモデルとして欧州&北米で親しまれてきました。そしてエンジンが水冷化された2013年以降も人気を維持。水冷CB500系ユニットは、デビュー以来7万5000台以上も販売されているのです。
現在欧州では新たに300ccカテゴリー(日本で言うところの250ccカテゴリー)が興隆し、初心者&リターンライダーをカバーしていることから、徐々にCB500系が背負うミッションも変わってきたのではないかと想像します。250ccからのステップアップ組、リターンライダー、また大排気量からのダウンサイジング組などを受け入れる、日本市場の400ccモデルと、そのモデル背景が似てきたと感じます。エンジンを中心にアップデートした理由も、そういったマーケットの変化が影響しているのではないでしょうか。
また先に開催されたパリショーで“NEO SPORTCAFE CONCEPT”を発表。そしてEICMAではそのベースモデルである「CB650R」および「CBR650R」のアップデートも発表しました。 “CBR”はスーパースポーツのトップモデルCBR1000RRと、“CB”は昨年発売されたネオクラシックモデルCB1000Rと連携を取る車体デザインが与えられています。
そういえばホンダブースには、CB1000Rをベースにしたカスタムバイクも多数展示されていました。かなり強引な手法のカスタムバイクもあり、しかし欧州ホンダはそれも受け入れるほど大らかなのですね。CB125RをベースにホンダR&Dヨーロッパが製作したデザインスタディモデル/アドベンチャースタイルの「CB125X」とモタードスタイルの「CB125M」は、アドベンチャーやモタードなど欧州で人気のスタイルを、どこか懐かしいけど新しい“ネオクラシック”的手法で造り上げてきた、という印象でした。コンパクトな車体サイズには似合っていたと思います。
■YAMAHA
T7コンセプトから2年にわたるプロモーション活動の末に発表した「テネレ700」。前回のEICMAで世界中にインパクトを与えたLMW(リーニング・マルチ・ホイール)機構装着のNIKENは、その真価が発揮されるであろうツーリングシーンにおけるパフォーマンスを向上させた「NIKEN GT」を発表するなど、ヤマハはホンダとは違う方向性で手堅くまとめてきた印象でした。
個人的なツボは、「YZF-R1 GYTR」特別仕様車。これは速報でもお知らせした、R1デビュー20周年を記念し、初期型カラーを採用して参戦した2018年鈴鹿8耐のヤマハ・ワークスマシンのレプリカ。GYTRレーシングなどのスペシャルパーツを多数採用し、そのセットアップを世界耐久選手を戦うヤマハのファクトリーチーム/GYTRが行うというもの。しかもこの車両、限定生産のサーキット専用車。これは新しい“ラグジュアリー”のカタチではないか、と感じます。
またヤマハは、MTシリーズで再構築したプラットフォームを徹底的に活用しています。今回発表した「XSR700XTribute(エックストリビュート)」はエンジンとフレームを、「テネレ700」はエンジンをMT-07から流用。125/300/700/900/1000と揃えたMTファミリーも、じつにモダンなNEWカラーを採用。高い商品価値を維持している、と感じます。この強靱な体幹モデルがあるからこそ、プレスカンファレンスで日高祥博代表取締役が発表した「LMW/リーニング・マルチ・ホイール」やAI/ロボティクス/ITの各分野で先進技術を開発しプロダクトに活かしていく「ライフタイムリレーションシップ」、そして「EV/エレクトリック・ビークル」の次期ヤマハの柱となる新分野へと切り込んでいけるのだと思います。
■SUZUKI
スズキでも、サーキット仕様車ながらスペシャルパーツを装着した限定車が発表されていました。その名も「GSX-R1000 Ryuyo」。“Ryuyo”は“竜洋”であり、それはスズキが持つ自社テストコース。スクーターからMotoGPマシンまで、ここで開発されています。ヤマハが発売したファクトリー8耐マシンレプリカもそうですが、欧州では“スズカ”や“ハチタイ”、さらに“モテギ”は、ルマンやスパフランコルシャン、そしてニュルブルクリンクのように、モータースポーツやそこを走る高性能なマシンをイメージさせるキーワードとして浸透しています。そして“リューヨー”も、そのワードの仲間入りをした、という感じです。
海外のジャーナリストを招いてのニューモデル試乗会を行っていることから、業界関係者からは“Ryuyo”や“Autopolis(オートポリス/カワサキ所有のサーキット)”の言葉を聞くことは何度かありました。また熱狂的なスズキファン/カワサキファンからも、同じくそのワードを聞いたことがありました。しかしそれが、限定モデルとは言え、モデル名になる日が来るとは……思いもよらぬ“ニホン”の価値が高まっているのだと、つくづく感じました。
新型カタナに関しては、もう何も言うことはありません。あとは市場に出て、ユーザーの反応を待つだけです。事前情報で、スズキブースにはカスタムバージョンが展示されると聞いていたので楽しみにしていたのですが、それはRIZOMAのビレットパーツを装着したラグジュアリーカスタムと、バッグなどを装着したツーリングカスタムでした。ヤマハやBMW、モトグッツィなどが取り組んできた、カスタムビルダーと組んだカスタムではなく、より現状のスズキユーザーを見据え、実用と実売に焦点を当てた堅実なカスタムであり、数字を取りに行こうとするスズキの本気度を感じました。
■KAWASAKI
今年も勢いを感じました。前回からブース面積を広げたカワサキ。今年もその規模を維持し、それでもブースが狭く感じるほどの来場者で溢れていました。スーパーバイク世界選手権でタイトルを獲得しながら、そのベースモデルである「ZX-10R」や欧州で初公開となった「ZX-6R」は比較的ブースの隅に追いやられている感じ。主役は、スーパーチャージャーを搭載したH2のツーリングモデル、H2 SXをベースに、コーナリングライトやフルカラーディスプレイ、大型スクリーンなどを装備するハイグレードモデルをさらに進化させた「H2 SX SE +」、そして新しくなった「ベルシス1000」でした。ともにSHOWA社と共同開発した、ライディングモードとリンクする電子制御サスペンションKECSを装備しています。
欧州で大きなマーケットボリュームを持つ、最新の電子制御システムと大型カウル、パニアケースを持つツーリングカテゴリーで、ライバルたちと真っ向勝負できるマシンをブースの真ん中に持ってきたわけです。昨年ZX-10Rに採用した電子制御サスペンションをツアラーモデルに装備したこともあり、そのパフォーマンスに対する自信がうかがえます。そしてその脇を固めたのがワールドプレミアとなった「Z400」をはじめとするミドルクラス2気筒モデルたち。そしてスーパースポーツ群の対極に「Z900RS」シリーズを展示するという布陣。歴代Z900を展示したり、前回の東京モーターショーに展示して日本のカスタムファクトリーが製作した「Z900RS」のカスタムバイクを展示したりと、モデルグラデーションを完璧に表現した感じ。リリースでは新型「W800」が発表されたのですが会場には展示されず、もしここにそれが展示されていれば、カワサキらしさが強まったと思います。