2019年1月11日
MICHELIN TIRE TEST 実力に裏付けされたラギッドイメージ
■試乗・文 ノア セレン ■撮影 富樫秀明
■協力:日本ミシュランタイヤ https://www.michelin.co.jp/
アドベンチャーモデル向けのタイヤラインナップが充実するミシュランが、アナキー3の後継モデルとして新たに「アナキーアドベンチャー」を投入。基本的にはオンロード走行がメインだが、出会ってしまった不整地は出会ってしまった以上楽しみたい、そんなライダーに向けたタイヤ。Vストローム650に装着してレポートする。
こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/d3hZb9UWYe0
3タイプのアドベンチャー向けタイヤで
あらゆるユースに対応する
ミシュランでは、アドベンチャーモデル向けのタイヤは3種類をメインに展開してきた。優れたオンロードツーリング性能を持ち、ロード4からロード5へと進化したばかりの「ロード」シリーズをアドベンチャー向けにチューニングした「Road 5 Trial」、そしてよりオフロードユースを重視しブロックパターンも魅力的なかつてのT63も「Anakee Wild」へとモデルチェンジ。そしてこれまでこの2モデルの間に位置していたアナキー3が、この度新たに「Anakee Adventure」へと進化し、ミシュランのアドベンチャータイヤ群は2019年に向けこぞってリニューアルしたのである。
ロード5やアナキーワイルドが性格的にもルックス的にも前モデルの印象を引き継ぐのに対し、アナキーアドベンチャーは新たなブロックパターンを採用すると共にこれまでオンロード90%・オフロード10%としていた使用想定比率を、オンロード80%・オフロード20%へと改めるなど3つのラインナップの中で最も変化したと言えるだろう。とはいえ、アドベンチャーモデルはどれも様々な使われ方が想定されており、同時にタイヤも高い総合能力が求められるもの。ただただ味付けを変えてみる、というわけにはいかず、あらゆるシチュエーションが考えられながら進化しなければいけない宿命にある。そんな中のアナキーアドベンチャー、技術的なことは後回しに、まずは試乗記からいこう。
履いてみて、まずは公道を走る
筆者はタイヤを手組みするのだが、タイヤをホイールに組み付けている段階でおおよそそのタイヤの性格が予想もできるものだ。アナキーアドベンチャーはとてもしなやかで、ツルリとリムにハマってくれたこともあり、これは乗り味もしなやかなタイヤなのだろうな、とその時に感じた。一方でブロックゆえのしなやかさもあるだろうから、ドライグリップはどうなのだろう、深いバンク角でパワーをかけられるのだろうか、という考えも頭をよぎった。
走り出してまず気付いたのはしっかりとした直進安定性。直前に履いていたのはブリヂストンのA41という完全にロード向けのタイヤだったためロードノイズはどうしても大きくなったと感じずにはいられなかったものの、それはタイヤの性格があまりに違うため仕方がないことだし、最初に気付きはしたもののしばらく走っているうちに気にならなくなったためその程度のことだろう。
驚いたのはコーナリング時だ。バイクが直立してとても安定している状態から一定のバンク角を迎えると、途端に舵角がついて寝たがるのだ。最初は「おッと!」と驚いたほどで、空気圧を確かめたほど。しかしどうやらこれがアナキーアドベンチャーの性格のようで、どこまでもリーンウィズ、もしくは場面によってはちょっとリーンインで寝かしていくというよりは、オフ車のようにリーンアウト気味に、寝たがるバイクを素直に寝かせてあげるとクルリと曲がってくれるようなのだ。それはまるで250ccのトレール車かのようで、慣れると大きなアドベンチャーモデルが軽く感じる不思議な感覚である。
この特性に気をよくして細かな峠道では左右にクリクリと振り回して遊ぶことができた。しかしブロックパターンゆえ、直感的に、感覚的に、あまり深いバンク角に持ち込みたくないという気持ちがあり、またバンクしている状態であまりパワーをかけていくと、オフタイヤがそうであるようにブロックがグリンッ!と突然変形して滑り出すんじゃないか、という怖さがあった。250ccならともかく、200kgを超えるアドベンチャーモデルで突然リア(もしくはフロント!)が抜けたら、転倒に至らなくとも怖い想いはしそうだ。
こんな第一印象のまま、あらゆる路面やシチュエーションが用意された試乗会場へと向かった。
優れた限界グリップに驚く
ある程度路面が均一で、何よりもクローズド環境故に遠慮なく飛ばせることもあって、試乗会場では懸案事項だった深いバンク角もしっかり試すことができた。結果から言うと、必要十分以上のグリップ力を持っている、というものだった。Vストローム650はそのツアラー的ルックスからはイメージできないスポーティさやバンク角も持っているのだが、試乗では早々に左右ともステップを擦り始め、しっかりとパワーをかけていってもスライドを起こす様子はナシ。ブロックパターンだから……なんていう不安はあくまで見た目からの思い込みであったわけで、フタを開けてみれば「凄いグリップするじゃん!」というものだった。
もちろんそれはよりロード向けの「ロード5」などに比べれば一歩譲るものなのだろうが、試乗会場もサーキットではなく公道を想定したコースであり、こういった公道環境においては十分以上の性能に思え、ツーリング先で出くわした気持ちの良いツイスティロードでは「ブロックタイヤだから……」と遠慮することなく思いっきり楽しめるはずだ。
とはいえ、それではロード5が要らないじゃないか、という話しにもなりかねないため書き足しておくと、やはりロードノイズという意味では完全にオンロードに的を絞ったラインナップにはいくらか譲るはずだ。またもう一点、路面が良いところでハイペースを維持し、腕の良いジャーナリスト仲間と追いかけっこしていると、徐々にフロントが思うように行きたい方向へと向きにくくなってくる感覚がなくもなかった。これはかなりプッシュしているためで、タイヤ温度が上がってグリップが落ちたのか、内圧が高まってハンドリングに変化が出たのか定かではないが、ライダー側での補正が少しずつ必要になってくる気がした。公道では考えにくいペースでのプッシュを長時間続けていたためツーリングシーンでこの特性に出くわすことはないと思うが、路面温度が低いこの季節に感じられたという事は、真夏ならばもしかしたらもう少し感じる可能性もある。そういう部分では、路面の良いオンロードの走行においてはよりオンロードに的を絞っているロード5に譲る、かもしれないがそれは当然のことだ。
とはいえ、200キロを超えるような速度から、ハードプッシュのコーナリング、細かな切り返しなど様々なシチュエーションを試しつくした結果、(そして最初は特殊に感じたハンドリングにも慣れた頃)総合的にはかなりの好印象となった。ブロックの印象が強い見た目から当初はロード性能を訝しく思っていた部分もあったが、それは完全に払しょくされたと言えるだろう。耐摩耗性も向上しているというからこれからの付き合いが楽しみである。
20%オフという実力
オンロード性能を満喫した後、今度はオフロードコースへと踏み入れた。最初に断っておきたいのだが、アドベンチャーモデルで積極的にオフロードを走るユーザーというのは、中にはいるものの絶対数は少ないと言えるはずだ。モデルによってはオフロード性能も有しているとはいえ、なにせアドベンチャーモデルは大きく、重量もあり、そして高価だ。オフロード環境をガンガンに走って、転んで、それでも走る! という人は少数派、いや、僅かと言ってもいいだろう。一般ユーザーとしては、砂利道や締まったダートに出くわした際、恐れることなくそれをいなすことができる、もしくは巨体が多少のスライドを起こすのを楽しみながら通過する、という性能をアドベンチャーモデルに、そしてそのタイヤに求めているのではないかと思う。ちなみに筆者所有のVストロームについてスズキはオフロード性能を一切謳っていない。あくまでオンロード想定のツーリングバイクである。
これを裏付けるかのように、試乗会場に用意されていたオフロード路はとても良く締まったダート路と、あまり深くはないサンドだった。極論を言ってしまえばロードタイヤでもこなせなくはないだろう。しかしミシュランが謳う「20%オフ」の実力を確かめるべく踏み入れてみた。
Vストロームは他の多くのアドベンチャーモデルがそうであるようにフロント19インチホイール、しなやかなサスペンション、コントロールしやすいアップハンと、多少の不整地をこなすにはとても適した構成をしている。これにブロックパターンのタイヤが装着されれば、この程度の締まったダート路など何てことはない。かなり気持ちよくアクセルを開けても良く走り、またコーナーでもフロントさえ逃げていかないように気を付けていればカウンターを当てる楽しみも確かにある。しかしこれはタイヤによるものとは限らず、アドベンチャーバイク全般にそういう特性があるとも言えるだろう。
このタイヤのオフ性能を実感したのは、止まった所からのトラクションだった。試乗コースにはエンデューロレースに出てきそうな非常に急な上り坂があり、大きなアドベンチャーモデルでアタックするにはいくらか勇気がいるほどだった。登れなく途中で止まってしまったら転倒は避けられないし、そんな急坂で転倒したら下までバイクを引きずり降ろさなければならず、傷だらけになること必至だ。このため最初はしっかりと登頂できるだけの十分な助走をつけて挑み、成功していた。しかしこれを繰り返すうちに、この急坂を登っていくときのトラクションの良さに気付かされたのだ。途中でどこかが抜けてしまう、もしくは横滑りを始めるといったことがなく、本当に「難なく」登れてしまう。これならばもしかして助走が要らないのではないか、と思い至り、急坂のふもとで一時停止してから、ヒルクライムの要領でアタックしてみたところ、静止状態から非常に良好なトラクションを発揮し、登坂途中で2速にシフトしても路面を掻くことなくスルリと登ってしまったのだった。
これには驚かされたと同時に、例えば予想しなかった不整地で停止してしまった際など、リスタートする時などに強い味方になるのではないかと思わせられた。20%とされたオフロード性能だが、それはABSやトラクションコントロールがそうであるように、一種の安全装置的なものなのかもしれない。普段は意識しないが、いざという時にスッとサポートしてくれるような、そんな性能に感じた。
技術的な話。
ルックスが無骨なブロックパターンのため、第一印象としてはかなりオフ向けのタイヤなのではないか、という「アナキー アドベンチャー」。仕様想定比率はオフロードユースわずかに20%ながら、印象としては40%ぐらいオフロードでも大丈夫なんじゃないか、と思わせてくれるほど深いグルーブが切ってあり、例えば250ccトレール車に純正採用されているようなタイヤのイメージに近い。
確かに前モデルのアナキー3に比べるとオフロードイメージが強まってはいるものの、しかし実はオンロードでの高速安定性や耐久性、ブレーキング性能はしっかりと向上させている所に注目したい。というのも、「ボイドレシオ」、もしくは「シーランド比」などとも呼ばれる、溝とブロックの割合で、直進時は前モデルより「ランド」比率が高くなっているのだ。これは(直進していることの多い)ツーリング時に効いてくる性能であり、ルックスに惑わされてはいけないオンロード方向への確かな進化だ。高速安定性などの他、ランド比が高まったことで走行ノイズも旧モデル比で軽減されているのも注目したいポイントであり、長距離を走るアドベンチャーモデルにとってはありがたい進化と言える。
リーンアングルが増えるにしたがってランド比は減っていき前モデルよりもかなり少なくなるのだが、これはウェットグリップの向上とオフロード性能を追求した結果。しかしそれでいてドライグリップも高いのは、ブロックとブロックを繋ぐ「ブリッヂブロック」のおかげだろう。これは「アナキーワイルド」ですでに実用化されているのだが、ショルダー部に近いブロックが深いリーンアングルでパワーをかけた時に変形してしまうのを防ぐ技術。ブロックとブロックの間の溝を、ショルダー部に限って浅く設定することでブロック剛性を高め、オンロードでのグリップを確保しているのだ。
なお、各ブロックは角が面取りされていることにも注目したい。ミシュランでは他のモデルでもやってきたことだが、角を面取りすることでブレーキング時の安定した接地面を確保できると共に偏摩耗を抑制してくれる。ブロックパターンでなお生きる技術だろう。
ブロックパターンと高いオンロード性能を両立させるべく、操縦性や機動性、高速安定性を確保した新しいプロファイルも採用されたが、同時にコンパウンドもドライグリップ及び耐久性を犠牲とせずにウェットグリップを向上させるニューシリカコンパウンドを採用。またフロントにはセンター部60%にハードなコンパウンド、左右20%ずつにはソフトなコンパウンドを配置させる「2CT」技術を採用すると共に、リアにはアドベンチャー向けタイヤとしては初採用となる「2CT+」を投入した。これはセンター部のハードなコンパウンドがサイド部のソフトなコンパウンドの下に入り込んでおり、サイドのソフトなコンパウンドはハードなコンパウンドの上に乗っかっているような構造で、これにより内部構造からもサイド部のブロック剛性を高めているというわけだ。
このようにあらゆる面から高い総合性能を追求した新タイヤ、アナキーアドベンチャー。構造を知ると、試乗を通じて感じた様々な印象に合点がいく。ミシュランの確かな技術に裏付けされたこのオールラウンドなタイヤが新型のBMW1250GSに純正採用されたというのも納得である。
感想と、「こんなユーザーに」
ガレージに停まっているVストロームのリアビューは、このタイヤのおかげでとても「アドベンチャー感」が高まったように思う。「泥まみれになっていた方がカッコ良いんじゃないか?」なんてことを考えてしまうほどであり、すでに旧型となってしまった自分のVストロームがなんだか改めてカッコイイと思えてしまう。しかしその実、オンロード性能も非常に高いタイヤであるというのがニクイ。タイヤは走りだけでなく、見た目も大切な部分だろう。アナキーアドベンチャーの一つの大きな魅力は「その気にさせる」ルックスだと思う。
このタイヤのキャッチフレーズは「欲望を解き放て」である。果たして自分がVストロームに対してどのような期待をして、どのような欲望を持っていたのかは定かではないが、少なくともこのタイヤを装着した愛車は「何でもこなせそうなカッコ良さ」を持っており、さらに主な使用環境であるオンロードツーリングにおいての実力も知った今、解き放たれて遊びに行きたい衝動に駆られる。
その実、オフロードなんてほとんど走らない。だけれどいざ不整地に出会ってしまった以上は楽しみたい。でも普段走るオンロードの性能は犠牲にしたくない。そしてアドベンチャーモデルはアドベンチャーモデルらしい無骨さがあった方がカッコ良いじゃないか。……そんなあなたの欲望を解き放ってくれる、「アナキー アドベンチャー」である。
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