2018年12月3日
SUZUKI バーグマン400 “ビグスク”はGTとなるか
■試乗・文・写真:ノア セレン
■協力:スズキ http://www1.suzuki.co.jp/motor/
自宅の北関東から、淡路島に行く用事ができた。荷物もあるし天候も怪しい。一泊二日の強行軍。用事を済ませるだけでなくツーリング要素も楽しみたいと思った時、乗り物は何を選ぶのか。気になっていたバーグマン400で出かけた。
放っておいて申し訳ない
きっと良いバイクなのだ!
首都高の渋滞に四輪車でハマっていたところ、ミラーにシャープな2眼ヘッドライトが映ってすぐにはその車種が認識できなかった。手前味噌だが二輪雑誌業界人ならばどの角度からでもバイクを見たら瞬時に車種だけでなくおおよその年式やグレードまでわかるものなのに、あれ? ありゃ何だ? となったのだ。すり抜けていった時の車体の小ささ及びテールランプのシャープさを見て「バーグマン……かな?」とまだ自信が持てずにいた。それにしても何だかずいぶんカッコ良かったなぁ、と帰宅してから検索すると、やはりバーグマンの、400。ははぁ、最近出たばかりのね、じゃあまだ僕のデータバンクに入ってなかったんだ、なんて思ったら実は登場してすでに1年ぐらい経っていて(http://www.mr-bike.jp/?p=132596)、しかも最近カラーリングも追加された(http://www.mr-bike.jp/?p=149972)という、僕の怠慢だった。しかしアレ、カッコ良いじゃないか。1年も試乗を怠っていて申し訳ない。
二輪ジャーナリストでもフリーの人たちは東京の縁に接する神奈川や千葉、埼玉に住んでいることもあるが、僕の場合はもう少し奥の北関東。東京中心部までは100キロほどの距離だ。月に複数回都内へとアクセスする時は愛機Vストローム650で高速道路を行き来するわけだが、素晴らしいオールラウンド性能を持つVストロームなのに高速道路ばっかりで何だか宝の持ち腐れ感が否めない。こういう使い方ならばビッグスクーターが良いんじゃないか。荷物も積めるし、雨が降っても足が濡れないし、燃費も良いし、とにかく楽だし。高速道路主体と考えれば400ccというのもありがたい。移動の道具としてはベストなはず、とかねてから400ccクラスのスクーターは気になる存在だったのだ。
というわけでこの僕の気持ちを確かめるべく、淡路島まで行くひと時の伴侶として最新の400ccスクーターであるバーグマン400を選んだのだった。
1990年から28年目
最近のビッグスクーター事情
ビッグスクーター、ここでは車検付きのスクーターについて話すと、かつては各社からラインナップされていた。ホンダはシルバーウィングの400と600、ヤマハはグランドマジェスティの400及び今も現行のTMAX、スズキはスカイウェイブの400と650をそれぞれ出していたのだが、今では400クラスはスカイウェイブの後継となるこのバーグマン400だけで、それ以上もTMAXとBMWのC650、あとはニューフェイスのキムコAK550ぐらいだろう。だが、この3台は価格を含めてプレミアム路線のため日常の優秀な道具、というニュアンスではない。という事は少なくとも国内においては400ccクラススクーターのマーケットは大きくないという事なのだろうが、そんな中でバーグマンが出たのだから、やっぱり僕のように高速道路を含めた快適な移動と付き合いやすさの両立を求めている層がいくらかはいるのだろう。もちろん、普通二輪免許枠で乗れるというのも魅力だ。
ついでに250ccクラスの事情も触れておくと、かつて“ビグスク”などと呼ばれたマジェスティをはじめとする250ccクラスは軒並み生産終了となり、最近になってホンダがずいぶんとシェイプアップされた新型フォルツァを、そしてヤマハはXMAXという、これまたスリムで筋肉質な250ccを出した。しかし2台に共通するのは、価格こそかつてのビグスクと同等以下に抑えているものの、コンセプトとしてはTMAXやAK550に近いものがあるという事。道具としての割り切りではなく、カッコ良さやスポーティさを求めているようなのだ。結果としてダイレクトなハンドリングや高いシート高(フォルツァ780mm、XMAX795mm)となっており、かつてのビグスクのようにダラーっと乗れる印象ではなく、もっとキビキビ、パキパキと走らせる印象になっているのだ。
一方でPCX150やNMAX155、バーグマン200という150~200ccクラスの軽二輪スクーターも市民権を得てきており、実用面はコチラに任せる、といった風潮も見られるものの、このクラスもやはり何だか高級路線に行きたがる傾向があって、繰り返しになるが「優秀な道具としてのスクーター」は珍しくなってきているとすら感じる。
真面目な進化
優秀な道具はカッコ良い
前置きが長くなってしまったが、この前置きはバーグマン400にまたがった瞬間に頭の中を駆け巡ったことなのである。というのは、バーグマン400はとてもシートが低く(755mm)、足着きが良く、ハンドルが高く……そう! 楽! なのだ! 跨っただけでかつてのどこまでもダラーッと走り続けられるようなポジションにすっかり安堵し、また近年のスクーターは何でこれを捨ててしまったのだろうと、前述の長い前置きを思いついてしまったのだ。
エンジンをかけてもまた好印象。400ccシングルでは振動もそれなりにありそうなものなのに、これが非常に上手に消されていてライダーに伝えない。どんな速度域でもシングルだと実感させられるようなバイブレーションが気になる場面はなく、ただスムーズに力強く動力を提供してくれる。バイクを操るといったことに集中する必要もなく、バイクの味わいを楽しもうなんていう姿勢も必要なく、ただの優秀な移動体としてライダーは呆けて乗っていても大丈夫なのだ。これは最高。趣味性はいい意味で、ない。優秀な道具である。片道700キロほどもある淡路島行きが楽しみにすらなってきた。
小柄な車体が排気量を感じさせない
淡路に行く前にまずは都内をしばらく走り回ったのでそこにも触れておこう。400ccクラスはかねてから650ccクラスに比べればそれほど巨大ではなかったものの、モデルによっては250ccバージョンよりも少し大柄なものもあった。しかしバーグマンはかつてビグスクと呼ばれた250ccクラスよりもコンパクトに感じるほどでとても扱いやすい。今回のモデルチェンジでシート下スペースはいくらか縮小したという事だが、その分テール周りもシュッとスマートになっておりそれもコンパクトさに寄与していると感じる。コンパクトだと特に都内の渋滞をかわして行くにはとても有利で、250ccクラスと同じ感覚で車列を縫うことができた。またステップボードの足を降ろす位置が大きくえぐられているため足を真下に下ろしやすく、低いシート高と相まって極低速時や狭いところを抜ける際にはとても重宝した。重いバイクではないものの、いつでも足が着けるというのは安心感が高い。
一方でエンジンは極低速域では少し繋がりが急に感じる部分もなくはなかった。400ccのトルクゆえかもしれないが、アクセル開け始めは少し丁寧になる必要がある印象。もっともまだ新車状態のためナラシが進めば改善しそうな部分ではあったが。それ以外の部分では400ccだから大きすぎるだとか、性能が過ぎるということはなく、むしろ足着きの良さとアップなハンドルのおかげでかつての250クラスと同じ感覚で、かつキビキビとストレスなく走ることができた。なお一般道での燃費はおおよそ26km/Lであったので、ここでも優秀な道具と言えそうだ。
いざ、GT性能を試す。
では淡路へと向かおう。都内移動時にシート前方の細さのおかげで足着きがさらによくなっていることは実感したものの、ドッカと腰を下ろした際のシート上面の平らの部分の面積がもう少し欲しいと思ったこと、また185cmの僕には足元もなるべく広い方が良いと思ったため、3段階で調整できるシート後部のバックレストを一番後ろへと設定し、泊りの荷物はシート下へと投げ込み、いざ出発である。
ここでまず一つ気が付いた。ETCがないではないか! もちろん後付すれば良いことなのだが、スクーターでわざわざ400ccクラスを選ぶ理由の一つは高速道路やタンデムでのプラスアルファのパワーのハズであり、250クラスとの差別化という意味でもETCは欲しかった。また早朝出発だったためグリップヒーターも欲しかったところ(オプション設定あり)。
しかしこの2点を除けば出発からもう快適そのもの。足元に冷たい風は当たらないし、スクリーンも短めながら十分な防風性。空が明るみ始めた頃には首都高を抜けて東名高速に入っており、すでに150キロほど走っているのにまだまだ鼻歌気分。もちろん自分のVストロームでも鼻歌気分ではあるのだが、Vストロームだとアイリッシュパンクかなんかを口ずさんでナマイキなアウディかなんかを見つけると「ムムム!」なんてなるのに対し、バーグマンは流行りのJ-POPか、もしかすると童謡かなんかをフンフンしながら朝日が昇ってくるのを見てしまうというか。良い意味でポケーッと乗っていられるのだ。特に速度を出そうという気にもならない。スクーターは本当の意味ではバイクじゃない、なんて厳しいことを言う人もいるが、こうして意識が外向きになっていく感じはむしろ良い。バイクとの対話(?)を楽しむ内向きの楽しみ方より、ツーリングで起きる非日常の事柄を吸収するのならむしろスクーターの方が良いんじゃないかとすら思える。
高速道路ではやはり400ccのパワーが生きる。また全速度域にパワーを満遍なく行き渡らせているのも上手な演出だ。Vストロームの250はトップギアでちゃんとフケ切るのだが、これはどういう意味かというと最高速までちゃんと自由自在に加速できるという事。トップギアでずーっと引っ張って引っ張ってやっと最高速に到達する、のではなく、回転数的に「何キロ」と定めた最高速まではスッと出る。それ以上は決して出ないわけだが、そこまではいつでもすんなりと出るからわかりやすい。バーグマンもしかりで、タコメーターがしっかりと回り切り、レブリミッターに当たる。そこまでの速度は例え登り坂でもすんなりと出るし、どんな速度域からでもそこまではいつでも出る。という事は予想外に速度が落ちてしまった場面からの速度回復もスピーディであるし、登り坂での追い越し加速にも余裕がある。スズキはこの味付けがとても上手だと思う。日常的に使う速度域でしっかりとストレスなく走らせてくれるのだ。
新東名、伊勢湾岸を抜けると、このWEBミスター・バイクで僕の前にバーグマン400の記事を書いた(http://www.mr-bike.jp/?p=135585)先輩ライター、中村氏から「鈴鹿で全日本最終戦の取材をしている。寄れば飯を奢ってやろう」と連絡。タダ飯ならば寄らざるを得まい。鈴鹿ICで高速を降りると鈴鹿サーキットへと向かった。高速道路でナラシが進んだのか、バーグマンは一層軽やかで一般道でスイスイと走れてしまう。高速道路での安定感と、一般道での気楽さという、相反しそうな要素が同居していることに嬉しくなる。GTという意味ではかつての650ccクラススクーターの方がソレらしいだろうが、一般道では持て余すことは否めない。バーグマンはとても良いバランスだ。また鈴鹿サーキットのプレス用駐車場に停めた時にも、意外と狭めだった駐車枠にすんなり収まったのも嬉しい。これなら都内の二輪駐輪場などにも250ccと同じ感覚で停めることができるだろう。
カツカレーをご馳走になり、予選でピリピリする全日本のパドックをフラついた後、日のあるうちに淡路島ツーリングもしたいと思い早々に高速道路に戻る。鈴鹿まで来てればあと少しだ。疲れ知らずで淡路入りしたのは午後の2時。もうすっかりバーグマンがお気に入りである。
スポーツ性能は犠牲になるのか?
淡路島ではまず南部の街、洲本へと向かった。実は最近テレビで四国の石積みの壁(石垣)の番組を見て、その番組で淡路にも古い石積みがあると言っていたのでそれを見たいと思っていたのだ。その場にある石をただ積んでいくだけで壁を作る。崩れたらまた積む。どこか遠いところから材料を持ってくるわけでもなく、コンクリートで固めるわけでもなく、ただそこにあるものを、積む、というなんとも環境負荷の少ない工法。もちろんメンテナンスは必要なものの、極シンプルで、その積み方や修理を若いお兄ちゃんが勉強しながら色んな地方で石積みを直している、というとても良い番組だった。こういう所にお金が落ちる仕組みができれば良いのに、と切に思う。旧い技術をちゃんと継承した人がいて、その人が定期的にメンテナンスすることで建築物(この場合は石垣)や技術が保存されていく、という仕組みがあらゆる日本の伝統的な技法において作られていかないとそれらは失われる一方だろう。伝統技法や古くからの作法、土地との共存方法、生活の知恵など歴史のなかで長く受け継がれてきたものというのは国や民族のアイデンティティなのだから、それが失われたら礎が揺らいでしまう、なんて危惧する僕は考え過ぎだろうか。
そんな旧い石垣を探しさまよう前に、まずは洲本城跡の石垣を見て、高いところから淡路を一望しようというわけだ。写真も数点撮ってきたが、よくもまぁこんな山の上までこんな大きな石を持ってきて、しかもそれを積んだな、と! 城はだいたい山の上など高いところにあるのだからその建設はどこでも大変なことだったのだろうが、石垣に使われている石のサイズを見るだけで、かつてダンプや重機がなかった時代によくやったよな!なんて感心してしまう。洲本城跡には西側からアクセスしたのだが、そちら側には本当に当時のままの石垣があり、コケが生えて、木の根っこが絡んで、とても素敵だった。一方で再現された本丸の辺りはせっかくの石垣をコンクリートで補強している部分も見られ、それは残念な部分。城の裏手の石垣はちょうどこれから補修する所らしく足場が組んであったが、是非とも古来の工法で再現して欲しいと思った。
とりあえずは石垣が見られて満足だったが、島の深部に迷い込めばもっと生活に根差した石垣が見られるのではないか、と淡路島の東南部に位置する洲本から逆に島の北西側へと抜ける。細長い島であることもあり、反対側に抜けると内陸部はちょっとしたワインディングだらけ。大変に気持ちが良い。
スクーターではワインディングを積極的に楽しむようなことは難しいというイメージもあるかもしれないが、バーグマンはそんなことはなかった。何せパワーがあるためかなり元気に走ることができる。また良いフィーリングに一役買っているのは車体底部に配置されたモノショックだろう。スクーターの多くはシート下容量を確保する意味も含めて2本ショックであることが多いが、あまりレイダウンされていない傾向でリア周りのツキ上げ感が気になることも少なくなかった。しかしバーグマンはリアがしっとりと作動し、400ccのパワーを受け止めてくれる。大口径薄肉パイプを使っているというフレームのおかげか時としてスクーターに見られる「ボインボイーン」といったコーナリング中の揺り返しも皆無。前後ともとても良く効くブレーキのおかげもあり、淡路の細かいワインディングを活発に走り回ることができ、たとえスクーターでもバイクを操る楽しさは犠牲になっていないと実感できた。
合計1500キロ
恋に落ちました
1日目の夕方には、個人的興味を満たすべく淡路島の西側にある鳥飼漁港近くの窯元にお邪魔し淡路の陶芸をチェック、そして西側の海岸線を走る県道31号「サンセットライン」へと向かったがそのころにはもう陽は落ちていて夕日は拝めず。ロービームで左右2灯同時点灯するLEDヘッドライトを頼りに真っ暗となった淡路島のワインディングを宿へと向かった。ちなみにこのヘッドライト、特にハイビームでは明るいようではあるのだが、どうも感覚的には「良く見えている」と思えない。光量は確保されているのだから、真っ暗な峠道でも直感的に「良く見える」と感じさせてくれるような、もう少し黄色っぽいLEDが開発されないものか、と思ってしまう。これはバーグマンに限らず最近のLEDヘッドライト全般に感じていることなのだが……。一方でメーターはとても良く見え、また手元のスイッチ類も奇をてらわずいつも通りの位置にあるため暗くても直感的に操作でき良かった。
翌日は「淡路島バイクフェスタ」に参加。ものすごい数のバイクを見ることができた。新旧織り交ぜて、西日本でもバイク好きのエンスージアストが多いようで嬉しかったのと、ステージでライブパフォーマンスをしてくれた千葉県出身のロックンロールバンド「ナゲッツ」があまりにもイケていて小躍りしてしまった。
イベント終了は16時。ここからまた700km超を走るのか、と滅入りそうなものだが、バーグマンだと思えば気も楽だ。お土産の淡路島産タマネギをシート下へと詰め込み出発。給油以外はノンストップで走り抜けた。ちなみに高速道路では快適なだけにペースも上がってしまい、燃費は20km/L前後といったところだった。
期間的には短かったが、距離的にはお腹いっぱいとなったバーグマンとのお付き合い。当初の思惑通り、僕のように都内へのアクセスがバイクのメインの使い方で、高速道路も頻繁に利用するのならばこれはかなり良い選択肢。特にバーグマンはコンパクトで足着きが良く、感覚的には250と変わらないのが魅力。
さらにこれはスズキ全般に言えることかもしれないが、シンプルなのも好きだ。パワーモードだとか、疑似ミッションだとか、電動スクリーンだとか、そういった豪華装備がいい意味で、ない。極シンプルでいて、機能的&魅力的。色々載っている海鮮丼ではなくて、新米で握った塩にぎりみたいな感覚だ。これもあって価格が80万円弱に抑えられているのだろう。250クラスが今65万円前後だからプラス15万円。逆にTMAXクラスは125万円ほどだからマイナス45万円。バーグマンの付き合いやすさや動力性能のバランスの良さを考えると、80万円は絶妙にお買い得な価格設定と言えるだろう。目立つバイクではないが、すっかり気に入ってしまい「もっと多くの人に知ってもらいたいモデル!」と素直に思った。
(試乗・文・写真:ノア セレン)
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