2018年11月20日

Vol.151 第19戦バレンシアGP November Rain

Vol.151 第19戦バレンシアGP November Rain

シーズンが終わるたびに感じることだが、どの一年もそれぞれに様々なドラマがあり、平凡なシーズンというものはひとつたりとも存在しない。アンドレア・ドヴィツィオーゾ(Ducati Team)が優勝し、アレックス・リンス(Team SUZUKI ECSTAR)が2位、そしてポル・エスパルガロ(Red Bull KTM Factory Racing)が3位を獲得した2018年最終戦バレンシアGPは、各陣営の戦闘力が向上して今後はますます拮抗した争いが展開されてゆくのだろう、という期待もこめて、来年以降のMotoGPを予言するようなレースだったと考えたい。

ドヴィツィオーゾは、今回の優勝でシーズン自己最多の9表彰台を達成した。2年連続して年間総合2位で終えたが、それだけに欧州ラウンド3戦(ヘレス、ルマン、カタルーニャ)での転倒ノーポイントが悔やまれる。大きな飛躍を果たした昨年を経て、ドゥカティ6年目の今年は〈デスモドビ〉という愛称が示すとおり、いまや陣営の顔といっていい存在である。今シーズンの結果について、チームを牽引するドゥカティ・コルセのゼネラルマネージャー、ジジ・ダッリーニャは「[ホンダ+マルケス]の総合力に[ドゥカティ+ドヴィツィオーゾ]が負けた、ということ。この現実を謙虚に受け止めて、さらにバイクの開発・改良を進めていきたい」と、一年を振り返った。ドヴィツィオーゾ個人の年間総合成績という評価軸で見ても、2013年以降は8位、5位、7位、5位、2位、2位、という順位で推移している。来年はチャンピオンへの肉迫がさらに期待できそうな勢いも窺える数字である。

#04

#ジジ・ダッリーニャ

それはりんちゃんこと今回2位のリンスについても、同様だ。最高峰クラス2年目の今年は、5回の表彰台を獲得し、年間総合5位。
「来年の目標を考えるのはまだ時期尚早だけど、スズキでの初優勝をまず達成したい」
と、決勝レース後に2019年の抱負を述べた。MotoGP復帰当初のスズキなら迂遠な夢にも見えた事柄も、現在では充分に達成可能な射程範囲のターゲットである。来シーズンはジョアン・ミルが昇格してくるため、りんちゃんはチームを牽引してゆくエースライダーの立場になる。2019年体制が固まった5月頃は、この体制を不安視する声もないではなかったが、年間総合トップファイブで一年を締めくくった今のりんちゃんを見れば、そのような不安などむしろ杞憂といったほうがいいだろう。

#SUZUKI

#SUZUKI

3位のポルは、KTM同様に自分自身にとってもこれが最高峰クラスの初表彰台となった。
「125ccクラスやMoto2では何度も勝ったし、表彰台にも上がってきた。Moto2のチャンピオンを獲ったときもすごくうれしかったけど、今日のほうがはるかにこみ上げてくるものがある」
と素直に喜びをあらわした。来季はヨハン・ザルコがチームに加わり、しかもエルベ・ポンシャラル率いるTech3が陣営のサテライトチームとして合流する。所帯が大きくなることで、KTMの開発スピードはさらに勢いを増してゆくだろう。

#KTM

#KTM
今回で現役活動に終止符を打つダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)は、5位でレースを終えた。第9戦ザクセンリンクで今季限りの引退を発表して以来、多くの人々が彼の現役終了を惜しんできたが、最終戦のウィークは愁嘆場と真逆の、むしろ爽やかで穏やかな笑顔に終始する三日間になった。295回目のレースを終えたペドロサは、「これからは、転倒して病院に行くようなこともないから、ホッとする」と笑う反面、「充実した達成感や満足感をもう得られなくなるのは残念」とも述べた。2019年は、KTMのテストライダーとして、2月のセパンテストに参加する予定だという。

ペドロサのチームメイト、マルク・マルケスは荒れた展開の第1レースで転倒したため、赤旗中断後の第2レースではグリッドにつかなかった。転倒の原因はリアタイヤにミディアムコンパウンドを選択したからで、それが「今季最大の失敗」だった、と自らの判断ミスを素直に認めた。ちなみに、ミディアムのリアタイヤでレースに臨んだのはマルケスのみである。
「グリッドについたときはソフトで行こうと話していたけど、FP3の雨量が少ない状況だとミディアムでいい感じで走れていたし、スタート進行のレース直前になって雨が上がった。だから、ミディアムで行こう、と決めた。でも、レースが始まると、どんどん雨が降ってきて、リアの熱が入らずに転んでしまった」

#26

#26

ポールポジションのマーヴェリック・ヴィニャーレス(Movistar Yamaha MotoGP)とバレンティーノ・ロッシ(同)も、転倒で終えた。ヴィニャーレスは、予選を終えた土曜の夕刻に「ウェットではうまく走れていないので、明日はトップ7を目標にしたい」と、謙虚なコメントを述べていたが、決勝では第1レースの11周目に転倒し、控えめな目標よりもなお悪いリザルトになってしまった。

ロッシは第1レースで雨脚が強くなるにつれてペースを上げてゆき、中断時にはドヴィツィオーゾと激しく競り合う状態で、第2レースでもその勢いを維持していた。が、2番手をほぼ手中に収めかけていた10周目に12コーナーで転倒。
「マレーシアのときととても似た状況で、スロットルを開けたときにリアが滑ってしまった。とはいえ、いいレースをできたと思う。最後の2戦は結果こそ残せなかったけれども、優勝争いをできたことはポジティブだし、最終的にランキング3位でヤマハ最上位で一年を終えた。良くがんばったと思う」
と、この一年間の努力を自分自身でねぎらった。

#46

#25

ファクトリー勢以外のインディペンデントチーム最上位となる6位でフィニッシュしたのが、中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)。
「6位でゴールしたのはわかったけど、まさか自分がインディペンデントのトップだとは思わなかったので、このリザルトには自分でもビックリです」
と表情をほころばせた。
「不得意なウェットでこれだけのパフォーマンスを発揮できたのは素直に喜びたいし、いい形で終えられたことはすごくうれしい」
そう喜びながらも、
「まだ気持ち良くは走れていないし、もうちょっとフィーリングを向上していきたい部分もある。ベストは尽くしたけど、6位だからといって手放しでは喜べないので、まだ改善の余地はいくらもあります」
と、自らを戒めた。

#30

#30

というわけで、これにて波瀾万丈の2018年シーズンは終了。そして最終戦を終えたバレンシアサーキットでは、火曜から2019年に向けたテストが始まる。

バレンシア


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■2018年11月18日
最終戦 バレンシアGP
バレンシア・サーキット


順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #4 Andrea DOVIZIOSO Ducati Team DUCATI


2 #42 Alex RINS Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


3 #44 Pol ESPARGARO Red Bull KTM Factory Racing KTM


4 #51 Michele PIRRO Ducati Team DUCATI


5 #26 Dani PEDROSA Repsol Honda Team HONDA


6 #30 Takaaki NAKAGAM LCR Honda IDEMITSU HONDA


7 #5 Johann ZARCO Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


8 #38 Bradley SMITH Red Bull KTM Factory Racing KTM


9 #6 Stefan BRADL LCR Honda CASTROL HONDA


10 #55 Hafizh Syahrin Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


11 #45 Scott REDDING Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


12 #99 Jorge LORENZO Ducati Team DUCATI


13 #46 Valentino ROSSI Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


14 #17 Karel ABRAHAM Angel Nieto Team DUCATI


15 #81 Jordi TORRES Reale Avintia Racing DUCATI


RT #19 Alvaro BAUTISTA Angel Nieto Team DUCATI


RT #25 Maverick VIÑALES Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


RT #9 Danilo PETRUCCI Alma Pramac Racing DUCATI


RT #93 Marc MARQUEZ Repsol Honda Team HONDA


RT #29 Andrea IANNONE Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


RT #41 Aleix ESPARGARO Aprilia Racing Team Gresini APRILIA



RT #43 Jack MILLER Alma Pramac Racing DUCATI


RT #21 Franco Morbidelli EG 0,0 Marc VDS HONDA


RT #12 Thomas LUTHI EG 0,0 Marc VDS HONDA



※西村さんの訳書『マルク・マルケス物語 -夢の彼方へ-』は、ロードレース世界選手権の最高峰・MotoGPクラス参戦初年度にいきなりチャンピオンを獲得、最年少記録を次々と更新していったマルク・マルケスの生い立ちから現在までを描いたコミックス(電子書籍)。各種インターネット、電子書籍販売店にて販売中(税込 990円)です! https://www.wick.co.jp/static/book/ebook_marcmarquez.html


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