2018年11月22日
KAWASAKI Z125 PRO試乗 『ミニマムコンパクト、 その楽しさ、スポーツ性、無限大』
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:松川 忍
■協力:カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/
切れ味爽やかなハンドリング。マニュアルクラッチと横置きシリンダーエンジンが見せる意外なまでのスポーティーさ。見応えのある凝縮感に溢れたスタイリング。ミニバイクの深淵、タイヤだけでも多くの選択肢があり、カスタムに踏み出せば、そこはおもちゃ箱のような世界が広がる。このZ125 PROはスポーツファンバイクとして、カワサキの末弟スポーツとして異彩を放つ独特の存在だ。その走りは、なるほど、オモシロい広がりに満ちていたのだ。
ひもとけばスポーツミニ、30年のキャリア。
スモールホイールを履いたスポーツファンバイク。このセグメントでカワサキが持つ歴史は長い。1988年、当時、50クラスのスポーツマシン、AR50/80系の空冷2ストロークエンジンやユニトラック方式のリアサス、そしてスーパーバイカーズ風ルックスをパッケージしたKS-1、KS-2がその始まりだった。
ファニースタイル、コンパクト。しかし、その本格的な走りに誰もが唸った。その後、搭載するエンジンを水冷2ストロークエンジンにアップデイトし、スタイルはKLXやKDXといったカワサキのオフモデルに寄せたシャープなスタイルになった新型、KSR-1、KSR-2にスイッチした。
2000年代に入ると、環境規制の影響でパワーユニットは4ストロークへ。自動遠心クラッチの4速ミッションを搭載したKSR110がデビューし、その後、マニュアルクラッチを装備したKSR PROが登場する。走る楽しさをミニサイズに詰め込んだKSRシリーズは定番スポーツとして親しまれ続けてきた。
そして2016年には、ホンダのGROMも意識して、マニュアルクラッチを装備し、それまで一人乗りで通してきたKSRから大きなサイズアップを図らずとも2人乗りも可能としたZ125 PROが登場するのである。これでミニながら、フルサイズの125モデルとなっているのだ。
ミニバイクらしさの中に
Zらしいディテールが。
なるほど、外観はコンパクトだ。全長×全幅×全高の数字を並べても、大柄になったモンキー125と似た数値でしかない。全長で比較すれば、GROMが1755mm、モンキー125は1710mm、Z125 PROのそれは1700mm。ホイールベースは、GROM・1200mm、Z125 PRO・1175mm、モンキー125・1150mmとなる。全車12インチホイールを履く。きっちりと並べても僅かな差しかないほど似かよったサイズであることがわかる。
Z125 PROを眺めると、いかにもカワサキらしいことがわかる。タンク上部、タンクキャップ両サイドから前に伸びるタンクのえぐり。これはZZRなどでは前輪を左右にフルロックしたとき、クリップオンハンドルのグリップ部の逃げにもなるディテールだ。アップハンドルのこのバイクには必須ではないのかもしれないが、ZのDNAとでも言いたくなる部分。そしてタンク下に走るフレーム形状のカバーもなかなか。がっしりした体躯を思わせる。
ヘッドライトからテールエンドまでスピード感あるラインが描かれ、短いなかにストリートファイター的なマッシブで突き抜けるような造形がされている。
ホイールは12インチ。ミニバイクの小径ホイールとサイドウォールが厚めのタイヤという組み合わせだ。それでいて「重さ」を感じさせないのは、スポークが細身でクールなデザインだからだろう。前後に備えたペタルディスクとキャリパーという組み合わせもカスタムしたミニバイクのようでかっこいいし、カワサキらしいディテールだ。
エンジンはシリンダーが寝たタイプ。トランスミッションは4速リターン。マニュアルクラッチを持つ。カバー類の色を変えるなど。外観コスメもしっかりとビッグバイク風なのだ。
転がり出せば、市街地から即スポーツな走り。
Z125 PROに跨がってみる。モンキー125に近いサイズなのだが、どっかり座る印象のモンキーとは対象的に、軽い前傾ポジションとなるZ。それは、ライダーにしっかりとスポーツバイクであることを意識させる。細身でパリっと張った感じのシートフォームの印象もそれを補強する。足付き感は細身に仕立てられたシートと相まってストンと足が下ろせる印象。股関節幅そのままにスクっと立つようなだ。
エンジンをスタートさせた。空冷単気筒エンジンは、タコメーターの針が躍るほど俊敏なレスポンスではないが、充分に軽快。嫌な振動がグリップなどにも出ない。
クラッチの繋がりは節度感があり、するりと低速トルクに促されるように車体が前に動き出す。適度なギア比で1速もしっかり使える。2速に入れても加速は力強い。伸びがある。3速、4速とシフトアップを急いでもトルク感は途切れない。なかなかだ。1速、2速で引っ張り、その後はポンポンと4速にシフトアップして流すような用途にも向いている特性だ。クラッチレバーの操作力は軽いし、アクセル開度も適度な特性でワイヤーを引っ張るから、急開しても息付を起こすようなこともなかった。さすが「今」のエンジンだ。
ハンドリングはとにかく軽快。直進では安定感があるのに、カーブを曲がろうと車体を少し寝かすと、それ以降の曲がる操作など不要なほど軽々と曲がってみせる。細めのタイヤとのマッチングも良好で、短いホイールベースの間に80キロ超の自分が乗っていても、前後バランスも適度に保たれながら走るから、前が軽くて恐い、ということもなかった。
ブレーキに関しては、フロントはレバーストロークは短いタイプのマスターシリンダーで、入力の強さでブレーキ力を調整するタイプだ。リアは踏力とストロークがリニア。解りやすい。前後ともスポーツバイクらしい風合いをもったシステムであり、バイクのイメージ全体とよくマッチするものだった。
峠道は最高にファン。
特に下り坂ではオオカミに変身する。
そうなのだ。上りは125という限られたパワーながら回し疲れするようなことがなく、しっかりトルク感を伴いエンジン回転が上昇してゆく印象だ。4速だから時にドンピシャなギア比ではないかも、と思う場面もあったのは事実。それでも、2速でひっぱり、3速のトルクに任せる、という走り方でしっかりとペースを保って走り続ける。上りのカーブで少し寝かせば、タイヤの接地面がトレッドサイドに動き、タイヤの円周が小さくなるので、それだけでギアリンクが少しショートになる。そこでエンジンの回転を上げ立ち上がり、少しゆったりと直立にバイクを戻せば、12インチタイヤらしい特性を活かして加速を保つこともできる。Z125 PROと一心同体になって駆け上る楽しさは格別。
そして下りだ。ここでのミズスマシ感はスゴイ。このサイズのバイクならではの動きがハジケ出すのだ。まず、カーブの進入で必要な減速を済ませる。ややハードに感じる場面もある前後サスだが、そのストロークを一気に使い込むようなブレーキングを避け、サスをじんわり縮めていくと、タイヤへの荷重がしっかり乗りながら旋回を開始してくれる。この辺がZ125 PROをスムーズに気持ちよく乗るコツのようだ。そうすればタイヤは路面をしっかりと掴む。
適度に高回転まで伸びるエンジン、軽快なシャーシ。そして12インチタイヤが持つ特性。この3つを引き出しながら走れば、バイクの深い世界を身近に味わえる。コーナー一つで「巧くいった」「もう一つだった」が攻めると解りやすい。それでいて日常のコミューターとしては軽く扱いやすい、という二面性を持つ。
セカンドバイクにはもちろん、乗り方に迷ったら、このバイクで腕磨きする、くらいの機能がある、まさしくモバイルテキストとしてライダーをビシビシしごいてくれる一台なのかもしれない。
(試乗・文:松井 勉)
| 新車プロファイル『KAWASAKI Z125 PRO』のページへ |
| 125シリーズ試乗『PCX/PCX HYBRID』のページへ |
| 125シリーズ試乗『SUPER CUB C125』のページへ |