2018年11月5日
ホンダの流儀 第2回 『F的公道指数』
■文:ノア セレン ■撮影:松川 忍
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン http://www.honda.co.jp/motor/
ホンダの最新スポーツモデル、CB1000Rとの付き合いも、真夏からツーリングシーズンの秋へと季節をまたいできて、相互理解が深まってきたように思います。公道を最大限楽しむための高性能。かつての「Fコンセプト」のようなものを感じさせてくれるこのバイクの、ツーリング性能を満喫したのでそのレポートとなる連載2回目です。
ツアラー的使い方をしてみて、山陰まで足を伸ばす
連載第1回目ではCB1000Rが「このために作られたのです」という環境で走らせました。かつてのビッグネイキッドのように様々な要素をこなす汎用性の高い味付けではなく、そこからスポーツの要素を抽出して、よりハイレベルな一体感やダイレクト感を追求。200~300kmコースのデイトリップでその性能を存分に楽しむことを想定して作られたバイクであることは第1回目でお伝えしたとおりです。前回の繰り返しになりますが、いわゆるアドベンチャーモデルの台頭によりツーリング性能などはそちらに任せ、ネイキッドモデルは制約が一つ外れ、純粋にスポーツを追求できるようになった、という住み分けがそこにはあるわけですね。
しかしそうはいっても、前回お伝えしたようにCB1000Rはとても高い一体感やスポーツ性を持つと同時に、公道を最大限楽しませてくれる性能を持っているわけです。性能のために日々の楽しさを犠牲にしない、もしくはサーキットでの究極パフォーマンスのために付き合いやすさを犠牲にしない、そんなところに「ホンダの流儀」(やFコンセプトのようなもの)を感じさせてくれるので、じゃあやっぱりツーリングに行きたいじゃないか! となるわけです。
朝夕がすっかり寒くなってきて、その代わりに高気圧が張り出してきて昼間は最高の秋晴れが続いているここのところ、そろそろ木々も色づき始めているんじゃないかな? と撮影は日光方面へと繰り出しました。早朝出発から中禅寺湖で朝食、そこから日塩もみじラインを抜けて那須の温泉へと足を伸ばすというのはこの季節の定番ルートでしょう。高速を使えば日帰りコースじゃないか、との指摘もあるかと思いますが、ツーリング性能のインプレッションについては夏の終わりに山陰地方まで行った長距離ランを元に書いていますので、実際にはかなりの距離をツーリングしてきました。
鳥取島根方面はのどかな景色と走りやすい道、車やバイクの少なさに加え、去年のCB650F連載の時にも書いた陶芸への興味から色んな所に寄って向かうという、毎年のルーティンになりつつあります。片道1000km、その距離感を知っているだけに、カウルがなく、航続距離も長くないCB1000Rで行くのを最初はためらいましたが、いざ行ってみると意外と(?)快適だったのが嬉しい誤算です。
高いスポーツ性は汎用性も内包していた
この長距離だとどうしても高速道路の区間が長くなるのですが、前回も書いたようにライト周りやメーター周りと僕の体格やヘルメットの相性がいいのか、ネイキッドのわりには風当たりがきつくなく高速巡航を苦にしません。また真夏のツーリングで気づいたのですが、いわゆるヒートマネジメント、これがとても良いんです。最近の大排気量車はすべからく発熱量が大きく、股や膝が熱風にさらされたり、ヘタすると内モモや膝に接するフレームがあまりに熱くなりすぎて低温火傷になる場合すらありますが、CB1000Rはそのようなことは皆無。長身の僕でも膝が、熱いフレームやシリンダーヘッドに当たってしまうという事はありませんでしたし、シート下に熱がこもって男性自身が蒸れて蒸れてしょうがない、なんてこともなくとても快適でした。この問題は快適性に直結するのでとてもありがたく感じましたね。
特にフレームがタンク下の左右に張り出すツインスパー型ではなくバックボーン型なのがこういった性能を支えているように感じます。スーパースポーツ直系だととても熱くなるアルミフレームにニーグリップをすることになり、メーカーによってはゴムのパッドなどで対応していますが、ライダーの身長は様々ですからなかなか対応しきれていないというのが現状でしょう。こういったことも見越したフレーム構成なのではないかな、と深読みするとさらにCBが好きになります。
ライディングポジションはツーリングモデルにしては前傾姿勢が強めにも思えますが、瞬間移動が可能なパワーと軽量さを考えると常にいくらか「その気」でいられるポジションにも納得です。開き気味のハンドルも乗った瞬間は違和感を覚えなくもないですが、フルパワーのモードにするとネイキッドスタイルを抑え込みながら操るにはちょうどいい設定なのかもしれない、と納得できます。距離を走っても尻への負担が少ないシートと相まって、これだけのロングランでも大変快適でストレスなく走り続けることができました。
一般道での走行ではさすがにパワーを使うような場面はなかなかありませんが、アクセル開け始めに唐突さがなく低回転領域も使いやすいため、性能が過ぎるだとか、バイクに急かされるという事も感じずになんとなく流して走ることも苦にしません。スチールのフレームがしなやかなのか、足周りの設定がソフトだからか、リッターバイクだから細い道は苦手、という事が本当に少なく感じます。舗装林道のような場面も、得意とは言いませんがやり過ごすことに怖さは感じません。ただ細い道で唯一気になるのはハンドルの切れ角。Uターン時などは切れ角の少なさに気づかされるため、あまり細い道や集落の奥の方まで入っていくのは気を付ける必要があります。とはいってもそもそもそういう所に迷い込むようなバイクではないのですけれどね。
レギュラー仕様最高! あとはヘルメットホルダーさえあれば……
一方で使い勝手の部分では、何よりもヘルメットホルダーの欠如が一番困りました。シートを外せば簡易的なヘルメット用バックルは使えるのですが、ツーリング時は荷物を積んでいるためいちいちシートは外せません。かといって知らない土地で5万円ほどもするヘルメットをミラーにかけておくのは不安です。後付けのヘルメットホルダーを装着すればいいのでしょうが、せっかくの高級バイクなのだからスマートな純正品が欲しいところです。
荷物ですが、荷掛けフックなどはとても簡素で大きな荷物を積むことは想定されていないのが明らかです。タンデムシート部に装着する小ぶりなシートバッグ程度がベストでしょう。しかし今回のツーリングはキャンプをするわけでもなく、リュック一つという荷物。この程度なら普通にゴムネットで十分括り付けることができました。テールカウルが無い分、荷物がテールランプを隠してしまうことがあったためそこだけは注意が必要でしたが、荷物の積載については、少なくとも普段から軽装備の僕としては「意外と不便しない」という印象でした。
気になる航続距離ですが、16リッターのタンクとWMTCモードで16.7km/lという燃費がカタログデータです。実燃費はおおよそカタログ通りで、メーターに示される燃費はツーリング中最低値で12km/リットル台、最高値で17km/リットル台ほどでした。理論上おおよそワンタンク200kmほどの航続距離という事でしょうか。ツアラーとしては短めですが、燃料計が見やすくかつ正確だったおかげで、給油が煩わしく感じることもなかったのが幸いです。そして何よりもレギュラーというのが嬉しいですね。地方のガソリンスタンドではハイオクがなかったりしますし、ライバルと同等の性能を有しつつ財布に優しいレギュラー指定であるというのもツーリングの味方です。
そんなわけで、かなりの距離をツーリングした結果、CB1000Rはある程度長距離のツーリングでも(キャンプなど重装備でなければ)十分対応することが確認できました。
電子制御のありがたさとジレンマ
前回全く触れなかった電子制御の部分についても書いておきましょう。CB1000Rはスタンダード/スポーツ/レインという3つに加え、好みで微調整できるユーザーというモードを備えています。これはパワー/トラコン(ホンダではトルクコントロールと呼びますが、わかりやすくトラコンと表記しますね)/エンジンブレーキの3つの要素をそれぞれ組み合わせたものです。
パワーは3段階で明らかに変化が感じられます。最大パワーだとアクセルレスポンスが敏感になり、弾けるようなフィーリングが得られ、真ん中だとアタリがマイルドだけれど高回転域はなかなかで、最小パワーだと明らかに間引かれているのがわかります。最大の時のレスポンスは魅力的ではあるものの、アクセルワークに気を遣う部分もなくはないという印象。対する最小はダルすぎて大排気量車に乗っている実感が得にくいため、結局は真ん中のパワーを発揮するスタンダードモードに落ち着きました。ただスタンダードだと高回転域に繋がる領域が、十分にパワフルでありながらも最大時を知ってしまうと「もう一つ!」となってしまいます。
理想としては真ん中の時のアクセルレスポンスのやさしさと、最大の時のパワーが組み合わさると良いナァ、なんて欲張ってしまいました。ちなみに真ん中のパワーだと雨の中でも不安なく走れるため、最小パワーとなるレインモードは結局使うことはありませんでした。
トラコンは普段、特にツーリングでは介入することはほぼないでしょう。そう考えるとあくまで不整地で開けすぎた時の不意なスリップ対策という、ABSのような安全機能という認識です。よって3段階に調整できるどのレベルでも介入するような場面にはほぼ出くわすことはなく、早い段階で気に留めない機能となりました。またエンブレについては各モードでそんなに違いが大きいとも思えず、ユーザーモードで意図的に変えてみましたがやはり劇的な変化にはならず。結局のところツーリングでも普段使いでも、常にスタンダードモード(パワー/トラコン/エンブレ共に3段階のうちの2という設定)だけでの走行となっています。
わりにシンプルなバイクが好きな僕としては、スタンダードモードの出力だけを、アクセルレスポンスが優しいまま高回転をフルパワーにしてくれれば、そもそもモード変更はいらないのでは? なんていう極論が頭をよぎるわけですが、しかしサーキットを走りたい人もいれば、タンデムで雨の中をツーリングしたい人もいるでしょう。そういうあらゆる要素に幅広く対応するという意味で、電子制御の活用は有効なのかもしれません。
日本仕様はクイックシフターもついているのですが、こちらについては時代の進化を感じます。アップもダウンもクラッチ要らず。数年前のMotoGPマシンの技術がもう市販車に!?という感覚です。当然、アップでもダウンでもよく機能しますが、回転数が高いほど繋がりが良い印象もあります。高回転を使って元気に加速していくとカチ・カチとスムーズにシフトアップ。ファンファーンッ!シフトダウンする時もレーサー気分です。一方で低回転で緩慢にシフトするとうまく次のギアに入り切らないこともありましたので、クイックシフターをちゃんと機能させるように、シフトペダルの確実な操作を怠ってはいけないようです。
個人的にはクラッチを使う事、もしくはクラッチを使わなくても回転数を合わせてギアを滑り込ませることに慣れすぎているため、クイックシフターを活用することはほとんどありませんが、僕のような使い方をクイックシフターが邪魔することもないので、あって損はない機能でしょう。特にスポーティに走らせたい時、サーキット走行時には強力な武器になってくれるはずです。
サスの設定変更でバイクの楽しさを引き出す
最後にサスペンションについても触れておきましょうか。CB1000Rは出荷時にはかなりソフトな設定をしています。フロント・リア共に調整機能がついていますので好みに合わせることができるわけですが、出荷時のソフトさは最初の取っ掛かりは優しく感じさせてくれる一方、CBの運動性の高さを知ると少しソフトすぎるようにも思えます。そこで僕はリアのプリロードを固めることにし、出荷時の「最弱から3」を、「最弱から7」まで段階的に増やしました。ちなみに最強は10です。僕は体重72kgほどですが、この設定でCBらしさがさらに引き出せたように感じています。この上で減衰力の微調整は各好みで変更してもいいかもしれません。リアは伸び側の減衰力調整、フロントはプリロードに加え伸・縮側両方が備わっています。なお調整時にサスペンション本体を工具で傷つけないよう注意が必要に感じました。
CBとの付き合いも数か月となり、かなり仲良くなれてきたように思います。オドメーターは8000kmに届き、そろそろタイヤの偏摩耗が気になってきた、といったところです。これからのシーズンは冷風が直接ライダーに当たるネイキッドバイクにとって厳しい季節ですが、CBは標準でグリップヒーターを備えていますので、日光・那須への今回の撮影旅行でも活用することができ、少なくとも手はポカポカです。手がかじかんでしまってはアクセルやブレーキを正確に扱えなくなるわけですから、グリップヒーターは快適装備ではなく安全装備ですね。ありがたいことです。
情熱的なデイトリップに加えて、楽しいロングツーリングもできることが確認されたCB1000R。個性を持たせつつもこのオールラウンドさを確保する所に、やはり「ホンダの流儀」を感じさせてくれます。
(文:ノア セレン)
●片道約1000km、鳥取島根方面へ行って来ました。
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