2018年11月7日

第98回「どって〜ん」

第98回「どって〜ん」

「食えるなら
なんでもいいよ
立喰・ソ」

 唐突な一句に、軽い憤りを覚えたでしょうか。それとも「季語が入ってない、季語が!」と、激おこぷんぷん丸でしょうか(2013年ユーキャン新語・流行語大賞ノミネート)。

 飴ニモマケズ、風邪ニモマケズ、懲リモセズ、前回の続きです。
 幻立喰・ソになってしまった鹿角花輪のあじさいに尻子玉を抜かれ、身も心も立喰・ソモードになってしまった赤ら顔のおっさんは、キハ112-120のカミンズ社製直列6気筒14016ccターボチャージャー付のDMF14HZAディーゼルエンジンに負けないくらい「立喰・ソ食べたい食べたい食べたい」と低く唸っておりました。二昔前なら大きな駅には必ずといっていいほど駅そばがあったのですが、それも今や遠い日の幻……東北の山中を走る花輪線で立喰・ソ頭になっても願いは叶いません。

 立喰ソと切っても切れない関係の駅そば。立喰ソ研究のジャンルでも「駅そばこそ立食ソなり。駅そば以外は認めない」という駅そば原理主義者はいそうですが、「駅そばだけは認めない。駅そば粉砕まで闘うぞ、駅ソ粉砕、駅ソ粉砕、えいえいおー!」という極左テロリストは聞いたことがありません(密かに地下活動するのが究極の極左ですから、いるかもしれませんが)。

大宮

駅の中にあって看板に駅そばと表記があれば、誰がなんと言おうと100%駅そばで間違いないでしょう。(2014年6月撮影)

姫路

ただし姫路駅のえきそばの場合は商品名としての「えきそば」が語源なので、ちょっと趣旨が異なるかも?(2007年8月撮影)

 駅にあるから駅そば。改札内はもちろん、駅の敷地内であれば駅そばです。
 では駅前にある場合は? 誰もが疑問を投げかけることでしょう。でも心配ご無用。「駅前そば」というお店もちゃんと存在します。ただし、実例は思っているほど多くないようです。まあ、わざわざ駅前と名乗らなくても、駅前にあればそれだけで駅前そばなのですから。

魚津

勝浦

律儀に駅前を名乗る立喰・ソ。それだけで愛おしささらに倍。(上2013年3月撮影)勝浦駅前そばは残念ながらすでに幻立喰・ソになってしまったようです。(下2013年12月撮影)

 例えば駅の外にあっても「駅のそばやさん」を名乗る立喰・ソもありました。しかしこのそばは蕎麦ではなく側ということだったのかもしれません。つまり「駅のそば(側)のそばや(蕎麦屋)さん」。今ならば「なにこコレ〜っ、うける〜ぅ」とか「まじ、ありえないんですけどぉ」と、ばずっちゃったかもしれませんが、あっという間に幻立喰・ソになってしまったのは残念なことです。

 それはさておき、駅にあっても駅そばと言えるのか言えないのかというパターンがあります。例えば看板にはラーメンとしか書かれていない場合や、明らかに食堂や喫茶がメインであるにも関わらずそばも扱っているケースで、かけそばが200〜300円だったり、立食いだったりセルフスタイルだったりすると困惑度もさらに倍。大都市ならともかく、駅前にほとんどなにもないような地方都市の駅中にぽつんとあったりしたら、心情的には「これは駅そばでいいんじゃない」と愛しさと切なさと心強さが〜さらに増幅されること間違いなし。

御徒町

御徒町駅のガード下にあった駅のおそば屋さん。JR系であちこちにできるのかと思いましたがあっというまに幻立喰・ソになったようです。(2014年12月撮影)

仙台

かつて仙台駅の5-6番線ホームにあった焼きそば専門店。元々は駅そばでしたが突然変身。これも駅そばと言えば駅そばでしょう。(2012年8月撮影)

 などとつらつら思いつつ秋田犬で名をはせる大館で花輪線から奥羽本線に乗り換えて北を目指します。もちろん駅そばには出会えません。
 寂寥感を乗せたクモハ701-21はMT65を唸らせて闇の中を走り続け大鰐温泉駅に滑り込みました。ふと横を見れば銀色の弘南鉄道の電車が。そういえばと思い出したのが中央弘前駅の店名不明の駅そば(展開上のご都合主義)。駅そばと言うよりも呑み屋さんというほうがぴったりですが、呑み屋さんならまだやっているかもしれません。一縷の望みを託し弘南鉄道へダッシュ!

大館

JR東日本最後の液体式気動車(トルコン)になるだろうといわれるキハ100系気動車(左)。登場からもうすぐ30年。寿命も近そうです。オールロングシートで飲酒飲食がはばかられるし旅情はないしで乗り鉄には嫌われ者の701系電車(右)も、登場から四半世紀になります。(2018年9月撮影)

大鰐温泉

弘南鉄道の7000系電車は元東急の7000系。つり革は東急時代のものがそのまんま使われています。が、丸い部分(部品名称は?)はオリジナルの白ではなくなぜか真っ赤。なんでわざわざと思ったら、弘前名産のりんごをオマージュしてだそうです。なるほどねー。(2018年9月撮影)

 青森県を走る弘南鉄道大鰐線中央弘前駅の中にあったそのお店には、独特の書体で書かれた達筆なお品書きはあっても店名の表記は見当たりません。ゆえに店名は長らく不明でしたが、昨今では諸先輩方の調査研究によりどうやら「どってん」が店名ではないかといわれております。どういう経緯でこの店名になったのか、大いに興味をそそられるところですが、今となっては残念ながら永遠の謎(=調べる気がまったくないともいう)。

 初訪問は2012年の冬でした。「いらっしゃいませ お気軽にどうぞ」とありますが、あまりお気軽に入れるような雰囲気ではありませんでした。せっかくここまで来たのですから、えいやあと扉を開ければいきなりカウンターには酒瓶がずらーっと並び、小上がりには地元の常連さんらしいおっちゃんがすでに出来上がっていました。駅そばどころか駅ス(スナック)状態。
 でも、カウンターの中にいたおばちゃんも、できあがったおっちゃんも、一見さんに冷たい視線を向けることもなくニコニコと親切でした。が、ネイティブな津軽弁は難解で、話しかけていただいても曖昧に返事をするばかり。遙か異国の地にいるような不思議な感覚でした。

どってん

どってん

どう見ても駅そばとは言いがたい雰囲気と怪しいオーラを放っていた中央弘前駅にあったどってん。駅の外からもアクセスできました。(2012年6月撮影)

 で、肝心のそばはというと、ざる、天ぷら、山菜、そして幻津軽そばの4品のみ。幻? おっ幻ですか。これは見逃せません。しかも「スピードメニュー 3秒津軽そばうどん」という貼り紙も。
 注文してからたっぷり5分くらい経過してから到着しましたが、たぶん気のせいでしょう。

どってん

写真では見えませんが、一升瓶が並ぶカウンターはでっかい一枚板。ですが途中で狭くなりそこから二段になっている不思議な構造でした。なんで写真撮ってないかね……(2012年6月撮影)

どってん

いただいたのは幻の津軽そば(400円)。白いそばにかまぼこ、のり、そしてゆで卵のトッピング。おつゆはラーメンスープのように見えますが和風だったと思います。たぶん。(2012年6月撮影)

 そんなことをつらつら思いつつ(もちろんご都合主義的回想)、元東急7000系は、東横ののれん街のロゴが入ったままのつり革を盛大にゆらゆら揺らしながら、結局私ひとりだけを乗せて終点の中央弘前駅に到着。もし大鰐で心変わりしなければ無人電車。無人電車といっても無人運転ではなくちゃんと運転手さんは乗っていましたから無人電車ではありません。小走りで改札を出て右を向いたら……あれ〜? そこにあるはずの店名不明の駅そばというより駅スナックか駅ラーメンのお店はもぬけのから……どって〜んと腰を抜かしたことは他言無用に願います。

どってん

まあ、こんなもんでしょうね、私の場合。2015年の夏頃に幻立喰・ソといいますか幻・スになったようです。(2018年9月撮影)

吉野家

しとしと降り出した雨の中とぼとぼ歩いていたら、絶滅危惧種のそば処吉野家を発見。どってーん後だけに喜びさらに倍。(2018年9月撮影)

●幻立喰NEWS2018 
アズマ残影の夏

今年の夏は本当に暑かったですね。今となってはあの暑さも夏の日の幻のよう。2017年12月20日、多くの常連さんに惜しまれながら幻立喰・ソになってしまったアズマ。そのアズマの解体工事が始まったのがそんな夏の盛りでした。以下本誌相談役AB君からの現地レポートです。
「今朝(8月24日)、一由経由で、元アズマを覗きましたところ解体中の建物の全容に、まこさんとふたり、おおおおっっと声を出してしまいました。ここは元、鉄工所だったらしいです。溶鉱炉のような装置?とか、ボルトの文字や、屋上には従業員の詰め所らしきペントハウスまでが、かつての大広告看板を取り払ったことで剥き出しになり異様な姿を晒しておりました。どおりで、二た間に仕切り分けられた店舗の中央部にあった不可解な突起とか、明らかに無理栗に設えた天ぷら揚げの設備などの理由が解ったような気持ちになり、スタンドそば店の成り立ちの奥深さに感嘆の声をあげてしまった次第です」

あづま

まさか街角に溶鉱炉まではないでしょうが、創業50年の幕を閉じたアズマ、創業前の1960年代末は鉄工所だった?

あづま

翌日確認しようと出かけてみれば、あっという間に防音シートで覆われていました。ええ、こんなもんです私の場合。

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